22 屋敷の下見へ
いつもの3倍時間をかけてなんとか完成……めちゃくちゃ難産でした。
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
冒険者ギルドを後にした私は、調査する予定の屋敷を目指して冒険者のスフィルと色々お喋りをしながら歩いている。
あまり気兼ねすることなく、こうやって話をしながら歩くのは久しぶりだ。
以前セニア先生と歩いた時も似たような状況にはなったけど、あの時はなんか一方的に愚痴を聞いてただけの気がするしなー……。
「ハルナってエクソシストなんでしょ? アタシと歳が大して違わないのに凄いよね」
「まだ見習いだけどね。でも仕事はしっかりやるから、もしゴーストが出たときは任せといてよ」
「ただの見習いをギルドがわざわざ外部から引っ張ったりしないって。ハルナって相当優秀なんでしょ?」
「まあ、普通にゴーストを退治する事ぐらいなら出来るかな」
「普通ってなによそれ」
普通のやり方知らないんだよねー……あはは。
あまり突付かれるとボロが出そうなので話題転換。
「それよりちょっと聞きたいんだけど、なんでまたゴーストが出るかもって話になったわけ?」
「え? えーとね。最初は持ち主の居なくなった古い屋敷を取り壊す為の事前調査って事でアタシが依頼を請けたんだけど、調査する為に屋敷行った時にね、どこからともなくネコの鳴き声がしたのよ。姿は見えなかったけど鳴き声が聞こえたの。
最初はそれだけで、ちょっと気味が悪いなーって思って調査を続けてたんだけど、なんかひたひた……って足音は聞こえるし、挙句の果てには金縛りに遭うしで、もうびっくりしちゃってさ。
慌てて屋敷を飛び出して、落ち着いてから近所のウワサを集めたんだけど、それっぽい話が出るわ出るわ。それでギルドに報告したのが始まりかな」
確かにそれっぽいけど……。
「金縛りに遭ってたってのに、よく屋敷から飛び出せたね」
「なんか必死で逃げようとしたら動けるようになったからさ。あとはもう屋敷の外まで一直線だったわ」
「そりゃまたお疲れ様……それで、近所のウワサってのはどんなのが?」
「えーと、アタシが体験したのとそれほど大差はないんだけど。
姿がないのにネコの鳴き声が聞こえる、どこからともなく足音がする、屋敷の中で金縛りにあった、死んだはずの屋敷の主に怒鳴りつけられた。
と、こんな所ね」
「屋敷の中で金縛りや怒鳴り声って……誰か入ったの?」
「近所の子供達が集まって面白半分で探険したんだって。最後の2つはそこからの情報」
「うわ、そりゃ怖かったでしょうねー」
「お陰で聞き出すのに一苦労だったわ……」
「お疲れサマ」
「それで、まだ続きがあるのよ。
アタシが調べたとこによると、屋敷の持ち主の名前はリーベル。魔術師だったみたいね。
確かに死亡してるのは確認済み。あと、ネコを使い魔としてたみたい。
ただ、使い魔がネコの割に野良ネコは嫌いだったとか。
野良ネコによく屋敷の中を荒らされてたらしくて、怒鳴りつける声が近所まで聞こえてたらしいわ」
なかなかホラーな話になってきたかな?
「それで、そのリーベルさんと使い魔のネコがゴーストになってる、って事?」
「正解。屋敷を取り壊されたくなくてゴーストとして蘇ったって、近所では専らのウワサよ。それをギルドに報告したらこーなったってワケ」
「それが私のところまで来たと」
「そーゆー事。期日も迫ってるし、細かい調査をやり直してる時間もないから専門家を連れてった方がいいって結論が出たんでしょうね」
「あー……確か今日明日の2日が期日だっけ。ちゃんと終わるのそれ?」
「ゴーストさえ出なきゃ調査なんて1日掛からずに終わるのよ。
あーあ、1日掛からずして終わるいい仕事取れたと思ったのになー」
「ご愁傷様」
「はい、到着。ここがその屋敷よ」
お喋りをしている内に屋敷に着いたようだ。
塀で区切られたその屋敷は見た目かなり古い感じの2階建てで、それなりに広い庭を敷地としてを持っていた。
庭は手入れする人が居なかったのか結構荒れており、枯れている植物もちらほらと見られる。建物の近くに立っているいくつかの木から張り出した枝は、石造りであるはずの壁を貫いている部分もあるぐらいだ。
建物の壁には、謎の植物のつるがびっしり張り付いており、ここには何かが出るぞーと全力で主張してる感じだ。
ぼろっぼろじゃない。そのリーベルって人、よくこんな家に住んでたなー……。
雰囲気満点な屋敷を前に率直な感想を思い浮かべる。
「うわ、凄いね……。これじゃ一旦壊して建て直さないと買い取り手もつかないか」
「アタシもそう思うわ。この怪しい雰囲気がウワサに拍車を掛けてるんでしょうね」
「あとは陽が沈んでて、雷雨とかだったらもっと迫力あるかな?」
「ついでに暴風も吹いてたら最高だね」
あはは、と笑ったところでニャー……という鳴き声。
思わず黙って辺りを見回せば、塀の上で1匹の黒ネコがこっちをジーっと見つめていた。
「あれ、野良ネコかな?」
「多分そうだと思うよ。アタシの集めた話の中に野良ネコが~って話があったし」
「なんか余計に雰囲気が出てきたかなぁ」
「まあ、それはともかく。専門家として屋敷を見てどう思う?」
専門家ねぇ。一応そうなるのかな?
