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50 スフィルの危機

大変長らくお待たせしました。

 今夜の行動についての話し合いを終え、夕食を取った私とスフィルは、そのまま私の部屋へと引き篭もる。


 先輩を交えた話し合いで決まった事は単純に、スフィルと共に部屋に篭り、私と先輩が徹夜で警戒をするというモノだ。


 これはスフィルの死の原因になりそうなものが、老衰や病(私と先輩が目で確認した)ではなく、事故に属する物だと思われたからだ。


 火事等の、災害の可能性もあるのでは? と聞いてみたのだが、先輩曰く


「この辺一帯、スフィルはん以外の人からは、変な気配を感じたりはせえへん」


 との事で、これも除外する事に。


 念のために部屋を変え、事故を起こさぬようここでジッと夜明けを待つつもりだ。


 不意の侵入者への対処として、部屋の扉にはきっちりと鍵を掛け、私と先輩が徹夜で警戒をする予定だ。


 あと念のため、なにか1点を集中的に守る、結界のような魔法はないかと先輩に聞いてみたのだが、即席で使えるような魔法でそういったものはなく、その手の道具に頼ろうにも簡単に手に入る物ではないとのことなので、断念した。


 これで何事もなく夜が明けてくれればいいんだけどなー……。


 それにしても明日、日の出と同時に出発の馬車に乗る予定だったのに、まさか今夜徹夜するハメになるとは……。


 まあ、この程度でスフィルが助かるのなら、なんてことはない……ハズ。

スフィルを無事助けたら馬車で寝るか。


 そんな事を考えながら、ふと時計に目をやると、時計の青いメーターは大体3/4ぐらいを示していた。


 午後9時ってとこか。まだまだ夜は長いようだ。


「まだこんな時間かぁ……」

「……そうだねー」


 独り言のつもりだったが、退屈してたのかスフィルがそれに反応して返事をする。


「…………」

「…………」


 特になにかを意識して話したわけではないので、そのまま沈黙が訪れる。

このまま会話が途切れるかと思いきや、その時スフィルがポツリと呟いた。


「……ねえ、ハルナってさ」

「ん、なに?」

「……やっぱいいや。なんでもない」

「なにそれ。すんごい気になるんだけど」


 そう言われて、改めてスフィルに目をやると、居心地が悪いのか、なんだか落ち着かない様子だ。


「スフィル? どうしたの?」

「んー……、なんていうかさ。

 今更だけど、緊張してきたっていうか、怖くなってきたっていうか……」


 あー……、話が現実味を帯びてきたってとこか。


「そっか。まあ、絶対に大丈夫……とまでは言わないけど、私は出来る限りのことをするつもりだから。

 頼りないかもしんないけどさ、安心してよ?」

「……ありがと、ハルナ」

「ハルナはんだけやないで? ウチも出来るだけの事はするさかいな。それに……」


 それに?


「万一の事があっても、ウチらがきっちり送るさかい、安心してや?」


 ……先輩、それは安心できません。


「…………」

「…………」

「い、いや、今のはウチなりに場を和まそうとした冗談やで?」


 微妙な沈黙が気になったのか、先輩がわたわたと弁解を始めると、スフィルがくすくすと笑い出した。


「なんや……笑うならもっと早ように笑ろてんか。めちゃくちゃ焦ったやないの」


 どこかホッとした様子の先輩にスフィルが話し掛ける。


「すみません、テーシアさん。気を使っていただいて。

 2人ともアタシの事考えてくれてるんだなーって思うとなんだか嬉しくて。

 それに、よくよく考えてみたら、御使い様2人がアタシについててくれるなんてすごい贅沢じゃない?

