38 出会った者は
お待たせしました。
2011/12/11 一部表現を修正
何事もなく退屈な4日目が過ぎ、馬車の旅も今日で5日目だ。
あれ以来オオカミが襲ってくるなどといった事もなく、順調な旅路が続いている。
変わった事といえばエルクラムさんとも多少お喋りするようになった事だろうか。
といっても、軽く挨拶したりする程度なんだけど。
予定では今日の夕方、王都に到着する事になっている。
さっき時計を確認すると、メーターは下から1/4ぐらいを指していた。
今は大体おやつの時間を過ぎた頃だろうか。
あと2~3時間で王都到着っか。ここまで長かったなー。
王都ってどんなどこだろう……と思ったところで、王都がどんなところか全然知らないことに気が付いた。
王都に行く事ばかり考えて、王都がどんなとこかとか全然調べてなかったなー……。
とりあえず、隣の席で退屈そうにしている人に聞いてみることにする。
「ね、スフィル。ちょっといい?」
「ん、どうしたの?」
「今更なんだけどさ、王都ってどんなとこなの?」
「あれ、まだ言った事なかったっけ」
「うん。ホントに今更だけど、よく知らない事に気がついてさ。ちょっと教えてくれないかな?」
「アンタも大概のんびりしてるわね……。ま、アンタらしいんだけどさ」
まあ、アタシも一般的なことしか知らないんだけど、と前置きをしてスフィルが話しだす。
「王都アウンテレス。ここアウンテレス王国の首都で、大体5,000人の人が住んでるって言われてるかな。
この町は大きく分けて、お城のある王城区と、普通に商店や民家のある外郭区に分かれてるの。
町の真ん中に王城区、壁を隔てたその周りを外郭区が取り囲んでるって感じかな。
アタシは王城区に入った事はないんだけど、出入りにはなんか色々とややこしい検査があるみたい。
外郭区には他の町と同じように出入り出来るんだけどね」
へぇ、2つに分かれてるんだ。
「ふーん。それじゃ大神殿ってのはどこにあるの?」
「外郭区だよ。王城区はお城と、そのお城に仕えてる人達の家しかないからね」
「へぇー……。
それじゃ、町全体の広さはどの位なの?」
「広さっか……。うーん、なんて言えばいいんだろ。ジェイルの町より広いのは確かなんだけど」
ジェイルって……あ。今まで居た町の名前か。
ヤバイヤバイ、忘れ掛けてたよ。
「そうなんだ。じゃそれは、実際に着いてから確かめますか」
「ごめん、そうしてくれると助かるわ」
馬車が停車し、カランカランとハンドベルの鳴る音が聞こえる。
夕焼けの大きな太陽が見守る中、馬車は王都の馬車ギルド前に到着していた。
やーっと到着したぁ……。
御者の挨拶を聞き流しながら、鞄を手に持ち、馬車から降りる。
なにか違いはないかと、降りたところでキョロキョロと辺りを見回してみるが、景色こそ違うものの、ジェイルの町と大した違いがあるようには思えなかった。
町の一部分だけ見てもこんなもんなのかなー。
ひと目で王都と分かるような大げさな違いを期待したわけではないが、雰囲気とかが割と似通っているので、なんだか肩透かしされた気分になってしまう。
話に聞いた王城区にでも行けばまだ違いがあるのかもしれないが、簡単に立ち入り出来る場所でもなさそうなので、それはひとまず頭の隅にでも追いやっておく。
「お待たせ、ハルナ」
護衛の仕事はここで終わりという事で、依頼完了の印をもらいに行ってたスフィルが戻って来た。
「お帰り、スフィル。印はちゃんともらえた?」
「もちろん。あとはギルドに行って報告するだけね」
「そっか。それじゃ今から報告に?」
「うん、一応そのつもりだけど」
「じゃ、それが終わってからでいいからさ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん。大神殿の場所、知ってたら案内して欲しいんだけど。
大丈夫?」
「そのぐらいなら大丈夫よ。任せといて。
……それよりハルナ、帰りの馬車、予約しなくても大丈夫?」
あ、やば。
「帰る予定が決まってないならともかく、早めに予約しといた方がいいと思うよ」
「……ありがと、スフィル。すっかり忘れてたわ」
えーと確か……儀式が4日後になるから、乗るなら5日後出発の馬車っか。
「今から予約してくるけど、スフィルはどうするの?」
「アタシは後にするわ。
先にギルドで一通り依頼を確認して、いい仕事がなかったらハルナと一緒に帰ることにするつもり」
「了解、じゃちょっと待ってて。さくっと予約してくるから」
「はいはい、行ってらっしゃい」
馬車を降りてすぐだったので、馬車ギルドは目の前だ。
その場で踵を返し、馬車ギルドの中へと入っていく。
日が沈もうかという時間帯にもかかわらず、馬車ギルドの中はそこそこ混雑していた。
