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64 積層型魔方陣 その2

お待たせしました、新しいパソコンでの初投稿です。


前回、6500文字程度がもう1回続くと書きましたが、あれはうそになりました。

約1.5倍となる9700文字です。これでも少し省いたのになぁ……。

「さて、そろそろ次の実験に移りたいんじゃが……。

 その、なんじゃ。お主、大丈夫かの?」


 マレイトさんの向ける視線の先にはファーレンさん。その顔の形は少々歪んでいる。


 あれ、治療した方がいいのかなーとか考えていると、その視線に気付いたのかディグレスさんが釘を刺してきた。


「ああ、嬢ちゃん。こいつの事は放っといていいぞ。

 これはあいつ自身がやらかした事だ。それに治療に使う魔力が勿体無い」

「そ、そーですか……。

 ところでディグレスさん、殴られた時に結構スゴイ音がしてましたけど、頭大丈夫だったんですか?」

「ああ、問題はない。

 音は派手だったが、俺には何かが軽く触れた程度にしか感じてないしな。いや、大したもんだ」

「へぇー……」


 あんな鈍器で金属の塊をぶん殴ったような音がした割にダメージ0って、実はかなりすごい魔法なのかもしれない。

……と思ってたら、実際今のはかなりすごい事だったらしい。


 ディグレスさんいわく、今までにもこの手の魔法は色々あるが、精々木の板1枚、革1枚を挟んだ程度の効果がある物で、効果はあるにしても気休め程度の物らしい。

ましてや衝撃まで押さえるような物は、今までにないものなんだとか。


 うーん、さすが積層型魔法陣。半端じゃない効果だ。


 ……あれ? てことはディグレスさん、ファーレンさんにそこまでする必要はなかったんじゃ……。

 ま、いいか。深く考えないようにしよう。


 ふと訓練所の方に目を向ければ、中央にカカシを運んでそれに鎧を着せているファーレンさんの姿があった。

次はあれを使ってなにかをするのだろう。


「おーい、兄貴。ハルナちゃんと喋ってないで、この鎧を運ぶの手伝ってくれよ」

「おう、すまん。今行く」

「嬢ちゃんや、ちょっと来てくれんかの」

「あ、はーい」


 ファーレンさんの声を切欠に、ディグレスさんもファーレンさんのところへ移動する。

それと時を同じくして私もマレイトさんに呼ばれたので、彼の元へと移動した。


「なんですか、マレイトさん?」

「次に使う魔法陣を渡しとこうかと思っての。

 ほら、これじゃ」

「分かりました。……これはなんの魔法なんですか?」


 渡された紙に描かれているのは、先程と違うかなり単純な形をした魔法陣が2つ。


「例の本に書いてある説明を読む限り、貫通力のある光の矢を放つ魔法のようでの。もっとも、完全に翻訳出来たわけではないので、実際見てみようというわけじゃ。

 とりあえず、『光矢』と名付けてみたのじゃが」

「へぇー……」


 光の矢って事は攻撃魔法になるのか。で、今その的を用意してると。なるほど。


「じいさん。鎧、運び終わったぜ」


 的の準備が終わったようで、ファーレンさんがそう報告してきた。

その後ろにはディグレスさんも立っている。


「ふむ……。

 いやすまんが、あと8つほど準備してくれんかの、横に並べる形で」

「……マジで? あの鎧、結構重いんだけど……いって!?」

「こら、ファーレン。

 すまない、了解した」


 思わずといった感じで呟いたファーレンさんに、軽く拳を落とすディグレスさん。


「いや、無理言ってすまんの。

 じゃが、次に使う予定の魔法は射撃魔法でな。実際に使うのは初めてでもあるし、狙い通り真っ直ぐに飛んでくれるかどうかイマイチ分からんのじゃ。ある程度はどこに飛んでもいいようにしておきたいでの」


