66 明々後日からの訪問者 その2
お待たせしました、66話目です。
前回より少し短く、今回は約9000文字となります。
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
セルティナさんと出会った日からあっという間に2日が経ち、遺跡調査の当日となった。
私の今日の服装は、いつも通りの黒いローブをまとった姿だが、それとは対照的にスフィルは、もしもの時に備えて皮で作られた鎧を着込んでいた。
なるべく動きやすい恰好で、と募集要項にはあったのだが、調査に必要なさそうな物物しい装備(剣とか杖とか)は持ってないので、この程度なら恐らく見逃してもらえるだろうと思っている。
事故に備える割に不用心だと思われるかもしれないが、実は全部モコちゃんに預けてあるだけなので、いつでも手元に取り出すことが可能だ。
この2日でじっくり準備を整え、事故に対する備えは完璧なものとなっている……、と言いたいところなのだが、実際にやった事はそれほど多くはなかった。というか、なにをすべきかさっぱり思い浮かばなかったというのが正直なところだ。
実際、あれから1~2回スフィルと準備について話し合ったのだが、特にこれといった案は浮かばず、色々煮詰まって来た頃に、事前に遺跡に侵入して破壊工作をするという乱暴な案が出たぐらいで、どうやって事故を起こさないようにするかという案は全然浮かんでこなかった。
結局、事故を起こさないための対策は、現場をよく知るはずのセルティナさんに任せ、私達は事故が起こってしまった場合に備えての準備を念入りにすることにしたのである。
まあ、一番最初にやった事は、スフィルが冒険者ギルドまでひとっ走りするいう事だったのだが……。
いや、すっかり魔術師ギルドからの依頼を請けた気になってたけど、実際はまだなにもしてなかったからねー。
依頼請けるのを忘れてて参加出来ませんでしたじゃ笑い話にもなんないよ。
間に合わなくても、セルティナさんにお願いすればなんとかなるかもしれないけど、こんなことで彼女に泣きつくのはみっともないしねー……。
まあ、それはともかく。もう1度セルティナさんと会い、事故が起こった場合に備えるという私達の方針を伝えておいたのだが、その時に『気休めかもしれませんが──』と、『盾』の魔法を頂いたので、それをそのまま私の杖に登録してもらった。
この魔法、描かれた魔法陣がそのまま障壁になるというもので、文字通り盾として使うのだそうだ。
私の場合、飛んでくる魔法はなんとでもなるはずだが、直接殴られたりするのはどうしようもないので、この魔法は正直ありがたい。ただまあ正直なところ、これを使うような状況になってほしくないというのが本音だったりする。
これが活きる状況って、多分事故が起こったあとだろうしねー……。
そんな状況にならないよう祈るばかりだ。
それから最後に、『防護』の魔法についてなのだが、結局この魔法を借りることは出来なかった。というか、諦めたといった方が正しいか。
スフィルが冒険者ギルドまで走った時、途中まで道が同じという事で、私もマレイトさんの店まで行くことにしたのだが、その日マレイトさんは留守にしており、会うことが出来なかったのだ。
留守ならば仕方ないとその日は諦め、また次の日行くことにしたのだが、再び留守で会う事叶わず。一体どうしたんだろうと思いつつ、さらにその翌日に店を訪ねると、ようやくマレイトさんに会うことが出来たので、ここ2日どうしたのかと聞いてみると───。
「ここ3日ほど連日で呼び出されての、ギルドの会議室に籠りっぱなしじゃったわい」
とのこと。詳しい話を聞いてみると、以前やった積層型魔方陣の試験(訓練所の壁を吹っ飛ばしたアレ)が元で、個人が持つには強力すぎるモノではないかと問題となり、その扱いについて色々と揉めているのだとか。
この先どうなるかは分からないが、今のところ、この魔法については研究のみを許可し、存在を公にしないという事になっているそうだ。
「まったく、わしはとっくに引退しておるのに困ったもんじゃわい。まあ、大本がわしの研究じゃから仕方ないんじゃが……」
