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67 明々後日からの訪問者 その3

新年、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。


えー、予定より遅れること10日、本当にお待たせしました。

今回は約10,000文字となっています。


 それにしても近代的な場所だ、と改めて思う。


 通路は幅2メートル、高さ3メートルぐらいだろうか。四角い通路が真っ直ぐに奥へと続いている。壁の表面には石でできた大きくて平たいパネルがはめ込まれており、窓がないことを除けばまるっきりオフィスの廊下である。幅はこちらの方が段違いに広いが。


 また、床にもパネルがきっちりと敷き詰められており、まるでタイル敷きの床のようだ。光沢を放つその表面からは技術の高さが見て取れる。


 ふと上を見上げると、少し離れた天井に私達が降りてきたような四角い穴(フェンス付)を見つけた。下から見てなんとなく分かったが、恐らくあれは換気ダクトのようなものなのだろう。


 帰りはまたあそこを登んなきゃなんないんだよなぁ……。


 そう思うと自然にため息が漏れた。


「どしたの、ハルナ? 天井を見上げて溜息吐いたりなんかして」

「あー、うん。

 帰りはまたあそこを登らないといけないんだなーって」

「まあ、そりゃね。そうしないと帰れないし」

「……上から縄を下ろしてもらって、引っ張り上げてもらうってのは無理かな?」

「それ、自分で登るより怖くない?」

「そーかな?」


 それにしてもここは地下どのぐらいになるんだろうか。相当降りたはずなので、ひょっとすると地下50メートルぐらいはいってるんじゃなかろうか。


 コツコツと響き渡る足音に少し懐かしさを感じながら、取留めもない会話をしていると分かれ道に差し掛かった。片方はそのまま真っ直ぐ進む通路で、もう片方はそこで左に直角に折れている。


 セルティナさんは戸惑う素振りもなく真っ直ぐ進んでいくので、私達もそれに続いて歩く。分かれ道を通り過ぎる際にちらっと覗き込んでみたが、奥の方は真っ暗でなにも見えなかった。


「あっちは行き止まりになってるんです。奥の方で通路が土砂で埋まってまして……」


 分かれ道を覗き込んでいたのが分かったのか、セルティナさんからの説明が入った。


「へぇ、そうなんだ?」

「ここの全体図は一次調査の時に調べましたので、うちのギルド員は皆それを覚えて来てるんです。さすがに全員に支給するほど地図を複製出来ませんでしたので……。

 この中で地図を持ってるのは、主任だけですね」

「主任?」

「あ、ハーケデスさんの事です。

 普段からそう呼んでいるので、つい……」

「なるほど」


 あの人だけが持ってるのか。まぁ、指揮者って立場からすると当然なんだろうけど。


「それで、これから先の予定なんですけど、まずはこのまま真っ直ぐにわたしの担当場所である大広間まで向かいます。そこに例の大扉もありますので、見張りを兼ねてまずはそこから調査を始めるつもりです」


