47 王都散策日和 その2
今回はギャグ回に挑戦してみました。
マジメな話を期待された方、申し訳ありません。
また、ツッコミどころが多々あるかと思われますが、広い心を持ってお読みください。
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
スフィルの案内の元、民家が密集している地域へ辿りついた。
あとはにおいを頼りに場所を絞り込むだけだ。
ゆっくりと歩き、1件1件確かめてゆく。
やがてある1件屋の前まで来ると、そこが1番においを強く感じた。
どうやらここがにおいの発生源のようだ。
ゴーストは恐らくこの中にいるのだろう。
私が立ち止まったのを見てか、スフィルが問いかけてくる。
「この家?」
「うん、多分ここ」
しかしここはパッと見、普通の民家である。
石造りの平屋ではあるが、造りはしっかりとしており、玄関もきちんと閉じられていた。
ボロボロの廃屋ならともかく、一見普通の家に見えるので勝手に入るのはなんだか戸惑われる。
「でもどうしようか。なんか普通に人が住んでそうだけど……」
「でも、ハルナの感覚じゃここなんでしょ?
なら、まずはノックしてみたら?」
「ノックねぇ……」
ゴーストの存在しているところにノックして、ごめんくださいと訪ねていく死神。
……想像してみるとなかなかシュールな光景だ。
まあ、他に人が住んでたら困るし、とりあえずノックしてみるかと結論を出したところで、後ろから声を掛けられた。
「御免、少々物を訪ねるが、お主らはこの家の者であるか?」
声がした方に振り向くと、思わず仰け反りながら1歩下がってしまった。
そこに居たのは、見上げるほどの巨体をしたスキンヘッドの男性。
白い僧衣のような物を着ているが、その下に見える体格はもの凄い筋肉の塊って感じだ。
なんつーか、髭は生えてないけど山賊の親分っつったほーがしっくり来るなー……。
隣を見ると、スフィルも絶句して仮称親分さんを見上げている。
「む、聞こえなかったのか? では重ねて問おう、お主らはこの家の者であるか?」
ずっしりとした凄みのある声が響く。
声まで親分さんだなぁ……。
っと、返事返事。
「いえ、違いますけど。あなたは?」
「ワシか? ワシはラットスハーンという。魔術師兼エクソシストよ」
……聞き間違いか? 魔術師って聞こえた気がするけど。
「魔術師、ですか?」
「うむ。もっとも今回はエクソシストとしてここに来ておる。
どうやらここにゴーストがおるようでな、それをヤりに来たのだ」
ヤるってなにをする気だっ!?
「ところで、この家の住人ではないのなら、お主らはなんなのだ?」
「私も見習いとはいえ一応エクソシストなので、用件はあなたと同じです。
彼女には道案内をお願いしてました」
隣に居るスフィルを指差しそう答える。
「ふむ、ご同輩か。しかしその割にはなにも道具を持ってないようではあるが?」
うーん、私には道具必要ないんだよねー。
でも、正直に答えるわけにはいかないし。
「散歩中にたまたま見つけただけですから。
それで、どうした物かと悩んでたんですよ」
悩んでたのは家を訪ねる方法だけどね。
「ならばこの場はワシに任せてもらおうか。
お主らはそこでワシの活躍する様をしっかりと見てるがいい」
先輩としての活躍を見せてやるわ、と言いながら、なにやら拳をお腹の前で打ち合わせ、力こぶを作ってポーズを決めている。
すっげー筋肉……。魔術師って名乗っても絶対信じる人いないってコレ。
目の前で次々とポーズを取り続ける親分さんを他所に、スフィルがそっと耳打ちしてくる。
「ね、どーするのこれ?」
「そうだねー……。まあ、他のエクソシストのやり方が見れるいい機会と思って、見学させてもらおうかな」
「……参考になる気がしないんだけどなぁ」
2人でこそこそと話していると、それが目に付いたのか、ポーズを取るのをやめて声を掛けてきた。
「ぬ、どうかしたのか?」
「いえ……すごい筋肉だなぁと思いまして」
「うわははは。そうであろう、そうであろう」
なにやら上機嫌で再びポーズを取る親分さん。
今度は両腕を上に曲げて力こぶ作っている。
「あの、行かないんですか?」
ポーズを取るばかりでいつまで経っても動かないので、声を掛けてみる。
「おぉ、忘れておった。
ではお主ら、しっかりと目に焼き付けておけよ。このラットスハーン様の活躍をっ!」
そう咆えると、ノックをするどころではなく、蹴破る勢いで扉を開けると、文字通り突撃して行ってしまった。
あまりのやり方にその場で思考停止する私。
咄嗟に浮かんだのは、扉大丈夫かな、という的外れな物だった。
「見つけたぞ、覚悟せい!」
そんな声にはっと我に返った私は、慌てて開けっ放しになっている扉の向こうへと視線を向ける。
扉の向こうはすぐ食卓になっていたようで、部屋の中に大き目のテーブルが1つ見える。
そしてそのテーブルを挟んだ向こう側にたたずむ1体のゴースト。
幸い、中には誰も居なかったようだ。
人が住んでるにしては、部屋の中にテーブル以外の調度品がほぼ全くといっていいほど見当たらないので、ひょっとしたらここは空き家なのかもしれない。
改めて親分さんの方に目をやると、私がのんきに部屋の内部を観察している合間に懐から出したのか、左手に水の入ったガラス瓶(恐らく聖水?)を持ってゴーストと対峙していた。
ゴーストの方はそれに対して特に反応する事もなく、ただ静かにたたずんでいるように見える。
そのまま睨み合う事十数秒、唐突に親分さんが左手に持ったガラス瓶をゴーストに向かって投げつけた。
瓶ごと投げたっ!?
