25 踏んじゃった
連日更新2日目です。
1階の調査が完了したので、そのまま続けて2階へと足を伸ばす事にした。
無論、踊り場の魔法陣は踏まないように気をつけて。
そう何度も怒鳴り声を聞きたいわけではないしね。
踊り場で折り返し、階段を上りきるとそこにはまた広い空間が広がっていた。
どうやらホールのようだ。
相変らず床には絨毯が敷かれ、正面の壁には暖炉が備え付けられている。
暖炉の左には扉が2枚、少し距離を開けて付けられていた。恐らく別々の部屋へと通じているのだろう。
右手の壁には窓が3つ並んでおり、その近くにある階段で出来たデッドスペースには丸いテーブルと椅子がいくつか並べられ、ちょっとしたサロンのような感じになっている。
また、階段上がってすぐの左側の壁にも扉が1枚備え付けられていた。
ここの扉だけが両開きになっている。
階段の踊り場と右手の壁に窓はあるが、全て閉じられている為、薄暗いのは相変らずだ。
閉じられた窓の隙間から差し込む光が目に眩しい。
……そう言えばそろそろお昼時ではなかろーか。なんかお腹も空いてきたし。
「スフィル、そろそろお昼の時間じゃない?」
「そうねー……いい時間かもね。区切りもいいし一旦お昼にしますか」
「スフィルはお昼どうするの? 私は市場まで行くつもりしてるんだけど」
「アタシも行くよ。食べる物は何も持ってきてないしね」
「りょーかい、一緒に行きますか」
調査を一時中断し、私とスフィルはお昼を食べに外へと向かった。
玄関から外に出ると、眩しい光に目が眩む。
「うわ、眩しい……」
「ずっと暗い所に居たからね、こりゃキツイわ」
手をかざして光を遮って待つ事しばし。ようやく目が慣れてきた。
「市場に向かう前に手を洗いたいわね……」
言われて見れば、私もスフィルも手が埃で真っ黒だ。
「私、水なんて持ってきてないよ?」
「ま、アタシも飲み水ぐらいしか持ってきてないんだけどね。
先にどこかで手を洗える場所を探しましょ」
そう言って歩き出すスフィル。それに続けて歩き出す私。
「私はよく知らないんだけど、この辺で水が使えるところって?」
「そうねー……市場の近くまで行けばってとこかな」
「うわ、結構遠いね、それ」
「無いものは仕方ないじゃない、さっさと行きましょ」
「はーい」
水、水っか……。ってあるじゃない、水!
早速スフィルを呼び止める。
「スフィル、水、あるかもしんない」
「え、どういう事?」
「私のグリモアの中に『湧水』の魔法があるから、それを使えば水出せるかも」
「あー、なるほど。でもあれってちょろちょろと飲める水を出すだけじゃなかった?」
う、そーなんだ。実はまだ使った事ないんだよねー……。
「まあ、手を洗う分にはそれでもいいんじゃない?」
「んー……そうね、1回お願いするわ」
「任せといてよ」
早速グリモアを取り出し『湧水』の魔法陣を表示させる。
水が出る魔法という事で、魔法陣は横向きではなく地面に向けて描く事にする。
魔法陣を横向きにして水がぴゅーっと横に噴出したら……それはそれで面白いかもしんないけど。
上に向けたら噴水になるかなー、とお馬鹿な事を考えつつ魔法陣を作成する。
「スフィル、出来たよ。手出して?」
「はいはい」
スフィルが手を出したのを確認し、魔法陣に魔力を流す。
すると魔法陣が青く発光し、ずどどどーっ!と滝のような勢いで水を吐き出し始めた。
「うわっ!?」
「わひゃっ!?」
慌てて飛びのく私とスフィル。
魔力を流すのを止めた所為か、幸い水はすぐに止まったようだ。
だが既に、辺り一面水浸しである。
そしてジト目で睨んでくるスフィル。
「あははは……ごめん、加減を間違えたみたい」
「……加減っていうか魔法陣間違えてない? あれじゃ『湧水』ってより『洪水』って言った方がしっくりくるんだけど」
「いや、『湧水』で合ってるハズ……ちょっと魔力注ぎすぎたのかな」
スフィルがふぅ、とため息を1つ。
「ちょっとって……ハルナってばどんな魔力してるのよ」
「あうぅ、ゴメン。今度はちゃんと加減するから」
「なんか不安だし、アタシちょっと離れて見てるわ……」
「ん、そうしてて」
その後、流す魔力を絞りに絞り、なんとか『湧水』の勢いを蛇口全開の水道水ぐらいまで落とす事に成功した。
ちゃんと手も洗えたよ?
