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63 積層型魔法陣 その1

1話で纏めるには少々長くなってしまいましたので、2話に分けることにしました。

よって、少し短めの話が2つ続きます。

 一夜明けて翌日、マレイトさんのお店を予定通り訪ねた私は今現在、少々暇を持て余していた。本来ならば今頃は、マレイトさんの指示の元で色々と実験をしているハズなのだが、そのマレイトさんは今、私が持ってきた本を一心不乱に眺めているのだ。


 昨日、魔法陣らしきものが描かれた読めない本を見つけたとマレイトさんに例の本を見せたところ、中を見るなりずっとこの状況が続いてる。


 どうやらマレイトさんにはこの本が読めるらしい。


 やがて体感で1時間が経過した頃、マレイトさんがぱたんと本を閉じたので声を掛ける。


「どうでした、なにか分かりました?」

「ああ……、いや、またとんでもない物を持ち込んでくれたのぅ」


 呆れたといった感じで息を吐きながらそんな事をいうマレイトさん。


「とんでもない物って、この本、そんなに凄い物なんですか?」

「凄い、というよりも貴重というべきかの?

 この本にはの、かなり昔に失われた魔法の技術が記されておるんじゃ」

「失われた魔法技術、ですか?」

「然様。積層型魔法陣というての、魔法陣を複数重ねて描くことでより簡単に、より強くその効果を発現させることの出来る技術なんじゃ」

「へー……、そんな事が出来るんですね」


 魔法陣を重ねて描く、っか。思いつきもしなかったなぁ。


「うむ。そしてさっきも言ったと思うんじゃが、これは失われた技術での。この技術を復活させる事は魔術師ギルドやわしを含めた研究家にとって、大きな目標でもあるんじゃよ」

「え、じゃあ、この本って……」

「わしらにとってはとんでもなく価値がある物、という事になるの」

「はー……」


 嘆息しか出なかった。どうやらかなり凄い物を発掘してしまったらしい。


「それでじゃ。今日の予定を変更して、これに記されている魔法の実験を行おうと思っとるんじゃが、協力してもらえるかの?」

「それはまあ構いませんけど……。いいんですか? 予定を変更なんかしたりして」

「昨日、嬢ちゃんが腕輪を取り戻してくれたお陰で若干日程に余裕が出来ての。

 それに、これを目の前にして今更他の事に集中なんぞ出来んわい」

「はぁ……、分かりました。

 けど、私に手伝える事なんてあるんですか?」

「無論じゃて。魔力の扱いについてはわしより嬢ちゃんのが上手いからの、手伝ってもらえると非常にありがたいんじゃ」


 この積層型魔法陣というのは魔法陣同士を干渉させることにより一種の暴走状態を引き起こす事で、その相乗効果を利用する物らしい。

よって繊細な魔力操作が必要となり、扱いを誤ると大変な事になるとのこと。


 マレイトさんいわく、この技術が廃れたのはあまりにも扱いが難しく、使い手がいなくなった為ではないか、というのが研究者の間での通説なんだとか。


 説明を聞く限りなんか危なっかしい技術な気はするが、幸い私は目で魔力を追える。恐らく、やばくなる前に実験の中止を訴える事も出来るだろう。


 実験に協力する事を伝えると、それでは早速と本に載っていた魔法陣を写したものを渡された。まずはこの簡単な2重陣──魔法陣を2つ重ねる──で立体的な魔法陣を組む感覚の練習をするらしい。


 その間、マレイトさんは本の解読を進めるそうだ。

実はこの本、かなり古い文字で書かれていたらしく、すらすらと読んでいるように見えたが、実は大雑把に内容を把握しただけで、細かな内容まで掴んだのは数箇所だけとのこと。


 試すだけで危険な魔法も混ざってるらしいので、色々と気を使っているようである。


 そして、今私が練習しているのは、『光源』の魔法陣だ。

またこれかと思ったのだが、これならば失敗しても害は少ないだろうという事で、マレイトさんが本の中からこの魔法を選び出してくれた。


 ちなみに、『光源』の魔法陣と言ってはいるものの、この本に載っている魔法は基本的に名前がなく、魔法陣とその効果のみが記されているそうだ。よってこの『光源』というのはマレイトさんの命名だったりする。


