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32 町のウワサ

冒頭のこの2人って、久々に登場した気がする。

 朝食後、部屋で王都まで持って行く物を考えつつ、今日の買い物について考えていると、ノックの音が響いた。


「はーい?」

「ハルナ様、セルデス様がお呼びです。先程、冒険者ギルドより言伝を預かったと」


 言伝? なんだろう。


「分かりました、すぐ伺いますー」

「お待ちしております」


 軽く身だしなみを整えてドアを開け、待機していたグリックさんに声を掛ける。


「お待たせしました」

「それでは、ご案内させて頂きます」


 グリックさんに案内されて、到着したのはセルデスさんの執務室。

コンコンとノックをし、返事を確認してから部屋に入る。


「失礼します、セルデスさん」

「ああ、急に呼び立ててすまないね。

 聞いているとは思うが、冒険者ギルドから君宛に言伝が来ているのだ」

「分かりました。とりあえず聞かせてもらえますか?」

「ああ。『手が空いている時で構わないので、冒険者ギルドへと来て欲しい』と」


 ギルドへねぇ。ひょっとしてまた依頼だろーか?

支部長のデルディさんも、またお願いするみたいな事を言ってたし。


 でも、手が空いている時って事は急ぎじゃないのかな。


「ギルドには昨日行ったとこなんですが……」

「まあ、呼ばれたからには一度行ってみるのがよかろう。急ぎの話ではないようだしな」

「そうですね、今日これから行ってみる事にします」


 お昼からスフィルとも約束してるしね。


「わかった、気をつけて行きなさい」

「はい。言伝、ありがとうございました」


 そう言って部屋を退室した私は、外出の準備をするべく部屋へと戻った。






「行ってらっしゃいませ、ハルナ様」

「行ってきます、グリックさん」


 グリックさんに見送られ、まずは市場へと向かって歩く。

冒険者ギルドに行くには一度市場を経由する必要があるのだ。


 しばらく歩き続け、市場を通り掛かるとなにやら人垣が出来ており、その向こうには昨日の巨大な蟻の死骸が残っているのが見える。


 アレってまだ残ってたんだ……。


 よく見れば自警団の張った天幕もまだ残っており、後片付けをしているようである。

自警団の天幕の所為で露店こそ見られないが、既に辺りはきれいに片付けられており、無事だった店は商売を始めているようだ。


 たくましいなー、と思いつつ人垣の横を抜け、冒険者ギルドを目指そうとしたところでこんな話が漏れ聞こえてきた。


 ──……すげえデカイ蟻だな、こんなもんどうやって倒したんだ?

 ──……魔術師ギルドの作った新兵器が使われたって話だぞ。

 ──……違うって、火の玉をばら撒く魔道人形だって聞いたぞ。すげえ勢いで両腕から火の玉がを撒き散らすそうだ。市場が壊されたのも大半そいつがやったって言うしよ。

 ──……いや、可愛い女の子だったらしいぞ。

 ──……えーと、結局どういう事だそりゃ?

 ──……つまりまとめるとだ。魔術師ギルドの作った新兵器である女性型の魔道人形が火の玉をばら撒きまくって市場を壊しつつあのデカイ蟻を仕留めたって事だな。

 ──……なるほど、そういう事か。


 なんか噂になってるうぅ!?


 てゆか魔道人形ってなによ。私、人造人間扱い!? あとさり気に市場を破壊した事になってるしっ!?

可愛い女の子ってのはともかく、最後まとめるな、そして納得するなーっ!?