と疲れた表情でぼやくマレイトさんとその事情から、件の魔方陣を貸して欲しいとはとても言えず、お疲れ様ですと一言残してそのまま帰ってきてしまったのである。
まあ、借りれなかったものの事をこれ以上考えても仕方がないので、事故を起こさなければいいだけだと思い直すと、意識を現実に向け、待ち合わせ場所である冒険者ギルドに向かって歩き出した。
予定通り冒険者ギルドでセルティナさんと合流した私達は、集合場所へと向けて再び歩き出す。向かう先はいつぞやゴーストに襲い掛かられた、町外れにある墓地の近くにある広場だ。今回調査する予定の遺跡はそのすぐ近くにあるらしい。
あの近くにそんな大層なものがあったかなと疑問に思いながら足を進めると、やがて集まっている大勢の人が見えてきた。またその向こうには、大きな天幕がいくつも繋げて張られてるようだ。
「うわ、結構大勢集まってるねー」
「そうねー、ざっと50人ってとこかしらね……。
確かこの中には、もしもの時に頼れそうな人はいないんだっけ?」
「はい。一次調査の時は、護衛として雇われた方もいたのですが……」
「ま、安全と思われてる場所に護衛なんて連れてこない、っか。
でも最悪の場合、この人たち全員が避難する時間を稼ぐってかなりキツそうねー」
「そうですね……。
そんなことにならないようにも、頑張らないと……」
思いつめたようにつぶやくセルティナさんに、スフィルが呆れたように声を掛ける。
「はいはい、今からそんなガチガチに緊張しないの。そんなに気を張ってると疲れて逆に失敗するわよ。
ほら、大きく息を吸ってー」
「あ、はい。そうですね……」
緊張をほぐすためか、冗談めかした感じで言うスフィルの言葉にそのまま従い、すーはーと深呼吸を繰り返すセルティナさん。
こりゃダメだとひとつ息を吐くと、セルティナさんの気分を変えるために別の話を振ってみることにした。
「ところで、そろそろ集合時間のハズだけど、まだ始まらないのかな」
「あ、それは確か……、指揮者の方が遅れてるんです。
"前"の時もそうでしたし、これはいつもの事ですので……」
呆れたように溜息を吐きながらそう返事をするセルティナさん。
「なにそれ、遅刻?」
「ええ、まぁ。
さっきも言いましたけど、いつもの事なんで誰も気にしなくなっちゃいましたけど」
「いつもの事って……」
「そういう方なんです。
確か、もうしばらくすれば来られるはずですので、まだゆっくりと出来ますね」
……リーダーがそれでいいのか、魔術師ギルド。
まぁ、セルティナさんの意識がある程度逸れたからいいんだけど……。
そんな会話をしてからじっと待つ事約30分。リーダーの人はまだ現れない。
私達は交わす言葉も少なめに、その辺りにある手頃な場所に座ったり寄りかかったりしながらぼーっと時間をつぶしていた。
いい加減待ちくたびれたのか、他の皆も退屈そうに辺りを見回したりしている。
雰囲気的に、そろそろ待ちくたびれて帰る人も現れそうだ。
そんな彼らの様子を眺めつつ、スフィルと2人で並んで座り、ぽつぽつと取り留めのない会話をしていると、唐突に後ろから声を掛けられた。
「おい、そこの君。そこの鎧を着た君だ。
なんだね君は。ここにいるという事は調査助手の希望者か?」
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、そこにはセルティナさんと同じワッペンの付いたローブを纏った中年ぐらいの男性が立っていた。
「えっと……、アタシ?」
「そうだ。なんだその鎧は。動きやすい恰好でときちんと通達しておいたはずだ」
「え? えーっと……」
つかつかとスフィルに歩み寄り、座っている彼女を見下ろしながら文句をつける、ちょっぴり背の低いローブ姿の中年男性。
てかてかと光る丸い顔と薄くなった頭がなんだか特徴的だ。
イキナリの出来事にどう返事をしたもんかと悩んでいると、そこに慌てた様子でセルティナさんが割り込んできた。
「す、すみません、その人はわたしが個人的にお願いして呼んだ、冒険者ギルドの方です。
信頼できる人達ですので、調査の邪魔はしないとお約束します」
「ティナ君か……。
本当かね? 事前通達を無視するような輩なのだぞ」
「はい、大丈夫です」
