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41 混乱

今回はいつもと違い少々暗い話になります。

あらすじの注意書きとは反しますが、避けては通れない道だったので……。


2014/03/30 ふりがな表記を一部ルビ化、残る部分をカタカナに修正

 神殿長の部屋で、さり気なく爆弾発言をしたスフィルに視線が集まる。

思わぬ彼女の発言に、神殿長すらも顔を上げ、目を見開いた。


 そんな中、スフィルに近寄り声を掛けたのはシア先輩だ。


「なあなあ、ウチのこと見えるってホンマなん?」

「え、ええ。見えてます。なぜだか向こうが透けてますが。

 ……ゴーストとかじゃないですよね?」


 半透明なシア先輩におっかなびっくり返事を返すスフィル。


 スフィルの失礼な質問に神殿長は顔を引きつらせるが、シア先輩は気にした風もなく笑いながらも否定する。


「ちゃうちゃう、ウチはゴーストやあらへん。

 ウチはテーシア言うて、ハルナはんのお仲間や。

 あんたがハルナはんの言ってたお友達でっしゃろ? 姿も見えとる事やし、これからもよろしゅうな」


 って先輩いいぃぃ!? その自己紹介はマズイですっ!


「え? お仲間? え、えぇ!?」


 スフィルは頭がついていかないようで、私とシア先輩を交互に見比べては「え?」を連発している。


「え? あれ?

 ハルナはん、ひょっとして……まだなにも教えとらんかったん?」


 ゆっくりと頷く私。


「わちゃぁ……。ごめん、ホンマにごめん。

 ウチの早とちりやったわ。友達やって言うから、てっきり全部知っとるんかと……」

「……この席に彼女の同行を許可したのもそれが理由ですか。

 まあ、いずれ話すつもりではありましたけど……」

「それでは、彼女にはなんと?」

「彼女……スフィルにはエクソシスト見習い兼魔術師としか。

 言いふらしたい事じゃないですし、なにより信じてもらえる気がしませんでしたので」

「エクソシスト見習いとはまた……」


 神殿長がなにやら複雑な顔をしているが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

スフィルへの説明をどうするかだ。


 しばらくするとようやく混乱から立ち直ったのか、なにかを言いたそうな目でこちらを見つめてきた。

さすがにこの場で即、問いただすような事はしてこないが、あの目は「どーゆー事かきっちり説明してよ」と言っている。


 もう、しょうがない……っか。いい機会だと思おう。


「神殿長さん、すいませんが少しだけ、彼女に説明する時間を頂けますか」

「もちろん、構いません」


 そう言って立ち上がると、スッと後ろに下がる神殿長。


 私はスフィルの前に歩み出ると、覚悟を決めて口を開く。


「今まで黙っててごめん、スフィル。

 言い訳になっちゃうけどさ、さすがに信じてもらえる気がしなくってね……。

 それで、私のことなんだけど。

 ……そうだね、実際見てもらった方が分かりやすいかな」


 そう言って私は1歩下がると、ローブについてるフードを被る。

そのまま大鎌を取り出すと柄の部分を下にして、抱えるように手に持った。


「ちょっと信じらんないかもしんないけど、これが私の正体ってワケ」


 そう言ってスフィルの方を見つめる。


 スフィルはしばらくの間、目を大きく開いてこちらを凝視していたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「それって、昔話に出てくる……」

