48 儀式の日
5日ぶりの投稿です、お待たせ致しました。
またマジメな話に戻ります。
2014/03/30 ふりがな表記を一部ルビ化、残る部分をカタカナに修正
強い光を目蓋に感じて、意識が覚醒へと向かう。
うー……。今何時よ?
ごそごそと時計を引っ張り出し、しょぼしょぼとする目でメーターの位置を確かめてみる。
時計のメーターは下から1/4辺りを指していた。
1/4ってーと、9時頃かぁ……。
え? 9時!? うっわ、寝坊したっ!
今日は御の儀が行われる当日、寝過ごしましたなんてシャレになんない。
幸い、儀式はお昼からという事で時間に余裕はまだあるものの、そうのんびりとしてられる時間でもない。
うぅ、昨夜は遅かったからなぁ……。
昨日、ゴーストを退治(?)した後、家を出たところで武装した数人の人と鉢合わせになったのだ。
何事かと思って聞いてみると、彼らは騎士団の人間で、民家で大暴れしている者が居るとの通報を受け、それを取り押さえる為にここまで来たそうだ。
あー……、そりゃあんだけ大暴れすれば通報もされるか。
妙に納得したところで、詰め所で話を聞かせて貰いたいという事になり、有無を言わさずそのまま詰め所まで連行されてしまった。
私はその途中、どう説明したもんかと色々と頭を悩ませていた。
ゴーストを追い払うためにこうなったと言っても、既にそのゴーストは消滅済み。消えてしまったゴーストの証明なんてどうすれば出来るのやら……と。
結局、いい考えは浮かばず、詰め所に到着後、素直に起こった事そのままを話す事にした。
ゴーストは勝手に消え去ったとだけ付け加えて。
その時、3人別々に話を聞かれたのだが、親分さんがゴースト相手に素手で大立ち回りをやったとわざわざ"自慢"したらしく、私の言い分はすんなりと信じられる事となった。
そして、それなりに時間は掛かったが、私とスフィルの2人は割とあっさりと解放される事となった。
ただ親分さんだけは、大暴れした張本人との事もあり、すぐに解放されるという様な事はなさそうだったので、首飾りはどうするの? とスフィルと相談した結果、首飾りは私らが直接店まで届ける事に。
幸い(?)な事に件の首飾りはあの時からスフィルが預かっている。
返すタイミングがなかったってのもあるんだけど……。
詰め所から解放されたその足で魔法店に向かい、店の人と面識のあるスフィルが首飾りを返却する。
そしてようやく宿に帰り着いたのだが、その時にはもう既にほぼ真夜中と言っていい時間になっていた。
ベッドに入る前に時計を見たら、メーターはほぼ満タン(0時)だったもんなぁ……。
けっこー長い1日だったわ、ホント。
もぞもぞと着替えを済ませ、スフィルの部屋を訪ねる。
軽くノックをしてみるが返事はない。
やっぱまだ寝てるかー……。
ちょっと休んだとはいえ、徹夜した上に昨日はアレだったもんな。
このまま寝かせとこうかと思い、扉の前を離れようとしたところで、ガタガタと閂を外す音がして扉が開けられた。
「あれ、起きたの?」
「え、ハルナ? こんなとこでどうしたの?」
「いや、ノックしたんだけど返事がなかったから、まだ寝てるかなーと思って」
「あれ?
ゴメン、聞こえなかったわ。着替えてたからかな……」
「ふーん。
ま、起きたんならちょうどいいや、一緒にご飯食べに行きましょ」
「了解ー」
そんな会話をしてから、遅い朝食を取りに食堂へと向かった。
席に着き、取って来たパンを口へと運んでいると、そう言えば……とスフィルが話し掛けてきた。
「今日って確か神殿行って、儀式受けてくるんでしょ?
まあ、心配ないと思うけど、頑張ってね」
「いやいやいや。受けるんじゃなくて、見に行くだけだから」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよ。エクソシストってどんな人だろうって見に行くのが目的なんだし」
そう返事をして水を一口。
よくよく考えると、それだけの為に儀式参加したいって無茶言ったなぁ、私。
普通断るぞ、こんな要求。あとでよーく神殿長さんにお礼言っかないと……。
「そうだったんだ……。
それにしてもさ、見るためだけに儀式に参加するってのはアンタぐらいじゃないの?