「……ふむ、よかろう。こいつは君が責任を持って預かりたまえ。
ただし、足を引っ張るようなマネだけはしてくれるなよ?」
「はい、分かっています」
「ならよろしい。
っと、いかん。ティナ君の所為でますます遅くなってしまったわい」
それだけ言い残すと、さっと身をひるがえし、広場の中央に向けてずかずかと歩いていく中年男性。
……なんだったんだ、今のは。
「えっと、今の人ってひょっとして……」
イキナリの出来事にあっけにとられつつも、その物言いと態度にまさかと思いながら恐る恐る尋ねてみると───。
「……はい。今の方がこの調査隊の指揮者のハーケデスさんです」
と、予想通りの答えが返ってきた。
えぇぇぇ、マジで!? いや、予想はしてたけど当たってほしくなかったというか、なんというか……。
「そんな顔しないでください、アレさえなければいい人なんですから……」
「あんたまだそんな事言ってるわけ? アレがあるからダメな人なんじゃない」
横から割り込んできた声に振り向いてみると、今度はセルティナさんと同じぐらいの年齢と思われる女性が1人。彼女もセルティナさんやさっきの男性と同じローブを着ているので、おそらく魔術師ギルドの人間なのだろう。
「イル……。おはよう、相変わらずの物言いね」
「おはよ、ティナ。
それからそっちの人も、朝から災難だったわね。
あたしはイルーシャ。見ての通り魔術師ギルド所属で、ティナの同僚。
よろしくね」
白くて長い髪の毛をなびかせながら、ニカッと笑って手を差し出す彼女と握手を交わすスフィル。なんとなくだけど、彼女とスフィルは気が合いそうな気がする。
「で、そっちがハルナさんかな? ふーん、あの子から聞た通り本当に真っ黒なんだ。
いや、悪い意味じゃなくって、黒目か黒髪だけってのは割とよく見るんだけど、両方揃ってってのは珍しいと思ってねー。
まあ、短い間だけどひとつよろしくってことで」
続けてくるりとこちらに向き直り、凄い勢いで喋りながら私の手をつかんでぶんぶん振り回すイルーシャさん。
「ちょっとイル。いきなり人の特徴をどうこうって、それは失礼よ?」
「実際そう思ったんだから、しょうがないじゃない」
セルティナさんが横からたしなめるも、あまり効果はないようだ。
「ごめんなさい、ハルナさん。彼女はこういう人なんです」
セルティナさんが謝ってきたので、大丈夫とそれに返しながら、どうやら彼女は思ったことがそのまま口に出るタイプの人らしいと頭のメモに書き綴る。
「いやもう、あたしもアイツにはうんざりしててさ、こないだもアイツが手掛けてた仕事の尻拭いにあちこち……」
「ちょっと待ってイル。わたしもお喋りしたいのは山々だけど、今はちょっと……。
ほら、睨んでるよ?」
なにやら1人愚痴大会が始まりそうなところで、セルティナさんがさっと割り込んで広場の中央を指し示す。そちらに目を向けると、そこにはじっとこちらを睨みつけるさっきの男性(ハーケデスさんだっけ?)の姿があった。
「ちぇっ、ハゲデスのくせによく聞こえるわね。
まあいいわ、これ以上遅れるのもなんだしね。主にアイツの所為だけど。
じゃ、またね」
それだけ言い残すと私達から少し距離を取り、広場の中央へと向き直るイルーシャさん。
いやハゲデスって。似合いすぎてて思わず笑っちゃうとこだったじゃないか。
隣を見るとスフィルも同じことを思ったのか、笑うのをこらえてるような微妙な顔つきをしている。
こちらを睨みつける視線が一層キツくなった気がするが、とりあえずお喋りはおしまいとなった事でこちらを気にしないようにしたのか、その場でパンパンと手を叩き、皆の注目を集めると大声で挨拶を始めた。
「諸君、よく集まってくれた。ワシの名はハーケデス・ウェナンス。今回の調査隊の指揮を務める者だ。
いきなりこのような事を言うのは心苦しいが、募集要項すらろくに読まぬ者もいるようなのでな、まずは注意事項を1つ言わせていただく。
今回の調査においては、ワシの指示の元で調査をしてもらう事となる。勝手な行動を取り、貴重な遺跡を傷つけぬよう、皆それを心しておくように」
再びこちらに視線を向けながら、皆の前でそんな話を始めるハゲ……じゃなくてハーケデスさんに、私は思わず溜息を吐きだした。