「そうや。ウチらは『御使い様』って呼ばれてる存在や」


 スフィルの発言に横から答えたのは、いつの間にか大鎌を手に持ったシア先輩だ。


「先輩……」

「横からごめんな。でも、ウチから言うたほうが、信じてもらいやすいやろ?」


 そう言って手に持った大鎌を肩に担ぐ先輩。

確かに実体のある私が言うより、シア先輩の言葉の方が説得力があるだろう。


 スフィルはしばらく口を閉ざしていたが、やがて、やっとといった感じでポツリと言葉を紡ぎ出した。


「……ごめん、今ちょっと頭が上手く働かないから、先に宿に戻らせて。

 ゆっくりと考えたいから……」


 顔を伏せて呟くようにそれだけ言うと、スフィルは失礼します、と一礼して部屋から出て行ってしまった。


 あとに残されたのは、なんとも言えない気まずい空気のみ。


「…………」

「…………」

「…………」


 しばらくの間、誰も口を開かなかった。

そんな中、言葉を発したのは神殿長だ。


「せっかくここまでお越し頂いたのですが……、儀式についてお話しする雰囲気ではなくなってしまいましたね」

「儀式、ですか?」

「ええ。3日後にここで執り行われる予定の、(オン)の儀と呼ばれる儀式です。

 貴方様はこの儀式に参加されるために、ここまでいらしたとお聞きしておりますが」

「ええ、確かにその通りです」

「本来でしたら、今日はその(オン)の儀についてお話をさせて頂きたかったのですが……」


 確かに、それどころじゃなくなったよなぁ……。


 私が内心ため息をついていると、それを察したのかシア先輩が謝ってきた。


「ごめんなぁ、ウチが早とちりしたばっかりに……」

「いえ、シア先輩にきちんと説明しなかった私も悪かったです。

 スフィルとはまたゆっくりと話をしてみますので、もう気にしないで下さい」


 いずれは話すつもりだったのが、若干早くなっただけですから。と言葉を付け加える。


「ありがとうな、そう言ってもらえると助かるわ。……でもさすがに、今回ばかりはどうにもなぁ」

「先輩……」


 しんみりとした様子のシア先輩。

そこに神殿長が口を開く。


「それにしてもこうなりますと、今から落ち着いて話をするというのはいささか難しいですね。

 私の方から呼び付けておいて、こういった提案をするのは申し訳ないのですが……どうでしょう。一度落ち着かれるためにも、お話はまた明日という形にしませんか?」


 それがいいかなぁ……。先輩はこれだし、私もスフィルの事が気になって話に集中出来そうにないし。


「そうですね、神殿長さえよろしければ、ありがたくその提案を受け入れたいと思います」

「私はもちろん大丈夫です。

 それでは、また明日か、まだ落ち着かれないようでしたら、明後日の朝にでもここまでご足労願いたいと思うのですが」

「分かりました。お気遣いありがとうございます」


 神殿長の気遣いにお礼を言い、そのまま部屋を出ようとしたところで、腕輪を1つ渡された。

これを神殿の入り口で見せると、この部屋まで通れるようになるとの事だ。


 これが必要になるって事は、私の事はまだ他に漏れてないって事……?


 その事を疑問に思いながらも神殿を出ると、私は宿へと向かって歩き始めた。






 宿に帰り着いた私は、部屋の中で1人、悶々とした時間を過ごしていた。


 宿に戻って即、スフィルの部屋を訪ねようとしたのだが、あれからさほど時間が経ってないこともあり、ゆっくり考えたいと言ったスフィルのためにも時間を置く事にしたのだ。


 ああああもう、言っちゃってよかったのかなぁ。


 私の頭の中では、その言葉がずっと渦巻いていた。

言ってしまった事を今更どうにか出来るはずもないのだが、頭の中で渦巻く言葉は止まらない。


 こりゃダメだ、一旦何か別のことを考えないと……。


 そう思って時計に目をやると、青いメーターは一番低い位置を指していた。


 もうお昼かぁ……。

そろそろ考えが纏まったかもしんないし、とりあえず様子見も兼ねて、お昼に誘ってみるかな。


 そんな事を思いながら部屋から出ると、隣の部屋の扉をノックする。


 ……返事がない。


 もう1度ノックをしてみるも、やはり返事は返ってこなかった。

鍵が掛かってるところをみると、一応部屋には居るようなのだが……。


 拒否されてるんじゃ、といった考えが一瞬頭をよぎるが、その考えを振り払うと扉から離れて廊下へと向き直る。


 仕方ない、もう少し時間を置くとしますか。


 そう結論を出した私は、1人で昼食へと向かう事にした。


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