 セルティナさんの説明にうなづいて相槌を返す。


「ここからは"前"の話になるんですが、前回は調査中に3回、主任が奥の扉を開けるように言ってきましたので、恐らく今回もそうくると思います。

 前回と同じ展開でいくと、3回目の時に扉を開けられてしまいますので、それまでになにかを見つけるのが当面の目標になりますね」

「ちょっといい? 1回目と2回目の時はどうやって断ったの? それから、3回目の時も断るって出来ないの?」


 話の途中でスフィルが疑問を挟んだ。


「1回目の時はまだ調査中ですからあとにしてください、と。2回目は途中でイルが割って入ってくれまして……。

 ですから、明確な理由なしで3回目を断るのは難しいと思います。もちろん、力づくで排除という手段はなくはないですが」

「そっか。最悪それで行くしかないのかな」

「そうかもしれませんが、それをするとこっちが悪者になりますよ? 最悪、冒険者ギルドの方まで苦情が出ると思いますし」

「う、それもそーか……」


 なんとなくだけど、あの人なら絶対に苦情を出す気がする。特に根拠のない勘だけどさ。


 話を聞きながら歩き続けていると、やがて部屋への入り口が見えてきた。特に扉が閉じられている様子もなく、四角い入口がぽっかりと口を開けた状態だ。

また当然ながら、部屋の中は真っ暗である。


 一瞬もう目的の場所に着いたのかと思ったが、どうやらそれは違ったようだ。

休憩室程度の大きさのその部屋に入ると、部屋の左側にある出入り口から外に出てまた歩き出す。


 相手を追い返すなにかいい言い訳はないかと考えながら歩いていると、再び同じような部屋に行き当たった。今度は正面の出入り口から外に出る。


「ここの構造って変わってるでしょう? どういった目的でこのように作られたのかは分かりませんが、ここでは部屋も通路の一部のように作られているんです。

 いえ、むしろ通路の途中に部屋を作った、というのが正しいかもしれませんね」

「ここって全部がこんな感じになってるの?」

「ええ、大体は。今目指している大広間までほぼ全てこんな感じですね」

「へぇ……」


 確かにセルティナさんの言うとおり、ここの構造は変わってるなーと思う。

通路の先に部屋があるのは普通だが、部屋を通り過ぎてまた通路が続くというのは珍しい。

しかもほぼ全ての部屋がそうだというのだから尚更だ。


「ふーん。ここって一体なんなんだろ」


 独り言のようにつぶやいたその言葉に、セルティナさんが返事をしてくれた。


「今のところは、ゴーレムの生産施設か研究所だと考えられてます。もう少しすれば見えてくるんですが……」


 ほら、あそこ───、と彼女が指し示した先には、ひっくり返った4本足の蜘蛛のような機械と、それを解体(?)している人達の姿があった。

人数は3人。恐らく私が休んでいる間に先に行った人達だろう。


「あれがゴーレム? なんかアタシが話に聞いてたのとはずいぶん違うわね」

「ええ。あまり見られない型がここでは数多く発見されてるんです。ですからここはゴーレムの生産施設か研究所だと考えられているんです」

「そうなんだ。なるほどねー」


 話を聞きながら歩き続けていると、再び部屋に行き当たった。

今度は部屋の右にある出入り口から外に出る。


「それにしてもややっこしい構造……。これ、私1人だと絶対迷子になる自信あるよ」

「そうですね。かなり複雑な構造をしてますので、ここで逸れるとちょっとまずいかもしれません。部屋の機能が生きていればまだいいんですが……」

「部屋? なんかあるの?」

「ええ。ここにある全ての部屋に『装置』が置かれているんです。一抱えもある、四角い腰ぐらいまでの高さの柱で、天面が真っ黒なやつなんですが……。

 今まで通った部屋にもあったんですけど、覚えてませんか?」


 そう言われて記憶を探ってみると、確かにそんなものもあったような気もする。ちょっと変わった椅子のひとつかと思って気にも留めなかったけど……。


「あー、あったあった。あれが『装置』なんだ?」

「ええ、そうなんです」


 納得したようにうなづくスフィル。

どうやら彼女は『装置』とやらについてなにか知っているらしい。


「えっと、『装置』って?」

「それはですね……」


 スフィルとセルティナさんから聞いた説明をまとめると、『装置』というのはどうやら過去の時代に使われていた、魔力で動くコンピュータのような物らしい。


 いや、これには本気で驚いた。そんなものがここに、しかも遙か過去の時代に存在していたなんて。でも遺跡から発掘されている物の耐用年数からして、そのぐらいあっても不思議じゃないのか……?


 まさか某ウキキの惑星っぽく、ここって私がいたとこの遠い未来の姿じゃないよね、とまで思ったぐらいだ。


 ちなみに使い方は天面の黒い面に手を当てるだけでいいらしい。そうすれば空中に立体画像が浮かび上がるんだとか。

また、その立体画像に手を触れて色々操作することも出来るらしい。


 過去の技術すげー。


「こういった複雑な構造の遺跡に付けられている『装置』は、当時の人も迷うことが多かったのか、大抵まず最初に案内図が表示されるようになってるんです。あとはそれを頼りに動けばいいのですが……」

「でも今はそれ、使えないんでしょ? だったら逸れないようにするしかないわねー」

「ええ、そうなんですよ」


 むぅ、残念。ちょっと触ってみたかったのに。


 そのまま通路を歩き、次の通路に繋がる部屋を抜け。同じことを何度も繰り返しながら大体30分は歩き続けただろうか。

時折床に転がっているゴーレムも特に珍しいとは思わなくなり、少々ダルい気分になってきたので、気を紛らわすために隣を歩くスフィルに話を振ってみた。


「かなり歩いた気がするけど、上じゃここってどの辺りなんだろね」

「上って地上?

