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68 明々後日からの訪問者 その4

お待たせしました、このエピソード最後の話となります。


再び約10,000文字という長目の話となりましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

 走る、走る。スフィルの後を追って走る。飛びくる火の玉をかわして走る。


「これで、最後っ!」


 スフィルの振るう一撃が最後に残ったゴーレムに命中し、その体を真っ二つにした。


 ぼとぼとと落ちてきた警備用ゴーレムは全て破壊され、この中で動いているのはもう私達2人だけだ。再びお代わりが落ちてくる様子もない。


 警報はまだ止まらず、非常灯っぽい照明もそのままだが、とりあえずこれで一息つけるようだ。


 隣には剣を手に、少し荒くなった息を整えているスフィルの姿。


 なんつーか、ブチ切れモードのスフィルはめちゃくちゃ強かった。


 やってる事は今までと変わらないのだが、動くのがとにかく早く、私がついて行くのがやっとだった。その上、いつもより力が籠っているのか、一撃でゴーレムを真っ二つにしていくのだ。


 1人でばったばったとゴーレムをなぎ倒してくスフィルを見て、これ私要らないんじゃ……と何度も途中で思ったぐらいだ。


 とりあえず、ひと暴れしたことでストレス解消になったのか、さっきよりかは幾分かすっきりとした顔つきになったスフィル。ひとまずその怒りは収まったようだが……。


「あとはここから出るだけ、と。

 さぁて、どうしてくれようか……」


 ───訂正、まだ怒りは収まってないようだ。


 ともあれ、ここから脱出しなければならないのは確かだ。

とりあえず、入り口を調べるとこから開始かな、と思ったところで、ぎ、ぎぎ……、と、なにか重い金属同士が擦れるような音が響いているのに気が付いた。


「? なんか聞こえない?」

「え? ……ホントだ。なんの音だろ」


 音は、私達のすぐ傍にある巨大な扉の方から聞こえる気がしたので、そちらに振り向いてみると、巨大な扉の中央に少しだけ隙間が出来ていた。


 あれ? と思う私の目の前で、軋むような音を立てて扉の隙間がどんどんと広がっていく。


 やがてその巨大な扉が完全に開ききると、その中から大きな人影が姿を現した。

それは、全長10メートルはあろうかという、巨大な人型ゴーレムだった。


「…………」

「…………」


 私もスフィルもその場で言葉を失った。


 え、えーっと、巨大ロボ……?

うっそ、マジでっ!? なんでンなもんがここで出てくんのよっ。


 確かにこれならあのサイズの扉が必要かもしんないけどさ、誰だこんな非常識なモン考えたやつー!


 あまりの出来事に、動くことも忘れてぽかんとそれを見上げ続ける。


 全身を覆いつつも関節部の動きを妨げないように装甲版を配置されたその姿は、まるで攻撃的な着込んでるような印象を受ける。そしてその手には、その重量だけで人を潰してしまえそうな巨大な両刃の斧。あんな物を振り回されたら防ぐことすら出来ないだろう。


 ずしん、ずしん、と音を立ててゆっくりと1歩ずつこちらに向けて迫りくるゴーレム。漏れ出た魔力なのか、時折全身にバチバチとスパークが走る。


「え、えっと。とりあえず逃げるわよ、ハルナ」

「賛成っ」


 我に返ったスフィルに促され、逃走を開始する。

さすがのスフィルにも、あれに突っ込むような無謀な選択肢はないらしい。


「どーすんのよ、アレ!」

「アタシに聞かないでよ。とりあえず今は逃げるしかないでしょ!」


 入り口方面に向かってダッシュしながらそんな会話を交わす私とスフィル。


 途中、ちらっと後ろを確認したところ、ぎこちない足取りでこちらに向けて歩み続けるゴーレムが目に映る。だが、その巨体故なのか移動速度はものすごく遅い。


 ある程度距離を取ったところで、足を止めてスフィルと作戦会議を開始。


「スフィル、さっきみたいにガツンと真っ二つに出来ない?」

「無茶言わないでよ。大きさが違うでしょうが、大きさが。

 それより、そっちこそなんかいい魔法ないの? ここからあいつを吹っ飛ばせるようなやつ」

「ないない。知ってるでしょ? 私の攻撃に使える魔法って『火炎弾』ぐらいしかないって。あんなちっちゃい火の玉でどうしろっていうの」

「そうなんだけど……。

 あーもう、どうしろってのよ!」


 スフィルが先に音を上げた。


 うー、こんな事になるなら無理言ってでも『防護』や『加速』の魔法を借りてくるんだったなー。『防護』はどこまで効くか分かんないけど、『加速』使って石とか投げれば、ここからアレを吹き飛ばすぐらいは出来そうなのに。