こういうとこを見ると、ジェイルと違って王都は人が多いんだなーと思ってしまう。
受付でジェイル方面の馬車の予約について訪ねてみる。
すると、5日後出発のジェイル方面に行く馬車の予約はすぐに取ることが出来た。
念のため馬車の空き人数を聞いてみると、正確な人数は教えてもらえなかったが、まだまだ席に余裕はあるとのこと。
これならあとからスフィルが乗る事も可能だろう。
無事に予約が出来たので、銀貨2枚を支払い馬車ギルドを出てスフィルと合流する。
うぅ、残り少なくなってきたなー……。
「お待たせ、スフィル」
「お帰り、ハルナ。予約取れた?」
「取れたよ。割符もまたもらってきたし」
そう言って預かったばかりの割符を見せる。
「じゃ、次はここの冒険者ギルドね」
「それが終わったら、ちょっとだけ案内ヨロシク」
「はいはい」
スフィルにくっついて冒険者ギルドへ行ったあと、次は大神殿へ向かおうと外に出ると、辺りは既に暗くなり始めていた。
う、そっか。到着したのが夕方だったし、なんだかんだと時間を食ったからなぁ……。
大神殿がどこにあるかは知らないけど、このまま行くと、着いた頃には真っ暗になってそうだ。
宿もまだ取ってないし、今日行くのは止めた方がいい気がしてきた。
「ねえ、ハルナ。なんかもう真っ暗になりそうだし、先に宿取りに行かない?」
スフィルも同じ事を思ったのか、そう提案してくる。
「そうだねー……。もう結構暗いし、その方がよさそうだわ。
宿が取れなくなっても困るし、大神殿はまた明日にしましょ」
「じゃ、宿へと向かいましょうか。いい宿知ってるから、期待してていいわよ?」
「へー、そりゃ楽しみ。期待させてもらいます」
スフィル一押しの宿っか。どんなとこなんだろ?
「え、2人部屋は空いてないんですか?」
「申し訳ありません、あいにくと今は満室でして。個室か6人用の大部屋なら空いているのですが」
宿へと着いた私達は、道中と同じように2人部屋を取ろうとしたのだが、時間が遅かった所為なのか、2人部屋は全て埋まってしまっているようだ。
「ハルナ、どうする? 個室でいい?」
「いいよー、個室にしましょ」
今から宿を変えるって選択肢はなさそうだし。
「了解。じゃ、個室を2つでお願いします」
「ありがとうございます。では、お部屋へと案内させてもらいます」
宿の主人に案内され、それぞれ隣同士の部屋へと通される。
部屋に入って荷物を置き、個室ってちょっと久々だなーと思っていると、荷物を置いたスフィルが訪ねてきた。
「スフィル……えらく早いね」
「まあ、荷物置いてきただけだからね。
それよりハルナ、この宿を選んだ理由なんだけど……ここって宿泊客用の湯浴み場あるんだよね。
ご飯食べたあとにでも行ってみない?」
なるほど、一押しの理由ってそれかー。さすが王都の宿。
「いくいく。久々に体を拭く以上の事が出来るんだし」
「じゃ、食べ終わって一休みしたら一緒に行きましょ。
湯浴み場はここの裏手にあるんだけど、建物丸ごと使って湯浴み場作ってあるから、広さに驚くかもね」
銭湯みたいなもんだろーか。
「へぇ……、そうなんだ」
「ま、その前にまずは夕食食べに行きましょ。結構遅くなっちゃったしね」
「そうだね。まずはご飯食べに行きましょ」
夕食後、湯浴みを済ませて部屋に戻った私は、いい気分でくつろいでいた。
久々にさっぱりしたなー。
いや、それにしても男女共用とは思わなかったよ。
脱衣所に湯浴み着が置いてあるのに気付かず、素っ裸で中に入ろうとしたところで、慌てた様子のスフィルに止められたのだ。
説明を聞いてびっくりしたよ……。いや、止めてくれてマジ感謝。
湯浴み場には男女別の入り口があったので、てっきり中で分かれてると思ってたんだけどなー。
あと驚いたのは足湯があったことだ。
なんでもこの宿独自の施設だそうで、かなり人気があるんだとか。
この分だと全身でお湯に浸かれる日がくるのも近いかもしれない。
そんな事をつらつらと考えていると、最近馬車生活に合わせて、朝早い日が続いていた所為か、そろそろ眠くなってきた。
明日はスフィルに神殿まで案内してもらって、儀式の申し込みをして……っと。
そろそろベッドで休むかと考えた時、部屋の入り口の方から聞いたことのない女性の声が聞こえてきた。
「こんばんは……ってあれ?」
あれ、ドア開けっ放しになんてしたっけ?
疑問に思って声がした方を振り向いてみると、そこには私とそっくりな黒いローブを着て、背丈ほどもある大きな鎌を持った半透明の女性が立っていた。
ついに登場しました。
次話より当初から考えていたネタを放出していく予定です。
近いうちに次を投稿したいと思ってますが、執筆ペースの低下っぷりがすごいので、1日置き程度で執筆状況を活動報告に書いていくつもりです。
よろしければそちらもご確認下さい。