4 ルールマールの館にて その1
2013/08/04 全面的に手入れ 変更点はほぼありません
さて、セルデスさんの家に着いたワケなんだけど……。
広い、とにかく広い。なにこの広さ。庭だけでも家が数件余裕で建っちゃうよ!? これで個人の家だとか凄すぎる。
私が唖然としていると、セルデスさんに声を掛けられた。
「どうしたのかね?」
「いえ……、あまりの広さに驚きまして」
「領主の家ともなればこのぐらいは普通だよ。君の住んでいた辺りには、このような建物はなかったのかね?」
まず土地からしてありません。てゆかどんな大富豪よ、それ。
「こんな広い家は見た事がないですねー……」
「そうか。とりあえず中に入ろう」
「はい」
セルデスさんに先導されて、門から庭へと足を踏み入れる。
やっぱ広いなー……。手入れ専門の人とかでも数人居るんだろうなー。
ついキョロキョロと見回してしまう。
玄関のドアを開けて家の中へと入ると、1人の男性が礼をして出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、セルデス様。お客様もようこそいらっしゃいました」
おぉ、ホンモノの執事さんだ。初めて見たよ。
見た感じ20代後半~30代前半ってところだろうか。
「グリーか、出迎えご苦労。ミロリラはどこに居るかな?」
「ミロリラ様でしたら、奥の居間の方におられるはずです。勝手に抜け出されたセルデス様の事を大変心配されてましたよ」
「うっ、バレていたか……。
あぁ、グリー。まずは彼女を客間へと案内してくれ。私の大切な客人だ」
「かしこまりました」
そう言うとセルデスさんはこちらを向いて話しだした。
「すまないが、私は先に妻のところへ行って安心させてくるとしよう。このグリーに客室まで案内するよう言っておいたから、しばらく客室でくつろいでいてほしい」
「分かりました、お邪魔します。早く行って奥さんを安心させてあげて下さい」
「ああ、分かってるよ。では、失礼する」
セルデスさんは屋敷の奥へと行ってしまった。残されたのは、グリーと呼ばれた執事さんと私の2人。
「この屋敷の使用人頭を勤めております、グリックと申します。客室まで案内させて頂きますので、どうぞこちらへ」
執事さんじゃなかったっ。……ってあれ? 意味は同じだっけ?
ま、いいや。グリーってのは愛称だろうか?
うわ、なんか緊張するなぁ。
グリックさんに案内されて、広く長い廊下を歩く事少々。少し立派なドアの前に着いたところで立ち止まる。
「ここが客室となります、どうぞお入り下さい」
一礼と共にドアを開けてもらったので中へと足を踏み入れると、そこはパッと見20畳ぐらいの広さを持つ部屋だった。
うわ、なんかめちゃくちゃ広いし……。
「座ってお待ち下さい、すぐにお茶をお持ちします」
「あ、はい」
ペコリ、と再び礼して去って行くグリックさん。
それを見送ってから再び考え込んだ。
えーっと、どうしようか。座って待てって言われてもなぁ……。
あらためて辺りを見回してみる。その内装はかなり豪華だ。
床一面には高そうな絨毯が敷かれ、部屋の奥は大きなガラス窓になっている。
そして、その少し手前には日除けと思われるついたてと、5人ぐらい寝ても大丈夫そうな巨大なベッド。さらにその隣には大きなクローゼットが置かれていた。
その反対側には椅子と丸いテーブルが置いてあった。こっちはお茶用だろうか。
それとは別に、左手前にも椅子と四角いテーブルが置かれている。こっちは恐らく食事用なんだろう。
……どこの高級ホテルの部屋よ、ここ。掃除だけでもめちゃくちゃ大変そうだ。
とりあえず、お茶用と思われる丸いテーブルの方に座ることにする。
これ、使って大丈夫だよね? 壊して弁償とかになったらとても払える気がしないんだけど。それ以前に一文無しだしなぁ……。
微妙に小市民っぷりを発揮しながら、恐る恐る椅子を引いて腰を下ろす。
うぅ、1人になると緊張がががが。というか、広すぎて逆に落ち着けない。
座ってからふと気付いたが、いつまでもこの黒いローブ姿でいるのも失礼だろうと思い、脱いでおくことにする。
実はこのローブも大鎌と同じく出し入れ自在だったりするのだが、着ていた物が唐突に無くなるのもおかしな話なので、備え付けのクローゼットの中へと入れておく。
ちなみに、ローブの下にはちゃんと普通の服を着ている。白いブラウスにジーンズというラフな格好だが、裸ではない。
立ったり座ったりと、もぞもぞしながら待つ事約5分。部屋のドアがノックされた。
「はい、どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのはさっきのグリックさん。小さな手押し車にポットとカップを乗せている。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます」
熱気が漂ってるのか、ポットの表面が揺らめいてるように見える。熱々のお茶だろうか? 部屋の調度品もスゴイし、アレもきっと高級品なんだろうなー……。
「なにか気になる事でもございますか?」
などと思いながらじーっと眺めてたら、グリックさんに声を掛けられた。
「いえ、立派なポットだなーと思いまして」
ごまかし、ごまかし。
「ほう、お分かりになりますか」
すいません適当言いましたーっ。
微妙な気まずさからそのまま黙って座っていると、グリックさんが注ぎ終えたお茶をコトリとテーブルの上に置いてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
カップを手に取りお茶を一口。冷たくていい匂いのする液体が喉から滑り落ちてゆく。
……あれ、冷たい?