「とりあえず、逃げつつなにかいい方法を考えるしかないかなぁ。

 幸い動きは遅いっぽいし……って、あれ?」

「なに? なにか思い付いた?」

「いや、そうじゃなくて。なんか様子が───」


 そう言って私が示した先には、さっき見た位置で立ち止まり、全身からスパークをほとばしらせ続けるゴーレムの姿。

いくら動きが鈍いと言っても、あそこで止まるのはおかしいと思うのだが……。


 疑問に思いながらゴーレムの様子をうかがっていると、突如、ひときわ大きなスパークがゴーレムの全身を走った。そして次の瞬間、糸の切れた操り人形のように、巨大ゴーレムはその場でばったりと倒れ伏した。


「え?」

「はい?」


 意味が分からず、ぽかんとなる私とスフィル。

そのまましばらく遠巻きに様子をうかがってみるも、まれにスパークが走るのみで、ゴーレムが再び動き出すような様子は見られない。


「……ちょっと見てくるわ。ハルナはここで待ってて」


 それだけ言い残し、恐る恐るといった感じでゴーレムに近付いていくスフィル。

離れた場所からしばらくそれを眺めていると、スフィルが大きく手を上げて私を呼んだので、私もその場まで行くことに。


「見てよこれ」


 辿り着くなり開口一番、そう言ったスフィルの言葉に従って、巨大ゴーレムの背面に目をやると、その背中にはぽっかりと大きな穴が開いていた。

大きく開いた穴の部分からは、漏れ出た魔力が行き場をなくして暴れているのか、バチバチとスパークが走ってる。


「多分、動き出す前に、大きな岩かなんかが落ちてきて当たったんだと思うんだけど……」


 推論を述べるスフィル。

なるほど、それで押し潰されたように周りがへこんでるのかー……って、なんじゃそりゃっ!?


 なに? あのやたら迫力あったスパークも、ゆっくりした足取りも、ただ単に壊れかけてただけ? 紛らわしいわぁぁっ!?


 と、心の内で絶叫しつつホッと息を吐いたのもつかの間。


 "全警備ゴーレムの機能停止を確認。当施設は機密保持のため出入り口全てを閉鎖の上、カウント900後に自壊します。職員の方は既定の避難通路より速やかに退避して下さい。繰り返します───"


 再び流れたアナウンスに背筋が凍った。


 ちょっと待てぇぇっ!? 私らなにもしてないでしょ、勝手に自爆しないでよ!?


「え? 今なんて言ったの?」


 焦る私とは対照的にアナウンスの内容がよく分からなかったのか、キョトンとした感じのスフィル。そんな彼女にさっきのアナウンスの内容を要約して教えると、さすがのスフィルも顔色が変わった。


「え、えぇー!? ど、どーすんのよ、ハルナ」

「どうするもなにも、逃げるしかないでしょ! この遺跡と一緒に心中するの?」

「冗談! 逃げるわよ!」


 その言葉と共にスフィルと一緒に入り口に向けて走り始める。


 当然、入り口の扉は未だ閉じられたままなのだが、どうしようかと考える間もなく、突如、派手な音を立てて扉が内側に弾け飛んだ。


 うっわっ、掠った、掠ったって今っ!?


