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34 王都に向けて その1

色々苦労しました……。

 ふと目が覚めると、外はまだ暗かった。

まだもう一寝入り出来るかなー、と再び目を瞑ったところでがばりと起き上がる。


 あっぶなーい、今日って出発日じゃない。


 確か日の出と同時に馬車が出る予定だったはずだ。

今日に備えて、昨日は一日ここでゆっくりとすごしたのに、ここで乗り遅れたらシャレにならない。


 昨日の内にまとめた荷物に目をやりながら、一昨日の事を思い出す。


 結局あのあと、外套を買うだけに留まらず、色々引っ張りまわされたんだよねー。

あれが必要、これもあったら便利と色々購入した結果、銀貨2枚も飛んでしまった。


 まあ、確かに自分用のコップとか全然考えもしなかったけどさ。

スフィルは重装備は必要ないって言ってたけど、これ、私には十分重装備に見えるよ。


 ぎっしりと中身の詰まった鞄を見てそう思いながら、もぞもぞと支度を整えていると、コンコンとノックの音が響いた。


「お早うございます、ハルナ様。起きてらっしゃいますでしょうか」

「はい、起きてますー」


 一応出発時間は伝えてあったけど、まさか今日も起こしに来てくれるとは。


「簡単な朝食をお持ちしましたので、準備が整いましたら声をお掛け下さい」

「うわ、わざわざありがとうございます」


 この時間に朝食を頂けるとは思わなかった。

行き掛けに市場でなにか摘まめるものを買うつもりしてたんだけど、助かったなー。


 そのままありがたく朝食を頂き、お茶を飲んだところでそろそろ出発する事に。


 一昨日、スフィルと行った服屋さんで購入した深緑の外套を身に纏う。


 肩から掛けて、前にあるボタンで止める小さなマントのようなこの外套は、意外と暖かく割と気に入ってたりする。


 外套に続き、鞄を手に持ち準備完了。忘れ物がないかを確認した後、部屋を出る。


 まだまだ朝早い時間帯のため、そーっと屋敷を出るつもりをしていたのだが(挨拶は昨日の内に済ませた)、セルデスさん、ミロリラさん、グリックさんの3人が揃って見送りに出て来てくれていた。


「こんな早い時間からの見送り、ありがとうございます」

「なに、君には世話になったからな。このぐらいはさせてくれ」


 色々とお世話になったのは私の方だと思うんですが……。


「旅の無事を、お祈りしていますね」

「ありがとうございます、ミロリラさん」


 10日間もお世話になりました、ミロリラさん。


「行ってらっしゃいませ、ハルナ様」

「行ってきます、グリックさん」


 この人はいつも通りだ。


「グリー、あれを」

「かしこまりました」


 何かを指示されたグリックさんが近付いてきて、カゴを手渡してきた。


「これをお持ち下さい」

「これは……?」

「昼食だよ。馬車の中で食べれるものとして、サンドイッチを用意させてもらった」


 お弁当ですか。


「助かります、何から何まですみません」

「では、気をつけてな。君なら問題はないと思うが、儀式の成功を祈らせてもらおう」

「はい、ありがとうございます。……それでは、行ってきます」


 お世話になった3人に見送られ、馬車ギルドへと向けて歩き出す。


 さくっと儀式を通過して、いい知らせを持って帰れるように頑張りますか。






 段々と夜が白み始める中を歩き続け、馬車ギルドへと到着。

ギルドの前には、十数人は乗れそうな大きな幌付きの馬車が止まっていた。


 近付いてみると、既に10人近い人が荷台の部分に備え付けられた椅子に腰を下ろしているのが見える。


 あれに乗るのかな?


 馬車に近付き、御者の人に声を掛ける。


「すみません、王都行きの馬車ってこれですか?」

「ええ、そうですよ。お乗りになられる予定の方のですか?」

「はい、そうです」

「では、予約をされた際にお渡しした割符を拝見させていただきます」


 ごそごそと鞄から割符を取り出し、御者の人へと手渡す。


「はい、これですね」

「確認させていただきます」


 しばらく御者の人が割符を合わせて確認していたが、確認が終わったのが顔を上げた。


「確認させていただきました。どうぞ中へお入り下さい」

「はい」


 そのまま荷台の部分へと上がろうとした私を御者の人が呼び止める。


「お客さん、忘れ物ですよ」

「はい?」


 振り返った私に差し出されたのは、さっき手渡した割符。


「続けて馬車に乗られる際に、再びこれを提示していただきますので」

「あ、すみません……」


 そういえば1日毎に馬車から降りるもんね。乗車切符がないと困るか。


 割符を受け取った私は荷台の部分へと上がり、適当な空いてる椅子に腰掛ける。

あとは出発を待つだけだ。


 この馬車に付いている幌は屋根の部分だけなので、外の景色が見えたりする。

これなら退屈しないかなと思ってたところで、隣から声を掛けられた。


「おはよ、ハルナ」

「え?」


 横を見るとそこにはスフィルが座っていた。……一体いつの間に?