 あー、なるほど。狙い通りに撃てるか分からないのか。


 納得したといった感じでカカシを並べる作業に移る2人と、ふむふむと頷く私。

 そんな私を他所に作業は進められ、約10分後には訓練所の中央にずらりと横一列に並んだ鎧達の姿があった。


 うわー、これはまた迫力あるってか、壮観だなー……。


 中身がカカシとはいえ、大人1人が着るための鎧だ。ボロボロになってはいるが、9つも横に並べばそれなりに威圧感がある。


「じいさん、終わったぜ」

「うむ、ご苦労じゃったな。しばらく休憩してくれてかまわんぞい。

 次の試験は攻撃魔法の予定でな、お主らの出番はここまでじゃ。危なくない場所……わしらの後ろ辺りかの。そこでしばらく休んでおってくれ」

「あいよ」

「心得た」


 2人が後ろに下がるのを確認し、集中するために一息吐くと魔法陣の構築を開始する。


 モノは2重陣、大きさはさっきより小さめで、狙いは──……って、あ。的、いっぱいあるんだった。


「準備終わりましたけど、どれ狙いましょうか」

「一番真ん中のやつでよかろう。

 なに、あれだけ並んでおるんじゃ。多少ずれてもどれかには当たるじゃろうて」

「あはは、そうですね」


 マレイトさんに言われたとおり、9つ並んでる鎧のうちの真ん中のやつに狙いをつける。

それが終わったところで、マレイトさんに目で合図を送った。


「いつでも構わんぞい」

「はい。では、いきまーす」


 ていっと魔力を込めると、魔法陣が一瞬眩く輝いた……だけで、それ以上はなにも起こらず、魔法陣はそのまま霧散した。


 ……あれ? 失敗した?


「珍しいの、失敗か?」


 同じ事を思ったのか、マレイトさんが声を掛けてくる。


 うーん。初めて使う魔法なだけにちゃんと魔法陣の細部まで気を配ったし、あれで失敗するかなぁ。もしかしてマレイトさんの魔法陣が間違ってたとか?


「分かりませんけど……、とりあえずもう1回やってみます?」

「ふむ、そうじゃの……」

「……いや、失敗したわけではないようだぞ。鎧を見てみろ」


 唐突に後ろからディグレスさんの声が響く。


 鎧の方に目を向けると、ずらりと立ち並ぶ鎧のど真ん中の1体、私が狙いをつけた鎧の中央に、握り拳サイズのキレイな円形の穴がぽっかりと開いていた。


 近付いてよく見てみると、金属製の鎧に開いたその穴はまるで刃物で切り取ったかのようなすっぱりとした断面を見せており、貫いたというより消滅させたと言ったほうがしっくり来る様相をみせている。


「ほほー……。いや、これは凄まじいの。

 なにかが光った程度にしか分からんかったぞい」


 開いた穴を調べていたマレイトさんが感心すると共に嘆息を吐き出した。


 よかった、ちゃんと成功してたんだ……、と安心したのも束の間。


「なあ。今のって、もし壁の向こうに人がいたらヤバイんじゃねーの?」


 ファーレンさんがぽそっと呟いたそのひと言で、この場に居る全員が固まった。


 慌てて鎧の向こう側の壁に目を向けると、そこには鎧と同じぐらいのサイズの穴が開いており、外の様子が窺えるようになっていた。穴から射し込む光が目に眩しい。


 え、えーと。ひょっとして私、やっちゃった……?