 私のすぐ傍を通り過ぎ、ガランガランとけたたましい音を立てて転がる扉。

余程の衝撃を受けたのか、鋼鉄製にも見えるその分厚い扉はくの字型に折れ曲がっている。


 その向こうから現れたのは、なんかやたらと怪しげな杖を構えたセルティナさん。


「スフィルさん、ハルナさん、無事ですか!?」


 いや、もーちょっとで無事じゃなくなるとこだったよ……。


 吹き飛んだ扉を横目で見ながら冷や汗流す私を置いて、スフィルが彼女に話し掛けた。


「セルティナさん!? あなた、逃げてなかったの?」

「お2人を置いて逃げられるわけないじゃないですか。こんな事に巻き込んだのはわたしなんですから。他の人達はとっくに逃げちゃいましたけど……」

「いや、今はそんな事言ってる場合じゃないって。さっきの声、聞こえなかったの?」

「聞こえましたよ。ですからこうして扉をこじ開けることにしたんです。どうしても奥に進む必要が出てきましたので……」

「え、どういう事?」

「外に向かって走っても、今からだと間に合うかどうかはかなり微妙です。ここから出口まで相当距離がありますし。それに───」

「それに?」

「今、この遺跡が崩れると、多分上の町にかなり凄い被害が……」

「あ……」


 そう言えばそうだった。スフィル曰く、確かこの上は市場付近だったはず。

この呆れるほどの広さと高さを持った遺跡だ。ここが崩れるとそれはもう凄いことになるだろう。


「ですから、わたしがそれをなんとかします。お2人は念のため、急いでここから離れてください」


 そう言い残すと、広間の奥に向かって歩き出すセルティナさん。

私は慌てて手を伸ばし、それを捕まえる。


「ちょ、ちょっと待って」

「離してください、わたしがなんとかしなきゃならないんです。

 お2人は早く避難してください」


 思い詰めたようなことを言うセルティナさん。でも、私が言いたいのはそんな事じゃないんだ。


「いや、そうじゃなくて。

 セルティナさんが居ないと帰れないというか……多分途中で迷子になる思うんだけど」

「…………」

「…………」


 なんだか気まずい沈黙が訪れた。






 ───688、687、686……。

 ドンッ! ガランガランガラン……。


 カウントダウンが進む中、セルティナさんの放った魔法の一撃が、目の前のやたらと厳重そうな隔壁を吹き飛ばした。


「この奥のはずです……、急ぎましょう……」


 杖を構えた手を下し、眠気を振り払うかのようにぶんぶんと頭を振るセルティナさん。その様子からは明らかな疲労が窺える。


「ちょっと、大丈夫なの?」

「ええ、まだまだ、平気です……」


 見た目もセリフも全然大丈夫じゃないその様子に、横から声を掛けるスフィルもかなり心配そうにしている。


 結局あの後、時間内に2人だけで脱出することは不可能だろうという事になり、私達はセルティナさんにくっついて遺跡の心臓部を目指すことになった。


 心臓部というのは、文字通りこの遺跡の中枢部を指すようで、大扉の調査中に偶然見つけた物から、ここからかなり近い位置にそれがあると判断したらしい。


 反対している時間も惜しいと判断したのか、セルティナさんは割と素直に同行を認めてくれた。今は遺跡の心臓部に通じていると思われる通路を進んでいるところだ。


 折れ曲がって吹き飛んだ隔壁を踏み越え、進もうとした矢先に目に入ったのは、少し前方の通路に降りたさっきと同じような隔壁。


 いくら侵入者に備えるっても厳重すぎやしないか、これ……。


 溜息を吐きながら後ろを見ると、セルティナさんがふらつきながらも再び杖を構えるのが目に入った。


「ハルナ」

「ん」


 スフィルの目配せと共に、セルティナさんから黙って杖を取り上げる。


「あ……」


 なにをするんだと言いたげな目でこちらを見つめてくるセルティナさんに、スフィルが呆れたように告げる。


「大分無理してるようだけど、今ここで倒れられるとアタシ達も困るのよ。

 ここはハルナに任せときなさい。あんたの出番はあとよ、あと」

「で、でも、それは一般の人の魔力で扱えるものじゃ……」


 ドッゴォォン! バラバラバラ……。


 セルティナさんの言葉を轟音が遮った。無論今のは私が杖を使って隔壁を破った音だ。


 うーわ、スゴイ威力だわこりゃ……。


 やたらとお腹に響く重低音と、細かな破片となって散らばる隔壁の様子から、その威力はうかがい知れる。さすがは魔術師ギルドの杖、怪しい外見をしてるだけのことはあるようだ。


「うそ……?」


 杖をまじまじと眺めながらも平然としている私を見て、ぽかんと口を開けたままこちらを見つめるセルティナさん。


「ほら、呆けてる暇はないわよ。時間がないんでしょ」

「え?

