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33 旅支度

 がちゃりと扉を開けて店の中へと入る。


「いらっしゃい……と、嬢ちゃん達か。今日も2人で来たんじゃな」


 マレイトさんが声を掛けてくる。


「以前言ってた、王都まで行く日が近いですからね。今日はその準備です」

「なるほどの。そっちの嬢ちゃんは、その付き添いかの?」

「ええ、そんなとこです」

「そうか。それならわしがあれこれ言う必要もあるまい。買う物が決まったのなら、また声を掛けてくれい」


 そう言ってマレイトさんはカウンターの奥へと引っ込んでしまった。


 こらこら、客を放ってどこへ行く。


「えーと……。とりあえず見て回りましょ」

「そーだね。スフィル、よろしく」


 マレイトさんの行動に呆れつつも、スフィルと2人で店内を見て回る。

着替えはいくつか買ってあるので、主に見ていくのは鞄や水袋といった品だ。


 水袋は2重になってるやつを~とか、破れた時のために予備を~とか、スフィルのアドバイスを受けながら買う品を決めていく。


 馬車で王都まで往復するのに、そんな重装備は必要ないという話になり、肩紐がついた中ぐらいの鞄に水袋を3枚、それから普通の小袋を2枚に加え、干し肉っぽい携帯食料を買う事にする。


「大体こんなとこかしら……ああ、これもあったわね」


 そう言ってスフィルから示されたのは、ハンカチっぽい感じの大き目の布。


「2~3枚持ってるとなにかと便利よ。いざって時に包帯にもなるし」

「へぇ、なるほど」


 怪我には一応治癒魔法もあるわけだが、色々使えそうなのでこれも買っておく事にする。


「こんなもんかしらね……」

「了解、それじゃ買っちゃいますか」


 カウンターに行き、大きな声でマレイトさんを呼ぶ。


「マレイトさーん、買う物決まりましたよー」

「おーぅ、今行くぞい」


 カウンターの奥から返事と共にマレイトさんが戻ってきた。


「これだけお願いします」

「ふむ、……全部で半銀貨5枚と銅貨5枚じゃな」

「分かりました」


 財布より、半銀貨5枚と銅貨5枚を取り出して支払う。


「あとはこれをオマケしておこう」


 マレイトさんが手に持って見せてくれたのは、乾燥した葉っぱのようなものが3枚。


「なんですか、これ?」

「ある植物の葉を乾燥させた物じゃ。お主、確か馬車で王都まで行くんじゃろ?」

「ええ、そのつもりですけど」

「馬車での移動中に気分が悪くなったらコイツを噛むといいじゃろ、スーッとするぞい」


 つまり酔い止めですか。


「いいですねそれ。ありがたく頂きます」


 マレイトさんより葉っぱを受け取り、よく見てみる。

見た感じハッカの葉を手のひらサイズまで大きくしたような感じだ。


 ひょっとしたら味もハッカ味だったりして……。


 なんにせよ、馬車に乗るのは初めてなので、こういった品はとてもありがたい。


 買った商品を鞄の中へと片付けていると、マレイトさんが話し掛けてきた。


「そういや嬢ちゃん達は知っとるかの? 昨日そこの市場で、バカでかい蟻が出現して大暴れしていきおったのじゃが……」


 よく知ってます。


「わしは昨日店を閉めておったから、後で話を聞いただけなんじゃがの。

 なんでも魔術師ギルドの新兵器が、両手と口から炎の球を吐いてそいつを退治したと聞いてな。

 珍しい物好きのわしとしては、それが非常に気になるでな。嬢ちゃん達はなにか見とらんかの?」


 それを聞いて、思わず床に突っ伏す私と隣で爆笑するスフィル。


 マレイトさぁぁん、アナタもですかっ!?

しかもなんか無駄にパワーアップしてるしっ。


 はぁ、お願いですからそんな話を信じないで下さい……。


 マレイトさんは意味がわからず、その場でうろたえている。


「なんじゃ? わし、なにか変な事を聞いたかの?」


 おろおろするマレイトさんに、スフィルが笑いながらも事情を説明し始める。


「変っていうか、あのね……」






「わはははは、そういう事じゃったのか。そりゃすまんかったのう」


 事情を聞いたマレイトさんに大爆笑された。


「いやしかし、嬢ちゃんが噂の魔道人形じゃったとはな」

「うぅ、酷いですよ、マレイトさん」

「しかしまあ、話を聞く限りじゃと勘違いされてもしょうがないと思うぞい?」


 マレイトさんがそこまで言うって……。


「まあ、実際に見てたアタシも顔が引きつりましたからねー、アレ。

 一瞬で魔法陣が浮かび上がったかと思うと、スゴイ勢いで火の玉を連続でいくつもいくつも撃ち出すって、どこの戦術兵器を持ってきたかと思いましたし」

「たまたま借りた杖に入ってた魔法を使っただけなんだけどなー。

 あの時は、素早く撃てる攻撃魔法がなきゃヤバイって思ってたし」

「あの規模の魔法を連発して、けろっとしてるアンタも相当なモンだと思うけど……。

 まあ実際、それで助かったんだから文句はないんだけどさ」

「いやしかし、その魔法というのは気になるのう。わしの知っておる魔法の中で、杖に込められる上、そこまでの威力を持った魔法というのは、心当たりがないのでな」

「魔法については、杖を持ってた魔法店の若旦那さんにでも聞いてみてください。今回私は杖を借りただけですので」


 それにしてもここまで言われるって、あの杖には一体何が入ってたんだ?