それは当然効果があるはずもなく、ゴーストを突き抜け後ろの壁に当たって砕け散るガラス瓶。そして飛び散る中の水。
その飛沫がゴーストに掛かったのか、ギュァァと叫び声(?)をあげて仰け反るゴースト。そこへ親分さんがテーブルを乗り越え突っ込んでいく。
……アレが聖水の正しい使い方なんだろーか。
いやいや、まさかね……。
テーブルを乗り越えた彼は右手を振りかぶり、そのままその丸太のような腕をゴーストへ向かって振り下ろす。
それが直撃し、吹っ飛ぶゴースト……ってえぇ!?
ゴーストを素手で殴り飛ばしたっ!?
予想外の事態に目が点になる。
それを見た親分さんはこちらを振り向きびしっとポーズを決める。
「がははは、見たか、このラットスハーン様の実力をっ!」
そしてその後ろでゆらり……と起き上がるゴースト。
そしてそのまま忠告する間もなく、背後から彼にまとわりついた。
「ぬぉぁ!?」
ただまとわりつかれてるだけではないのか、声を上げてもがく親分さん。
それを見て、さすがにこれはマズイかと思い、助っ人に入ろうとしたところで、彼が再び声を上げた。
「手出し無用! これはワシの戦いだっ!」
……いやいやいや、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?
構わず走り寄ろうとしたところで、彼は力を溜めるようなポーズを取ったかと思うと、おぉぉぉぉ!という雄たけびと共に両腕を左右に一閃、ゴーストを弾き飛ばした。
……うっそ、マジ!?
つか、この人ホントに人間?
あまりといえばあまりの事態に、走り寄ろうとした体勢のまま固まる私。
それでもさすがに今のは堪えたのか、ゼイゼイと肩で息をしている親分さん。
吹き飛ばされたゴーストもゆっくりと起き上がり再び対峙する。
「おのれ小癪な……」
そう呟いて、ゴーストから目線を外さないままごそごそと懐をまさぐり、取り出したのは1本の杖。
え? ここで魔法?
そう思ったのも束の間、彼は杖を手にそのままゴーストへと殴り掛かった。
ちょっと待てえぇっ!?
もう何回目になるか分からないツッコミを心の中で入れる。
「でりゃあぁっ!」
気合一閃、振るわれた杖はゴーストを捉えた……かに見えたが、杖はそのままゴーストを通過してしまい、空振りの形となった彼は勢い余ってすっ転び、そのまま壁に激突。
どずんっ、と砂袋を壁に叩きつけたような、鈍く大きな音がして、彼はそのまま床へと倒れ伏した。
…………。
もはやどこからツッこめばいいのか分からない。
あー、倒れちゃったなー、となんとなく冷めた気分でそれを眺めていると、横からの、スフィルが私を呼ぶ声に気がついた。
「ハルナ、ハルナってば」
「え、あ? なに? スフィル」
「ぼーっと見てる場合じゃないでしょ、あれヤバくない?」
スフィルが指差す方を見れば、倒れ伏す親分さんにゆっくりと近寄るゴースト。
気絶でもしたのか、彼はピクリとも動かない。
「って、確かにマズそーだわ。私が割って入るから、スフィルはあの彼をお願い。
出来れば目を塞いどいて」
「了解」
スフィルの返事と共に、走って親分さんとゴーストの間に体を割り込ませる。
新しく出てきた私に警戒してか、その場でピタリと動きを止めるゴースト。
自然、睨み合う形となる。
横目でスフィルが彼の元へと辿りついたのを確認したので、大鎌を取り出しいつでも振るえるように両手で構える。
このまま襲ってくるようなら、いつも通り送るのではなく、斬るつもりだ。
後ろを襲われたら、あの親分さんは平気かもしんないけど、スフィルはそうもいかないだろうし。
じっと睨み合うこと十数秒、相手はまだ動かない。
ひょっとしてこのままずっと睨み合いか? と考えたところで、その場で急にゴーストの姿が薄れてきたかと思うと、そのままスーッと消えてしまった。
え、なに? なんで? 私まだ何もしてないんだけど……。
辺りを見回してみるが、それらしき姿はどこにも見られない。
