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前話より2週間と1日……、本当にお待たせしました。


2012/05/12 最後の方に2行だけ加筆、大筋に変更はありません

2014/03/30 ふりがな表記をルビ化

 私達の報告により、ギルドはちょっとした騒ぎとなった。


 まあ、持ち帰った報告が、"既に呪いが溢れまくっており教会付近は既にゾンビまみれでした、しかも散らばる可能性が非常に高いです"じゃ、しょうがないと思うけど。


 至急対策を練らなければならないという事で、今日のところは事実のみを報告し、詳しい経緯はまた翌日に、という事になった。


 その日はそのまま解散となったのだが、その翌日、スフィルと2人でデルディさんに経緯を報告していたところ、ひとつ気になる話を聞いた。


「その、呪いの元凶を発見・破壊したというのは本当かね?」

「ええ。このぐらいの大きさをした、丸っこい透明な宝珠でした。

 粉々に壊しちゃいましたけど……」


 私が手を使って大きさを示すと、デルディさんはふむ……、とあごに手を当てて考え込んでしまった。


「ひょっとして、なにか拙かったですか?」

「いや、そんな事はない。

 それに関しては逆に感謝させていただく」

「じゃあ……?」

「少々話が逸れるが、アナタ方が見たというその宝珠はその昔、あの地で発見されたモノであり、動かす事は出来ないが放置するのも危険という事で、当時の領主の命により封印が施される事になったと記録にある。

 その封印の効果とは、あの地の精霊の力を借りたもので、件の宝珠を見ることも触る事も出来なくするものと記録にはあったのだが……」

「え……っと、普通に見えたよね? スフィル」

「うん。普通に飾ってありましたよ、アレ」


 よかった。一瞬、私だから見えたのかと思ったよ。


「つまり、封印は破られていた、という事になるな」


 ふぅ、とため息をひとつ吐くデルディさん。その雰囲気はなんだか重い。


「ひょっとして、私を同行させたのは、この事態を予測してたからですか?」

「ある意味その通りなのだが、アナタはあくまでも保険として同行してもらっただけだ。

 ただ、私のような仕事(ギルド支部長)をしていると、貴重な情報から根も葉もない噂まで、色々と耳に入るのでね。

 出来れば根も葉もない噂であってほしかったのだが……」

「なにか心当たりでも?」

「一応は、とだけ言わせてもらおう。

 ただ、私としてもにわかには信じ難い話なので、早計にこれだと決め付けるわけにもいかないという事を念頭に置いて聞いてもらいたい。

 その噂の内容だが、"気狂い(ルナティック)がセルイドの森で動いている"といったものだが、聞いた事はないかね?」


 私は無言で首を横に振る。


「アタシは初耳ですけど……」


 スフィルも聞いた事がないようだ。


 なんですかソレ? の雰囲気を感じ取ったのか、デルディさんはそれについての説明を始めた。


「ルナティックとは、色々な騒動を各地で起こしては、それを面白おかしく見物するといわれている集団だ。なるべく大きな騒ぎを起こし、仲間内でそれを競っているともされているが、実際のところは不明となっている。