? っと思ったところへ再びノックの音。
入ってきたのはセルデスさんとその奥さんらしき人だった。
「お待たせしたね、くつろいで頂けてるかな?」
すみません、この部屋でくつろぐのは私にはムリです。
「はい、美味しいお茶を頂いています」
「それはよかった」
セルデスさんが奥さんらしき人を眼で指しながら話し出した。
「紹介しておこう、私の妻のミロリラだ」
おー、やっぱり奥さんだった。見た感じ私より年上かな? 30代半ばって感じがする。
ちなみに私の見た目は、死んだ時の年齢である23歳のままで固定されている。あれから3年経っているので中身的にはもう26歳なのだが……。
「セルデスの妻、ミロリラ・ルールマールです。なんでも大変貴重な秘薬をわけて頂いたとか……」
あー、もうそういう事になってるのね。
「それで、是非とも直接お礼をと思いまして。本当にありがとうございました」
「初めまして、ハルナと言います。お礼はもう十分にセルデスさんから頂いてますので、あまり気になさらないで下さい」
正直、あの対応と相談だけで十分だと思います。
「それにこのあと、少し相談に乗っていただく約束になってますので、その分と相殺という事で」
「あら、なにかお困りでしたか? あなたは夫の恩人ですから、なんでも遠慮なくおっしゃって下さいね」
「分かりました。その時がありましたら、またよろしくお願いします」
う。ちょっと口が滑ったかな? まあ、困ってるのは確かなんだけど。
ふと窓の外に目をやれば、大分日が傾いてきていた。もう夕方と言っても差し支えのない時間帯だろう。
「ところで君、今日の宿のアテはあるのかね?」
セルデスさんにそう尋ねられた。
宿っか……。考えもしなかったなー。今まで特にその必要もなかったし。
24時間普通に動けて眠る必要すらなくて。その上、気疲れはすれど肉体的(?)な疲れはまるでなかったし。
「あー……、考えてませんでしたね。ちょっと色々な事がありすぎましたので」
今まで必要なかったから思いつかなかったとはいえ、よくよく考えたら今この状態で宿無しってのはマズイ気がする。
「ふむ、それなら今日はここに泊まっていくといい。そのほうがゆっくりと話も出来るだろうしね」
「それはものすごく助かりますけど……。いいんですか?」
「宿を取れなかった原因は私にあるようなものだからね。遠慮せずに泊まっていってほしい」
それ以前に宿を探すって発想がありませんでした。
「じゃあすいませんが、一晩お世話になります」
「ああ、了解した。部屋は引き続きここを使ってくれて構わない。遠慮せずくつろいで行ってほしい」
ムリです、くつろげません。壊したら高そうなものでいっぱいです。
「しかしそうなると、話を聞くのは食後の方がよさそうだな。君の分も用意させよう。一緒にいかがかな?」
「お、お世話になります……」
「はは、気にすることはない。それに、お腹が落ち着いた方がゆっくり話も出来るだろうしね」
笑ってそんなことを言うセルデスさん。
「では、食事の準備が出来たら呼びに来させるとしよう。ゆっくりしていってくれ。
……では失礼するよ」
「それではまた」
「失礼致します」
1人ずつ礼して、部屋から出て行く3人を見送ると、大きく息を吐きながら椅子に座り込んだ。
はぁ、これからどうなるんだろうか、私。
ガラスはかなり古くから存在するという事で、高級品の1つとして出しました。
また、銀メッキの鏡もちゃんと存在するという設定です(超高級品)