 そうねー、大体市場に入った辺りじゃない?」

「え、分かるの? スフィル」

「大体の勘だけどね」

「へぇ……」


 そんな話をしながら通路を歩き続けていると、また部屋の入り口が見えてきた。

ただその部屋は今までのものとは違い、その入り口のサイズがこれまでと比べてかなり大きいように見える。横幅だけでも大体倍ぐらいはあるだろうか。いかにもなにかありますって感じの部屋である。


「あれ、あの部屋……」

「なんだか大きいわね。もしかしてあそこが?」

「えぇ、あそこが目的の場所です」


 隣を歩くセルティナさんが即座に答えてくれた。ようやく目的地に到着したらしい。

そしてそのまま扉をくぐると───。


「うわ、これは……」


 部屋に踏み入れた足が思わず止まった。


 広い。


 そんな感想がまず最初に頭に浮かんだ。

手持ちのランタン1つでは到底照らしきれない広さの部屋がそこにはあった。


「ここが遺跡の最奥部になる大広間です」

「……すっごい」


 セルティナさんが説明してくれるが、あまりの広さに圧倒され、まともな返事を返せなかった。


 大きさは大体野球場ぐらいのサイズだろうか。暗くてよく見えないが、壁から壁まで走ると私なら確実に息切れする大きさだと思われる。見上げてみれば天井もかなり高い。


 これはまた圧巻だなぁ……。


 部屋の中に何本も立ち並ぶ、天井まで伸びたぶっとい柱を見ながらそう思う。


 ふと我に返ると、隣にいたはずのスフィルとセルティナさんの姿が見当たらない。

慌てて辺りを見回すと、かなり前の方を歩いていく2人の姿を発見。どうやら少しの間呆けていたらしい。


「ねぇ、扉の固定はしなくていいの?」

「大丈夫です。そっちはイルにお願いしてますから」


 急ぎ足で2人に追いつくとそんな話が聞こえてきた。


 そういえばここの入り口が閉じないように細工をしておくんだっけ。

やば、色々あってすっかり忘れてたわ。


 いかんいかんと頭を振りながら歩いていると、やがて閉じたままの大きな扉が見えてきた。


「こりゃまた……」

「大きいわねー」


 私と並んで扉を見上げたまま、感心したような声を出すスフィル。


 扉の大きさは縦横大体10メートルぐらいだろうか。特に模様とかもないのっぺりとした扉で、四角い形をしている。扉の表面に手を掛けれるような場所は見当たらないので、恐らく中央から左右に開く、自動ドアのような物なのだろう。


 ここに来るまでに何回も部屋を出入りしたが、扉は全て開いていたので、閉まっている扉を見るのは実はこれが初めてだ。


 セルティナさんはこの扉の事を、人を3~4人並べたぐらいの大きさと言っていたが、絶対それよりも大きいだろう。


 つか、これをこじ開けたって一体どーやったんだ。

絶対これ、半端な重さじゃないだろうに。


「えっと、お2人ともよろしいですか? 早速調査を始めたいのですが……」


 遠慮気味なセルティナさんの言葉に、やや脱線気味だった思考からはっと我に返った。


「ごめんごめん。

 それで、アタシ達はなにをすれば?」

「えっと……、まずは力仕事ですね」






 カッ、カッ、カッと音が響く。

スフィルが手にするノミに木槌を振る音だ。


 セルティナさんから指示された私達の最初の仕事は、床に敷き詰められたパネルを引っぺがすことだった。


 パネルを剥がし、その中に埋められているハズの"なにか"を探すのが目的らしいのだが、その"なにか"を言葉で説明するのが難しいらしく、パネルを剥がし終えたら呼んでほしいとセルティナさんが言っていた。


 ここの床パネルも今までの床の例にもれず、1枚1枚がかなり大きいのだが……。どーやって剥がすんだと思ってたら、セルティナさんがごそごそと鞄からノミやら木槌やらヘラっぽい物、それから最後に見たことのある木の板を取り出した。


