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27 その理由は……

2011/11/18 誤字修正

2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正

 扉を開けて中に入ると、まず崩れた壁が目に入った。

入ってすぐ右手の壁が崩れており、崩れた部分から外の地面が見えている。

客室と同じく、壁を貫いたと思われる木の枝が天上に向けて張り出していた。


 一応目の前に床はあるものの、外が見えているため足を掛けるのがかなり怖い。


 これ、体重掛けた瞬間崩れたりしないでしょーね……。


 扉から壁沿いにそーっと貼り付くようにして歩き、部屋の内側まで入ったところでほふぅと一息。


 一応は乗っても大丈夫、っと。


 ホッとしたところで改めて部屋を見回してみると、ここは見た目実験室のようだった。

部屋の中央に大き目のテーブルが置いてあり、なにやら怪しげな器具や道具が置いてある。


 正面奥の壁には黒板が掛けられており、なにやら魔法陣とその実験結果らしきものが書かれていた。


 左手奥には本棚がいくつか置いてあり、そのすぐ近くにはベッドが1台置いてある。

そして黒いネコちゃんが1匹、そのベッドの上に陣取りこちらを睨んでいた。

きっと外から木の枝を伝ってここまで入ってきたのだろう。


 さっき壁を叩いた時に返事(?)をしてくれたのもこの子だと思われる。


 やっほー、とひらひら手を振りながらベッドに近寄っても、睨んでくるだけで逃げるそぶりは見られない。


 よっぽど慣れてるのかな、と思いつつそっと近寄りベッドを覗き込んで納得。

3匹の黒い子ネコがすやすやと眠っていた。


 うわ、可愛いー……。


 これは迂闊にベッドに近寄れないなーと思いつつ部屋の隅に寄ったところで、扉を開けてスフィルが部屋に入ってきた。


 え、もう調査が終わったの?


「あれ、早かったね、スフィル」

「まだ終わってないわよ。ちょっとこっちの部屋の様子も見ておきたくてね

 それで、ネコちゃんは居た?」


 ……スフィル、怯えてた割には何気にネコ好きか?


「居たよ。ほら、そこのベッドの上。

 子ネコちゃんが寝てるから、そーっとこっちに来て?」

「え、子供居るんだ。どこ?」

「ベッドの上だよ、私の居るとこからよく見えるよ」


 そーっと忍び足になったスフィルが私の居るところまで来てベッドを覗き込む。


「あー、可愛いぃー……」


 顔が溶けて流れそうになってるよ、スフィル……。


 しばらくネコを観察(?)し続け、溶けてたスフィルが元に戻ってきたので話を促す。


「スフィル、そろそろいい?」

「あ、うん。それでハルナ、この部屋になんかあった?」

「あそこに魔法陣とその説明らしきものが書いてあるのと、あとは本棚ぐらいかな?

 他はさっぱり。ベッドはアレだから近寄れなかったし……」


 黒板と本棚を指差しつつ答える。


「ベッドはまあ、あとでそっと調べる事にするわ。

 アタシはネコちゃんも見れたし、とりあえずは調査の続きかな」

「ネコちゃん見に来ただけなんだ……」


 私のツッコミをスルーし、スフィルは隣の部屋へと戻って行ってしまった。


 あー……私も手伝うとしますか。ここでずっとネコちゃん眺めてるのもいいけど、なんか警戒されてるしなー。


 あと退屈だし。


 部屋の隅をそっと通り抜け、扉を開けて隣の倉庫へと引き返す。


「スフィル、手伝うよ」

「……ありがと、助かるわ」

「あとどのぐらい残ってるの?」

「あとはあっちの隅の方だけよ、もう少しってとこかな」


 パッと見、残り1/4ぐらいか?


「あれ、意外と早かったね」

「なに言ってるの。かなり長い時間、扉の前で唸ってたよ?」

「え、そーなんだ……」


 意外と時間が経過してたようである。


「じゃ、あっちに置いてある物順番に持ってきたらいい?」

「ええ、お願いするわ」


 私が荷物を運び、スフィルが調査し何かを書き込む。

重い物を運ぶ時は遠慮なく『軽量』の魔法を使って運ぶ。


 スフィルが微妙な目でそれを見ていたが、結局何も言わなかった。


 そうして作業を続けていると、大体30分ぐらいでこの部屋の調査は完了した。

残す所はあと1部屋だ。


「ようやく終わったぁー……なんか大掃除してる気分だわ」

「確かに、やってる事は大掃除と大差ないわね」


 スフィルが大きく伸びをしながら返事をする。


「でもこれであと1部屋、っと」

「そうね、もうひと頑張りしましょうか」


 そして扉を開けて再び実験室へ。

部屋に足を踏み入れると、ネコちゃんは相変らずこちらを睨むように見つめていた。


 うーん、警戒されてるなぁ。まあ当然なんだけど。


「この部屋はどうするの?」

「とりあえずベッド周辺は後回しね。まずはそこのテーブルと奥の本棚かな」

「私はどうしようか? 特にやれる事なさそうなんだけど……」

「うーん、終わるまで待っててもらうしかないわね。そこの椅子にでも座ってて」

「了解、手が必要なら呼んでね」

「はいはい、その時が来たらね」


 スフィルがごそごそとテーブルの上を調べだしたので、私も適当な椅子を引っ張り出してきて腰を下ろす。


 何気なく辺りを見回すと、テーブルの上に置いてあった本が目に留まった。

大きさはA4ぐらいの黒いハードカバーの本で、見た感じかなり分厚い。


 ……あれ? これってグリモアなんじゃ?