「不気味な屋敷だよねー……」
「それが専門家としての意見かっ!?」
「あはは、ゴメンゴメン」
そう言われたので改めて屋敷に意識を向けるが、目の前まで来てもこの屋敷からにおいを感じる事はない。
やはりゴーストなど居ないと断言できる。
もっとも、そのまま言う事は出来ないんだけど。理由を聞かれても困るしね。
「んー……、大丈夫なんじゃない? 屋敷は不気味だけどゴーストの気配なんてしないし」
「それ、信用して大丈夫?」
「人に聞いといて酷いよそれ!?」
「さっきのお返しよ、冗談だって。
それじゃ専門家の意見も聞けた事だし、明日の調査に向けて準備を整えますか」
準備かー。私も用意とかした方がいいのかな?
「準備って、私も何か準備しといた方がいい物ってある?」
「もしゴーストが出た場合に対処出来るようにしといてくれるだけでいいよ。
アタシの準備ってのも、最初の日屋敷から逃げる時に置いて来ちゃった物を買い足すぐらいだし」
「それなら特に準備は要らないっか」
最悪、スフィルを逃がしてから大鎌で殴ればいいし。
使い方がなんか違う気はするが、そこは気にしない事にする。
「え、そうなの? 聖水とかの準備は終わってるんだ?
アタシの見たことあるエクソシストはなんかいつも聖水だの怪しげなアクセサリだのをジャラジャラ山のように持ち歩いてたんだけど」
えー……。一般的なエクソシストってそんなの?
「私はそんなの使わなくても大丈夫だから……」
「そう? まあ、なんにせよ準備はしっかりとね。ゴーストが出て対処出来ませんでしたじゃこっちも困るんだし」
「まあ、万一ゴーストが出た場合は、スフィルは部屋の外にでも下がっててよ?
他の人までは手が回んないと思うし」
「了解、その時は下がらせてもらうわ」
よっし、これで万一の場合は気兼ねなく逃げて貰えるはず。
「ところで明日ここの調査するんでしょ、どのぐらい時間掛かるの?」
「スムーズに行けば半日ぐらいで済むと思うわ。念のため朝から1日掛けてやるつもりだけど」
「じゃ、明日は朝から待ち合わせになるって事かー」
「そうなるね、冒険者ギルドで待ち合わせって事でいい?」
「りょーかい」
さて、1日掛かるとなると明日はマレイトさんの所に顔を出せないって事になるね。
一応連絡入れとこうかな……。
「それじゃ私はそろそろ行くけど、スフィルはどうするの?」
「アタシも準備があるからね、まずは買い物かな。
あーあ、あのランタン高かったのになー……、また買い直しだよ」
「……屋敷の調査でランタンなんて使うの?」
「中には結構暗い場所もあるからね。元々備え付けてあった明かりは使えなくなってる事が多いから、別の照明が必要になるのよ」
「なるほど」
あれ? 確かマレイトさんとこってランタン置いてたよね。
もし買う場所決まってないなら誘ってみるかなー。
「ねえ、ランタン買う場所ってもう決まってる? 1件心当たりがあるんだけど」
「一応決めてはいるけど。その心当たりってなんて店なの?」
……マレイトさんのお店って名前なんて言うんだろう。
「よく考えたらお店の名前知らなかった……」
「なによそれ?」
「えーと、市場から1本道を外れたとこにある雑貨店なんだけど」
「あー、あのいつ開いてるかよく分かんないってお店?」
「そう、それそれ、そこの店」
「あれ? そう言えばアタシもそのお店の名前知らないわ……」
「スフィルも?」
「うん、今更だけど誰からも聞いたことないわ……」
なんか一気に謎の店になってきたぞ。
「まあ、行ってみましょ。私もそこに用事あるし」
「了解、行きましょうか」
私達はマレイトさんの雑貨店に足を向ける事にした。
雑貨店に到着した私達は店の中へと入る事にした。
どうやら今日は開店してるようだ。
「いらっしゃい……と、嬢ちゃんか。今日はどうしたんじゃ」
「明日はちょっと顔を出せそうに無いのでその連絡に来たんです。あとは彼女の買い物の付き合いかな?」
店の中へと足を踏み入れるとスフィルも続けて入ってきた。
店の中を見回すが、他に客の姿は見受けられない。