それどころか、においも消えてしまっている。
釈然としないながらも、相手が消えてしまったので大鎌を消し、後ろで親分さんを介抱しているスフィルにもう終わったよと告げる。
「え? もう終わったの? 早かったね」
「なんか勝手に消えちゃって……私なにもしてないんだけどなぁ」
「そうなんだ……。まあ、そんな事もあるんじゃない?」
「うーん、そうかもしんないけどね」
これ以上ここで考えても仕方がないので、一旦はそれで納得しておく事にする。
機会があったら今度先輩にでも聞いてみようと思いつつ。
さて、これらをどーするかと、割れた瓶やら横倒しになった椅子やらでめちゃくちゃになった家の中を見回していると、スフィルがあっと声を上げた。
「ん? どうしたの、スフィル」
「今ね、この人の首元を緩めてあげようと、服を緩めてたんだけど……こんなのをしてたのよ」
そう言ってスフィルが指で摘まんで見せてくれたのは、大きさ1cmぐらいの小さな青い滴形をした宝石がついた首飾り。
「あれ、それってどっかで……?」
「今日説明したじゃない。『御使い様の涙』よ」
おぉ、それだ。
「でもそれがどうしたの? その人の持ち物なんじゃないの?」
「そうかもしんないけど……。この首に掛ける鎖の部分の模様まで、盗まれた物と一緒なのよねー」
「へぇ……。それじゃ、この人が起きたら聞いてみる?」
「うん、そうしてみるわ。でもこの様子じゃいつ目を覚ます事やら……」
言われてみれば確かに、気絶してるんじゃなくて普通に眠っているように見える。
呼吸も安定してるようだし、変なところをを打ったわけでもなさそうだ。
試しにぺしぺしと頬を叩いてみる。
「効かぬ、効かぬわ……」
「…………」
一体どんな夢見てるんだ?
そのまま頬を抓ったりしてみるも、寝言を呟くばかりで一向に起きる気配がない。
それなら、と私はグリモアを取り出し、親分さんの顔の上に『湧水』の魔法陣を作り出す。
そしてその魔法陣に魔力を流し、水をだばだばと顔にぶっかけた。
水を流してしばらくは、がぼがぼ……うごげげげと唸っていたが、やがてぶはぁっ!?と飛び起きた。
「よし、起きた」
「アンタってばたまに容赦ないわねー……」
隣でスフィルが若干引いてるが、それは気にしない事にする。
飛び起きた親分さんはしばらくげほげほと咽ていたので、落ち着いた頃を見計らって声を掛ける事に。
「えーと、大丈夫ですか?」
「いや、苦しい戦いであった……。しかしもう安心だ、ゴーストはこのワシが叩き伏せてやったからな」
……まだ目は覚めてないらしい。
「しっかりして下さいって。
いや確かにゴーストは消えちゃいましたけど」
「うむ、さっきワシが叩き伏せて……」
「あの!」
私じゃ話が進まないと判断したのか、スフィルが大きな声で割り込んで来た。
「む、どうしたのだ?」
「あなたのしてたこの首飾りって、あなたの物なんですか?」
スフィルの手にはさっきの首飾りが乗っている。
「いや、違うぞ。それは少し前に拾った物だ」
「……どういう事ですか?」
詳しく話を聞いてみると、この首飾りはさっき道端で拾った物で、騎士団の詰め所に落し物として届けに行く途中だったと言う。
「その途中、この近くを通り掛ってな。ゴーストめの気配を感じたので少々使わせてもらう事にしたのだ。
いや、噂に違わぬ素晴らしい効果よ」
そう言って、がはははと笑う親分さんに、スフィルが落とし主にそれを返しに行くからついて来て欲しいと告げると、それはあっさりと了承してもらえた。
それじゃスフィル、案内よろしくー。
この話のために、ぐーぐる先生でポージングで画像検索して……。
ムキムキでした。
ムキムキでした。
ムキムキでした。
以下補足:
親分さんがゴーストを素手で吹っ飛ばしてますが、それは首飾りの効果による物です。
有名なアイテムだが滅多に手に入るものではない、と言う設定。
『御使い様の涙』:対ゴースト用アイテム。着用者はある程度ゴーストとの物理的接触が可能になる