 少しの間の後、最初に復活したのはディグレスさんだった。


「おいファーレン。

 ちょっとひとっ走りして外に怪我人がいないか見てきてくれるか」

「え、オレ?」

「お前が一番速いんだ。頼んだ」

「……しゃーねー、了解。行ってくるよ」

「あ、私も一緒に行きましょうか?」


 ファーレンさんが部屋を出て行こうとするのを呼び止める。

一応、これをやったのって私だからね……。


「いや、いいよ。ハルナちゃんはここで待っててくれ。

 オレ1人の方が早く動けるし、もしハルナちゃんの力が必要そうなら、呼びに来るなり、ここまで担いでくるなりするからさ」


 そう言って部屋を出て行くファーレンさん。続けてタタタ……と足音が聞こえたので、恐らく走って行ったのだろう。


「では、わしも行ってくるわい。

 壁に穴を開けてしもうたからの、ここの管理者に伝えてこんといかんのでな」

「あー、ほんとスミマセン……」

「気にするでない、わしの解読不足が原因でもあるしの。

 お主ら2人は、少々ここで待っとってくれ」


 それだけ言い残すとマレイトさんも部屋を出て行ってしまった。

部屋に残ったディグレスさんが、私に声を掛けてくる。


「さて、俺達は言われた通りしばらくここで待機だな。

 嬢ちゃんもとりあえず座って休んでおいた方がいい。ファーレンのやつが怪我人を担ぎ込んでくるかもしれんしな。

 ……それから、さっきの事を気にするのも程々にな。気にしすぎると次の試験に差し支えるぞ」

「……そうですね」


 ディグレスさんに言われた通り、壁際に寄ってそれにもたれるようにして腰を下ろす。

続く試験に結構緊張していたのか、疲れが抜けていく感覚が気持ちいい。


 そのまま待つ事約10分。マレイトさんは先程戻ってきたが、ファーレンさんはまだ帰って来ていない。


「ファーレンのやつ遅いな。どこまで行ってるんだ……?」


 そう呟くように言ったディグレスさんの声にこたえるかのように、ファーレンさんが部屋の扉を開けて戻ってきた。


「あ、お帰りなさい。どうでした?」

「ただいま、ハルナちゃん」

「遅かったな、ファーレン。どこまで行ってたんだ?」

「あぁ、あの光がどこまで飛んだのか分かんねーから、とりあえず人気のなくなるところまで走ったんだ。

 とりあえず怪我人らしき人は居なかったよ。よかったな、ハルナちゃん」

「そうですか、よかった……。ありがとうございます」


 ふーと大きく息を吐く。いや、ほんとにホッとしたよ。もしあんなのが人にカスリでもしたら擦り傷どころじゃすまないと思うし。


「ご苦労じゃったな。いや、何事もなくてよかったわい。

 とりあえず皆は、次の試験の準備が終わるまで、もう少し休憩を続けとってくれ。ファーレン君も戻ってきたばかりで疲れておるじゃろうしな」

「了解、助かるよ」

「む。その準備、俺は手伝わなくていいのか?」


 ディグレスさんの問いかけに、分厚い本を鞄から取り出しつつ答えるマレイトさん。


「大丈夫じゃ。準備と言うても、次の試験で使う魔法の見直しをするだけじゃてな。またさっきみたいな事になったら大変じゃろ?

 それから、あとでまたあのカカシを動かすことになると思うでな、その時が来たらまたお願いするわい」

「そうか。了解した」


 休憩に入って少しした頃。隣でディグレスさんとファーレンさんがなにかお喋りしているのをぼーっと聞き流していると、唐突にファーレンさんから声を掛けられた。


「なあ、ハルナちゃん。ちょっと聞いてもいいかい?」

「ん? なんですか?」

「いや、さっきのを含めてなんだけど、ハルナちゃんの使う魔法ってやたら強力だろ?

 それ、誰から教わったのかな気になってさ。いや、言いたくないなら別にいいんだけど」


 あー、えーっと。私の魔法が強いのは、出所不明の魔力を乗せまくるとゆー、いわゆる力押しで魔法を使うからだと思うんだけど……。実は未だに魔力の調整が苦手なんだよねー。どうしてもこれ以上抑えられないっていうか。


 まあ、それはともかく。誰から教わったかといえばマレイトさんかな。


「魔法でしたら、そこのマレイトさんから教わったんですよ」

「ほぅ、成程な」

「へぇ……、ハルナちゃんって"あの"じいさんの弟子なんだ」


 なにやら納得した顔でうなづくディグレスさんと、"あの"という言葉にやたらと力を入れて話すファーレンさん。一体なんなんですか。


「あれ、違ったのかい?」

「いや、魔法を教わったって意味では弟子と言えなくもないですけど。それより"あの"って、ひょっとしてマレイトさん、有名だったりするんですか?」


 そう言うと、驚いたような呆れたような顔をしてこちらを見つめてくる2人。


「ハルナちゃん、もしかして知らずにじいさんのとこへ行ってたのかい?

