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30 市場での騒動 その2

 ずりずりとおっちゃんを運んでいると横から不意に声を掛けられた。


「手伝うぜ、嬢ちゃん」


 掛けられた声に振り返ってみれば、身長130cmぐらいの、糸目で青い髪の毛とあご髭を持ったがっしりとした感じの老人(?)が立っていた。


 とにかく今は急ぎたいのでありがたく手を借りる事にする。


「すみません、お願いします」

「任せときなって」


 そう言ってひょいっとおっちゃんを担ぎ上げる糸目の爺ちゃん。


「ん? こいつぁ魔法店の若旦那じゃねぇか」


 魔法店? そう言えば俺の店に~とかなんとか言ってたっけ。

この人が杖持ってたのはそれでか。


「お知り合いですか?」

「同じ通りに店を構える仲間ではあるわな。顔見知りだよ」

「なるほど」


 私より身長が低い所為かずりずり引き摺る形になるが、小走りするのと変わらない速度でおっちゃんが運ばれていく。


 うわ、見かけによらず、すんごい力。


 助けてもらったお陰で、割とすぐに人が居る部分まで到着出来た。

お礼を言っておっちゃんをそっと地面に寝かせてもらう。


「ありがとうございます、助かりました」

「気にすんな、嬢ちゃん。みんな逃げちまった中で、人を担いで助けようって珍しいヤツを見たら放っとけなくなっただけだ。

 それより若旦那の手当てをしねぇとな……腕以外も大分ボロボロになってやがるし」


 ……膝の擦り傷はアナタがずりずりと引き摺った所為じゃないんでしょーか。

今ココで言ってもしょうがないから黙ってるけどさ。


「ちょいと応急手当の道具持ってくるから、ここで待っててくれ。すぐ戻るからよ」

「あ、それなら大丈夫で……って行っちゃったし」


 せっかちな人だなー……。


 とりあえず治療せねば、と私はグリモアを取り出す。確か『負傷治癒』の魔法が入ってたはずだ。


 グリモアを開き、おっちゃんの上で魔法陣を組み上げて魔力を流す。

すると魔法陣から柔らかな光が差し、光に照らされた部分から傷が瞬く間に癒えていく。


 おー、いい感じ。魔法って便利だなー。


 『負傷治癒』の魔法に感心しつつ治療をしていると、気がついたのか、おっちゃんがもぞもぞと動き出した。

今動かれて魔法の効果範囲から出られても困るので制止をかける。


「今治してますからねー、ちょっと動かないでくださいよー」


 私の声が届いたのか、ぴたっと動きを止めて目を開くおっちゃん。


「アンタはさっきの……」


 全身の傷が消えたところで、魔力を流すのを止める。


「はい、終わりました。まだ痛むところはありますか?」

「いや、大丈夫だ……アンタ、魔術師だったんだな。

 ありがとう、助かったよ」


 そこに糸目の爺ちゃんがなにやら布袋を抱えて戻って来た。


「待たせたな、嬢ちゃん……っておう?」


 おっちゃんが起きているのを見て目を見開く糸目の爺ちゃん。


 おぉ、爺ちゃんの目が見えたよ。青目だったんだ、この人。


 妙な部分で感心してる私を他所に話し出す2人。


「起きたのか、若旦那。怪我の具合はどうでぇ?」

「ああ、大丈夫だ親方。こっちのお嬢さんに魔法で治してもらったようでな、……もうなんともない」

「なんでぇ、嬢ちゃんって魔術師だったのか。それなら急いでコイツを取りに行く必要もなかったな……。

 まあ、なんにせよ感謝しとけよ若旦那。その嬢ちゃんがアンタを担ぎ上げてここまで運んでくれたんだからな」

「途中から、アナタにも手伝ってもらいましたけどね」


 ずりずり引き摺ったのは内緒にしとこう、うん。


「そうでしたか……いや、助かりました」


 こちらに向き直り頭を下げるおっちゃん。


「もう無茶はしないで下さいよ。巻き込まれた時はどうなるかと思ったんですから」


 一緒に跳ね飛ばされるわスフィルが足止めに残るわ。

割と危機一髪だった気がする。


 そういえばスフィルは大丈夫かな。

心配だけど、今ここで私が出て行っても何も出来ないんだよねー……。