 思わず叫び出したくなるのをこらえて早足で市場を後にする。

あのままあそこに留まり続けたら神経が持たないわ、絶対……。






 早足で歩き続けた所為か、予定してたよりも大分早めに冒険者ギルドに到着した私は早速受付へと向かう。


「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件でしょうか」

「冒険者ギルドより伝言を受けてきました、ハルナと言います。

 手の空いている時に来て欲しいとの事でしたけど……」

「はい、お話は伺っております。担当の者を呼んで参りますので、そちらの席で少々お待ちいただけますでしょうか」

「分かりました」


 そう言って、言われた席へと移動する。

そのまま座って待っていると、奥の扉が開き、支部長のデルディさんが出てきてこちらにやってきた。


「お待たせをした。再三にわたる呼び出し、すまなく思っている。そして、それに応じてくれたアナタに感謝する」


 相変らず難しい喋り方する人だなー。


「今回、アナタをお呼びしたのは、依頼等ではなく、直接アナタに渡してほしいと頼まれた物があるからなのだ」

「渡してほしい物、ですか」

「ああ。早速だが渡しておこう、この品だ」


 そう言って渡されたのは、長さ50cmぐらいの細長い木製の箱。


「なんですか、これ?」

「蓋を開けて、中の品をあらためてほしい」


 言われるままに木箱の蓋を開く。

中に入っていたのは、布に包まれた1本の棒状の物。


 そのまま布をほどいて中を見てみると、1本の短い杖がそこに収められていた。


「これって杖、ですよね? なんで私に?」

「今朝、市場で魔法店を営んでいるタラス氏からギルドに持ち込まれたのだ。

 助けてくれた事と治療へのお礼として、アナタに渡してほしいとね」


 魔法店の人で助けて治療したって、あのおっちゃんの事だな。

恐らく、親方→自警団→冒険者ギルドの流れて私に辿りついたんだろう。


「その人の名前は聞いてないですが、誰の事かは分かりました。

 わざわざ言伝まで、ありがとうございます」


 しかしこれって、かなり高いモノではなかろーか。

杖は欲しかったからありがたいけど、こんなの貰っちゃってもいいのかな。


「それから、昨日の市場での騒動についてだが、既にあの場に居合わせたギルド員より報告は受けている。アナタのお陰で事を迅速に収められたと、皆、感謝していた。

 なぜこのような事が起こったかは目下調査中ではあるが、ギルドを代表して礼を言わせて頂きたい」

「あれはたまたまその場に居合わせただけなんですけど……とりあえず、大きな怪我人とかは出なかったようでなによりです」

「そうだな、死傷者が出なかったのが幸いではあるな」


 ホント、大事なくてよかったよ。


「さて、私の方からの用件は以上となるが、アナタからなにか聞きたい事とかは?」

「……いえ、特にありません」


 聞きたかった蟻の発生原因とかも調査中っぽいしね。


「そうか。では、私はこれで失礼させて頂く」

「はい、ありがとうございました」


 それだけ言うとデルディさんはさっと席を立ち奥へと入っていってしまった。


 相変らず行動が早い人だなー……。


 まあ、それはさておき。

私のギルドでの用事はこれで終わったわけだけど、どうしたもんか。


 スフィルとの約束まではまだ時間があるし、一旦帰るのも時間的に微妙で困る。

かといって今の市場で時間を潰すのはちょっとアレだし……。


 どうしたもんかと考え込んでいると、ギルドの扉を開けてスフィルが中に入ってくるのが目に入った。


 あれ? 約束までまだあるはずだけど……。


 そう思ってじーっとスフィルを眺めていると、私に気が付いたのか、小さく手を振るとこちらへと近付いて来た。


「あれ、ハルナ。えらく早いね」

「ちょっとギルドに用事があってね。今さっき終わったとこだけど」

「そうなんだ。ところで……」


 スフィルがにやっと笑って私に近寄ると、声を落として話しだす。


「聞いたわよ、ウ・ワ・サ」


 ───ぐふっ。


 思わず突っ伏す私の様子を見て、スフィルが笑いながら話し続ける。


「その様子だとアンタも知ってるみたいねー。いやもうスゴイ事になってるわ」

「スフィルうぅ、真相を知ってるんだからなんとか止めてよっ」


 がばっと起き上がり、スフィルに飛びつき訴える。


「いや、アタシが否定してもどうにもなんないと思うし」

「そうかもしんないけどさぁ……」

「それにしてもアレ、聞いたときは笑いをこらえるのに大変だったわ。笑うのを我慢しすぎて涙まで出てくるしさ」


 その時の事を思い出したのか、くすくすと笑いながら話し続けている。


「他人事だと思ってぇ……」


 じろっとスフィルを睨みつける。


「ごめんごめん、もう笑わないから。

 それじゃ、どうする? 待ち合わせは昼からだったけど、今からもう行く?」

「はぁ……。まあ、私は今からでも大丈夫だけど。

 スフィルはギルドになにか用事があって来たんじゃないの?」

「アタシの用事は後からでも問題ないからね。ここで待っててもらうのも気が引けるし」

「別にそれでもいいんだけどなぁ」

「気にしない気にしない。行きましょう」


 スフィルはさっとギルドの扉をくぐり出て行ってしまった。

私も慌てて後を追う。


「えーと、まずは雑貨店だっけ」

「予定だとそうだったわね。それで、もし閉まってるようなら、アタシの行きつけのお店へ行くっと」

「了解了解」


 2人で並んで歩いていると、市場に差し掛かったところで、残された巨大な蟻の死骸を見上げながらスフィルが話し掛けてきた。


「そういえば、アレの片付け、相当苦労してるみたいよ。ギルドにも『後片付けの手伝い求む』って依頼が来てるのを見たわ」

「へぇ、そうなんだ。やっぱり自警団から?」

「正解。そのままだと重くて動かせないし、硬くて分解も手間取るしで音をあげたようね。

 多分そのうち、魔術師ギルドにも要請が行くんじゃないかな」

「うわ、そりゃまた大事だね……」


 そんな話をしながら市場を通り過ぎたところで、1本奥の道へと入る。


 さて、今日はお店、開いてるかな?


ウワサ話のネタに一番苦労したっていう。

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