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46 王都散策日和 その1

マジメな話ばかり続くのも息が詰まるので、儀式当日までの空いた1日を使って急遽挿入する事にしました。


2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正

 次の日のお昼すぎ、私はスフィルを昼食に誘って食堂へと来ていた。


 目の前には、少し多目に盛られたスープとパン。そして向かい側の席にはやたらと眠そうな顔をしたスフィル。


 彼女は今朝、宿に戻ってくると、おはようと挨拶する私に「ごめん、ちょっと寝てくる」と言い残し、そのまま部屋へと直行してしまった。


 昨夜の徹夜で仕事のが余程堪えたのだろうか。

時々大きな欠伸をするその様は、まだ疲れが取れないように見える。


 そろそろお昼も回っていい時間だからと私が起こしたんだけど……もう少し寝かせとくべきだったかな。


「スフィル、大丈夫? まだ大分眠そうだけど」

「うーん、あんまり大丈夫じゃないんだけど……いい加減起きないとねー」

「まあ、無理しないよーに……。

 ところでなんの仕事してたの? よかったら聞きたいんだけど」

「んー……。簡単に言うと、魔法店の警備のお仕事、かな。

 ちゃんと定期的に雇ってる人が居るらしいんだけど、急病だとかで1日だけの仕事があったから、それを請けたのよ」


 それで徹夜ね……。その様子を見てると1日とはいえキツそーだ。


「でもそれにしちゃ帰ってくるの遅くなかった? 確か日が昇って、随分経ってから帰ってきたように思うけど」


 確かスフィルが戻ってきたのは、日が昇って1時間程度経ってからだった気がするし。


「それが、ちょうど昨日ね、人が減ったって言う警備の穴を狙うように泥棒が入ったのよ。

 で、それをちょうどアタシが見つけてさ。

 それから、一旦は逃げられそうになったんだけど、町中走って追っかけまわしてようやく捕まえたのよ」


 お陰でくたくただわ、と呟くスフィル。


 うわぁ、町中追いかけっこしてたんだ……。そりゃ疲れるわ。

しかもそれって、なんとなく内部の人間の犯行って気がするよ。


「そりゃまたお疲れ様……。でも捕まえたんならよかったじゃない」

「まあ、そうなんだけどね。

 ところが、その捕まえたヤツの荷物を全部調べても、いくつか見つからない物があってさ。どうも逃げ回ってる時にどっかに落としたんじゃないかって」

「あらら……。それでどうしたの?」

「それがさ、その泥棒が走って逃げた場所を探して見つけ出してこいって言われて……」


 うわぁ。


「まあ、魔法の道具なんて高いものが多いから、気持ちは分かるけどさ」

「うーん、そりゃそーか。確かこのグリモアでも半金貨1枚はするんだっけ」

「まあ、主に盗られたのは、使い捨ての魔法具ばかりなんだけど。

 でもその中に、1つだけ高価なものが混じってたのよ」

「へぇ、それってなんなの?」

「『御使い様の涙』って名前の、宝石のついた首飾り」


 ぶっ。


「いや、その名前ってどーなのよ……」

「アタシに聞かれても知らないわよ。そういう名前らしいんだし」

「いや、そーなんだけどさ……。

 んで、それってどんなものなの?」

「えーとね、確か、このぐらいの……小さな青い滴形をした宝石だったよ。

 対ゴースト効果があるんだってさ」


 スフィルが親指と人差し指を使って、小さな幅を作って示す。

大体1cmぐらいの大きさだろうか。


「ふーん」

「まあ、その話は置いとくとして。

 それで、落とした物の内、結局その1つが最後まで見つからなくてさ……。その所為で遅くなったのよ」

「うわ、お疲れ様……。それで、結局見つかったの?」

「それが、まだ見つかってないのよ。3人1組で探してたんだけど結局見つからなくてさ。

 途中面倒になって、ハルナの涙持ってって、代用品ですって差し出そうかと思ったりしたんだけど……」


 こらこらこら。


「いやそれ意味ないからね!?」

「いや、冗談よ、じょーだん。

 でもま、アタシは元々この日の夜だけの予定だったから、日が昇りきったとこでお役御免って事で帰ってこれたんだけど。ひょっとしたらまだ探してるんじゃないかな……」


 うわー、警備の仕事も大変だこりゃ。

うん、お疲れ様、スフィル。


「じゃそうすると、このあともまた部屋に戻って休む予定?」

「そうねー、なにも予定がないならそうなるのかな。

 ハルナはどうするの?」

「私? 私は今日1日空いてるからね、せっかくだからここ(王都)を見て回ろうかなーって思ってるんだけど」

「ふーん。じゃ、分かる範囲でだけど、案内しようっか?」

「いや、休むんでしょ? 案内は助かるけど、無理しない方がいいと思うよ」

「大丈夫よ。それに今休むとまた寝ちゃいそうだし、そうすると今度は夜、眠れなくなって体がおかしくなりそうだから」


 うーん、どうしよう。

確かに案内は欲しいとこだけど、スフィルに無理はしてほしくないんだよねー。


「ほら、そんな顔して悩んでないの。はい、決まり決まり。

 それじゃ、コレ食べたら早速行きましょ」


 う、また顔に出てたか。


「ありがと、スフィル。でも無理はしないでね」