 『火炎弾』の魔法はあるけど、あんな相手から逃げつつ魔法陣を組むなんてとてもじゃないけど無理だし。


 下手に出て行くと逆に足を引っ張る事になりかねないしなー。

歯がゆいけど、大人しくここで待ってるしかないか。


「お、どうやら増援が来たみてえだな」


 広場の方に目を向けてみれば、巨大蟻の周りを取り囲んで戦ってるらしき数名の人物が。


「あれが自警団ですか?」

「いんや、自警団にしちゃ数が少なすぎる。ありゃ多分、冒険者ギルドの人間だな。たまたま近くに居合わせたんだろ」


 なるほど、騒ぎを聞きつけてやってきたってとこか。


「にしてもまじぃな……」

「どうしたんですか?」

「どうやら相手が硬すぎるみてぇだ。あの巨大蟻の野郎、全然堪えてる様子がねぇな。

 このままだとジリ貧だぞこりゃ……」


 えー……そこまで硬いわけ?


「魔法ならいけるんじゃないですか?」


 確かこのおっちゃんの魔法は、あの巨大蟻にそれなりのダメージを与えてたはず。


「魔法ならな。ただ魔術師は数が少ねぇからなぁ……。

 あっちの冒険者どもの中にも魔術師は居ねぇようだし、この場ですぐ動ける魔術師ってなると嬢ちゃんぐらいじゃねえか?」

「うわ、マジですか……」


 あれ、ひょっとしてこの状況って詰んでない?


「……もしかして今の状況って相当マズイですか?」

「ああ、かなりやべぇな。足止めしてる連中もいつまでも体力が続くわけじゃあるめぇし、相手のあの図体からして1発貰ったら動けなくなっちまうだろうしなぁ。

 あとは自警団が早々に来てくれる事を祈るぐれぇしか……」


 うわ、それってかなりヤバイじゃない。

それにあの中にはスフィルが混じってる。彼女に危機が及ぶ前にどうにかしたい。


 私が出て行って『火炎弾』を撃てれば話が早いんだろうけど、まだ魔法陣を組み立てるのに時間が掛かる上に、あれだけの巨体だといくら威力があるとしても、初級魔法の1発で倒せるかどうか。


 それも1発で仕留めないとマズイ。もし2発目が必要になった場合、私が次の魔法陣を組み立てるまでの時間で確実に踏み潰されてしまう。


 誰かに足止めをお願いしようにもあの巨体が相手だ、本気で突撃されたら止めれる人なんて居ないだろう。


 1発目でうまく行動不能になってくれればいいんだけどなぁ……。


 例え1発で行動不能にしても、撃った段階で他の蟻がこっちにやってくればそこでアウトだ。……ああもう、問題だらけだ。せめて魔法陣さえ高速に作れれば……。


 ……っていい方法があるじゃない! おっちゃんの使ってた杖!


 勢い込んでおっちゃんに突撃する。


「若旦那、でしたっけ。杖貸してください、杖! さっきの火の玉撃ったやつ!」

「え? あ、ああ。あれなら手に……」


 そう言って自分の手を眺めたあと、わたわたと体中をまさぐるおっちゃん。


 えぇと、まさか失くした?


 あれだけ派手に吹っ飛ばされたので落としても別に不思議ではないのだが……。

ああもう、色々と間が悪すぎる。


「嬢ちゃん、アンタの言う杖ってのは、あそこに転がっとるコレぐらいの短い杖の事か?」


 指された先に目をやると、30mぐらい先に何か棒状の物が落ちてる。


「確かに何か落ちてますけど……あれって杖なんですか?」

「ありゃ杖だな、俺の目は確かだ。特に折れてるなんて事もねぇみてえだな」

「分かりました、ありがとうございます」


 それなら、あれを拾えばそのまま使えるはずだ。


「若旦那、杖、お借りしますね!」

「え、あ? おい!?」


 一声かけて杖に向かって走り出す。おっちゃんが何か言ってたが、それは気にしない事にする。


 30mを一気に走り抜け、落ちてた物を拾い上げる。パッと見だが、確かにおっちゃんの使ってた杖のようだ。


 よし、これでいけるっ。


 杖を右手に持ち手近な巨大蟻に向けて構える。

この杖には何故かボタンが1つしかないようなので、迷わずそれに指を乗せ、魔力を流して魔法陣を展開する。


「いっけぇ!」


 掛け声と共に魔法陣に魔力を流す。

魔法陣が赤く発光し、ボボボボボン!という音と共に、十数発の炎の球が連続で飛び出し巨大蟻に向かって飛来する。


 え、なんか数多くない?