 あの人、確か元は魔術師ギルドの教官長の1人だったはずだぜ」

「教官長?」

「えーっと、教官の上司っつーか、教官に物を教える人って言えば分かりやすいか?

 まあともかく、そういった偉い人だったらしいぜ」

「へぇー……」


 マレイトさんが元魔術師ギルドのエライ人、ねぇ。うーん、なんかイマイチ想像が……。

どっちかっていうと、今みたいに研究所に籠ってなんか研究をしてるってイメージのがしっくりくるんだけどなー。


 あ、でもその繋がりが元で色々な仕事が舞い込んできたりするんだろうか。

だとすると、妙なアイテム(呪われた品やら鏡やら)をマレイトさんが預かってたりするのも分かる気がするんだけど。


「まあ、知ってる人は知ってる話だからさ。気になるなら、今度直接じいさんに聞いてみなよ」

「そうですね……。いつか折を見て聞いてみます」

「おーい、そろそろ次の試験を再開するでな。

 ディグレス君とファーレン君の2人、ちょっと手伝ってくれんかの」

「了解した。行くぞ、ファーレン」

「おっと、じいさんがお呼びだ。行ってくるぜ」

「はい、行ってらっしゃい」


 立ち上がってマレイトさんのところに向かう2人。どうやら休憩はここまでらしい。

それじゃ、私も準備をしておきますか。そろそろ呼ばれる頃合いだろうしね。






 程なくしてマレイトさんに呼ばれた私は、次の試験に使う魔法の概要を聞いていた。


 マレイトさんより新たに提示された魔法は『加速』。この魔法はその名のごとく、一時的に圧倒的なスピードで動くことが出来るようになるモノらしい。


 使用する魔方陣の数は全部で4つの4重陣。中でも術者の保護機能を持った4つ目の陣が特に重要と言っていた。ここを間違えてしまうと、術者の体が魔法に耐えられないらしいので、これだけは絶対にミスしないよう何度も念を押されている。


 どうやらさっきの事故(?)が元で、安全面についてかなり気にしているようだ。


 試験自体の内容は単純で、自分自身にその魔法を掛け、的として並べてあるカカシに適当になにかをすればいいらしい。


 まあ、それはいいんだけど……。


「要点は大体こんなところかの。なにか質問は?」

「いえ、大体分かりましたけど……。それよりなんなんですか、あの並べ方は」


 さっきからずっと気になっていたところをぴっと指差して説明を求める。

その先には的にする予定の鎧を着たカカシがあるのだが、奥から順に4-3-2-1と合計10体のカカシがまるでボーリングのピンのように並んでいた。


「いや、わしに聞かれてものぅ……。

 確かに、いくつか適当に固めて並べるように指示は出したんじゃが」


 マレイトさんが困ったような笑みを浮かべながらそう答えた。


 さいですか。……これを考えたのファーレンさんだな、絶対。

なんかこっちを見てにやにや笑ってるし。私らの反応見て楽しんでるな、アレは。


 あー……、まあ、それはともかく。試験を始めるとしますか。


 深呼吸を1回、気持ちを切り替えると、1つ2つと丁寧に魔方陣を作り重ねていく。

4重ともなればそれなりに時間は掛かるが、特に問題なく魔方陣は完成した。


 確かこの魔法は、魔力の消費がかなり激しいということをマレイトさんが言っていたので、気持ち多めの魔力を魔方陣に注ぎ込む。


 ディグレスさんにやった時と同じように魔方陣が砕け、幾筋かの光のラインとなって私の中へと吸い込まれる。

───と同時に、私の周囲から一切の音が消えた。


 耳が痛いほどの静寂の中、周りを見渡してみると、まるで時が止まったかのように微動だにしないマレイトさん、ディグレスさん、ファーレンさんの3人の姿。


 これって、感覚まで加速してる……?


 そして、私の中で魔力ではない何かが減っていく感覚。恐らくこれがディグレスさんの言っていた、なんとなく分かるっていう残り時間だろう。


 とりあえず体を動かしてみようとするが、どうにもこうにも体が重い。まるで深い水の中で動こうとしているようだ。


 これひょっとして、空気抵抗だったりするんだろーか?