あとそれに、エクソシストなら昨日1人見たじゃない」
「……アレが一般的なエクソシストだと思いたくないわー」
脳裏に思い浮かぶのは、突撃し丸太のような腕でゴーストを殴って吹っ飛ばす親分さんの図。
「私にアレの真似をしろっていわれても、ちょっとね……」
「あははは……」
素手でゴースト相手に殴り合いなんてやりたくないよ、ホント。
食事を済ませ部屋へと戻り、荷物整理や片付けなどをしていると、あっという間に時刻はお昼前に。
そろそろ出掛けないとマズイか。
いつもの黒いローブを羽織って、鞄を手に持ち部屋を出る。
さすがに今日1日は休んでるわと言うスフィルに見送られ、大神殿へと向かった。
大神殿へと到着後、入り口で名前を告げると、少し薄暗い礼拝堂のような部屋へと案内された。
こちらでお待ちくださいと言われたので、どうやらこの部屋で待つ事になるらしい。
けっこー広いなぁ……。
教室1つ分ぐらいの広さだろうか。部屋を見回してみるが他に人影は見当たらない。
どうやら私が1番だったようだ。
まさか受けるのが私1人って事はないだろうけど……。
そんな事を考えつつ、適当な椅子へと腰を下ろす。
そのまましばらく待っていると、不意に後ろにある扉の開く音が聞こえた。
どうやら誰かが案内されてきたようだ。
お、1人目到着かな。どれどれ……?
そちらに目を向けると、頭まで白いローブをすっぽりと被った人物が1人。案内して来た人にお礼を言うと、空いている適当な席へと座る。
声からすると女性のようだが、ローブを被っているので、顔をよく見る事は出来ない。
あんまりジロジロと見るのもなんなので、席に座ったところで視線を外す。
それにしても……うーん、失敗したかなぁ。
確かにエクソシストを見る事は出来るのだが……なんと表現すべきか、ぴりぴりとした空気を纏っており、とてもゆっくりと話したり出来る雰囲気ではない。
まあ、修行の成果が試される大事な儀式前だもんね。そりゃぴりぴりもするか。
私が内心ため息を吐いていると、再び扉の開く音が聞こえた。
次に入ってきたのは、黒っぽい僧衣を着て、それとおそろいの帽子を被った優しそうな顔つきをしたおじいさんだ。
十字をかたどったペンダントを首から提げている。
ひょっとすると、どこかの教会の人なのかもしれない。
それから少し間が空き、3人目の人が部屋まで案内されてきた。
薄明かりのためよく見えないが、黒を基調とするゆったりとした服を着た、細身の青年が入ってきた。
なにやら首に首飾りを3つか4つ掛けており、他にも色々と身につけているのか、歩く度にジャラジャラという音が聞こえる。
うっわ、すごいなーアレ。
あれが以前スフィルの言ってたアクセサリを山のように持ち歩くタイプかー。
私が妙に感心していると、部屋奥にある扉が開き、そこから神殿長が顔を出した。
どうやら今から儀式が始まるらしい。
……あれ、儀式受ける人ってたったこれだけ?
以前、数人とは聞いてたけど、私含めて5人以下って。
ホントに儀式受ける人少ないんだなー、と思っていると、再び後ろの扉が開かれた。
あら、もう1人居たんだ……と扉の方へと振り向き、そしてその一瞬後には、顔ごと視線を前へと戻していた。
チラッと見ただけだがアレは一目で分かった。白い僧衣に見上げるほどの巨体と盛り上がった筋肉、そしてスキンヘッドの頭。
なんでこんなとこに親分さんが居るのよー。
いや確かにエクソシストとは聞いてたけどさ……。
「ふぅ、なんとか間に合ったわい……」
そんな事を呟きながら親分さんはずんずんと歩き、一番前の席へと腰を下ろした。
どうやら私には気付かなかったようである。
気付かれても特になにか問題があるわけではないのだが、詰め所に置き去りにした手前、気まずいと言うかなんというか……。
前に目をやると、神殿長は親分さんの登場に少し驚いたような顔をしていたが、すぐに表情を元に戻すと壇上に立ち口を開いた。
「それでは、只今より御の儀を執り行わせていただきます。
私はこのアウンテレス大神殿の神殿長を勤めます、エンリッヒと申します。
この儀式は、御使い様の見守る中……」
自己紹介から始まり、長々と挨拶と儀式の説明を続ける神殿長。
周りは皆、真剣な面持ちでそれを聞いている。
「……では、これより1人ずつ順番にお呼び致しますので、名前を呼ばれた方は奥の扉より中へとお入り下さい。
それでは最初の方をお呼びします、ラットスハーン様」
へぇ、親分さんが1番なんだ。
「うむ」
そう返事をすると席から立ち上がり、気合を入れるためか、お腹の前で拳を合わせ、両手でむん!と力こぶを作ったポーズを取ると、神殿長と一緒に部屋の奥にある扉へと入っていってしまった。
いや、力勝負じゃないんだけど……相変らずだなー、あの人は。
ブレない人だと妙に感心する私と、なんだコイツはといった感じでそれを見送る他3人。
なんともいえない微妙な空気になったが、ぴりぴりとした雰囲気は若干緩和された気がする。
しばらく後、部屋奥の扉が再び開き、次の人の名前が呼ばれた。
……あれ、親分さんは?
