45 魔力の源
明けましておめでとうございます。
2012年、1回目の更新です。今年も当作品共々よろしくお願い申し上げます。
説明回が続きますが、今回は魔法話がメインです。
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
宿に帰りついた私はそのまま食堂へと直行し、遅いお昼を済ませる。
その後部屋に戻ろうとすると、受付の人から言伝があると呼び止められた。
言伝はスフィルからで、内容は「今日、一晩中掛かる徹夜の仕事を請けたから、今晩帰れない」とのこと。
あらら、そうすると夕食はまた1人かー。
部屋に戻って荷物を置き、ベッドに仰向けに寝転がると、お腹が程よくいっぱいになった所為か眠気が襲ってくる。
なんか最近、よく眠くなるなぁ。
まあ、特にこのあと予定あるわけでもないし……。
そんな事を思いながらも目を閉じると、あっさりと眠りに落ちた。
夕食を終えて部屋で一休みしているとシア先輩が部屋を訪ねてきた。
「こんばんは~」
「あれ? 先輩、こんばんは。どうしたんですか?」
「昨日な、魔法見せてもらうとこで話終わっとったやろ? せやから、その続きをお願いしようと思うてな」
昨夜スフィルが訪ねて来て中断したアレかー。
そんなに気になってるって一体……?
「あとそれからもう1つ、今日エンリはんのとこで作った水や。結果聞く前に帰ってもたやろ?」
おぉ、そーいえば。
メッキの話ですっかり忘れてたよ。
「あー……。それ、きれいさっぱり忘れてました」
「あはは。あの話、盛り上がっとったもんなぁ。
それで、結果やねんけど。ちゃんと聖水になっとったみたいやで」
……出来たんだ、ホントに。あれで。
「あんなので出来るんですか……」
「それも最高品質とか言うとったな。エンリはんが定期的に作成をお願いしたいぐらいやって言うとったで」
「いやそれは無理でしょう。私この儀式が終わったら帰るつもりですし」
「まあ、エンリはんもその辺は分かっとるからな。言ってみただけやろ」
「それならいいんですけど……」
「まあ、作り方だけ覚えとけばええんとちゃう? なんかの役には立つやろし」
「そうですね、そうします」
最高品質の聖水ねー……。大量に作って売ったら高く売れるのかな?
もし大量に作るなら、でーっかい桶かタライに水を汲んで、腕を突っ込んで……。いや、腕じゃ厳しいか。それならいっそ中に飛び込んで……。
ってそんなモノを売るのか私はっ!?
……やめよう。それは色々とマズすぎる。
てゆかよくよく考えたら私のダシじゃん、その聖水って……。
1人で非常に複雑な気持ちになっていると、先輩が声を掛けてきた。
「どうかしたんか? なんや難しい顔しとるで?」
う、また顔に出てたか。
「……いえ、なんでもないです。それより、魔法を見るんでしたね」
強引だが話題を変える事にする。しばらく忘れたいし。
「あ、うん。そやけど。大丈夫なんか?」
「大丈夫です大丈夫です、はい」
「ほんならええけど、無理せんといてや?」
「分かってますって」
ごそごそとグリモアを取り出し『光源』の魔法を使う事に。対象は以前と同じく銅貨だ。
深呼吸を1つして、落ち着いたところで魔法陣を組み立てる。
魔法陣と銅貨を対象に魔力を流したところで、ピカピカ光る銅貨の完成だ。
これで完成、と先輩の方を見ると、少しうつむき気味でなにやら難しい顔をしている。
あれ、なんかミスったかな?
「先輩、終わりましたよ?」
「せやな……。うん、ありがとさん」
「どうかしました?」
なんか考え込んでいる……?
そのまましばらく待っていると、ようやく考えがひと段落したのか顔を上げた。
「なあハルナはん、ちょっと聞きたい事があるんやけど」
「聞きたい事、ですか?」
改まってどーしたんだろ?
「確か、魔法を使うようになってから10日ぐらいって言うとったな」
「ええ、確かそうですけど」
「前と比べて、どっか調子がおかしいとか、そんな事あらへん?」
はい? なんですかそれ?
「なんとなく体調が悪いとか、頭がぼーっとしたりとか……」
「いや、なんともないですけど。なんですかそれ?」
風邪の症状か?
「ほうか、ならええんやけど……」
「1人で納得しないで下さいよ。ちゃんと説明してくれないと気味悪いじゃないですか」
「せやな……。簡単に言うたら『世界』と繋がりっぱなしになってるみたいやから、大丈夫かと思うてな」
全然簡単じゃないです先輩。さっぱり意味が分かりません。
「いやあの、『世界』って……?」
「『世界』っちゅうのは、便宜上ウチがそう呼んどるだけや。簡単に言えばウチらの使う魔力の源やな」
「魔力、ですか……?」
なんかまた難しい話になってきた気がする……。
「そやなぁ……。順番に説明するさかいちょっと長ごうなるけどガマンしてや」
先輩はここで一旦口を閉じると、一息入れて再び話し出した。
「魔法を使うには魔力が必要やろ?