 ふと思いついたその考えに、一瞬、呼吸は大丈夫なのかと思ってしまうが、今のところそれは問題なく行えている。どういった理屈かはさっぱり分からないが、これがきっとマレイトさんの言っていた保護機能なのだろう。


 とりあえず動かなければ、と頑張って体を動かしてみると、残り時間が一気に減るのが分かる。どうやら行動すればするほど、早く残り時間が減っていくらしい。


 そしてそのまま、ずらりと並ぶカカシに向きなおったところで、はたと行動を停止した。


 しまった。カカシの並び方が衝撃的で、具体的になにをすればいいか聞くのを忘れてた……。


 今更悩んだところで仕方がないので、とりあえず突っついてみるかと、動かしにくい体を操り、ゆっくりとカカシに向けて歩いて行く。じりじりと減る残り時間と歩みの遅さがどうにもこうにももどかしい。


 1歩1歩、ゆっくりと歩みを進めていく。


 これ、間に合うのかなーと思っていたところで、1歩先の足元に鎧のパーツと思われる丸っこい金属片が落ちているのを発見。


 このまま進むと踏んづけそうだし、この重い体であれを避けるのも面倒だし……。

いっそあれを拾って投げつけよーか?


 そんな考えが頭をよぎったので、破片を拾い上げようと屈み込んで手を伸ばす。


 うわ、なにこれ。小さな欠片のくせに、めっちゃくちゃ重いし……。


 一気に減る残り時間を気にしつつ全力で破片を拾い上げると、動かしにくい体に精一杯の力を込め、アンダースローで金属片をカカシに向かって放り投げる。


 つつつー……と、ゆっくり滑るように金属片が飛んでいくのを見送ったとき、残り時間がちょうど0になるのが分かった。


 たちまちのうちに周囲の音が戻る。それと同時に消え去る金属片。


 え? と思った瞬間、バゴォォン! とスピードの乗ったトラックどこかに激突したような、ものすごい振動と音が建物全体に響き渡った。


 みしみしと音を立てて揺れる訓練所。もうもうと立ち込める砂煙。


「おっわ!?」

「何事だ!」


 砂煙の勢いが凄まじく、なにがどうなったのか見ることが出来ない。

後ろからファーレンさんとディグレスさんのが叫ぶ声が聞こえてきた。


 やがて、どこからか入り込んだ風が立ち込めていた砂煙を薄れさせていく。

すると、砂煙の向こう側にうっすらとだが青い空が見えてきた。


 え? 空?


 砂煙が薄まるにつれ、部屋の様子が明らかになってきた。


 はっきりとした視界にまず映ったのは、外の景色と散らばった瓦礫だった。

そして、的として置いてあったカカシの姿はどこにもなく、さらにはその後ろにあったはずの壁までがきれいさっぱりなくなっており、外の景色を覗かせている。


 い、一体なにが……!?


 状況を整理しようと、混乱する頭を必死で回転させる。


 よくよく見れば、瓦礫はすべて外に落ちており、まるで部屋の内側から吹き飛んだかのような散らばり方をしている。そして、前後の状況からしてこの事態を引き起こせそうな行動をしたのは……。


 え、ひょっとしてこれやったの私?

いやいやいや、私がやったのは鎧の欠片っぽいのを軽く放り投げただけで……。


 あ、いや、ちょっとマテ。周りの人が止まって見えるほどの感覚の中、動いているとはっきりと分かるほどのスピードで物を投げたって事は……。


 え? え? えぇ───!? うっわ、やっちゃった───っ!?


 たどり着いた結論に、内心頭を抱えて悶絶していると、後ろからマレイトさんの低い声が掛かる。


「……嬢ちゃんや、一体なにをやったんじゃ?」


 体がびくっと震えるのが分かった。


 スフィル助けて、マレイトさんがこわい。

い、いや、今は怖がってる場合じゃなくて……、どう説明したもんかな、これは。


 冷や汗をかきつつそう思うと、マレイトさんへと向き直った。






「えーっ! あの騒ぎってアンタが原因だったの!?」


 夜、宿に戻ってきたスフィルに、今日訓練所の壁に大穴開けちゃってさー、と話していたところ、いきなり叫び声を上げた。


「い、いきなり叫ばないでよ。他の部屋に迷惑でしょ。てかなんで知ってるのよ」

「あ……、ごめん。

 いや、知ってるもなにも、今日、訓練所の方で謎の爆発があったってギルドに人が飛び込んできてさ。魔法が暴発したとか大型の魔獣が訓練所に突撃したとか、色んなウワサが飛び交ったけど、結局ホントのとこは分かんないままだったんだよねー」