 ところでこの新しい『光源』の魔法陣、私が教えてもらった『光源』の魔法陣と比べて随分と図が簡略化されている。今までの魔法陣を複雑な化学式と例えるなら、今回のは一筆書きの絵といったところだろうか。無論、形は随分と違うが。

これなら私でもグリモア抜きで魔法を使えるかもしれない。


 ただこの新型魔法陣、今までのと比べて展開が難しい……。

いや、感覚が違うというべきか。平面に図を描くのではなく、奥行きも考えて描かないとダメなのでかなり勝手が違う。


 つかこれ、目視せずに描けるってどんな人よ。使える人が居なくなって話もあながち嘘じゃないと思えてしまう。


 魔力が目に見えるという利点を活かしつつ、ちくちくと魔法陣構築の練習をしている途中、ふと気になった事があるので聞いてみる事に。


「ところでマレイトさん、この新しい魔法陣って、もしばらばらにして使ったらどうなるんですか?」

「ばらばらと言うと……、重ねてある魔法陣をそれぞれ単独で使う、という事かの?」


 本から顔を上げて答えてくれるマレイトさん。


「ええ、その通りです」

「ふむ、それならその答えは───なにも起こらん、かの」

「なにも起きない、ですか?」

「うむ。この積層型魔法陣で使われる魔法陣は、単独では意味のない魔法陣での。

 稀に効果を発揮するものもあるが、基本的には組み合わせた時のみ効果があるもので、それ単体で使用してもなにも起こらんものが大半じゃ」

「へー……」

「おまけにその組み合わせの法則は未だ解明されておらんのでな、お陰で研究者は皆、苦労しておるんじゃ」

「大変ですね、それ……」


 まったくじゃ、と頷くマレイトさんに同調しつつ、練習を再開した。






 次の日、私は1人で冒険者ギルドまで来ていた。

別に依頼を出しに来たわけではなく、目当てはここの訓練所だ。


 昨日マレイトさんから、明日は冒険者ギルドの訓練所を借りて続きをすると言われ、こうして現地集合となったのである。


 あと、今日1日だけ私以外にも人を雇うとか言ってたけど、なにをするつもりだろうか。

ひょっとして新型魔法の的とか実験台とか……?

いやいや、まさかね。


 少し怖い考えになってきたので、頭を振ってそれを振り払うと、扉を開けて中へと入る。それと同時に聞こえてくるちょっとした喧騒。


 今日もかなりの人がここに集まっているようだ。特に食堂となっている場所はかなり賑わいをみせている。


 今の時刻はお昼過ぎ。皆、昼食を取っている最中なのだろう。

私はもう食べてきたけどね。


 ざっと中を見回してみるがマレイトさんの姿は見つからない。どうやらまだ来てないらしい。


「あれ、ハルナちゃん?」


 キョロキョロと中を見回していると、聞いたことのある声で名前を呼ばれた。

声が聞こえた方に振り向くと、食堂の席に座って手を振っているファーレンさんの姿があり、その向かいの席にはディグレスさんも座っていた。


「こんにちは、ファーレンさん、ディグレスさん」

「や、久しぶり。っても、4日ぶりぐらいだけどな」

「よう。あの時は世話になったな」


 挨拶を交わし、私が人を待っている事を伝えると、それならここに座って待たないかと言われ、その提案に乗ることに。


「それじゃ少しお邪魔してっと……。お2人はなにをしてたんですか?」

「オレ達もハルナちゃんと一緒で人待ちさ。

 昨日の今日って事でちょっと急な依頼だったけど、上手く予定を空けれたんでね」

「へー、忙しいんですね」

「まあね」

「……おいファーレン、あまり見栄を張っても空しいだけだぞ。

 それに、少し耳聡ければ、あの噂が元で暇を持て余していた事ぐらいはすぐに分かる。程々にしておけ」

「ちょ、イキナリバラさないでくれよ兄貴……」


 いきなり情けない声になるファーレンさん。

この2人は相変らずってか……、まあ、なんつーかご愁傷様です。


「む、皆揃っとるようじゃの」


 そんな事を話していると、後ろから聞こえるマレイトさんの声。


「え、マレイトさん?」

「じいさん?」


 私とファーレンさんの声が被る───ってこの2人が待ってたのってマレイトさん?


