52 王都を発つ日
王都での、エピローグ的な感じの話です。
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
太陽が昇る少し前の薄暗い時間帯、馬車ギルド前に到着した私達は、先輩との別れを惜しんでいた。
他の人からは先輩の姿を見る事が出来ないので、傍目からは2人だけで会話をしてるように見えるだろう。
立ち位置などが少し不自然に見えるかもしれないが、会話の内容さえ聞かれなければ、特に問題はないはずだ。
「シア先輩、色々お世話になりました」
「テーシアさん、色々ありがとうございました」
「こっちこそ、ありがとな。
久々にエンリはん以外の人と話せて楽しかったわ」
私達が帰ってしまえば、先輩を見れる人(話し相手)はまた神殿長のみとなってしまうが、折を見てジェイルの町にまで顔を出しにくるそうだ。
帰ってからの私の住処がどうなるか分からないため、そこまでは伝えられなかったが、同じ町に居れば私の事は気配で分かるとのこと。
どうやってジェイルまでくるつもりかは分かんないけど……。
「それにしても、まさか3日も拘束されるとはねー……。
帰ったら早速次の仕事を探さないと、手持ちが心許ないわ」
「確かに。拘束するなら宿代ぐらい出してくれたっていいのにねー」
今回の件での予想外の出費に、私とスフィルの財布の中身は大分乏しくなっていた。
スフィルを襲った(?)男を取り押さえたあと、例の道具を持ったスフィルの通報により、駆けつけてきた騎士団の人に無事、男を引き渡したまではよかったのだが、今回、使われた物が物だけに、騎士団本部で詳しい事情を聞かせてほしいと要請があったのだ。
夜明けと同時に馬車でここを発つ予定だった私達だが、さすがに騎士団からの要請を無視するわけにもいかず、仕方なくこれをキャンセルし、騎士団本部で簡単に事情を説明した(無論、ある程度はごまかした)のだが、話はこれだけで済まなかった。
この一件はどうやらかなりの大事だったらしく、すぐ連絡の取れるよう、この件がひと段落するまで王都を出ないように釘を刺されてしまったのである。
だったら宿代ぐらい出せとゆーに……。
特に呼び出される事もないままだらだらと宿で過ごしていると、昨日、騎士団の人が訪ねてきて出発の許可が下りた事を伝えてくれた。
その時一緒に事情を聞くことが出来たのだが、なんか予想以上の大事になっており、かなり驚いてしまった。
なんでもあの道具の出所は、スフィルが夜警をした例の魔法店だったらしく、あの店は裏でああいったヤバイ道具を取り扱っていたらしい。
しかも、私達が捕まえた男は店の人間で、そういった道具を欲しがる怪しげな組織との繋がりがあったらしく、そっちからの手引きにより脱獄を果たしたらしい。
ちなみにスフィルを狙った理由は、復讐と新商品の実演を兼ねてやったとかなんとか。
脱獄してやる事が復讐って……。
これを聞いた時に呆れはしたものの、使われた魔法の効果を考えると、見つかって取り押さえられる、なんてことは恐らく考えもしなかったのだろう。
実際、私と先輩が居なければ、スフィルは原因不明の死を遂げていた可能性が高いんだし。
ホント、えげつない魔法だわ……。
そして昨日、魔法店への騎士団による強制捜査が実行された事により、繋がりのあった組織の情報など色々なモノが見つかったらしく、ここでこの件はひと段落となり、私達は解放される事になったのである。
「──……ハルナはん? なんやぼーっとしとるけど、大丈夫なん?」
「……あ、すみません。ちょっと考え事をしてまして」
「まあ、無理せんときや。色々あったさかいな」
うん、ホント色々あったよ……。
「お待たせ致しました、もう間もなくの発車となります。
お乗りになられるお客様はすみやかに車内へと……」
辺りに御者の声が響き渡る。どうやらそろそろ馬車の出る時間らしい。
「それじゃ先輩、私達はこれで」
「ん、そやな。近いうちに遊びに行くさかい、元気にしとってな」
「先輩こそお元気で、……って言うのもなんか変ですね」
「悪なる事がまずあらへんからなぁ……。ま、気ぃつけてや」
「はい、それではまた」
先輩に別れを告げると、割符を見せて馬車へと乗り込んだ。
空いている座席があったので、スフィルと2人並んで座る。
カランカランとハンドベルの音が響き、ガタゴトと音を立てて馬車が動き出した。
帰ったらまずはセルデスさん達に報告して、それから……。
宝石持ちエクソシストになるという目標は達成したので、あとはそれを活かしてなにかをするだけだ。
具体的にどうするかはまだ決めてないが、それはこれから決めればいいだろう。
ゆっくりと後ろに流れていく王都の風景を眺めながら、私はこれからについての想いを色々と馳せ続けた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
連載当初より考えていた話の流れは、ここで終わりとなります。
次話からどうするかは、まだ決まっていませんが、もう少しだけ続けるつもりです。
連載開始より3ヵ月半、拙い話でしたが、お気に入り登録してくださった方、ポイントを入れてくださった方、そして読者の方々に、お礼を申し上げます。
長らくのお付き合い、本当にありがとうございました。