21 新たな友人?
2012/04/04 誤字修正
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
翌朝、目が覚めたあと朝食を済ませた私はセルデスさんの執務室にお邪魔していた。
冒険者ギルドへの紹介状を渡すからとセルデスさんに呼ばれたのだ。
確かに紹介状も何もなくギルドに押しかけたとしても、呼ばれた本人だと証明する術が無くて困ってたところだ。
うーん、全然考えてなかった……。危ない危ない。
私の目の前でカリカリと紹介状を書いていたセルデスさんが、書いたものを封筒に入れて手渡してくれる。
「これでいいだろう、ギルドの受付に見せれば取り次いでくれるはずだ」
「ありがとうございます」
受け取った封筒を見てみると表には宛先らしきもの。裏にはセルデスさんのサインとなにやら紋章が1つ。これが証明になるのかな?
いい加減字も勉強しないとダメかなー、全然読めないや。
何が書いてあるのかすら分からないのはかなり困る。
今度マレイトさん辺りに相談してみるかな?
「それでは行ってきますね」
「うむ、気をつけてな」
セルデスさんの屋敷を出た私は冒険者ギルドを目指して歩いていた。
冒険者ギルドは馬車ギルドのすぐ近くにあるらしい。
馬車ギルドに到着後、程なくしてそれらしい建物を発見したので扉を開けて中へ入る事にする。
ギルドの中は馬車ギルドと似たような感じだった。
正面には受付と思われるカウンターがあり、その左右には飲食店の様にテーブルや椅子が並んで置かれている。
椅子に座り、何か(恐らくは朝食)を食べている人も数人居るようだ。
私は受付カウンターに近寄り声を掛ける。
「すみませーん」
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「昨日、ギルドから呼ばれたのでお話を伺いに着ました。受付でこれを見せるように言われてます」
そう言ってセルデスさんから預かった紹介状を渡す。
一瞬怪訝な顔をされたが、封筒を裏返して見た途端ハッとした顔になりこちらに話しかけてきた。
「失礼致しました。ギルド支部長を呼んで参りますので、そちらの席で座ってお待ち下さい」
「分かりました」
言われた通り、備え付けてある椅子に座って待つ事にする。
支部長かー……そんな人がいきなり出てくるって。あの封筒を裏返した途端表情が変わったよね。あれってそこまで重要な意味があるんだろーか。
色々考えていると受付の横にある扉が開き、中から1人男性が出てきた。
……あれって、ちょんまげ? じゃなくて落ち武者ヘアー?
髪の毛を上の方でしばっているといった特徴的な髪形をした男性は、私の居るテーブルの横で止まった。
この人が支部長さんなんだろーか?
「お待たせをした。私はこの冒険者ギルドの支部長をやらせてもらっている、デルディ・ベリスエルという者だ」
私も立ち上がって挨拶を返す。
「初めまして、エクソシスト見習いのハルナと申します」
しっかし特徴的な人だ。
青色の目はともかく上の方でしばっている紫色の髪の毛が目立つ目立つ。
一度会うだけで大抵の人に覚えられそうな人だなー……。
「急な話にも関わらず、依頼を請けてくれた事に感謝する。
まずは掛けてほしい、飲み物を用意しよう」
私が椅子に座るとデルディさんも向かいの席に腰を下ろした。
そして運ばれてくるコップに入った飲み物が2つ。
早速口をつけてみると甘かった。味はミックスジュースのような感じだ。
デルディさんも飲み物に口をつけたところで話が始まった。
「話を始める前に1つだけお聞ききしたいのだが……3日前に町外れにある墓地でゴーストを退治したのはアナタで間違いはないかな?」
「ええ、そうですけど……なにかありましたか?」
「いや失礼、先程見習いと聞こえたものでね、気になってしまったのだ」
あぁ、ナルホド。でも見習いってのもあながち間違いじゃないんだけどなー。
まあ、ここは一応……。
「私はまだ儀式を通過してませんからね、見習いを名乗る事にしているんです」
「なるほど了解した。では早速だが話をさせて頂こう。
依頼の内容は、今度取り壊し予定となっている屋敷の調査への同行。
調査自体はギルド員が行うので、アナタの仕事はそれに同行し、もしゴーストが出現した場合はそれの対処となる。
報酬は銀貨3枚、期間は明日までだ。
なにか質問はあるかな?」
す、凄い早口。きっと頭の回転とかもの凄く速いんだろうなー。
ってそうじゃない。質問事項は……っと。
「ゴーストが出現しなかった場合はどうなるんですか?」
「ゴースト出現の有無に関わらず報酬は全額支払おう」
「期間内に調査が完了しなかった場合はどうなります?」
「その場合は調査を行うギルド員が責任を負う事になっている。
アナタはあくまでも同行者だ。ゴーストが出現した場合の対処をしてくれればいい。
報酬も調査の成功失敗に関わらず支払おう」
「なぜ、ゴーストが出現すると思われるんですか?」
「この依頼を請け負ったギルド員の下調べによって判明したのだ。
報告を聞く限りでは、ゴーストが出現しても不思議ではないとの結論に達した。
それでこうしてギルドとしての対策を取っているのだ」
質問に対してよどみなく答えが返ってくる。すごいなー。
「調査には何人ぐらい行くんですか?」
「1人だ。確かランクが上がったばかりの新米冒険者だったな」
「ゴーストが出るかもしれないのに新米1人って……いいんですか?」
「屋敷の調査自体は難しい仕事ではなく、むしろ初心者向けの仕事となる。
今回こうしてアナタを呼ぶ事になったのは、この冒険者がしっかりと下調べをした成果だ。こうして対策を取る事が出来たのだからな」
「なるほど、よく分かりました」
「他に質問はあるかな?」
んー……私が同行するって人に会えるかな?