「一緒に居るところを見ると、お主ら知り合いじゃったのか?

 まあええわい、一応紹介しておくかの。

 わしの実験を主立ってをやってくれる事になっておるハルナ君じゃ。

 そしてこっちは、今回わしの実験を手伝ってもらう事にしたディグレス君、ファーレン君じゃ」


 紹介されたのでよろしくお願いします、と2人に挨拶をすると、ディグレスさんとファーレンさんの2人も挨拶を返してくれた。


「ところでマレイトさん、今日はなにをするつもりなんですか? 私まだなにも聞いてないんですけど」

「む、そうじゃったの。

 今日は標的が必要な魔法……多いのは攻撃魔法じゃな、それと人に掛ける魔法の方も少し試しておくつもりじゃ。無論、危なくない物じゃぞ?

 まあ、そうなるとわしら2人では少々キツイのでな、今回こうして人を雇う事にしたわけじゃ」

「なるほど……、分かりました」

「では、そろそろ訓練所に向かうとするかの。話はもう通してあるでな、このまま移動するぞい」


 マレイトさんの案内に従って、ギルドの裏に併設されている大きな建物へと移動する。

どうやらここが訓練所になっているらしい。


「へぇ……、こんなところがあったんですね」

「まあ、ここはギルドに所属でもせん限り、訪れることはまずないからのぅ」


 そんな会話をしながら中に進むと、やがてひとつの部屋へと辿りついた。


「ふむ、この部屋じゃな」


 マレイトさんがそう呟いて部屋の中へと入っていく。

それに続いて私も部屋の中へと足を踏み入れた。


 まるでどこかの道場みたい、と感想を抱いたその部屋は、約30メートル四方の広い正方形の部屋で、奥の壁際には使い古しと思われる鎧がずらりと並んでいる。

鎧と同じ数だけ十字の形をしたカカシも並んでいる事から、あれは主に的として使用するのだろう。


 そしてよくよく辺りを見渡せばこの部屋、かなりボロっちい。床や壁は傷だらけになっているし、あちこちに板を使って接ぎ当てをしているところがある。

ここを使用した誰かが、うっかり大穴でも開けたのだろうか。


「では、早速試験を始めるでな。各自適当に荷物を置いたら、再度ここに集合じゃ」


 壁や床を見渡し少しの間考え事に没頭していた私はその言葉に我に返ると、はいと返事をしてから荷物を降ろすために部屋の隅へと向かって動き出した。






「まずは、これからじゃな」


 私とディグレスさん、ファーレンさんが揃うと、マレイトさんが本から書き写したと思われる魔法陣の絵を手渡してきた。


「これは……?」

「『防護』の魔法陣じゃ。対象を魔力で覆って硬化する……まあ要するに、魔力で作った鎧を着せる魔法じゃな。

 それから、お主ら2人の事なんじゃが……、魔法の行使役は嬢ちゃんがやるとして、残った2人のうちのどちらかに、この魔法の対象になって欲しいんじゃ」

「ふむ……。では、俺がやろう」


 ディグレスさんが手を上げる。ファーレンさんは特に反応を示していないので、魔法を掛ける対象はディグレスさんに決定だ。


「それで、俺はどうすればいいんだ?」

「とりあえず、魔法が掛かるまで嬢ちゃんの前でジッとしておってくれ。魔法が掛かり次第、色々と質問させてもらうからの。

 それでは嬢ちゃん、頼んだぞい」

「分かりました」


 そう返事をしながら魔法陣が描かれた紙に目を落とす。

そこに描かれている魔法陣は全部で3つ。どうやら3重陣のようだ。


 昨日散々練習したので、このぐらいの魔法陣を描くのはさほど難しいことではなくなっている。むしろコツを掴んだ今となっては、今までの魔法陣より早く完成するぐらいだ。