挨拶代わりにする話じゃないって。しかも思いっきりこっちを見てるし。
なんかイルーシャさんが愚痴りたくなるわけが分かった気がするわ……。
「───では続けて班分けを行う。魔術師ギルドの者はここに集まった者の中から適当に2~3名選んで助手とするように。
助手選びが終わった者から順次遺跡へと入り、調査を始めてくれたまえ。
では、解散。諸君の働きに期待する」
約10分もの間、たらたらと続いた挨拶を聞き流していると、やがて班分けの時間となったようだった。周りが一気に騒がしくなる中、私達は予定通りセルティナさんと合流する。
「ようやく終わりましたね……。
とりあえず、中に向かいましょうか。早く行かないと混み合いますし。
入り口は向こうに見えてる天幕の中です」
「りょーかい、やっと本番かー」
「なんていうか、長かったわねー。なんか始まる前から疲れた気がするわ」
私としてはただの挨拶であれだけ喋り続けられることに感心するけどねー。
まぁ、疲れた気がするのは確かだけどさ。
挨拶についての感想(愚痴?)を口々に言いながらセルティナさんに連れられて天幕の入り口をくぐると、中はまるで受付カウンターのようになっていた。横長のテーブルが置かれ、それを前にして魔術師ギルド職員と思われる人達が座っている。それ以外の人は見当たらない。どうやら私達が1番のようだ。
「魔術師ギルド所属、セルティナ・メーテリル。3人お願いします」
セルティナさんがそこで自分の名前と人数を告げると、用意されたリストにチェックが入り、差し出される明かりの灯ったランタン3つを受け取った。
どうやらここで立ち入る人のチェックとその支援をしているらしい。
組織ながらのバックアップ体制に、なるほどねーとちょっと感心しながら天幕の区切りをくぐって奥へと進むと、見張りと思われる2人の人間と、地面にぽっかりと空いた大きな穴が見えてきた。
穴は2メートル×2メートルぐらいの正方形で地面に垂直に空いており、その周りを木で縁取りがしてあって……って。
「これ、井戸?」
「ええ、今は枯れてますけど、元井戸です。
ここが入り口なんですが……ご存じありませんでしたか?」
思わず発した声にセルティナさんが律儀に答えを返してくれた。
「いや、知らなかったわ……。この辺に遺跡なんかあったかなーとは思ったけど、まさかこう来るとは」
「すみません、そう言えば説明してませんでしたね。
とりあえず、詳しい説明は中でしますので入ってください。すぐに後ろがつかえてきますので」
その言葉に井戸の中を覗き込んでみるが、かなり深く掘られているようで、奥まで光が届かず底の方は真っ暗である。なるほど、こりゃランタンが必要なわけだ。
井戸の淵には昇降用と思われる縄梯子が左右に2つ掛けられているので、恐らくこれで出入りをするのだろうが……。暗い井戸の底に向かってゆらゆらと揺れる縄梯子だけで降りて行くのは正直かなりコワイ。
「スフィル、先行ってよ」
「え、なんでよ?
……ま、いいけどさ。それじゃお先に」
そう言うと、スフィルはランタンを腰に括り付けるとさっさと縄梯子を伝って中へと降りて行ってしまった。
「うーん、さすが冒険者ギルド所属……」
「次はハルナさんですね。わたしは最後に降りますので」
「え、やっぱり行かなきゃダメ? ……だよね」
「お願いします」
セルティナさんにジッと見つめられ、仕方なく縄梯子に手を掛ける。
うー。下、見ないようにしようっと……。
スフィルと同じくランタンを括り付けると、なるべく頭を空っぽにして縄梯子にしがみつくと、機械的に手足を動かしながら降りていく。長いような短いような時間が過ぎたあと、ようやく地面に足が着いたときには、ふーっと大きく息を吐いてしまった。
「はい、お疲れ様」
井戸の底で大きく息を吐く私をスフィルがねぎらってくれてたところに、上からセルティナさんの声が降ってきた。
「スフィルさん、下に着きました? そしたら周りを見回してください、横に大きな穴が開いてませんか? 次はそこに入るんです。
それから、またすぐに大きな穴が地面に空いてますので、次はそこを降りてください」
「はーい、了解ー!」
えーっ、まだ降りるの!?