 あれって前にスフィルが使ってた、『軽量』の魔法が込められたやつ? と思ってたら実際その通りだったようだ。


 そんな経緯を経てパネル剥がしを始めたのだが、目的の物がどこに埋まっているか不明な上、そもそもどんな物を探しているかも分からないので、扉の前から手当たり次第にパネルを剥がしていくことになったのである。


「ハルナ、次これお願いー」

「ほいほい」


 スフィルが削り、私が取り外して、セルティナさんが指示を飛ばしながら調査する。

いつの間にかそんな役割分担が出来上がり、各自黙々とただひたすらに作業を続けていた。


 いや、なんでこんなに真剣なのかというと、もう1回目のハーケデスさんが来たんだよ。


 ガツンガツンと音を立てて床を削ってるのが気になったのか、セルティナさんの予想よりもはるかに早く来たようだった。


 もうそんなことをしているのか、ちゃんと手順通りにやってるのか、とセルティナさんを問い詰めていたハーケデスさんだったが、きっちりと手順通りに調査が進んでる事を示すとなにも言わなくなった。


 実はこれ、"前"の調査結果をそのまま流用したものらしいのだが。


 まあ、それはともかく。それなら早くここを開けろと言い出したハーケデスさんを、調査がまだ完全ではないですからとなんとか追い返したところで、この分だと3回目だなんて悠長なことは言ってられないと3人の意見が一致し、必死に作業を始めたのだった。


「んー……?」


 そんな中、パネルを剥がし終えむき出しになった地面の上で、手に持った器具(ぶっとい針の後ろに丸い透明な球がついた物)を地面に刺しながら、なにかを調べていたセルティナさんが妙な声を上げる。


「どうかしました?」

「いえ、ちょっと気になったことがありまして。

 ……まあ、今は関係ないんですけど」

「はぁ、そうですか」

「ハルナ、次ー」

「はーい」


 首をひねったところでスフィルからお呼びが掛かったので、再びそっちに足を向けた。


 スフィルが削ったパネルを『軽量』の魔法を使って運び、セルティナさんの指示をうかがう。そんなルーチンワークを延々と繰り返す。


「うー、腰痛い。そろそろ見つかってくんないかなー」

「それは同感だけど……。休んでる暇はないと思うわよ」

「分かってるって。言ってみただけ」

「飽きたんなら、気分転換にアタシと代わってみる?」

「……いい、遠慮しとく。

 私はスフィルみたいに体鍛えてるわけじゃないし、余計に時間掛かるだけの気がする」

「まぁ、アタシもアンタと代わったところで、あっという間に倒れる気がするけどね。主に魔力切れで。

 ……次これよろしく」

「ほいほい。……ってあれ?」


 うだうだ言いながら作業を続けてたところで、なにやら妙なものを見つけた。

剥がしたパネルの下にさらにもう1枚のパネルが敷いてあり、その上にびっしりと直線で模様が描かれているのだ。


「なんだろ、これ?」

「さぁ……。初めて見るわ、アタシも」

「聞いてみようか。

 セルティナさーん?」

「はーい、なにかありましたか?」


 私達に呼ばれてやってきたセルティナさんは、パネルに描かれた模様を目にするなり、これは……と呟くと、いきなり屈み込んだと思ったら慎重な手つきで手に持った器具の針を模様に触れさせる。


 すると、針の後ろに付いていた丸い球の色が徐々に白く濁っていった。


「あった……ありました。

 ありがとうございます、見つかりました」

「えっと……どーゆーこと?」


 こちらを向いて頭を下げるセルティナさんに疑問を返すスフィル。

私も同じ気持ちだ。


「あ、ごめんなさい。これは───」


 セルティナさんの説明によると、なんでもこれは魔力を測定するための器具で、針が触れている部分の魔力の有り無しが分かる器具なんだとか。


 で、この模様は魔力の伝達経路に当たる部分で、ここに魔力が流れてるという事は動力源がまだ動いてることを示し、それはそのままここの機能がまだ生きているという証拠に繋がるらしい。


