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40 大神殿への誘い

 ドンドンドン、となにかを叩くような音に目が覚める。

閉じた窓の隙間から差し込む光が目に眩しい。


「ハルナー、起きてるー?」


 聞こえてくるのはスフィルの声。

微妙に小声なのは、周囲への迷惑を考えてのことなのだろうか。


 再びドンドンドンと扉が叩かれる。


 あれだけ激しく扉を叩いたら、声を抑えてる意味がない気がするんだけど……。


 とりあえず、これ以上近所迷惑になる前に止めないと、とベッドからもぞもぞと這い出すと、かんぬき式の鍵を外して扉を開く。


「おはよ、スフィル……」

「おはよー、ハルナ。やっと起きたね。

 もうとっくに日は登ってるよ?」


 う、寝坊しちゃったか。昨日寝るのが遅かったからなぁ。


「ごめんごめん、昨日ちょっと寝付けなくてねー」

「ふーん、そうなんだ。初めての王都に、緊張でもしたの?」

「うん、そうかもね……」


 ここはごまかす事にする。

さすがにシア先輩とお話してましたなんて言えないし。


「まあ、まずは顔を洗ってきたら? その後で朝食に行きましょ」

「そだね、りょーかい。

 この宿の井戸ってどこにあるの?」

「裏口出てすぐよ。案内するわ」

「ありがと」






 それが起こったのは朝食を食べてる最中だった。


 宿の入り口から、お揃いの白を基調としたぞろっとした服を着た4~5人の集団が入ってきて、宿の受付でなにやら話をし始めたのだ。


 なにあの白い集団……。


 やたらと異彩を放つその集団は、食堂に居る人達の視線を集めまくっていた。


 私も例に漏れず、その白い集団を眺めていたのだが、正面に座るスフィルが怪訝な顔をしているのを見て、なにか知っているのかと思い聞いてみる事に。


「ねぇスフィル、なんか気になることでもあるの?」

「気になるっていうかね。

 あの服装って確か、ここの神殿の人が着る服だったと思うんだけど……。そんな人達が集団で宿に押しかけてくるって何事かなと思って」

「ふーん。神殿の人、ねぇ……」


 一体何があったんだか、と思いつつも再び朝食に戻ろうとした時、その集団の中の1人と目が合った。


 え? と思う間もなく、その人は慌てた様子で仲間になにかを伝えると、今度は全員が揃って視線を私の方に向けてくる。


 なんなのよ一体……もしかして目が合ったらマズかった?


 私が内心冷や汗かきまくっていると、スフィルが話し掛けてくる。


「ね、ハルナ。アタシの気のせいかもしんないけど、あの人達みんなこっちを見てる気がしない?」

「奇遇だね、スフィル。私にもそう見えるわ……」


 そんな風に2人で現実逃避をしていると、やがて白い人達全員で私達の座る席へ向かって歩いてくる。


 えぇぇ、こっち来た!?


 白い人達は私の座る席の横まで来ると、先頭に立っている男性が口を開いた。


「食事中失礼します、貴方がハルナ様で間違いないでしょうか」


 ハルナ……様?

 はいぃ!?


「確かにハルナは私ですけど……」


 なんとか答えを返すも、なぜ名前を知ってるとか、なぜ様付けするんだといった疑問が頭の中でぐるぐると渦巻いている。


「失礼致しました、私はマスルートと申します。

 神殿長エンリッヒ様より、貴方様を客人として神殿まで案内するように仰せ付かっております。

 もし今はご都合が悪いようでしたら、出直して参りますが……」


 いやいやいや、なんでよ。


「えーと……。人違いじゃないですか? 

 私はその神殿長さんと約束もしてませんし、知り合いでもなんでもないですよ?」

「いえ、この宿に泊まっている『ハルナ』という黒髪の女性を客人として案内するよう確かに仰られました。

 先ほど宿の従業員にも確認を取りましたが、同名の人はこの宿には泊まってないと言っておりました」


 えぇー……。なによそれ。

つか宿屋、そう簡単に客情報を洩らすな。


「それから、『もし今日は都合が悪いのでしたら、いつでも構わないので都合のいい時に神殿まで来て頂きたい』との言伝もお預かりしております」

「…………」


 なにそれ。つまりどーしてもその神殿長さんは私と会いたいってわけ?