「気にしないでいいって。アタシがやりたくてやるんだしね」






 昼食を終えた私とスフィルは一旦部屋へと戻り、外出のための準備を整えると宿の出入り口で落ち合った。


「ところで、どう回るか予定あるの? あるならそれに沿って案内するんだけど」

「ないない。ここの事なにも知らないから、適当にうろつくつもりだったし」

「ふーん、それじゃアタシが行き先決めていい?」

「いいよ、よろしくー」

「それじゃまずは市場かな。一番近いし」


 スフィルの案内の元、宿を出てから大通り沿いに、大神殿とは逆の方向へと向かって、てくてくと歩く。


「そいやこっちには、冒険者ギルドもあるのよ」

「へー。ジェイルのギルドとはやっぱり違う?」

「うーん、やってる事は同じだけどやっぱり規模が違うかな。建物もかなり大きいし」

「そうなんだ」

「どうする? 見たいならそこまで案内するけど」

「いや、いいよ。特に用事があるわけでもないし」

「そっか、りょーかい」


 そのまま更に歩き続ける事約10分、大通りに沿って商店と露店が所狭しと立ち並ぶ、にぎやかな場所が見えてきた。


「大体、あの辺りからが市場かな」

「へー……」


 パッと見、ジェイルの市場とそう大差ない気がする。

人通りはかなり多いけど。


「とりあえず、奥まで見に行きましょ」

「ほいほい」


 人でごった返す中をスフィルと2人並んで歩く。

野菜専門で売ってる店、謎の果物を取り揃えてる店、串に刺した肉を火であぶって、いい匂いをさせている露店など、様々な店が立ち並んでいる。


「あ。ちょっと待ってて」

「? どうしたの?」

「いいからいいから」


 そう言うと、スフィルは串焼きを売ってる露店の方へと向かって歩いていく。

二言三言店の人と言葉を交わしたあと、手に2本の串焼きを持って戻ってきた。


「お待たせー。はいこれ、美味しいわよ」

「いいの? ありがとう」


 スフィルから湯気を立てているアツアツの串焼きを受け取る。


「食べてみてよ。あのお店の串焼きはすごく美味しいから。オススメ」

「へー。それじゃ早速頂きます」


 そのまま一口ぱくりと食べる。

味付けは塩のみだが、柔らかくも弾力のある肉の感触と、微笑みたくなるような味わいが口の中へと広がった。


「すごい……美味しいわコレ」

「でしょ。ここに来るとつい買っちゃうんだよね」

「あはは。分かるわ、それ」


 さっきお昼食べたとこなのにねー、と2人で笑い合う。


 串焼きを食べ終わった私達は、露店を冷やかしつつ市場を反対側へと抜けると、そこは大きな広場のような場所になっていた。

広場の中央には、人の姿を模した大きな彫像が石台の上に立っている。


 あれってここの王様の像、とか?


 そんなことを思いつつ像を眺めていると、スフィルが簡単に説明してくれた。


「あの大きな像が気になる? あれって、ここの初代王様の像なんだって」

「ふーん」


 よく見てみるとそれなりにカッコイイ青年の像である。

初代王様は若かったのだろうか。年齢は見た目20代前半のようにも見える。


 まあ、こういうのは得てして美化して作られるものなので、適当に補正を掛けて見ておく事にする。


「それじゃ、次はこっちかな。

 確か、市場が丸ごと見渡せる、見晴らしのいい場所があったはずだし」

「へぇ、それは楽しみ」


 スフィルに案内されるがまま、石像の前を横切り広場を横断する形で抜ける。


 そこでふと、においを感じた。

自然、私の足はぴたりと止まる。


 このにおいは確か、ゴーストだっけ……。


 急に足を止めた私を不審に思ったのか、スフィルが声を掛けてくる。


「ん? どうしたの、ハルナ?」

「ごめんスフィル。案内、一旦中断してもらっていいかな」

「え、どうしたの?」

「におい……気配を感じたの。多分ゴーストだと思う。

 位置はあっちの方かな?」


 強くにおいを感じた方を指し示す。


「ゴーストって……あのゴースト?

 それにあっちって確か、家が密集してた方だと思うけど……」

「どのゴーストかは知らないけど、スフィルが思ってるので多分正解だと思うよ。強さまでは分かんないけど。

 まあ、そういうわけだからゴメン、ちょっと行ってくるわ。気付いちゃったからには放っとけないし」


 そう言って、歩き出そうとした私を、スフィルが待ってと呼び止めた。


「アタシもついてくよ」

「え? ついてくるの?」

「うん、アンタと居ればそうそう危険なんてないでしょ。それに……」

「それに?」

「アタシとここで別れちゃったら、どうやって宿まで戻るつもり?」


 ……う。確かにその通りだわ。

ここまで相当の距離を歩いてる上、この先、においを頼りにふらふら動いたりしたら、本当に迷子になってしまう。


 適当に歩いて宿まで戻れるほど、王都は狭くもないだろうし。


「むぅ……。ごめんスフィル、案内よろしく」

「ん、任せといて」

「でも、危険がないなんて保障はないんだから、危ないと思ったらすぐに逃げてよ?

 私は平気だから」

「了解、ヤバそうなら邪魔しないように下がればいいのね」

「うん、よろしくー」


その2で終了予定です。

連日更新なるか……?

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