2番目の人が奥へと入ってしばらくしてからも、戻ってくる様子はない。
そしてまた、しばらく間が開いた後に3番目の人の名が呼ばれる。
今度はおじいさんの番らしい。
2番目に呼ばれた人も、この礼拝堂に戻ってくる気配はなかった。
どうやら儀式後はここには戻らず、そのまま解散といった流れになると見ていいようだ。
最後に私が呼ばれたので、返事をして立ち上がる。
部屋奥にある扉をくぐると、そこには案内の人が立っていた。
「どうぞこちらへ」
薄暗く、長い廊下を案内されるがままに歩く。
やがて突き当たりに見えたのは両開きの扉。どうやらここが儀式を行う部屋のようだ。
「それでは、お入り下さい」
案内の人が扉を開けてくれたので、お礼を言って扉をくぐる。
部屋に入ってまず目に付いたのは、部屋の中央奥、少し高台になったところに作られた祭壇に安置されているモノ。
私が両腕で抱きかかえても、まだ手が届かなさそうな、巨大で透明な丸い玉。
恐らくこれが例の魔石なのだろう。
部屋の広さはさっきの礼拝堂の半分ぐらいだろうか。
部屋の入り口から祭壇に向けて一直線に絨毯が敷かれており、その上で神殿長がこちらを向いて立っていた。
部屋の中をざっと見回してみるが、先輩の姿は見られない。
この部屋には神殿長が居るだけのようだ。
扉が閉められた事を確認し、神殿長の前まで歩くと、そこで頭を下げて無理を言ったお礼を述べる。
「神殿長さん、お忙しい中、無理を聞いていただき本当にありがとうございました」
「いえ、お役に立てたようでなによりです。
またなにか私に出来る事がありましたら、いつでも仰って下さい」
そう言うと、神殿長は服の中からごそごそとなにかを取り出した。
「それでは、これをお持ち下さい」
その言葉と共に手渡されたのは、いつか神殿長の部屋で見た、白い台座に鎌の模様をあしらったブローチ。
「ありがとうございます」
「これで貴方様は名実共に宝石持ちのエクソシストとなりました、おめでとうございます。
それから、貴方様の宝石名は『パール』となります。
宝石持ちの証明としては、恐らくそのブローチだけで大丈夫だと思われますが、必要な場合にはそうお名乗り下さい」
うっ、そいやそんな名前がつくんだっけ……。
うっわ、忘れてた。
実際にそんな名前をつけられると、こう、なんだかむずむずと痒いような、なんとも言いがたい感覚が体を走る。
……うん、なるべく忘れてよう。
名乗るような事態になんないといいなぁ。
「……分かりました。
ところで、あの大きな魔石が、先輩のお師匠様が作ったっていう魔石なんですよね?」
「ええ、そうですよ。よろしければ触られますか?」
うーん、ちょっと興味はあるけど……。
「いえ、遠慮しておきます。私のような存在が触るなんて想定されてないでしょうし、それに万一、触って壊れたとなると、困るどころの話じゃないですから」
「さすがに壊れる事はないと思うのですが……」
そんな話をしていると、後ろから声が聞こえてきた。
「あれ、ハルナはん。まだおったんか」
「あ、先輩。こんにちは。
お陰様で無事にこのブローチを頂くことが出来ました。ありがとうございます」
色々教えてもらったし、先輩にもお礼言っとかないと。
「お~、それはおめでとさん……って、そうやのうて。
えらいのんびりしとるけど、大丈夫なん?」
「……はい?」
なんの事だろうか?
「……ひょっとして気付いとらへんの? 連れのスフィルはんの事」
「スフィルの事、ですか?
確か、今日1日は宿で休んでるとか言ってましたけど……」
先輩は一瞬なにかを考えるような仕草をした後、再び口を開いた。
「ええか、ハルナはん。落ち着いて聞いてや?
あの子、危ないで。あの子から死の気配を感じるんよ」
……えぇーっ!?
2日に1度の割合で次話の進み具合を活動報告に書いていますので、よろしければそちらも合わせてご覧下さい。