 私としても、このような意味不明な集団が存在する事はさすがに信じがたいのだが、事が実際に起こっている以上、ただの噂だと無視するわけにもいかん」


 うわ、なにそのはた迷惑な集団。


「えーと……、もしその集団が存在するとして、封印ってそう簡単に破れるようなモンですか?」

「無論、そう簡単に破れる代物ではないが、彼らの持つ技術は非常に高度らしくてな。他にも彼らの仕業とされる似たような事例はいくつか存在しているな」

「…………」


 なにそれ怖い、とばかりに私が沈黙すると、代わりにスフィルが口を開いた。


「今回の件は本当にその、ルナティックってやつらの仕業なんですか?」

「分からんよ。ただこの件に関していえば、噂が流れ始めた時期と一致している上、なにかの拍子で解けるようなヤワな封印ではない以上、関連がないとは言い切れんな」


 再び重い息を吐くデルディさん。なんだか頭が痛そうだ。

いや、気持ちは分かるけどさ。


「ともかく、アナタ方が宝珠を破壊してくれたお陰で、そちらを気にすることなく動く死体の対処に専念出来る。

 この件に関しては、動く死体への注意や聖水の配布を、森に面している領や町から優先的に行っていく事になるだろう。

 細かな経過報告、感謝する」


 そう言ってデルディさんは頭を下げた。


 なんかややっこしい事になったなぁ……。

色々使いそうだし、10本ぐらい残ってたと思うけど、聖水、作り足しておこうかな。


 今後は動く死体の討伐を積極的に行う事になるだろうというギルドの方針を聞きながら、そんな事(聖水の追加作成プラン)を考えていた。






「よう、嬢ちゃん達も来てたのか」


 デルディさんへの報告を終え、奥の部屋から入り口へ戻ったところで声を掛けられた。

声がした方を見ると、ディグレスさんとファーレンさんの2人が、テーブルを囲って座っていた。


 なぜかファーレンさんは力なくテーブルに突っ伏してるけど……。


「こんにちは。

 昨日の続きですよ、詳しい事情の報告ってやつです」

「ああ、俺達と同じか」


 どうやらこの2人も報告に来たらしい。


「報告はもう済まされたんですか?」

「ああ。さっき俺とファーレンの2人で報告を済ませてきたところだ。

 まあ、それは無事済んだんだが、ファーレンのやつがへこんじまってな……」


 ディグレスさんは、テーブルの上でぐてっと突っ伏すファーレンさんに目を向けた。


「報告でなにかあったんですか?」

「いや、そうじゃない。

 そうだな、なんと言えばいいのか……。まあ、話を聞いてやってくれ」


 い、一体なにがあったんだろう……。


「人の噂って無責任なモンだよなぁ……」


 のっそりと体を起こしたファーレンさんは、ゆっくり話し始めた。


「例の事を報告するためにオレ、先に帰ったろ?

 かなり頑張ってさ、息も荒いままギルドに駆け込んで報告したまではよかったんだけど、それがなぜか、仲間を置いて1人逃げ出してきた事になっててよ……」


 うわぁ……。


「言っとくが、あんたらも他人事じゃねーぞ? なんせ噂じゃオレ以外全員、動く死体共にやられてあいつらの仲間入りしたって事になってるしよ」

「え、ちょ、なによそれ!? アタシら全員ちゃんと生きてるって!」

「しらねーよ。状況からそう思われてんだろ、きっと」


 あー……、確かにゾンビ2~30体うろつく中で一晩過ごしましたって言ったら、そう思われてもしょうがないか。


「まあ、そっちも大概だが、なんだか知らねぇうちにオレ、"仲間を置いて逃げ出したやつ"認定されちまってるんだぜ。勘弁してくれよ……」


 今後の仕事に影響出なきゃいいんだけどよ、と再びがっくりとうなだれた。






 うなだれるファーレンさんを適当に励ましたあと、次の仕事の目星をつけてくるというスフィルと別れギルドを出た。


 ここから目指すのはマレイトさんの雑貨店だ。聖水を込めるガラス瓶を買うのが目的である。


 今日は開いてればいいんだけど……、と思いながら足を進めること約5分。

マレイトさんが経営する雑貨店に到着した。


 店の扉に手を掛けるとすんなりと開いたので、今日は開いてるようだ。


「こんにちはー」

「いらっしゃい、と、嬢ちゃんか。なにか入用かの?」

「小さめのガラス瓶を少し……20本ぐらい?」

「それは少しと言わんじゃろ。

 まあよかろう、確かそっちの棚にまとめて置いてあったはずじゃぞ」

「ありがとうございます」


 マレイトさんの案内にしたがって店内を見て回ると、ちょうどいい大きさのガラス瓶が詰まった木箱を発見したので、これを丸ごと買って行くことにする。


 カチャカチャと音がする木箱を抱え、マレイトさんのところへ持っていく。


「これ1箱、もらえますか」

「また大量に使うんじゃな……」


 呆れたように呟くマレイトさん。

まあ、5×6の30本はちょっと多いかもしんないけど、余ったら置いておけばいいしね。


「ところで嬢ちゃん、このあとちょっと時間はあるかの?」

「ええ、特にこれといって急ぎの用事はないですけど……」


 聖水を作るのは10分程度で済むので、少しぐらいなら時間を取られても特に問題はないはずだ。


「少々急じゃが、このあとすぐ、実験の手伝いをお願い出来んかの?

 少しばかり期限の迫っておる仕事があってな、そろそろ店を閉めようかと思ってたところだったんじゃが……」


 む、実験の手伝いかー。そうなるとそれなりに時間掛かりそうな気がするけど……。


「正規の報酬に加え、瓶の代金もオマケしておくぞい?」

「是非ともやらせていただきます」


 即答した。


 いやだって、ガラス瓶の値段も30本となると馬鹿になんないんだよ?

ガラス精製の技術がイマイチなのか、小さな瓶でも妙に高いしさ。






 実験の内容は、当然ながら魔法陣を改良する実験だった。


 酒場などの大勢の人が集まる場所で使う設置タイプの魔法陣で、換気のための、ゆっくりとした風を起こす魔法だ。


 これって元の世界でよく見た、店の天井とかで回ってるプロペラの代わりだろーか。


 そんな事を考えながら、実験を進めていく。

マレイトさんの指示通りに魔法陣を作り上げ、細部を変更しては魔力を流し、その結果をまとめていくのだ。


 私にはどの結果も大差ないように思えるんだけど……。

まあ、マレイトさん的には、なにか違いがあるのかもしれない。


「次は左下の部分をこれに変えてみてくれんかの」


 紙に書いた図形を指で示しながら、マレイトさんが次の指示を出した。


「分かりました。

 こうですね……、っと」


 図形と睨めっこしながら指定通りに魔法陣を作り上げる。

完成したところで、マレイトさんが細部の確認を始めた。


「ふむ、問題ないようじゃの。それでやってみてくれるか?」

「分かりました」


 OKが出たのでゆっくりと魔力を流す……、が、なにも起こらなかった。

魔力を流された魔法陣が、点滅するように明暗を繰り返すのみである。


 あれ? と思うと同時に、ゴゴゴ……、と低いうねるような音がしたかと思うと、ゴォォォ! と音を立てる風の渦が部屋の中で発生した。


 え、ちょ、これ竜巻っ!?