 話が難しくてよく分からなかったが、とにかくこれで目標達成のようである。


 早速報告してきます、と言い残し、足取りも軽く歩いていくセルティナさん。

それを見送ったあと、とりあえず無事終わったか、と扉……はマズイので、近くの柱を背にもたれかかった。


 辺りを見回せば、いつの間にやらこの大広間には結構な数の人が集まっていた。

その人達も私達と同じように、誰かの指示に従い調査を続けている。


 全然気付かなかったなー。それだけ集中してたって事なんだろうけど。


 辺りを見回しながらそんなことを考えていると、唐突に明かりが灯り周囲が明るくなった。しかもただの明かりではなく非常灯のような赤い光だ。それと時を同じくして響き渡るビービーという警報音。


 え、え? なに、なにごと?


 唐突な出来事に、ざわ、ざわ……と辺りに不安が漂う。


「なにしてるんですか、主任!」

「えぇい、うるさい!

 大体、ワシに任せておけばよい物をお前が横でごちゃごちゃ喚く所為だろうが!」


 向こうの方から、なにか言い争うような声が聞こえてきた。

見れば、赤い光を放つ『装置』を前に言い争うハーケデスさんと、名前も知らないギルド員の男性が1人。


 なんなんだと思って見ていると、そこにセルティナさんが慌てた様子で戻ってきた。


「大変です! 防犯装置が動き出してしまいました!」

「え、うそ!? 誰にも触らせてないのに!?」

「分かりません、けど……」


 "端末124より侵入行為を確認、並びに第1実験場内に多数の侵入者を発見。該当施設を閉鎖・隔離します。職員の方は至急避難してください。繰り返します───"


 セルティナさんの言葉に被せるように、スピーカーで拡張された声が広間全体に響き渡る。それと同時に上からたくさんのなにかが落ちてきた。


 けたたましい音を立てて落ちてきたそれは、ここに来る途中で何度も見掛けた4本足の蜘蛛のようなゴーレムだった。それがぎぎぎ……と体を軋ませて立ち上がる。そして前面に魔方陣を展開したかと思うと、いきなりドカドカと無差別に火の玉をぶっ放し始めた。


 近くの柱にぶつかり、ドカンと派手な音を立てて弾け散る火の玉に悲鳴が上がる。


 辺りは一気にパニックとなった。






 パニックに陥った場内の中で、真っ先に我に返ったのはスフィルだった。


 唐突に走り出したかと思うと、手近なゴーレムに近寄り走る勢いそのままに飛び蹴りをかます。


 結構勢いの乗った蹴りに見えたが、ゴーレムを倒すには至らなかったようだ。が、とりあえず展開中だった魔方陣は霧散したようで、火の玉を打ち出す動作は止まっていた。


「ハルナ、剣出して、大きい方」

「あ、うん?」


 イキナリなにしてるんだと思いながらもスフィルの要請に従って、預かっていた剣のうち、いつもより一回り以上大きな方をモコちゃんから取り出して手渡した。


「じゃ、行くわよ。後ろよろしく!」

「えぇ? あ、待って!」


 そう言ってスフィルは人のいない方に向けて走り出した。

一瞬呆気にとられるが、ふと取り決めを思い出すと、私も慌ててそれに続く。


 取り決めというのは、ここに来るまでに決めていた、避難時間を稼ぐために2人で囮になるというやつだ。とはいえ、なんの説明もなくいきなりやり始めるのはどーかと思うが。


 咄嗟に思い出せたからいいものの、私が思い出さなかったらどうするつもりだったんだろう……。あとで絶対文句言ってやる。


 とりあえず、さっきの事でゴーレム達はスフィルを敵認定したのか、彼女(+私)を優先的に追いかけることにしたようだ。他の人達を差し置いて、後ろからわさわさと追いかけてくる。


 幸いにもゴーレム達の速度は遅く、走って逃げるの方が早いので追いつかれる心配はなさそうなのだが、とにかく数が多い。しかもある程度まで近付くと、バレーボール程度の火の玉をガンガン放ってくる。


 ただ、その狙いはあまり正確ではないようだ。どちらかと言うと、数撃ちゃ当たるとばかりに闇雲に火の玉を乱射しているだけのようである。動いてさえいれば、流れ弾に気を付るだけで当たる心配はほぼなさそうだ。