「ちょ、なんでスフィルがここに居るのよ」

「えぇ? 分かってて座ったんじゃないの?」

「全然気付かなかった……」


 どうやら最初から隣の席に居たらしい。しっかりしろ、私。


「冷たいなぁ。それとも、まだ頭が寝てたりする?」

「うーん、昨日は早めに休んだはずなんだけどなー……。

 ところで、どうしてスフィルはここに?」

「アタシ? アタシは仕事よ。この馬車の護衛」

「護衛?」

「そ、護衛。たまに馬車に襲い掛かってくる獣とか出ることがあるからね、そういうのを追っ払う役目」

「なるほど。それにしても凄い偶然だねー」


 それを聞いたスフィルの目がすすっと泳ぐ。


「あー、えーと。半分ぐらいは偶然かな。

 ほら、以前王都に行く日程聞いたからさ。それで、それっぽいこの馬車が護衛を募集してたから、それに申し込んだのよ。

 退屈な仕事でも、近くに知り合いが居れば気が紛れるかなーって思って……」


 いいのかそんな理由で。


「……理由は分かったけど、私に気を取られて護衛をおろそかにしないでよ?」

「大丈夫よ。基本は御者台の横で、移動中の見張りを3交代でやるだけだし。

 残りの2人は馬車の中で待機よ。もちろん、異常があったら即、飛び出すことにはなるんだけどね」

「へぇ、そうなんだ。

 3交代って事は、護衛はあと2人居るの?」

「居るわよ。さっき顔合わせと、見張りの順番を決めてきたとこよ」

「ふーん」


 スフィルとお喋りしていると、出発時間になったのか御者の人が声を張り上げた。


「お待たせしました、只今より出発致します」


 カランカランと備え付けのハンドベルを鳴らし、手綱を引く御者の人。

それと同時に馬車がガタゴトと動き始めた。


 金属製の車輪から荷台まで直に繋がってる所為か、かなりの揺れを感じる。


「うわ、結構揺れるね」

「なに言ってるのよ、町の外へ出たらもっと揺れるわよ?」

「うぇ、まだ揺れが酷くなるの?」

「慣れないと、喋った時に舌噛むかもね」


 そこまで揺れるんだ……酔い止め持ってて正解だったかもしんないなー。

マレイトさんに感謝っ。






 町を出てから、途中何回か休憩を挟んだところで、見張りの交代って事でスフィルが御者台の横へと移動してしまった。


 そして私は絶賛暇を持て余し中である。


 揺れに慣れてからは、スフィルとお喋りしたり一緒にお弁当を食べたりしていたのだが、彼女が行ってしまってからは外の景色をぼーっと眺めるだけになっている。


 楽しんで外の景色を見ていたのも最初だけで、しばらくすると代わり映えのしない風景が延々と続くだけになったので、いい加減飽きてしまった。


 スフィルが退屈な仕事って言ってたの分かる気がするわー……。


 他にする事もないので、そう思いながらも視線を外へと向ける。

すると、先ほどまでは青空だったのが、いつの間にかどんよりと暗く曇ってきているのに気がついた。


 あらら、これは一雨くるかな?


 そう思った瞬間、ポツリ、ポツリと水滴が落ちてきたかと思うと、あっという間に雨になってしまった。


 サーッという音と共に降り注ぐ雨。幌のお陰で濡れる事はないが、馬車から見える景色に幾分かの変化が訪れる。


 たまには雨もいいかなー。なんだか落ち着くし。


 なんて事を思いながらもそのままぼーっと雨の降る景色を眺めていると、朝が早かった所為か、なんだか眠たくなってきた。


 あー、こりゃヤバイかな……。


 そう思ったのも束の間、私の意識は眠りへと落ちていった。






 サーサーと降りしきる雨の音にふと目が覚める。

ガタゴトと断続して伝わってくる揺れに、ここが馬車の上であることを思い出す。


 う、寝ちゃったんだっけか、確か。


 凝り固まった体をほぐして大きく伸びをすると、隣からスフィルの声が聞こえてきた。


「あ、やっと起きた?」

「……うん、さっき起きた。ところで見張りはどうしたの?」

「とっくに交代したわよ。

 戻ってきたら、なんかハルナは寝ちゃってるし。無用心よ?」

「ごめんごめん、退屈で雨眺めてたらなんか眠くなっちゃって」

「ま、退屈なのはしょうがないと思うけど。

 それよりもうすぐ、1泊する予定の村に到着するわよ」

「あれ、私そんなに寝てた?」


 もう日が沈むのかと空を見上げてみるが、どんよりとした雨雲が見えるばかりで太陽の位置はよく分からない。


「アタシが交代して戻ってきた時には、まだ寝てたわね。そこからはまだ、そんなに時間は経ってないけど」


 とすると、寝てたのは3時間ぐらいか?


 いずれにせよ、暗くなるまでにはまだまだ時間がありそうに思える。


「そっか。それにしても、もうここで1泊するんだ? まだ明るいから、もう少し進むのかと思ってたけど」

「この次の村までは、結構距離があるからね。このまま進むと、道半ばで野宿する羽目になるのよ」

「なるほど」


 スフィルとお喋りしている内に村へと入ったらしく、景色がガラリと変わった。


 そのまま馬車は民家や商店が立ち並ぶ広い道をゆっくりと進んでいたが、やがて馬車の絵が描かれた看板のある建物の前まで来るとそこで停車した。


 御者の人がハンドベルをカランカランと鳴らして告げる。


「長らくのご乗車お疲れ様でした、本日の行程はここまでとなります。

 明日も続けて馬車を利用される方は、明日、日の出と同時に出発となりますので、お乗り遅れのないようお願い致します」


 う、予想してたとはいえ、やっぱ日の出と同時かー。

あと4日掛かるっていうし、しばらくは朝がキツそうだわこりゃ。


 多少げんなりしつつも馬車を降り、んーっと伸びをしているとスフィルが声を掛けてくる。


「確かハルナは、こっちへ来るのは初めてだったよね。

 アタシはこれから宿を取りに行くんだけど、一緒にどう?」

「もちろん同行させていただきます」

「りょーかい、それじゃ行きましょ」


 スフィルの案内の元、私達は宿へと向けて歩き出した。


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