ほんならその魔力って、どっから来とると思う?」
む? 以前、魔力は魂のエネルギーじゃないかって推測したけど……。
「えーと、体の中……っていうより魂、ですか?」
「正解や。魔力は魂の力、そやからウチらは魔力を目で見ることが出来る」
おお、当たってたよ。
「でも、それがどうしたんですか?」
「いくら個人差があるいうても、限度があるやろ。ウチらが使える魔力はそれをはるかに上回っとる」
む、確かにそうかもしんない。それにいくら使っても全く平気だし。
「ウチらはな、魔力を"作り出す"んやのうて、"もらってる"んや。
どこからかは分からへんけど、ウチらに向けて流れてくる魔力がある。その発生元をウチは便宜上、『世界』と呼んどるんや」
『世界』ねぇ。確かにぴったりな気はするけど。
「先輩はどうしてその、『世界』から魔力が流れてくるって分かったんですか?」
「なんて言えばええかなぁ……。
ウチは魔力を見る事以外にも、流れをなんとなく感じる事が出来るからなんやけど……。ハルナはんも分かるやろか?」
感じる……? においみたいなモンだろーか。
とりあえず、目をつぶって神経を研ぎ澄ませてみる。
…………。
…………。
…………。
うーん、ダメだ。さっぱり分かんない。
「言ってることはなんとなく分かりますけど、私にはその流れを感じるってのは無理みたいですね。全然分かりません」
「ほうか。まあ、魔法のないとこから来たっちゅうし、その辺の感覚になじみがないからかもしれへんな」
むぅ、残念。いつか分かるようになるかな?
「まあ、説明を続けるで。普通は魔力を使うときだけ『世界』と繋がるんや。そやけどハルナはんは、なんでか分からんけどそこに繋がりっぱなしになっとるみたいなんや」
「えーと……。それってなにかマズイですか?」
別段問題はない気がするけど。
「魔法使った事あるなら分かるやろけど、『世界』から得られる魔力はもの凄い膨大や。
せやから繋がりっぱなしになっとると、どんな弊害があるか分からへんで?」
げ。それで最初の質問に繋がるのか。
「うわ、その繋がりってどうやったら切れるんですか?」
「それが分からへんのや。普通は勝手に切れよるんやけど……」
うわぁい、対処法ナシみたい。
「まあ、今はなんともないですし、そんな状態にあるとだけ覚えとく事にします」
「……そやなぁ。現状なんも出来へんしなぁ」
うーむ。いつの間にかそんな事になってたとは。
「ところで私、この状態で魔力使っても大丈夫なんですか?」
「それは問題あらへんと思うよ。魔力を使うにしろ使わんにしろ、繋がっとる事に変わりはないさかい。影響はないと思うで」
「分かりました……」
とりあえず当面の問題はなしっか。
「そういえばひとつ気になったんですけど、先輩も魔法使えるんですか?」
「一応使えるんやけど……ハルナはんの思っとるのとはちょっと違うと思うで?」
ちょっと違う?
「せやな、実際見てみるのが早いかな」
そう言って先輩が右手を差し出すと、瞬く間に半透明の魔法陣がそこに形成された。
うわ、早っ。
しかもこの魔法陣って確か……。
「先輩、この魔法陣って……」
「せや。さっきハルナはんが使こうた『光源』の魔法陣や。
こうした方が分かりやすいかと思うて、真似させてもろうたんや」
あの図形を一瞬で覚えたんですか……さすが先輩。
「ほしたら、魔力を流すで」
先輩の手から魔力が魔法陣へと流れていくのが見える……が、なにも目立った変化は起こらなかった。
あれ?
「こういう事や」
「失敗、ですか?」
「ちゃうちゃう、こんな簡単な魔法陣で失敗なんかせえへん。
ウチらが物に触られへんのと一緒で、こうやって魔法を使こうても、なにも起きへんのや」
体がないと魔法は効果がないんだ……。
あれ、でもそうするとゴーストはどうなるんだろ? 確か炎の塊を飛ばしてきたんだけど。
先輩にその辺りの事を聞いてみると、アレは半分体があるよーなモンやさかい、との事。
なるほど、確かにゴーストは普通の人にも見えるし影響も及ぼせる。
そういった意味じゃ確かに体があると言えなくもない。
「あれ? 効果がないならなんで先輩は魔法を使えるんですか?」
「うーん、全部が全部効果ないわけやないんよ。例えば自分に効果がある『遠見』や『浮遊』、『飛行』とかはちゃんと使えるねんで」
話の内容よりもその魔法が非常に気になるのですが先輩っ。
ふよふよと浮かんだり出来るんだろーか。
……うわ、ものすごくやってみたい。
あとで教えてもらえるよう頼んでみようっと。
「ちょっと話が逸れたわ。とにかくそういう事やさかい、体調には十分気をつけるねんで?」
「分かりました……ってもどうやって気をつければいいんですか」
「……気分的にやろか?」
「それじゃ意味がないですって、先輩……」
「冗談や。まあ、今までなんともなかったんやろ? 10日以上もそんな状態で平気やったんやさかい、多分なんともないと思うで?」
「そうですか? じゃあそう信じますけど」
てゆーか信じたい。対処法不明な不調の原因って怖すぎる。
「とりあえず、ハルナはんの状態も確かめれたし、ウチの用事はこれでおしまいやな」
「そうですか、わざわざありがとうございました。
ところで先輩、不躾ですが1つお願いがあるんですけど……」
「エンリはんやのうてウチに? なんやろか?」
「さっきチラッと言ってた、『浮遊』や『飛行』の魔法を教えてくれませんか?
ものすごくやってみたいんですけど」
「え、そうなんか?」
「はい、ものすごく」
そう言って先輩の目をじっと見つめる。
多分私の目はキラキラと輝いてるだろう。
……ギラギラじゃないからね?
しばらく無言で見つめ合ったのち、目をそらしたのは先輩の方だった。
「分かった、分かったからそう睨まんといて」
う、睨んでるつもりはないんだけどなぁ。
その言葉で一旦は引いたものの、そのまま『お願い』をし続ける事数十分。
少々疲れた感じのする先輩から、ある程度の注意事項と共に魔法を教えてもらえる事になった。
あとで試してみようっと。
興味ある事に対しては、あとに引かないハルナちゃんでした。