市場でお昼ご飯を済ませた私達は屋敷に戻ってきていた。現在位置は2階ホールだ。
今から調査再開である。
「それじゃ再開しますか。と言ってもまずは絨毯を剥がすんだけど」
「了解。じゃ、私はあっちの窓側から剥がしてくわ」
「ハルナは休んでていいよ? 本来ならこんな事手伝う必要はないんだし」
確かに引き受けたのはゴーストが出た場合の対処だけど、じっと待ってるのも退屈なんだよね。
「そうかもしれないけど、じっと待ってるのもなんか退屈だし。疲れたら休ませてもらうから気にしないで」
「……ありがと、助かるわ。じゃあ、アタシはこっちの階段側からやってくから」
「了解ー」
スフィルは早速階段付近の絨毯をめくり始めていた。
私も反対側から絨毯を剥がすために窓の方に向けて歩き出す。
窓に近付き絨毯を掴み上げる。
そのまま絨毯を手前に向けて引っ張ろうとしたところで、いきなり足を何かに取られて転びそうになった。
うわっ!? った、っと!?
手をぐるぐる回してどうにか持ちこたえてから足元に目をやれば、半透明の糸のような物が巻きついている。
そして動かす事の出来ない私の足。
うわ、油断した……。
どうやら絨毯の下に仕掛けられていた魔法陣を踏んでしまったらしい。
さて、どーしたもんか。
落ち着いて対処を考える事が出来るのは、仕掛けが分かってる所為なのか。
ふと思いつき、しゃがみこんで足にまとわり付いている半透明の糸に手を伸ばす。
そのまま指で糸に触れ、軽く引っ張るとぷちんと千切れてしまった。
魔力に触れるならと思って試してみたんだけど……案外うまくいくかな?
続けてぷちぷちと魔力の糸を手で千切ってゆく。
そのまま糸を切り続け、足にまとわり付く糸を全て切り終わると、私の足は再び自由に動かせるようになった。
よっし、解除成功。やってみるもんだね。
そのまま裏に回って絨毯をめくり上げると案の定、その下には魔法陣が描かれていた。
これじゃ迂闊に絨毯の上も歩けないなぁ……、気をつけようっと。
再び魔法陣を踏まないように気をつけつつ絨毯を剥がしていく。
その途中ですれ違ったスフィルにも、注意するように声を掛ける。
「スフィル。あっちの窓の下にまた魔法陣あったから、気をつけてね」
「了解。……その様子だと大丈夫だったみたいだけど、よく踏まなかったわね?」
「まあ、なんとかね」
ゴメンナサイ、油断してて思いっきり踏みました。
今度は慎重に作業を続け、絨毯を全て剥がし終えると今度はスフィルが調査を開始した。
こればっかりは手伝えないので邪魔にならない所で見てるしかない。
結局見つけた魔法陣は3つ、全て窓の下に設置されていた。
ホントに防犯用かとも思ったが、私の場合は例外として、全力で足を引っ張った程度で抜け出せるのなら意味がない。何か別の違う用途だと思われる。
一体何考えてこんな物を……。
「ハルナ、こっち終わったよ。次の部屋行きましょ?」
「あ、はーい」
スフィルに呼ばれたので考えるの止め、次の部屋へと移動する事にした。
「次はどの部屋?」
「暖炉に近いほうの扉かな。外周沿いに順にやって行きましょ」
「了解ー」
スフィルに続いて部屋の中へと入る。この部屋も窓はあるが全て閉じられており、部屋の中はかなり暗い。
まず目に付いたのは、絨毯の敷かれた床に大きなベッド、椅子にテーブル、それからクローゼット。あとは右手の壁にくっついた暖炉が1つ。
見た感じからすると、どうやらここは客室のようだ。
「調査する前に、先に絨毯を剥がした方がいいのかな」
「ええ、そうするつもり。また変な魔法陣がないとも限らないしね」
「りょーかい。じゃスフィル、またさっきの方法でやりましょ」
「それは助かるけど……あの『湧水』に加えてさっきからガンガン『軽量』の魔法使ってるわよ、ホントに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、まだまだ平気だよ」
「さっきも思ったけど、一体どれだけ魔力あるのよ……アタシならとっくにダウンしてるんだけど」
「まあまあ、そこは儲けたと思って」
「いや、助かるのは事実なんだけどさ」
1階でやってた様に、スフィルが絨毯を剥がしていき私が障害物を持ち上げる。
テーブルを持ち上げ、椅子もまとめて持ち上げる。
『軽量』があればベッドだって楽々持ち上がる。
無駄に『軽量』を使ってる気もするが、力持ちになったようでなんか楽しいのだ。
スフィルが呆れたようにこっちを見ていたが、それは気にしない事にする。
しばらくして、この部屋の絨毯を全て剥がし終えたが、結局魔法陣は見つからなかった。
なんか法則でもあるんだろーか。
「魔法陣らしきものは無いね……」
「アタシとしちゃその方が助かるんだけど。
とりあえずこの部屋調べちゃうから、そこの椅子にでも座って待ってて」
「了解ー」
言われた通りしばらく椅子に座って休憩していると、スフィルの調査が終わったのでそのまま一旦ロビーへと戻る。
まだ先は長いのかなー。ちょっと気疲れしてきたよ……。
でもまだ気を緩めるわけにもいかないんだよね。何があるか分かんないんだし。