 疑問に思う間もなく、ドゴゴゴゴゴッ!っと冗談みたいな音を立てて命中し、巨大蟻を地面に打ち倒す。


 ずずーんと音を立てて倒れた巨大蟻はぴくぴくと足を動かしていたが、やがてそのまま動かなくなってしまった。


 呆然となる私。ついでに固まる蟻の足元で戦ってた人達。


 なにこれ、機関銃……ってか連射ロケットランチャー?


 ……まあ、なんにせよ今は頼もしいんだけど。


 倒れた蟻の方に目を向けるが、幸いにも蟻に押し潰された人は居ないようだ。

頭を振って気を取り直し、戦ってた人達に近付き声を掛ける。


「すみませーん、大丈夫でしたかー?」

「今のはあんたが……?」

「すみません、ここまで威力があるとは思わなくて……」


 そう言いながら戦ってた人達をざっと見回すが、スフィルの姿は見当たらない。

ここじゃなく、別の蟻のところか。


 それなら次だ、次。


 辺りをざっと見回し、残る2匹の蟻の近い方に向けて魔法陣を展開する。

それを見た人が、別の蟻の足元で戦ってる人達に向けて声を張り上げた。


「おーい、そっちのヤツ! 今からデカイ魔法が行くぞ、気をつけろ!!」


 その声に気がついたのか、蟻の足元から人が離れたので、そこへ再び十数発の炎の球を発射する。


 ズドドドドドドドッ!


 狙い通りに命中。そして炎の球の勢いに押し倒され、そのまま動かなくなる巨大蟻。


 顔を引きつらせる周りの人達を他所に、新たに倒した蟻の方へと近付きキョロキョロと辺りを見回す。


「ハルナ!」


 呼ばれた方に振り向くと、そこにスフィルが立っていた。

ずっと走り回ってた所為か、ゼイゼイと荒い息をしてる。


 よかった、ひとまずは無事だったようだ。


「スフィル、大丈夫だった!?」

「ええ、なんとかね……。それより今の魔法って、ハルナだよね」

「うん、あの助けた人から杖を借りてね」

「ありがと、助かったわ。そろそろ体力が限界だったのよ……」


 そうやってスフィルの無事を確認していると、横から声を掛けられた。


「ああ、ちょっとすまないが……」

「なんですか?」

「あのデカブツがまだ1匹残ってるんだ。魔術師の嬢ちゃん、すまないがもう1発お願い出来ないか?」


 おっと、そーだった。まだもう1匹残ってたんだっけ。


「ハルナ、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、まだまだ余裕だよ。

 すみません、あっちで戦ってる人に警告をお願い出来ますか?」

「ああ、そのぐらいなら任せときな」


 そう言って最後の1匹に向け、杖を構えて魔法陣を展開する。

あっという間に展開される魔法陣を見ながら内心でため息を1つ。


 こんなに威力あるなら魔法陣を作る速度なんて気にしなくてもよかったなー。


「って展開はえぇな……。

 おーい、そっちで戦ってるヤツ! もう1発魔法が行くぞ!!」


 声に気付いた人達が、最後の1匹から人が離れた頃を見計らって魔法を発射する。

シュボボボボッ!と凄まじい勢いで連続発射される炎の球に、思わず1歩後ろに下がる周りの人達。


 うぅ、なんか引かれてるよ……。


 炎の球の一斉射撃を受けた最後の1匹が地響き立てて横倒しになる。

こちらも少しの間ぴくぴくとはしていたが、しばらくすると動かなくなった。


「すげぇな、嬢ちゃん……」


 呆れたような誰かの声を聞きながら、私はふうっと1つ息を吐いた。


死神が生き物を殺していいのかという疑問が出てきそうなのでここで補足を。


 この小説の設定では、死神が生き物を殺してはいけないといった決まりはありません。

普通死神は実体を持たない為に、他の生物への干渉が出来ないだけなのです。

(死者以外へ大鎌が振るわれた場合でもその人は死亡します。そんな事をする人物は死神になれませんが)

 ハルナは実体があるので他の生物への色々な干渉が可能となっています。


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