内心で抗議の声を上げる私を余所に、スフィルはくるりと辺りを見回すと、井戸の壁が崩れた部分からさっさと中に入ってしまった。
ここで帰るわけにもいかないので、私も続けて中に入る。
すると、今まで土でできていた地面が、明らかに人工物を思わせる平らな石のような物に変わったのが分かった。
「穴ってのはこれね……。
ハルナ、お先ー」
先に進んでいたスフィルが穴を見つけたらしく、私に一声残すとぎしぎしと縄梯子を軋ませながら降りていく。
うぅ、また降りるのか……、とうんざりしながら穴に近づき、中を覗き込んでみるとちょっとだけ眩暈がした。
いやこれ深いって。底は全然見えないけどかなり深いって。ホントここ降りるの? 幅は狭いけどめちゃくちゃ深いよ。ヒュゴォォ……って効果音付けたくなるぐらいだよっ。
半泣きになりながらもここで引き返すわけにもいかず、スフィルに続いて縄梯子に手を掛けると再び頭を空っぽにして降りていく。
どのぐらいの時間が経っただろうか。ロボットのような決まりきった動きで手足を動かし続け、ようやく地面に足が着いた時には湧き上がる安堵感からその場でへたり込んでしまった。
「つ、ついたぁ……」
「ハルナ、お疲れー……って大丈夫?」
大丈夫じゃないやい。足ガタガタしてるよ。
「あー……、ゴメン。多分立てない。ちょっと休めば平気になると思うんだけど」
「あらら。
とりあえず、ほら、掴まって。ここで座ってると邪魔になるからさ」
「ん、ありがと」
スフィルに支えてもらい、縄梯子の真下から手近な壁の傍まで移動させてもらうと、そこに腰を落ち着ける。
しばらくぼけーっと降りてきた穴を見上げていると、やがてセルティナさんが縄梯子を軋ませながら降りてきた。
よく平然と降りれるなーと思いながらそれを眺めていると、こちらに気付いたセルティナさんが、あ……と言って固まった。
なにかあったのかと思う間もなく、私の方に寄ってくるといきなり謝り始める彼女。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?
すっかり忘れてました、前もこうなったのにわたしったら……」
どうやら"前"にも私はこーなったらしい。
うぅ、事前に教えて欲しかったなー……。
謝る彼女を大丈夫だからと制し、少し休憩する旨を告げると快く了承してくれたので、スフィルと3人揃って壁に並ぶことに。
するとこのまま黙ってるのも気まずいのか、セルティナさんがこの遺跡が発見されたいきさつを話してくれた。
「ところでお二人は、どうやってこの遺跡が発見されたかご存知ですか?」
「いや、知らないわー。
初めて話に聞いたのは、半巡り(15日)ほど前だけど……」
「時期は大体合ってますね。実はこの遺跡を発見したのは自警団の方なんですよ」
「へー、そうなんだ?」
「はい。でも、この話にはちょっとしたオマケがあるんです。
お二人は数年前に起こった大きな地震を覚えてますか? その時にここの井戸が枯れてしまったんですけど、先日、その井戸にゴミを捨ててる人がいるって通報があったんですよ。
結局、その人は捕まったんですけど、今度はその捨てたゴミをどうにかしないといけなくなくなりまして。
捕まった人は当然ながら、自警団の人も何人かで事にあたり、井戸の底まで降りてゴミをかき出してたんですけど、その時に井戸の横壁に大きな穴が開いてるのが見つかりまして、今に至るという分けなんです」
まさかゴミ掃除からこんなものが見つかるとはって、かなり驚いてたそうですよ。とセルティナさんは話を続ける。
「へぇ、世の中なにがあるか分かんないわねー」
「ええ。でも自警団の方々は喜んでるらしいですよ? 遺跡を見つけた報奨金で備品を買い換えられるって」
「そ、そーなんだ……」
そーゆーとこはどこも一緒なのかね。世知辛いなぁ。
あ、そろそろ足、大丈夫かな。
「ごめん、お待たせ。そろそろ動けそうだわ」
「いいんですか? もう少しゆっくりしてても構いませんが……」
「でも、あんまり遅れるのもマズイんでしょ?
例の見張りの件とかもあるし」
「……確かにそうですね。いけそうですか?」
「多分大丈夫、平気」
私達が休憩している間にも何人か降りてきて目の前を通り過ぎて行ったので、これ以上休憩しているのもまずいだろう。
「それに、下手してあの人に見つかったりすると、また文句言われるかもしんないし」
「う、確かにそうなりそうですね……」
あの人ってのが誰を指すかは言うまでもない。
苦笑いしながらうなづくセルティナさんと、それじゃ行きましょうか、と立ち上がって軽く伸びをするスフィル。
彼女が腰を上げるのに合わせて私も立ち上がる。
多少ふらつきはしたものの、ちゃんと立てたので歩くのも問題ないだろう。
「では、案内しますね。ついてきてください」
セルティナさんの声の元、ランタンを掲げた私達は暗い通路に沿って奥へと歩き出した。
実はこの話、元々はあと1話で最後まで持っていくつもりをしていたのですが、予想より長くなりつつあるので、予定ヵ所まで行かずに少し手前で区切ることにしました。
予定していたところまで書いていると、もう1~2週間程度掛かりそうな上に、文字数が12000~13000と少し長すぎになりそうなので、少し短く区切って残りを2話に分けることにします。
予定通りに行けば、6000~8000文字×2話で終わるはず……ハズ。多分。
では次回、出来れば年内に再び投稿できることを祈りつつ───。