24 金縛りの正体
意外と長引く屋敷の探索……おかしい、もっとサラッと流す予定だったのに。
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
足が動かなくなったスフィルに近付き、足元に目を向ける。
足元にはうっすらとした何かが見えた。どうやらスフィルの足に何かが付いているようだ。
しゃがみこんでよく見れば、スフィルの足には半透明の糸のような物が巻きついているのが見て取れた。
突然しゃがみこんだ私にスフィルが不安そうに声を掛けてくる。
「どう、なんかあった?」
「今調べてるからもうちょっとだけ待って……」
ゴースト……じゃないね。これは魔力……?
てことは魔法? でもそうなると魔法陣は……ひょっとして絨毯の下!?
とりあえずスフィルに分かった事を伝える事にする。
なんとかして動かせないかな?
「なんかこれ、魔法みたい」
「魔法?」
「そう、魔法。絨毯の下が怪しいんだけど……スフィル、強引にでも足動かせない?」
「やってみるわ。……ちょっと掴まらせて、体支えたいから」
「りょーかい」
魔法と聞いて多少安心したのか、落ち着いて返事を返すスフィル。
私が手を差し出すとそれに掴まってきた。
私の手を握って支えにし、スフィルが勢いをつけて足を引っ張る。
って痛い痛い痛いっ、手が潰れるっ!?
「ちょっ、スフィル、手、痛い痛いっ!?」
「あ、ごめん。つい力が入っちゃって」
手を振り解きぷらぷらさせる。あー痛かった……。
スフィルどれだけ力あるの……。
「手、大丈夫?」
「多分大丈夫だけど……痛かったよ。潰れるかと思った……」
スフィルの足は無事床から離れたようだ。足の方を確認すると、足に巻きついていた糸のような物も見えなくなっている。
足は大丈夫だろうか?
「それよりどう、足動く?」
「えーと……大丈夫みたい」
確認するように足を動かしながらスフィルが答える。
「それじゃちょっと下を確認してみますか」
部屋の端まで歩いて行き、絨毯の継ぎ目を探してめくり上げる。
スフィルの立っていた辺りまで絨毯をめくると、そこには小さな魔法陣が1つ、赤いインクのような物で石の床に直接書かれていた。
「これが原因っか」
呟く私の所にスフィルもやってくる。
「原因分かったの?」
魔法陣を指差し答えを返す。
「多分コレが原因かな。絨毯の下に隠れてた」
「魔法陣? なんでこんな場所に?」
「さあ、そこまでは分かんないけど。効果は上に乗った物を固定するってとこじゃないかな? さっきのスフィルみたいに」
「なんでまたそんなのがここに……」
「私にも分かんないわよ。でもウワサにあった金縛りってコレが原因じゃないの?」
「多分そう……なのかなぁ。
そうなると、アタシの聞いた他のウワサも何か魔法絡みって事?」
「そんな可能性もあるって事で」
魔法で起こってた現象が雰囲気とあいまって、ゴーストの仕業と勘違いされてた可能性は十分にある。
「まあ、とりあえずこの部屋調べちゃうから、ハルナは適当にその辺眺めててよ」
「りょーかい。でも気をつけてよ? さっきみたいな魔法陣がまた絨毯の下にあるかもしれないし」
「う、そっか。魔法陣はあれ1個とは限らないっか。
そうすると面倒だなぁ、この部屋の絨毯全部剥がさないとダメだわ」
「全部剥がすって……さすがにそれは無理じゃない? あの重そうな机とか本棚とかどうするのよ」
「それは大丈夫、これを持ってきたから」
そう言ってスフィルが鞄から取り出したのは手のひらサイズの1枚の木の板。
板にはなにやら魔法陣らしき物が描かれている。
「それは?」
「この板をなにか物に当てて魔力を流すと、板を当ててる物に『軽量』の魔法が掛かるの。使いすぎたり、あんまり大きい物に使うと疲れちゃうけどね」
「へー、便利」
「こういった調査する時には、割と必須だからね」
確かに重い物を動かしたい事もあるだろう。
机に近付き板を当て、そのままひょいと持ち上げて運ぶスフィル。
そのまますたすたと机を運ぶ姿を見ていると、なんか好奇心がうずいてきた。
ちょっとやってみたい。
「ね、スフィル。ちょっとその『軽量』の魔法やってみたいんだけどいいかな?」
「ん? いいわよ、ほら」
木の板を手渡してくれた。
さっきスフィルが運んでた机に近付き板を当て、魔力を流す。
半透明の魔力のもやが机を覆ったところで試しに持ち上げてみると、すんなりと持ち上がった。
おー、机が発泡スチロールで出来てるみたい。
そのまま机を上げたり降ろしたりしてるとスフィルから声が掛かった。
「ハルナー、悪いけどちょっとそのままその机持ってて。足元の絨毯剥がしちゃうから」
「ん、了解ー」
今ふと思ったけど、私がこうやって上に乗ってる物を持ち上げて、スフィルが絨毯を剥がすってした方が効率いいのでは?