「そ、そーなんだ……」


 魔法の暴発ってのはある意味当たってる気がするけど、大型の魔獣ってなんだそれ。いや、そのぐらいの衝撃が発生したってことなんだろうけどさ。


 結局あの後、私のやった事とその理屈を、ゆっくりと振り下ろした拳と速度をつけて振り下ろした拳とではどちらが痛いか、などと例を交えつつ説明をして、なんとか納得してもらったあと、マレイトさんが再び管理者の人のところまで事情の説明と謝罪に行くということで、今日のところは解散となった。


 私もついてって一緒に謝ろうとしたんだけど、マレイトさんは難しい顔をして、わしだけの方がええじゃろと同行を断られてしまった。


 それから次の試験について少し話をしてからマレイトさんは行ってしまったのだが、次の試験については今のところ未定のようだ。試すべき魔法はあれが最後だったらしい。


 他の魔法について軽く聞いたところ、解読済みの魔法はまだあるが、竜巻を発生させる魔法や雷雨を発生させる魔法、さらにはそこから狙った箇所に落雷を発生させる魔法など、危険すぎておいそれと試すわけにはいかないようなものらしい。


 なにその危ない魔法、と聞いた瞬間1歩引いたのをよく覚えている。


 唯一幸いだったのは、怪我人が出なかったことだろうか。

訓練所は元々裏通りにある上、壁の向こう側がだだっ広い空き地だったのも幸いしたようだ。その上、以前から幾度となく壁を突き破って流れ弾が飛び出すという事もあったようで、皆それを警戒して、入り口側以外から訓練所に近寄る人はほぼ居ないんだとか。


 まあなんにせよ、色々と目まぐるしい1日だった気がする。


「ギルドから詳しい事を聞こうにも、なんかどっかのエライ人が来たとかで、支部長含めて上の人達がまとめて部屋に籠っちゃって出てこないし……ってまあ、こんな事アンタに話してもしょうがないんだけどさ」


 そう言って話を締めくくるスフィル。


 エライ人って、ひょっとしてマレイトさんかな?

やっぱかなりの大事になったのかなー。うぅ、ホントごめんなさい。


「ところでハルナ。明日ってなんか予定ある?」

「んや、ないよー。

 魔法の試験も少しの間お休みらしいし、どうしようか考えてるとこ」


 新しい魔法の試験についてはマレイトさんの解読待ちということで、何日かしてからまた来るようにと言われている。


「だったらさ、ちょっとお昼、付き合ってくんない?」

「お昼? 別にいいけど、なんかあるの?」

「まあ、ちょっとした相談……かな? 内容はその時って事で」

「ふーん。

 いいよ、了解。お昼だね」

「ありがと。それまでに色々まとめとくからさ」

「ほーい、……ってどこ行くの?」


 唐突に立ち上がり、部屋を出て行こうとするスフィルに声を掛ける。


「ちょっと飲み物もらってこようと思って」

「あ、じゃあ私のもお願いしていい?」

「いいよ、待ってて。いつものやつでいい?」

「うん、ごめんね、よろしくー」


 スフィルが出て行き、バタンと音を立てて扉が閉まる。


 うーん、スフィルが私に相談ねー、一体なんなのやら。


 また仕事絡みかな? とも考えたが、明日になったら分かるかと思い直し、ベッドに腰掛けスフィルが戻ってくるのを待つ事にした。


新しい魔法の話はこれで終わりです。


次話よりまた新しいエピソードが始まります。

大まかなプロットはとっくに出来ているのですが、どこでどう区切るか悩み中。

3~4話程度で終わらせる予定なのですが、最近、なんか文字数が多くなる傾向にあるので、予定は未定という事で……。

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