 えぇ、そうですね。……今は気にしないことにします」


 納得いかないながらも、今は目の前の事に集中することにしたようだ。

あとで質問攻めにされそうではあるが……。まぁ、なんとかなるだろう、きっと。


 その後、通路の先々で降りている隔壁を吹っ飛ばして打ち抜いて、都合6枚の隔壁と扉1枚を破ったところでものすごい量の魔力が渦巻く部屋へと辿り着いた。恐らくここが遺跡の心臓部なのだろう。


 部屋の大きさは普通より少し大きめぐらいだろうか。部屋の中央に丸くて平たい土台が置かれ、さらにその天井部分にも同じような土台が上下逆さまに取り付けられている。


 そしてその土台の上には、大きな球状になった魔力の塊が浮かんでいた。


 さっきの巨大ゴーレムに使われていたものより何倍もの魔力が集まっているのだろう。目に見える見えないといったレベルではなく、まるで小さな太陽がそこにあるかのごとく眩く光り輝いている。


「なんかそれっぽい場所に着いたけど……、ここがそう?」

「ええ、恐らくここが心臓部です。

 あとは、ここに集められた魔力をどうにかすれば崩壊を止められるはずです」

「そう。じゃあ、ここからは任せる、でいいのかな」

「はい。

 あ、でも危ないですから、この部屋から出て、離れた位置で伏せてもらえますか?」

「……えっ?」


 離れて伏せろと言うセルティナさんの言葉に一抹の不安が頭をよぎる。

スフィルも同じことを思ったのか、彼女に聞いてみることにしたようだ。


「……一応、なにするつもりか聞いても?」

「えーとですね……。簡単な魔法をあれにぶつけて誘爆させることで、集まってる魔力を消費してしまうつもりなんですけど……」


 と、若干言い難そうに答えてくれた。


 使っちゃうのか、なるほどー……ってコラちょっと待て。


「いやそれ却っっ下!」


 スフィルが吠えた。


 まあ、そうだろう。私だってそんな方法は却下する。

ンな、火薬の海に火種を放り込むようなマネなんて絶対にしたくない。盛大に爆発すること請け合いである。実はこの人考えなしなのか?


「でも、他に方法が……」

「いや、もうちょっと他にあるでしょう。攻撃魔法じゃなくて、『光源』とか害のなさそうな魔法にするとか」

「ちょっと待ってください、誰が攻撃魔法使うって言いましたか。そんなことをしたら、この辺り一帯が吹き飛んじゃいますよ。

 使うのは、さっきハルナさんが言った通り『光源』の魔法です。ただ、それでも危険なことに違いはないですが……」

「そうなの?」

「はい。ここまで収束された魔力は、今とても不安定な状態となっています。それこそ、ちょっとした刺激で大爆発を起こしかねないぐらいに。

 ですが、攻撃魔法をぶつけるよりかは、格段にマシなはずです。今ならまだこの部屋が崩れる程度で済むかもしれません」

「それでも崩れちゃうんだ、部屋……」


 話を聞く限り、かなり危険な状況だと思われる。だが、他に方法はないようだ。


 ───254、253、252……。


「さあ、早く離れてください。時間が経つにつれ、この方法は危険が増してしまいます」

「…………」


 うーん、これはもう……。仕方ないか。


 覚悟を決めて、セルティナさんより1歩だけ前に出る。

遠目ではなく目の前で見せるのだ。その姿形ははっきりと記憶に残るだろう。


「セルティナさん」

「なんですか? 質問でしたら手短にお願いします」

「今から見せる物に関して、なにも聞かないでくださいね」


 それだけ言い残すと、床を蹴って前に向かって飛び出した。

手に具現化させるは、使い慣れた大鎌。それを今にも弾けそうな小さな太陽に向かって、真一文字に振り抜いた。


 小さな太陽にスッと横線が入る。そしてそれは形を失い、そのまま霧散するかと思いきや───。


 再びその形を取り戻し、以前にも増して爛々と輝きだした。


 ───200、199、198……。


 そして、変わらず続くカウントダウン。


 あれ……? え? えぇー!? なんで!? 手応えあったのにっ!?


 予想外の事態からパニックに陥る私に、セルティナさんが慌てて近付いてきた。


「ダメですよ。詳しい事は分かりませんし聞きませんけど、その道具は魔法……魔力を切る道具なんですよね?

 普通でしたらそれで魔力が霧散するかもしれませんが、この部屋ではダメです。

 この部屋には魔力を収束させる効果があるんです。ここだといくら魔力を切っても元に戻るだけで、霧散なんてしませんよ」


 え、するとなに? ここだと水を切ってるよーなモンなわけ?