早速提案してみよう。
「スフィル、私がこうやって上に乗ってる物持ち上げるからさ、その間に足元の絨毯剥がしてくれない? そしたら多分早く終わると思うんだけど」
「そうしてくれると助かるけど……そう持ち上げっぱなしだと魔力結構食うわよ。大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、辛くなったら言うからさ」
実際、私の魔力はかなり余裕がある(ていうか減らない?)からまるで問題なし。
「それじゃお願いするけど、無理しないでよ?」
「分かってるって」
そうして作業を続けていると、程なくして部屋に敷いてあった絨毯は全て撤去された。
本がぎっしり詰まった本棚でも『軽量』の木の板を使えばひょいっと持ち上がるのが結構面白く、何度も上げ下げしていたらスフィルに大分心配されてしまった……。
遊んでてごめんよ。
そうした作業の結果、見つけた魔法陣は全部で2つ。スフィルが動けなくなった本棚の前と、机の後ろにある窓の下だ。
見た目同じ魔法陣なので効果も同じだと思われる。
「何のためにあるんだろ、この魔法陣。こんな踏んだら金縛りになるようなモノ、生活する上じゃ邪魔なだけだと思うんだけどなぁ」
「アタシに聞かれてもね? でもこの魔法陣をこの屋敷の主が仕掛けたのなら、それを無効化するような何かを持ってたんじゃないの?」
「なるほど、自分で仕掛けたなら対策もしてるって事か。
ただ、なんでわざわざ~ってさっきの疑問に戻っちゃうんだけど」
「そればっかは仕掛けた本人に聞いてみるしか、ね?」
「それってもう死んでるんでしょ」
「ええ、確か1巡り半程前にね……。ホントの所はもう誰にも分からない、ってとこか。
とりあえずこの部屋の調査結果まとめちゃうからちょっと待ってて」
「りょーかい」
スフィルが調査結果をまとめ終わるのを待ち、本棚の近くにあった扉をくぐるとそこは玄関ホールだった。どうやら1周してきたようだ。
「戻ってきたのかな。1階部分はこれで全部終わり?」
「ええ、次は上の階ね。2階へ行きましょう」
次は2階という事で、玄関ホールにある無駄に幅の広い階段をのぼる。
ちょうど踊り場に差し掛かったところで
『こらぁぁぁぁぁっ!!』
うわごめんなさいっ!?
突然響き渡る大きな怒鳴り声に思わず反射的に謝る私。
私の隣で目を見開いて固まるスフィル。
そのまま10秒程静止していた私達だが、次に何も起こらないのでほっと息を吐いた。
「なに、今の……?」
「えー……っと。多分だけどアタシの集めたウワサにあった、『死んだはずの屋敷の主に怒鳴りつけられた』ってやつじゃないかな……」
「いや確かに怒鳴りつけられたけど。意味分かんないとゆーか……。
とりあえず、この絨毯の下も調べてみる?」
スフィルは少し考え込んだあとに返事を返す。
「ここだけじゃなくて、今までの絨毯敷いてあった部屋全部、かなぁ。
地下室や何か挟まれてる程度なら絨毯越しに分かるんだけど……さすがに魔法陣までは無理だし。他にもなにかありそうだから調べ直しね……」
「そりゃまた面倒な……。でもやるしかないかー、私も手伝うよ」
「ありがとハルナ。助かるわ……」
今上った階段を降り、再び玄関ホールへ。
だだっ広い玄関ホールの端から絨毯をめくり、くるくると丸めては壁に立掛けてゆく。
絨毯が敷かれているといっても床一面ではなく、部屋の中央とか階段の真ん中部分だけなので、そこまで面倒な作業ではない。
うーん、埃で手が真っ黒だ。
絨毯を剥がし、丸めて立掛けてる作業を繰り返す。
2人で黙々と作業を続けた結果、意外と早く絨毯を全て剥がし終える事が出来た。
結果見つかったのは、踊り場に描かれた魔法陣のみ。階段の踊り場をほぼいっぱいに使った大きさだ。
恐らくこれに触れるとさっきのように怒鳴り声が響くのだろう。
一体何のためにって疑問は尽きないけど。
踊り場にも窓があったし防犯用か?
スフィルが調査結果を書き終わるのを待ち、今度は食堂へ向けて歩き出す。
他の絨毯が敷いてある部屋を調べ直すためだ。
その後、食堂、客室と私が邪魔な物を持ち上げスフィルが絨毯を剥がす方法で調べていくが、結局他の魔法陣を見つける事は出来なかった。
くそぅ、なんか損した気分だ。
活動記録にも書きましたが、明日11月13日にも投稿します。