 そう思ったら、そこまで怖がる事もないかなって」


 なんか一気に楽になったわー、とスフィル。


「まあ、期待に沿えるよう頑張るから。

 気を抜けとは言わないけど、少し気楽にしててもいいと思うよ」

「せや。今からそんな緊張しとると、一晩持たへんで」

「そうですね。

 それに、もしもの事があっても、ちゃんと面倒見てくれるみたいだし……」

「スフィル……そのネタはもういいって」


 そう? と笑いあったところで先輩が声を上げる。


「ほんなら、気負いすぎん程度に頑張ろか。

 スフィルはんも退屈やろうけど、大人しゅうしとってな」

「はい、分かりました」

「分かりましたー」






 私と先輩でスフィルを見守る中、ゆっくりと時間が流れていく。


 もうとっくに真夜中を過ぎたように感じるが、時計の青いメーターはまだ満タン1歩手前といったところだ。


 改めてスフィルの様子を伺うが、今までと変わらず、特におかしなところは見られない。


 外の様子を見に行ってた先輩が、扉をすり抜けて部屋の中へと戻ってきた。

先輩はたまにこうして外の様子を見てくれている。


「外はどうでした? 先輩」

「なんも異常あらへん、静かなもんや」


 さすがに真夜中近い時間なので、皆もう寝ているのだろう。


「もういい加減、山場は超えましたかね?」

「どやろなぁ。気配の方も、なんや有るような無いような微妙な感じなんや。

 こんな感じ方は初めてなんやけど……まだ気い緩めんほうがええとは思うで」


 消え掛かってる、と見ていいのだろうか。

まだ油断しないほうがよさそうだ。


 そう思った時、ヒュッというなにかが詰まるような音がした。

それと同時に首を押さえてもがきだすスフィル。


「…………っぁ!?」

「スフィル!?」


 慌ててスフィルに駆けよると、閉じた窓の隙間から伸びた半透明の紐のような物が、彼女の首に2重3重に巻きついているのが見えた。


 なにこれ、魔法の類か!?


「ハルナはん、鎌で!」


 先輩の指示に従い、窓から伸びる紐に向かって大鎌を振るう。

なんの手応えもなく、紐はすっぱりと切断された。


 そのままスフィルに近付き、まだ残っている半透明の紐を手で掴んで、それを一気に引き剥がす。

それで首が楽になったのか、喉を手で押さえたまま彼女は激しく咳き込んだ。


「スフィルはんを頼んだで! ウチはこれを辿るさかい」


 そう言いながら、先輩は私の横を走り抜けると、窓をすり抜け飛び出して行ってしまった。

恐らく紐を逆に辿って、元を探すつもりなのだろう。


 咳き込み続けるスフィルの背中を撫でながら、落ち着いてきた頃を見計らって声を掛ける。


「スフィル、大丈夫?」

「……っあ゛、なんとか、ね」


 それだけ言うと再び咳き込むスフィル。顔が真っ赤になっている。


「あ゛~~~……ぅ。とりあえず大丈夫そう、だわ。

 ありがとね、助かったわ」


 若干涙目になりつつも、赤い顔をしてお礼を言ってくるスフィル。


 ……やば、なんか可愛い。

いや、そんな場合じゃないんだけどさ。


「今のって一体なんだったの? いきなり首が絞まったんだけど……」

「わかんない。でも多分魔法じゃないかな? 魔力の紐のような物が見えたし……」

「そうなんだ……。あれ、テーシアさんは?」

「先輩なら、紐の発生源を探すって窓から飛び出してったけど」

「窓から? 一応ここ、2階なんだけど……」

「あ……」


 やば、すっかり忘れてた。

先輩、大丈夫だよね?


「まあ、きっと大丈夫でしょ、多分……。

 それで、先輩が戻ってきてからになると思うけど、どうしようか?」


 今の現象が魔法だとすると、誰かがスフィルを狙ってそれをやった事になる。

スフィルの無事が相手に伝われば、再度狙われる可能性もあるはずだ。


「そうねー……」


 スフィルがなにかを言い掛けたところで、先輩が部屋の扉をすり抜けて戻ってきた。


「あれ、先輩? 早かったですね。なにか分かったんですか?」

「悪いんやけど、細かい話は後回しや。2人ともすぐに来てくれへんか。

 さっきの魔法使こうた人を見つけたわ。

 見た感じ1人やったから、今すぐ行けば取り押さえられると思うで」


 その言葉に、すぐに立ち上がって武器を手に取るスフィル。

私もすぐに立ち上る。さっきまで警戒してた事もあり、準備の方は万端だ。


 もっとも、殴り合いにでもなったら、私に出来ることなんて何もないんだけど……。


「ほないこか。場所はこの宿の1階にある客室や。

 部屋の前まで案内するさかい、ついて来てな」


 え……そんなすぐ近くに居たの?


次話51話で王都での話は最後となります。

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