「小さな魔法陣を重ねて……? なんだいそれは?」


 青白い光を放つ完成した魔法陣を見て、ファーレンさんが不思議そうに聞いてくる。


「えーっと……」


 どう説明したもんかと迷っていると、マレイトさんがそれに答えてくれた。


「一から説明すると少々長くなるでな。簡単にいえば、今までとは少し違う魔法技術の試験だと思ってくれればええわい。

 もし詳しく聞きたいのであれば、あとでわしがじっくり説明して進ぜよう」

「いや、そっちは遠慮させてもらうよ……」


 多分聞いても分かんねぇし、と呟きながら引き下がるファーレンさん。

イキナリ理解するのを拒否したね、この人。


 まあ、気を取り直して……。


「では、いきますよー」

「おう」


 ディグレスさんの返事と共に、目の前の魔法陣に魔力を籠める。

すると、魔法陣が一瞬強い光を発したかと思うとばらばらに砕け散り、幾筋かの光となってディグレスさんの体に吸い込まれていった。


「ふむ……」

「どうじゃ、なにか感じるか? 体の調子に変わりはないかの?」


 体の調子を確かめるように手を握ったり開いたりしながらそれに答えるディグレスさん。


「なにやら暖かい感じがするな。それから体の方も大丈夫のようだ。特に動かしにくいとかいったことはない。

 どのぐらい効果が続くかもなんとなく分かるな」

「ふむ……」


 マレイトさんがディグレスさんに魔法の使用感を聞いている。


 ディグレスさんの見た目に変化はなく、特に動きにくそうな感じも見られない。

これで全身に鎧を着込んだような効果を得られるのなら、かなり使い勝手のいい魔法じゃないだろうか。


「なあ、ハルナちゃん。今の兄貴って、見た目変わんねーけど全身鎧を着込んでるようなモンなんだよな?」

「ええ、そうらしいですけど、それが?」

「いや、ちょっと確かめてみようと思って」


 そう言いながら、こちらに背を向けて話をしている2人に足音を殺して忍び寄ると、右手を振りかぶってディグレスさんの頭に向けて思いっきり拳を振り下ろした。


 ガギッ!


「ってぇ!?」


 殴ったはずのファーレンさんが、右手を抱えてその場にうずくまった。


 なんか今、金属の塊を叩いたようなスゴイ音がしたけど、手、大丈夫か……?


「え、えーと。手、大丈夫ですか……?」

「いや、すっげぇ痛ぇ……」


 痛みをこらえているのか声に力がない。

治癒魔法を使うべきかと考えていたところで、その後ろから低い声が響いてきた。


「おいファーレン、なんのつもりだ……?」


 そこにはゴゴゴ……とでも効果音がつきそうな雰囲気でファーレンさんを睨みつけるディグレスさんの姿があった。


「いや、その、ちゃんと効果が出てるかどうか確かめようとだな……」

「ほう、奇遇だな。俺も今それを考えてたとこなんだよ」

「い、一応その方法を聞いてもいいかな?」

「なに、簡単だ。今からお前をこの手でぶん殴って、俺の手が痛くなければ成功だ」

「いいって! 今さっき十分確かめたからっ」

「つれない事を言うな、俺にも確かめさせろ」


 あまりの迫力に思わず目をそらしたところで、視界の外からなにやら打撃音と悲鳴が響き渡った。


 あー……、成仏してね、ファーレンさん。生きてたら治してあげるから……。


使用しているパソコンの調子がなんだかおかしいため、少しの間色々と身動き取れなくなるかもしれません。


リアルにパソコンが、ガガガガ、ピ────って音を立てて止まるのを初めて目にしたよ……。

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