「うっそ、なにそれ!」

「驚いてる場合じゃありません。もう時間がないです、お2人はここで伏せてください、わたしがやります」


 そう言って小さな魔方陣を展開し始めるセルティナさん。

その場で身を屈めながらも、本当にもう他に方法はないのかと必死で考えを巡らせる。


「いきます……!」


 その言葉と共にセルティナさんが魔法を発動させようとした瞬間、天啓のように閃いた考えを、胸元の鏡に向かって大声で叫んだ。


「モコちゃん!」

(主、如何様?)

「そこにある魔力、全部食べちゃって───!」


 唐突な私の大声に驚き固まるセルティナさんの目の前で、小さな毛玉が白く輝く太陽に取り付くのが目に入った。






 ───どうやら、なんとかなったようである。


 目の前にあった小さな太陽は消滅し、今まで灯っていた非常灯のような赤いランプも全て消え去っていた。今では、ランタンから漏れるほのかな明かりが辺りを照らすのみとなっている。


 カウントダウンのアナウンスも、もう聞こえる事はない。この遺跡の機能は全て止まったとみていいだろう。


 目の前には、大きく膨れ上がったモコちゃんの姿。食べ過ぎなのか、そのサイズは大きなバランスボールのようになっている。


 うーん、咄嗟の事とはいえ、大分無理させちゃったかなー。苦しんでなきゃいいんだけど……。


 とか思っていると、モコちゃんからのテレパシーが。


(主……)

「なに? モコちゃん、大丈夫?」

(お代わり。口直し)


 その言葉にひっくり返りそうになった。

つーか、まだ食うんかい。


「あ、あとでね……。帰ってから、また」

(是)


 あとで私、干からびやしないだろーなと、その後の事を考えて色々と心配していた時に、セルティナさんがようやく正気に戻った。


「は、ハルナさん、これは一体……?」

「えーっと、なんだろ。私の契約(?)してる精霊、かな」

「精霊っ!? 一体どうやって……ってごめんなさい。

 なにも聞かない約束でしたね」


 あー、いや、うん。約束ってか、一方的に押し付けただけなんだけど。

まあ、面倒だからいいか。


「ま、とりあえず帰りましょ。一応丸く収まったんだしさ。

 ……それから、なんかすっごい疲れたし」

「あはは、そうだねー。色々あったよ、ホントに……。

 セルティナさん、道案内よろしくお願いしますね」

「あ、はい。分かりました」


 モコちゃんを鏡の中に戻し、ランタンの明かりを頼りにゆっくりと歩き始める。

あのサイズになったモコちゃんに抱きついて、心行くまでもふもふしたかったが、とりあえずそれは宿に帰ってからだ。


「そう言えばスフィル?」

「ん、なに?」

「このまま真っ直ぐ帰るって事でいいのかな。

 なんか仕返し? 考えてたみたいだけど」

「いや、殴る。アイツを1発殴ってから帰る」


 まだやる気は満々のよーである。


「そんな事をしなくとも、今回の件でそれなりの処分が下されることになると思いますけど」

「あれ、そうなんだ?」

「ええ。今回の事は様々な目撃者もいますし、なにより冒険者ギルドの人間を勝手に囮にしたこともありますから……」

「あー、なるほど。

 だってさ、スフィル。なんか殴らなくても、それなりの事になりそうだけど?」

「関係ないわよ。ホントにあれは頭に来たんだから」

「うーわ、やる気満々」


 死なない程度にお願いしますね、というセルティナさんの言葉に、大丈夫、怪我はハルナに治させるから、と続けるスフィル。


 こらこら、勝手に私を巻き込むな。


 でもまあ、なんとか無事に終わってよかったと、心の中でそう呟くと、2人の歩調に合わせながら淡い光に照らされた通路をゆっくりと歩き続けた。






「おめでとー」

「おめでとう、よかったわねー」

「あ、ありがとうございます」


 パチパチパチ、とセルティナさんに拍手を送る。


 遺跡での騒動が終わり、その3日後。セルティナさんと出会ったオープンカフェで、私達3人は再びそこに集まっていた。と言っても、今回は難しい話ではなく、色々とひと段落したので、その報告会のようなものだ。