「私が同行する冒険者って会えますか? 挨拶したいんですけど」
「ふむ、そうだな。このあと時間はあるのかな?」
「お昼頃まででしたら大丈夫ですよ」
一応今日もマレイトさんのところに顔を出したいしね。約束はしてないけど。
「それならそのままここで待っているといい。
彼女が着たらこの席に来るよう受付に言っておこう」
「彼女? 女性なんですか?」
「ああ。見た感じアナタとは歳が近いようだ。上手くやれるだろう。
それから、もし彼女に何か連絡したい事があるなら受付に言うといい。伝言を残せるようにしておこう」
「分かりました、ありがとうございます」
「まだ他に質問はあるかな?」
「いえ、もうないです。ありがとうございました」
「急に無茶な事を頼んだのはこちらなのだ。重ねて感謝すると共に無事を祈る。
では、これで失礼させていただくよ」
そう言って受付でなにやら2~3話した後、横の扉から奥へと入って行ってしまった。
恐らく私の同行者への連絡を言伝して行ったのだろう。
それではしばらく待つとしますか。
待ち人は意外と早くやってきた。
デルディさんが席を立ってから体感時間で大体30分が経過した頃、受付の方からこちらの席に向かって歩いてくる女性が1人。
皮製と思われる鎧を着た、オレンジ色の髪の毛を肩口で揃えたショートカットの女性だ。
丸っこい目をした緑の瞳が特徴的である。
年齢は私と同じぐらいだろうか?
「こんにちは。あなたがアタシの仕事に同行してくれる人?」
「初めまして、こんにちは。エクソシスト見習いのハルナと言います」
「初めまして。アタシはスフィル、ランクEの冒険者よ。よろしくね?」
そう言って手を差し出してくるスフィルさん。
「よろしくお願いします、スフィルさん」
手を握り返す。握手、握手。
「うーん、カタイなぁ。アタシら歳も近そうだしさ、もっと普通に喋っていいと思うよ?」
「そうですか?」
「そうそう。名前も「さん」付けなし、アタシもハルナって呼ばせてもらうからさ」
「ん……。りょーかい、私も普通に喋らせてもらうわ」
なんか勢いに負けた気がするけど……まあいっか。
コッチに着てから同年代で普通に喋れる人って居なかったしなー。
気を使わずに喋れる人ってありがたい。
「そうそう、その調子。それじゃ行きましょうか」
「え? どこへ?」
「下見よ、下見。アタシらが調査する屋敷を直接見に行くの。
ほら、同行って急に決まったじゃない? ハルナはまだ直接屋敷を見た事無いんじゃないかと思ってさ。
それともなんかこの後予定あった?」
いや確かにまだ見たことないけどっ。
はぁ、挨拶するだけのつもりだったんだけどなー。なんつーか……勢いのある人だ。
「予定は……お昼過ぎまでなら大丈夫かな? ちょっと寄りたい所があって」
「ふーん、お昼までね、了解。じゃ案内するから着いてきて」
「と、ちょっと待って……」
私は残ってたミックスジュースを慌てて飲み干し立ち上がる。
なんか彼女とは上手くやっていけそうな気がする……多分だけどね。
支部長の話し方が早口っぽく見えればいいのですが……。
今後の更新予定に関しまして、活動報告の方に書いていますのでよろしければそちらも合わせてご覧下さい。