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29 市場での騒動 その1

微妙に流血表現があります。苦手な方はご注意を。

 ギルドから出たところで後ろからポンと肩を叩かれた。

振り返ってみるとスフィルが後ろに立っている。


「あれ、スフィル。居たの?」

「ギルド出る前からずっと後ろに居たわよ。気付かなかったの?」


 てゆかスフィルの事すっかり忘れてた……。


「ゴメン、完っ璧に忘れてたわ」

「うわ、酷いなぁ。……ところで、ハルナはこれからどうするの?」

「今考えてたとこ。どうするかなー」


 そう言えば王都に行く日も近くなってきたし、そろそろ旅支度とかをするべきか?

でも何を用意すればいいのやら。鞄1つで電車旅行~なんて軽いモンでもないだろーし。


 雑貨店に行ってマレイトさんでも聞いてみるかな?


 ……ってそんな事しなくても、よく考えたら目の前にちょうどいい人が居るじゃない。


「ねえスフィル、共用馬車で王都まで行った事ってある?」

「え? そりゃあるけど……いきなりどうしたの?」

「私、3日後に共用馬車で王都まで行く事になってるんだけど、まだ王都って行った事なくてさ。準備しといた方がいい物とかあったら教えてくれないかなーって」

「え、ハルナって王都行っちゃうんだ?」

「ちょっと儀式を受けにね。終わったらまたここまで戻ってくるつもり」

「なるほど。でも共用馬車で行くなら大した準備は必要ないと思うけど。

 別段野宿するってわけでもないんだし」

「そうなんだ?」

「確か5日程掛かったけど、ちゃんと毎晩宿に泊まれたと思うよ。もちろん宿代は必要だけど」


 おー、それはありがたい。最悪馬車の中で寝泊りするのかと思ってたよ。


「……もしかしてさっき、ギルドで自衛用の魔法を貰ってたのはそういう事?」

「うん、まあそんなとこ。

 で、どうなの? 着替えの他何か持っていった方がいい物ってある?」

「そうねー……服は鞄に詰めてくとして、その他だと水袋とか、念のための携帯食料ぐらいじゃないかな。あとはモチロンお金と。

 野宿とかするつもりならもっと用意は必要になるけど……」

「いや、さすがに野宿するつもりはないから」

「あはは。でも旅をするってのならともかく、王都まで行く程度ならそんなもんだと思うよ」


 そうなると私に必要なのは、鞄と水袋、あとそれから携帯食料って事になるか。

どこで買えるんだろう。


「鞄とか水袋はどこで買うのがいいんだろ。やっぱりあの雑貨店?」

「そうねー、開いてるならそこでいいと思うんだけど」

「おぉぅ、その問題が……」


 やっぱり店はちゃんと開けるべきだと思います、マレイトさん。


「今から行ってみて、もし閉まってたらアタシがよく行く別の店に案内する?」

「是非お願い。私他の店よく知らないから、助かるわ」

「任せて。じゃ、行きましょ」

「りょーかい」


 とりあえずマレイトさんの雑貨店へ行ってみようということで、私達は市場へ向かって歩き出した。


 今日はお店が開いてますよーに。






 マレイトさんの雑貨店を目指して市場に近付くと、市場がなんだか妙に騒がしい。

人だかりが出来てる上、その中から逃げるように走り去って行く人までいる。


「なんか騒がしいね……何かあったのかな」

「アタシに聞かれてもなぁ。見に行ってみる?」

「見に行くもなにも、通り道じゃないの」

「まあ、そうなんだけど」


 目の前の人ごみをかき分けスフィルと共に前へと進む。

ある程度進んだところで辺りを見回すと、えらく非常識なものが目に映った。


「なにアレ……」

「…………」


 市場の中央付近の広場になってる辺りで、3匹の超巨大な蟻が露店を破壊しながら動き回っていた。


 見た感じ高さ3m、体長10mぐらいだろうか。12tトラックサイズの蟻がギチギチと顎を鳴らして暴れている。


「スフィル、スフィルってば!」


 隣で目を開いたまま固まってるスフィルを揺さぶって正気に戻す。


「あ、ハルナ……」

「あれって蟻だよね? この辺りってあんなスゴイモノが住んでるの?」


 ようやく戻ってきたスフィルに聞いてみる。


「んなワケないじゃない。アタシだってあんなの初めて見たわよ」

「なんでそんなモノが市場にいるかな……」


 げんなりしつつも頭を振って気を取り直す。


 さてどーしたもんか……。

とりあえず、こんな事態に慣れてそうな隣人に聞いてみますかね。


「スフィル、どーするの?」

「どうするってもなぁ。下手に刺激してこっちに来られたらアタシの手には負えないと思うし、自警団が来るまで傍観するしかないんじゃないかな」


 自警団なんてあるんだ。任せられるならそれに越した事はないかな。


「それじゃそーっと下がるとしますか」


 2人でぼそぼそと相談し、そろそろと下がろうとしたところで隣にいたおっちゃんが声を張り上げた。


「こ、こら! 俺の店に触るんじゃねー!!」


 おっちゃんは手に持った短い棒を振りかざし、なにやら魔法陣を作り上げるとそこから数発の炎の球を打ち出した。


 なにしてやがりますかこの人はーっ!?