「な、なんじゃ!?」

「うわっぷ!?」


 ものすごい勢いの強風が部屋の中で吹き荒れる。

飛ばされてきたなにかが顔に貼りついたので、慌ててそれを振り払う。


 魔力をそんなに込めなかったのが幸いしたのか、ミニ竜巻はすぐに消滅した。

代わりに部屋の中はめちゃくちゃになったけど……。


「び、びっくりしたぁ……」

「収まったようじゃな……大丈夫じゃったか?」

「大丈夫です、かなり驚きましたけど」

「いや、驚かせたようだの、すまんかったな。

 いやしかし、こりゃ派手にやったのう……」


 部屋の中は台風が通過したような状態になっていた。

いや実際に、ミニ竜巻が部屋の中で暴れたんだけどさ。


 立てかけてあった物のほとんどが床に倒れ、資料などの軽い物は全て風にさらわれ舞い上がったようで、文字通り足の踏み場もないような状態だ。


「どこか間違えたかのぅ……」

「間違いじゃなきゃちょっとした攻撃魔法ですよ、アレ」

「うーむ……」


 私のツッコミをスルーしながら、ぶつぶつとなにかを呟くマレイトさん。

しばらくするとそれがひと段落したのか、ふぅ、と息を吐いた。


「とりあえず休憩にするかの、少し頭を冷やすとしよう。

 今お茶を持ってくるでな、少しここで待ってておくれ」

「はい、分かりました」


 部屋を出て行くマレイトさんを見送りながら返事を返した。


 戻ってくるまでには少し時間が掛かるだろう。手近にあった椅子を引き寄せると、それに座って待つことにした。


 それにしてもこりゃ、あとで大掃除だね……。


 大変そうだなー、と他人事のように思いながら、めちゃくちゃになった部屋を見回していると、前訪れた時にはなかったはずの、1枚の鏡が目に付いた。


 縦は1メートルぐらい、横は80センチぐらいだろうか。綺麗に装飾のなされた一抱えもある大きな鏡だ。鏡の前には千切れた布の切れ端がぶら下がっている。


 元は布が掛けられていたのだろうが、それはさっきの強風の折に破れてどこかにすっ飛んでしまったようだ。今はその美しい筐体を外気にさらしている。


 かなり古めかしいが、ひと目で高級品だと分かる立派な鏡になんだか興味を引かれたので、近寄って覗き込んでみた。


「え、なにこれ……?」


 思わず声が出た。


 鏡にはめちゃくちゃになった部屋の風景は映っているのだが、その前に立っているはずの私の姿が映っていないのだ。


 試しに、と鏡の前で手を振ってみるが、そこに映る景色にはなんの変化もなく、ただ部屋の惨状を映し出すのみである。


 一体どうなってるんだと手を伸ばし、鏡面に触れたと思った瞬間───。


 ぐらり、と世界が回った気がした。


「え……?」


 慌てて周りを見回すも、特にこれといった変化は見られない。

なんとなく違和感を感じるが、めちゃくちゃになった部屋も、私の姿を映さない鏡も元のままだ。


 ただの立ちくらみか? と思いかけたところで、違和感の正体に気がついた。


 静かすぎるのだ。なんの音も聞こえてこない。

マレイトさんが近くの部屋でお茶の準備をしているはずだが、その音すらもなく、辺りは静まり返っていた。


 シン……っとした空気が、耳鳴りをしているような錯覚を思い起こさせる。


「一体なんなのよもう……」


 声を出さないと静けさに飲まれる気がしたので、あえて呟いてみる。


 自分の声がちゃんと聞こえた事に、少しばかり安心したところで、とりあえず落ち着かねばとさっきの椅子に腰を下ろす。


 でも、これといって特になにもないよなぁ……。


 ゆっくりと息をしてからざっと部屋を見回してみるが、先程と同じくめちゃくちゃになった部屋が目に映るばかりだ。


 部屋の中を彷徨わせていた視線が机の上に差し掛かったとき、1枚の紙に目が留まった。


 そこに置いてあるのは、さっきの実験で使った魔法陣を紙に描いた物だが、見本として描かれた魔法陣が、鏡に映したように左右対称に描かれているのだ。


 まさかと思い再び部屋を見渡してみると、今まで気付かなかったが、部屋の構造自体が鏡に映したかのように、左右が入れ替わっている事に気がついた。


 そしてその時、視界の隅でなにかが動いたのでそちらに目を向けると、例の鏡にマレイトさんがお茶の乗ったプレート片手に部屋へと入ってくる様子が映っていた。


 慌てて後ろを振り返るが、そこにマレイトさんの姿はなく、音もなく扉がひとりでに動き、閉じていくのが目に映る。


 鏡に目を戻すと、そこでは扉を閉めたマレイトさんがキョロキョロと部屋の中を見回していた。


 え、えーと。ひょっとして、これ、鏡の中ってやつですか……?


 うそでしょ───っ!?


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