 そしてスフィルの目がいいのか、その流れ弾もほぼ飛んでこない方へと動き続けているのだ。これならば事前に言われてた通り、私は後ろにのみ気を配っていればいいだろう。


 とはいえ、逃げ続けるにも限界はある。

その前に相手をどうにかしないといけないわけで───。


「ハルナ、正面左の1体っ、後ろよろしくっ!」

「了解っ」


 スフィルの言葉に私も杖を取り出し準備を始める。


 前を走る彼女が急に方向転換し、左手方面から火の玉を撃ちまくっているゴーレムに向き直ったかと思うと、剣を振り上げ体ごとぶつかる勢いでそれを一気に振り下ろす。


 その一撃はスフィルの前にいた蜘蛛型ゴーレムの胴体に命中し、めきめきと破砕音を上げた。


 こちらの動きが止まったことにより、後ろから火の玉が殺到するが


「『盾』っ」


 杖から『盾』の魔法を展開して、後ろから飛んでくる火の玉を全て遮った。


 いや、別に声に出す必要はないのだが。なんとなく気分の問題である。


 切られたゴーレムは胴体の部分が大きく陥没し千切れ掛かっている。

どちらかというと、切ったというよりは叩き潰した感じだ。しかもその相手はほぼ真っ二つである。


 相変わらずのバカ力……、と感心したところで、スフィルが体制を立て直したので、『盾』の魔法を解除し、再び並走を始めた。


 人のいない方へと走りながらゴーレムを引き付け、群れからはぐれた者を見つけてはスフィルが不意打ち気味に叩き潰す。


 そんな調子でもう2~3体のゴーレムをスクラップに変えると、その頃には辺りの人気がほぼ0になっていた。避難は順調に進んでいるようだ。


 残るゴーレムの数は見える範囲で全部で6体。この分だと全部倒してしまえるかな、と思っていると、再び上から数体のゴーレムが落ちてきた。


 うげ、まだ来んの!?


 たらりと流れる冷や汗を感じながら、チラリと横目で出入り口の方を確認すると、ちょうど残った最後の1人が扉を出て行くところだった。


 よし、避難が終わったのならあとは逃げるだけ、とスフィルにそう伝えようとした時、不意に出入り口のほうから、焦りを含んだような声が聞こえてきた。


「ちょっ……主任!?、なにをするんですか!」

「どけ! ここを閉めてしまえば奴らは出てこれないだろうが!」

「やめてください! まだ人がいるんですよ!?」


 そちらに目を向ければ、避難誘導をしていたセルティナさんとハーケデスさんが揉み合っていた。一体なにを……と思う間もなく、彼はセルティナさんを乱暴に振りほどくと扉の付け根の部分を足でガツンと蹴っ飛ばす。


 ガキッとなにかが外れたような音が響き、それと同時に音もなく閉じる扉。

そして閉じた扉の上で点灯する赤いランプ。


 え? えーっと、マジ?

 うっそ、閉じ込められた!?


「やってくれるじゃない、あのハゲおやじ……」


 あまりの出来事に呆然としてしまったが、隣から聞こえてきたおどろおどろしい声に振り向いてみれば、ぷるぷると震えながらこぶしを握り締めて、くくく……と暗く笑うスフィルの姿に我に返った。


 ひぃぃ、スフィルがキレてる。


「ハルナ、なんとしてでもここから出て、アイツをぶん殴るわよ……」

「は、ハイ」


 そのあまりの迫力に思わずカタコトの返事となったが、剣を片手に走り出すスフィルの後を追って再び走り出した。


スフィルの力がやたらと強いように思えますが、それには一応理由があります。ただそれが解説できるのは、2つか3つ先のエピソードの予定ってゆー……。まだ内容も完全に決まってないし、そこまで行くのは一体いつになるんだろうか。


さて、残すところはあと1話。書く内容は決まってるのですが長くなるのか短くなるのか未だによく分かりません。

6~8000文字程度でまとめれたらいいな、といつも思ってるんですけどね。



P.S.

お正月期間を挟んだ所為か、読んで下さる方が今までよりもかなり増えたようです。

この場を借りてお礼申し上げます、本当にありがとうございました。

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