「あー……イマイチ事情がよく分かりませんが。とりあえず食事が済むまで待って頂けますか?」

「分かりました」


 マスルートさん達は大人しく下がって行ったので、ずっと固まっていたスフィルを揺り起こして食事を再開するが、私の頭はしばらくの間混乱したままだった。






 結局私はこの招待を受ける事にした。

このまま放置するのは気味が悪いし、どの道私も神殿には用事がある。

この際まとめて済ませてしまおうという腹積もりだ。


 そんなわけで現在、5人の白い服を来た神官さん達に囲まれて、神殿までの道を移動中である。


 しっかしこれ、めちゃくちゃ目立つなぁ……。


 そう思って横を見ると、辺りの視線が気になるのか、なにやら落ち着かない様子で隣を歩くスフィルの姿。


 あの後私を心配したスフィルが同行を申し出てくれたのだ。

指名されたのが私だけだったのもあり、断られるかもと思いつつも、ダメ元で同行者の許可を求めると、意外にもあっさり許可されてしまった。


 なんでも同行を求める者が居た場合、その者も一緒に案内するようにと、元から言われていたらしい。


 ますますもってよく分からない。

これで人違いだったら笑うぞ……。


 そんな事を思いつつも、白い人達に囲まれて歩き続けること約20分、私達はえらく立派な建物の前で立ち止まった。


 石造りのでっかい柱がどどーんと立ち並ぶその建物は、まさしく私の持つ神殿のイメージそのままだ。


「ここがアウンテレス大神殿となります。

 ……では次に、神殿長の元まで案内させて頂きます」


 マスルートさんはそう言って、やたらと重厚そうな扉を開く。


 うわ、広いなー……。


 外からの見た目通り、中も相当な広さだった。

現在私が居る玄関ホールだけでも、昨日入った湯浴み場ぐらいの広さがあるのではないだろうか。


「どうぞこちらへ」


 案内されるままに扉をくぐり、玄関ホール横にあった小さな扉から更に中へと入る。

そのまま長い廊下を歩きつつ、建物の中を奥へ奥へと進んで行く。


 やがて突き当たりの扉のところで立ち止まると、そこで足を止めこちらを振り向いた。


「ここが神殿長の部屋です」


 そう言うと、マスルートさんが扉をコンコンとノックする。

中からの、どうぞと言う返事があったのを確認してから、マスルートさんが扉を開ける。


「失礼致します、ハルナ様とその同行者をお連れ致しました」


 マスルートさんに続いて、私とスフィルも部屋の中へと足を踏み入れる。


「お邪魔します」

「失礼します」


 部屋の中には、緑色の髪の毛をオールバックにした、20代前半と思われる男性が1人。

恐らくこの人が神殿長なんだろう。そして……。


 なんでシア先輩がここにいるかなぁ……。


 神殿長の隣に立ち、こちらに向かって小さく手を振る、黒いローブ姿のシア先輩。

神殿長は、その先輩の方をチラリと見たあと口を開く。


 ……え?


「ご苦労様、下がってくださって結構ですよ」

「はっ、失礼致します」


 それを合図に、ここまで案内してくれたマスルートさん達は退室していってしまった。


 神殿長は扉がパタンと閉まるのを確認した後、私の前まで歩み寄ってきたかと思うと、イキナリその場で片膝をついて頭を垂れた。


 ちょ……!?


「急な呼び立てにも関わらずお越し頂きありがとうございます。

 私がこのアウンテレス大神殿の神殿長、エンリッヒと申します。以後お見知りおきを」


 なんなのこの状況は……。

先程から続くあまりの事態に私の頭はフリーズしっぱなしだ。


 そんな私の心境などお構いなしに、神殿長は言葉を続ける。


「今朝、そちらにおられるテーシア様より貴方様の事をお聞きして、こうしてお呼び立てさせて頂いた次第です。

 本来ならば私が直々にお迎えに上がるべきだったのですが、気軽に神殿を離れられない身であるため、あのような形となってしまった事をお詫び申し上げます」


 ……今なんと? シア先輩から聞いた?


「あの……ひとつお尋ねしてもよろしいですか?」

「はい、なんなりと」

「シア先輩……テーシア先輩の事が見えるんですか?」

「ええ、見る事が出来ますよ。言葉を交わすことも可能です」


 えぇ─────っ!?


 驚きのあまり口をぱくぱくとさせる私に、さらにシア先輩からの補足が追加される。


「極々稀にな、ウチらの事を見ることが出来る人もおるんよ。その人とはもちろん話すことも出来る。

 このエンリはんもその中の1人や」


 うっそぉ……。


 その時、あまりの事実に呆然としている私の横からスフィルが疑問の声を上げた。


「あの……。イマイチ話がよく見えないんですけど。

 それに、そちらの黒いローブ姿の半透明な方は一体……?」


 ……マジですか?



れっつ急展開。


近いうちに次話を出せるよう頑張ります。

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