 その中でも1番のニュースは、セルティナさんの昇進の話だろうか。

なんと彼女、主任に昇格したのである。


 いきなり主任? と思わなくもなかったが、完璧な調査内容からパニックになった大広間での避難誘導に加え、遺跡の崩壊まで止めた、その知識と行動力を認められての昇進らしい。


 まあ、崩壊を止めたのは正確にはモコちゃんなんだけど……。

私が目立つのを嫌ったこともあり、この子の事は黙っててもらう事にしたのだ。

結果、全てをセルティナさんがやった事になった。


 まあ、それについて私は特に文句はないし、スフィルもなんだか機嫌よさげにニコニコとしているので、この件については特に問題ないと思われる。


 この話を聞いたとき、今までの主任は……? と思ったのだが、この疑問にもセルティナさんが答えてくれた。


 なんと前主任ハーケデスさんは、夜逃げしたそうだ。


 いや、夜逃げってのが正しいのかは分かんないけど。とにかく居なくなったらしい。


 あの後、のんびりと通路を歩き続け、遺跡から脱出してみれば、冒険者ギルドの人間がわんさか&自警団の人がてんこ盛り、さらには着の身着のままといった人達で辺りはごった返しており、辺りはすんごい事になっていた。


 一体これはなんの騒ぎだと思ったら、どうやらあの崩壊のアナウンスが、遺跡全体に放送されたのが原因だったようで。あれを聞いた人のうち、足の速い人達が集まって、町中に避難を呼びかけたらしい。


 結果、市場付近の人達がこぞって避難を開始し、適当な広場だったここに集合することになったようだ。


 枯れた井戸からひょっこり顔を出した私達を見つめる無数の目は怖かった。

お邪魔しましたーって言って、そのまま引き返そうかと思ったぐらいだし。


 とにかくそんな状況の中、ハーケデスさんを探してぶん殴る、なんてことは出来るはずもなく、そのまま3人まとめて自警団の天幕で事情聴取となったわけである。


 まあ、疲れていたのもあり、その場は早々に終わったのだが。

ただ、崩壊を止めたと聞いた時の彼らの安堵した様子は未だ記憶に新しい。あとで真剣にお礼を言われたりもしたしね。


 おかげで私達3人、自警団の中ではちょっとしたヒーローである。


 そして今日、正式に事情聴取が終わり、ちょっとなにかを摘みに、と3人でこうして繰り出してきたのだ。


「それにしても、ホント、お咎めなしでよかったわねー」

「言わないでください、気にしてるんですから……」


 サンドイッチをパクつきながら、スフィルが話を振る。

なんの話かというと、扉や隔壁を吹き飛ばしまくった、セルティナさんの杖の話だ。


 やたらと強力な魔法が入ってるなーと思っていたら、なんとあの杖、彼女が魔術師ギルドにある封印倉庫から無断で拝借してきた物だったらしい。


 本人曰く、念のため、だそうだが。その行動力には呆れたものだ。


 とはいえ、そのお蔭で崩壊を止めれたのも事実なので、その立役者としての彼女をギルドとしても公に罰を与えるわけにもいかず、結局は事前に申請があったものとし、建前上お咎めなしとなったのである。


「スフィルさん、ハルナさん。今回は本当にお世話になりました。

 わたしになにか出来ることがありましたら、遠慮なく言ってくださいね。主任の立場と権限を使って、ギルド員全員で協力させますから」

「いやいやいや」

「さすがにそれはマズイでしょ」


 スフィルと2人で総ツッコミだ。


「とまあ、それは冗談ですけど。

 でも、感謝してるのは本当です。なにかわたしで力になれる事がありましたら、遠慮なく魔術師ギルドまで訪ねて来てください」


 あ、冗談だったんだ。

なんかこの人が言うと、あんまり冗談に聞こえないから困るんだよなぁ……。遺跡でも色々やってくれたし。


 ともあれ、魔術師ギルドにいいコネが出来たようではある。


 今度、見学がてらお茶しに行ってみようっと。



大きなバランスボール:直径120センチぐらい。両手いっぱいに広げて抱きつけるサイズです。


出オチって1度やってみたかったんですよねー。

そして覚悟を決めてカッコよく動いたはずのハルナちゃんには、そのままオチが付きました。


上げてから落とすって(見てる分には)なかなか面白いかもしんない。

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