 手に取って開いてみると確かにそれはグリモアのようだった。

表紙には魔法陣が描かれており、中を開くといくつか魔法陣が登録されているのが見える。


「スフィル、こっちにグリモアがあったよ」

「え、ホント?」

「ほらこれ。ちゃんと中に魔法陣も登録されてるみたい」

「そりゃまた貴重品を……それ、こっちで書いとくわ。どこにあったの?」

「そこのテーブルの上だよ。座ったらたまたま目に付いてね」

「了解、あとで元の位置に戻しておいてね」

「はーい」


 グリモアを元あった位置へと戻し、再び辺りを見回してみる。


 むぅ、微妙に手持ち無沙汰とゆーか……。


 なんとなく席を立ち、ベッドの方へ足を進めてみる。

ベッドの上では相変らずネコちゃんが首を上げてこちらを睨んでいた。


 少し離れたところからじーっと見つめてみる。


 ネコちゃんも私をじーっと睨み返してくる。


 しばらくそうしていると、不意にネコちゃんがこちらを睨むのをやめ、首を下ろしてぽてんと寝そべってしまった。


 あれ、睨み合いに疲れた? まさかね……。


 そのままそろそろとベッドに近付き手を伸ばす。

特に反応を示さないので、そのまま撫でる事が出来た。


 おー、暖かい。ぬくぬくー。


 そうやってしばらくネコちゃんでもふもふしていると、テーブルの上を調べていたスフィルがなにやらうな垂れているのが目に入った。


「スフィル、どうかしたの?」

「いや、なんか力抜けちゃってさ……」

「?」

「この屋敷ってあちこちに妙な魔法陣が仕掛けてあったでしょ。

 その理由があまりにも下らなくてさ……」

「どーゆー事?」

「一言で言えば、野良ネコ避けだったみたい」


 野良ネコ避け?


「えーと……なにそれ?」

「要するに、あの魔法陣は屋敷に入ってきた野良ネコを捕まえたり脅かしたりするために使われてたって事みたい。

 テーブルの上に置いてあった資料の走り書きを見る限りだけど、多分間違いないと思うわ……」

「ひょっとして窓の下とかによく魔法陣があったのって、そーゆー事?」

「多分ね。入ってきたところを捕まえるようにしてあったんでしょ」


 ネコ用だったんだ、あれ。

人が全力で動いた程度で解けてたのはそれが理由っか。


「あと、声で追い払うタイプを新たに設置したってのもあったわね」


 あー、あの怒鳴り声のやつね。


「それって、階段の途中で怒鳴られたアレだよね」

「多分ね。失敗したって書いてあったけど」

「失敗?」

「声に驚いた野良ネコが走り回って余計な被害が増えた、って」

「あははは……なんかスフィルがうな垂れてた理由がよく分かるわ」

「でしょ。なんか力抜けちゃってさ……」


 野良ネコ相手にここまでするって、よっぽどの事があったのかなー……。


「とりあえず、アタシは調査を続けるわ。ハルナはもう少しだけ待ってて」

「了解ー、こっちでネコちゃんの相手でもしてるよ」

「え、いいなー。いつの間に手懐けたのよ」

「えーと、なんか睨めっこしてたら自然に……?」

「なによそれ」


 そう言いながらも調査を続けるスフィル。この分だと割とすぐに調査は終わるだろう。

なんとか今日中に全ての調査を終えることが出来そうだ。


 しばらく後、部屋の調査を終えたスフィルは後片付けをしていた。


 ベッドを調べる時にどうしようかと悩んだが、私がネコちゃんを撫でていると子ネコちゃん含めずっと大人しかったので、そのまま無事調査を済ませることが出来た。


「ようやく終わったね」

「そうねー、ここまで大きい屋敷だとやっぱり疲れるわ」

「お疲れ様。あ、これ返しとくね」


 そう言って『軽量』の魔法陣が描かれた木の板をスフィルに手渡す。


「結局、ゴーストは出なかったけど、色々手伝ってもらっちゃって。

 助かったわ、ありがとね」

「どういたしまして。でもちゃんと最初にゴーストの気配はしないって言ったでしょ」

「そうだったわね……色々あったけど、結局ハルナが正しかったわけだ」

「ここの主が余計な仕掛けを残してくれた所為なんだけどね。

 そう言えばこのネコちゃん達はどうするの?」

「このままギルドに報告して、飼い主を探すなりなんなりしてもらうつもりよ」

「了解、そっちはよろしくね」

「任せといて。悪いようにはしないつもりだから」


 後片付けもこれでほぼ終わりだ。

鞄を背負いつつスフィルが声を掛けてくる。


「そろそろ出るわよ。忘れ物とかないー?」

「大丈夫、元々ほとんど荷物なんてないしね」


 再び暗い屋敷内を通り、玄関から外へ出る。

空を見上げるともう夕暮れが近いのか、陽が随分と傾いてきていた。


「それじゃ、アタシはこのままギルドに報告に行ってくるから、ここで解散ね。

 ところでハルナ、明日のお昼頃にギルドまでこれない? 報酬渡せるのがちょうどそのぐらいになるのと、ネコちゃんがどうなったとか聞かせられると思うから」

「明日のお昼頃だね。了解、特に予定はないから大丈夫だよ」

「ええ。それじゃ悪いんだけど、明日ギルドまでよろしくね」

「はーい」


 屋敷を出て、しばらく歩いた後の分かれ道でスフィルと挨拶を交わす。


「それじゃまた明日。今日はお疲れ様」

「また明日、ギルドでね。お疲れ様ー」


 軽く手を振ってスフィルと別れた後、私は家に向かって歩き出した。


オチ無し、山無し……。

時間軸はこのまま翌日へと移ります。

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