「ふむ、まあそうじゃな。折を見て訪ねてみるとするかの」

「それがいいと思いますよ」


 そういえば私も、お礼にって杖をもらったんだっけ。

私じゃよく分かんないし、一応専門家に見てもらうかなー。


「マレイトさん、ちょっといいですか?」

「ん、なんじゃ?」

「昨日の騒動で、魔法店の若旦那さんを助けたんですけど、そのお礼にって今日こんな物もらったんですよ」


 そう言って、箱に入ったままの杖を取り出し開封する。


「ふむ、短い方の杖じゃな」

「もらい物なので性能とかよく分からないんですよ。どうなんですかこれ?」


 高そうって事なら分かるんだけど。


「ふむ。手に取っても構わんかの?」

「ええ、どうぞ」

「ふむ……」


 しばらく杖を調べていたマレイトさんだが、やがて顔を上げると息を吐いた。


「どうなんですか、それ?」

「元は普通のワンドじゃな。少々手が加えられておるがの」

「それって、どういう事ですか?」

「かなりの魔力に耐えられるように改良されておるわい。

 そうじゃな、分かりやすく言えば、嬢ちゃんが使うことを前提として改良してあるといったとこかの」


 いきなり専用装備ですかっ!?


「そりゃまた……」

「あと、魔法はまだなにも登録されておらんようじゃの。ついでじゃから、今ここで登録して行ったらどうかの?」


 あー、杖への魔法の登録っか。


「……そうですね、やっておきます。どうやるんですか?」


 せっかく私向けの調節までしてもらってるのだ。このまま使わないってのはあまりにも勿体無いので、この杖はありがたく使わせてもらう事にする。


「そうじゃな、方法は色々とあるが……一番手っ取り早い方法で行くかの。

 とりあえず先に、登録したい魔法を決めるんじゃ」


 杖に登録する魔法か。何がいいんだろう?

素早く使いたい魔法を登録するのがよさそうだから、昨日の経験からして『火炎弾』辺りかな。


「これって、別の魔法も後から登録し直せるんですよね?」

「うむ。上書きといった形になるがの、先に登録してある魔法陣との入れ替えは可能じゃよ」


 そかそか。それならまずは『火炎弾』でやってみよう。


「決めました、『火炎弾』でやります」

「無難なとこじゃな。ではまずは、『火炎弾』の魔法陣を作るんじゃ」


 言われた通り、グリモアを取り出し『火炎弾』の魔法陣を作成する。


「大分魔法陣の作成が早くなってきたのう……。

 次はそのまま、杖の出っ張りに触りながら、杖の先端の、魔石の部分を魔法陣に当てるんじゃ」


 対応するボタンを決めるのかな。


 とりあえず一番手前のボタンに指を乗せ、魔法陣に杖の先端にくっついてる魔石を押し当てる。


「あとはそのままの体勢で少し待てば、魔法陣が杖に吸い込まれるでな。それで登録は完了じゃ」


 ふむふむ、なるほど。


 魔法陣を維持したままで20秒ぐらい経過した頃、マレイトさんの言った通り、魔法陣が杖の中へとひゅるんと吸い込まれてしまった。


 おー、ホントに入っちゃったよ。


「ふむ、上手くいったようじゃの。あとはちゃんと登録されてるかどうか、一度試しておくといいじゃろ」

「分かりました」


 そう言って、杖に魔力を込めると即座に展開される『火炎弾』の魔法陣。


「大丈夫のようじゃな。本来ならここで発動させて効果も見るんじゃが、ここは店の中なのでな。今は勘弁してくれい」

「いや、さすがにやりませんって」


 こんなところで『火炎弾』なんか撃ったら火事になってしまう。


「まあ、使う前に一度、どこか広い場所で試しておくのがよかろうて」

「そうですね、またやっておきます」


 あとは実際に撃てるかテストしておしまいか。

杖の件は大体こんなとこかなー。


「ハルナ、終わった?」


 話が一段落したのを見取ってか、スフィルが話し掛けてきた。


「あ、うん。ごめん、お待たせ」

「大丈夫だよ、色々興味深かったしね。

 それにしても、専用に調整された杖なんて、すごい物貰ったわね」

「あー、やっぱ高いんだ、これ?」

「安く見積もっても半金貨単位よ? これ」


 半金貨ってーと……10万単位!?

あー、でもグリモアもそのぐらいするらしいから、そんなもんなのか。


「そんな物をポンと送っちゃうとか、よっぽど恩に感じてるのか、それともハルナに気でもあるのか……?」


 ぶっ。


「ちょ、なんでイキナリそうなるのっ!?」

「いやだって、いくら恩人だ、ってもそこまで高価な物贈んないでしょ」

「確かにそうかもしんないけどさ……」

「で、ハルナ的にはどうなの? いい感じ?」


 ふーっと息を吐いて話を続ける。


「会ったばっかのおっちゃん相手に、なにを期待してるかな……」

「あらら、これじゃ道は遠そうねー」

「変な期待しないの。ほら、ここで買う物はこれで終わりでしょ?」

「はいはい。んじゃ、次行きましょ」


 次? まだなんか買うものなんてあったっけ。


「次はアンタの外套を買いに行くわよ。いつまでもその黒いの1着ってわけにもいかないでしょ」


 いやこのローブは死神のトレードマークで、出し入れすれば汚れとか完璧に消える……って説明出来るかっ。


 うぅ、しょうがない。単純に着る物が増えると前向きに考えよう。


「りょーかい。

 それじゃマレイトさん、ありがとうございました」

「うむ、気をつけて行くんじゃぞ」


 マレイトさんの見送りの元、雑貨店を出た私達は服屋へ向けて歩き出した。


専用に調整、といっても「対魔力方面を強化しておこう」程度の大雑把な調整です。

本来の調整はもっと細かくやるものなので、それとは程遠いです。


次話はここから少々時間が飛んで、出発日となります。

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