「そっちの嬢ちゃんはたまに見る顔だの。知り合いじゃったのか」
「色々あって今日知り合ったんですけどね。今日明日と仕事のお手伝いをする事になりまして」
「ふむ、なるほどの。それでそっちの嬢ちゃんは何が必要なのかの?」
「あ、えーと。アタシに使えるランタンと、それから……」
「私は店の中を見て回ってるね」
私はそう言って店の商品を見て回る事にする。
店内を見回しゆっくりと歩く。
やっぱりこういう物を見ていくのは楽しいなー。
ついつい何か買ってしまいそうになるけど。
あー、そう言えばしっかりしたお財布探さなきゃ。
魔石の代金入れて持ち運べるようなやつ……マレイトさんに聞いてみるか。
そう思ってカウンターに目を向ければ、スフィルとマレイトさんがなにやら話し込んでいるのが目に入った。
む、今は忙しいのかな。
仕方が無いのでもう少しだけ商品を見て回る事にする。
しばらく商品を見ていると、話が終わったのがスフィルが声を掛けてきた。
「ハルナ、アタシの買い物は終わったよ。そっちの用事は?」
「私はマレイトさんに少し聞いてみたい事があるぐらいかな。
それよりいいもの買えた?」
「うん、予定よりも安く済んだわ。いつもここを利用出来るといいんだけどねー」
「あー……。いつ開店するかは気分次第みたいな事を言ってたからそれは難しいかもね」
「やっぱ、開いてたら運が良かったぐらいに思っとくのがいいのかな」
「そうかもね」
スフィルは手に荷物を提げながら言葉を続ける。
「荷物も出来ちゃったし、アタシは一旦家に戻る事にするわ。
また明日の朝、ギルドで会いましょう?」
「了解、また明日の朝にね」
そう言ってスフィルは店を出て行ってしまった。
さて、マレイトさんの所に行きますか。
「マレイトさん、ちょっといいですか?」
「む、なんじゃ?」
「なんかいいお財布ないですか? ちょっと大金持ち歩く事になりそうなので……」
「大金って……嬢ちゃん、今度は何をやったんじゃ?」
なにやら呆れたような目で見つめてくるマレイトさん。
「何もしてませんって。以前ゴーストを退治した時に出てきた、このぐらいのサイズの魔石を換金したら思い掛けない額になっちゃっただけです」
手で大体のサイズを示しながら言う。
「思いっきりやっとるじゃろうが……なんじゃそのサイズの魔石は。
普通のゴースト退治では絶対に出てこんモンじゃぞ。
……まあいい、財布じゃったな。コレなんかはどうじゃ?」
ごそごそとカウンターの裏から出してきたのは一見普通に見える小さな皮袋。
「これは普通の皮袋に見えるがの、内側に魔法陣が縫い込められておってな。この皮袋の持ち主だけが中に物を出し入れする事が出来るんじゃ」
おー。それは便利だ。それなら盗まれても……あれ?
「マレイトさん、それ、皮袋をナイフかなんかで切り裂かれたらどうなるんです?」
「皮袋を切られると中身が出てきてしまうのぅ」
「それだとあんまり意味がない気がするんですけど……」
「む……。面白いと思って仕入れたんじゃが……意外な欠点があったの」
ちょっと考えれば分かると思うんですけど……。
「えーと……。もう普通の財布でいいですから」
「それならあそこの棚に置いてあるやつから好きなのを選ぶといいじゃろ……価格はどれも半銀貨3枚じゃ」
こうして無事に普通の財布を手に入れた私は、少々落ち込み気味なマレイトさんにお礼を言うと雑貨店を後に帰路へとついたのだった。
この後一気に時間は翌日へと進みます。
以下、入れれなかったと言うことで没ネタ
「ところでマレイトさん、このお店の名前ってなんて言うんですか?
彼女に店の名前を聞かれた時に困っちゃったんですけど」
「あー、アタシも知りたい。看板もないし、誰もこの店の名前教えてくれないんだよね」
「む、この店にもちゃんと名はあるぞい」
おぉ、あるんだ名前。決まってないのかと思ったよ。
「この店の名はな、『スルメ』と言うんじゃ」
……スルメ?
「誰もそう呼んではくれんのだが……」
「…………」
「…………」
てゆか何故スルメなんですか。