 炎の球は、広場の近くにあるそれなりに立派な造りをした店の近くにいた巨大蟻にぶつかり煙を噴き上げる。


 ギュェェェェェッ!?


 炎の球をぶつけられた巨大蟻は叫び声を上げたものの倒れる事はなく、振り向くとこちらに向けて一直線に突進してきた。


 ちょ、こっち来た──────ッ!?


 顎をギチギチ鳴らしつつ迫る巨大蟻に辺りにいた人は我先にと逃げ出した。


 私もそれに続いて逃げ出そうとしたところで、おっちゃんがへたり込むのが目に入る。


「おっちゃん、早く逃げないと!」

「ま、魔力が切れて……」


 あああもう、なんなのこの人はっ。


「ほら掴まるっ」


 手を伸ばしておっちゃんの腕を掴まえる。

自業自得とはいえ、さすがにここで見捨てるのは後味が悪すぎる。


 我を忘れて全力で打ち込んだ挙句、魔力切れ起こしてへたり込むとか何考えてるんだか。


「ハルナ、危ないっ!」


 スフィルの叫び声。それと同時に体に走るガツンとした衝撃。


 ……え?


 前へと流れてゆく景色に一瞬呆然となる。

そして続けて背中に衝撃と襲ってくる痛み。


 巨大蟻の体当たりで跳ね飛ばされたと気付き、慌てて起き上がろうとするがズキリとした痛みが走り、思わずうずくまってしまう。


 ああもう、痛がってる場合じゃないってーの。


 痛みをこらえて顔を上げ、ざっと体を見回してみる。

服が少々破けてはいるが、特に血が出ているとかといった事はない。


 手も足も動く。折れてるなんて事もなさそうだ。

……腕と背中がかなり痛いけど。


 前を見ると、再びこちらに向かってゆっくりと迫りくる巨大蟻。


 だぁぁ、しつこいっ!


 そこへ横から割って入る影が1つ。


「こんのーっ!」


 剣を手にして巨大蟻の足の1本に切りかかるスフィル。

剣は足に命中はしたものの、ガッと鈍い音がして弾かれてしまった。


 それでも衝撃は感じたのか、巨大蟻は足を止めスフィルの方へと向き直る。


「ハルナ、大丈夫!?」

「スフィル! ありがと、多分大丈夫」


 巨大蟻と睨み合いを続けつつスフィルと会話する。


「怪我はない?」

「痛いけど平気。大きな怪我とかも多分ないと思う」

「じゃ、アタシがなんとかコイツの足を止めるからさ、そこで寝てる人担いで下がってくれない?」


 え?


 辺りを見回すと、私のすぐ近くに逃げ遅れてたおっちゃんが倒れていた。


 一緒に飛ばされたんだ、この人。


「おっちゃん、大丈夫!?」


 ぺしぺしと叩いてみるが、おっちゃんはぐったりとしたままだ。

しかも飛ばされた際にどこかで切ったのか、腕からだらだらと血が溢れ出している。


 ああぁもう、この人はっ。


「自警団がくるまでは粘ってみせるから、頼んだわよ!」


 そう言って巨大蟻に突っ込んでいくスフィル。


 ちょ、どうするつもり!?


 私の見てる前で、スフィルは蟻の足を剣で殴りつけ走り出した。

そのまま蟻の気を引くように、何度も足を殴っては走る事を繰り返す。


 どうやら気を引いて逃げに徹するつもりのようだ。


 スフィルが巨大蟻を引き付けてくれてる間に私はおっちゃん運ぶべく、立ち上がっておっちゃんの怪我してない方の手を引っ張る。


 手を肩に回し、そのまま引っ張り起こそうとするが重くてなかなか上手くいかない。


 気絶した、人間って、重いんだよね……。


 なんとかおっちゃんを担ぎ上げて、ずりずりと下がる。


 蟻がこっちに向けて突進してきた際に他の人は逃げてしまったのか、遠くの方に人影がまばらに見える程度だ。


 とりあえず人の居るあそこまでは下がらねばと思いつつ、ずりずりとおっちゃんを運んでいく。


 うぅ、遠いなぁ。でもスフィルが時間を稼いでくれてるんだからなるべく急がないと。

……人に効くかは分かんないけど『軽量』の魔法が欲しいわ。


誤字、脱字等ありましたら報告していただけると助かります。

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