15 実践! 魔法教室 その1
2014/03/30 ふりがな表記をカタカナに修正
魔法の実践をするならと隣の部屋に移動する事になった。
隣の部屋が実験室になっているらしい。
実験室の扉を開け中へと入る。中は見た感じ何もないただ広いだけの部屋だ。
部屋の片隅には椅子とテーブルが置いてあるが、その上にはなにか薄っぺらいもの(恐らくは革)が山のように積まれている。
あの山ってきっと実験した魔法陣の記録とかだよね。あんな風に積み上げてて大丈夫なのかなー。
机の上の小山を眺めてるとマレイトさんが申し訳なさそうに声を掛けてくる。
「散らかっててすまんな、なかなか片付ける暇が無くてのう」
それは片付けない人の言い訳です先生。
ここでの私の最初の仕事は片付けと整理かなーとか考えてると説明が始まった。
「では、実践を始めるぞい。まずは魔法陣を空中に描く方法からじゃ。
やり方はさっきも言うたと思うが、魔力を放出し自分の頭に描く形に整えて魔法陣を形作るんじゃが……魔力は圧縮でもせん限り目に見えんからの、思い通りの形を作るのが慣れるまでは難しいんじゃ。ここが最初の難関かのぅ。
とりあえず、見本という事で実践して見せよう」
そう言って右手を突き出すマレイトさん。
それと同時に右手から薄い煙のような半透明の何かがもわもわと染み出して辺りを漂いだした。
「見えんと思うがわしは今右手から魔力を出しておる。それから、描きたいと思う魔法陣を頭に浮かべ、その形に添って魔力を流すんじゃ」
え? この煙っぽいのが多分魔力だよね。思いっきり見えてますけど……。
目の前で魔力と思われる煙がふわふわと漂いながら何かを形作っていく。
やがてそれは円を中心とした魔法陣っぽいモノへと姿を変えた。
「魔法陣の形が出来たと思うたら、次は流す魔力を増やし魔法陣を塗り固める感じで圧縮していくんじゃ」
マレイトさんの右手から魔力が更に染み出し、魔法陣の形に添って集められていく。
薄かった煙状の魔力が重なり集まり、どんどん濃くなっていくのが分かる。
初めは後ろが透けて見えてた魔法陣が濃くなり透けて見えなくなった頃、マレイトさんが声を出した。
「ここまで来れば目に見えるじゃろ。これが空中への魔法陣の描き方じゃな。見えるだけで実際に触れはせんが、あとはこれに魔力を流せば魔法が発動するぞい」
そう言ってマレイトさんは作ったばかりの魔法陣に手をかざす。魔法陣に光が走り、それと同時に生まれる光の球が1つ。
「これは『光源』の魔法陣じゃ。光る球を生み出すだけじゃが結構重宝するぞい。込めた魔力次第じゃが大体半日ぐらいは持つかのぅ」
あのランタンと同じよーな魔法っか。
……私がやったらまた爆発したりしないだろーな。
「これ、私がやったらまた爆発したりしません? なんか怖いんですけど」
「多分大丈夫じゃろ。空中に描くタイプの魔法陣で、魔力を込めすぎて暴発したなんて話は聞いたことがないんじゃし……」
うぅ、不安なお答えが。
そいや他人の作った魔法陣でも魔法は使えるんだろーか?
「マレイトさん、質問です。さっきマレイトさんが作った魔法陣に、私が魔力を込めたら魔法が使えるんですか?」
「結論から言うと無理じゃな。魔法陣に使った魔力と流す魔力が違う場合は、魔力が正常に流れんのか魔法が発動せんのじゃ。
それにほれ、見てみぃ。わしの作った魔法陣はもう消えてしもとるじゃろ。空中に描く魔法陣は寿命が短いでな、あっという間に霧散してしまうんじゃ」
ふと見れば、マレイトさんの作った魔法陣は形が崩れてぼやけてきており、後ろが透けて見えている。もう少ししたら完全に消えてしまいそうだ。
私にはまだ見えてるんだけど……半透明ぐらいの濃度(?)だと見えないんだろーか?
「次は嬢ちゃんの番じゃ。とは言ってもまずは魔力で魔法陣を作るところから練習じゃな。やり方はさっきやって見せた通りじゃ」
そう言ってマレイトさんは資料が山のように積まれているテーブルの上からおもむろに1枚の革を抜き取った。
こわっ、崩れたらどーするのよ。
「頭に描く魔法陣はこれを使うのがよかろう、さっきわしがやったのと同じ『光源』の魔法陣じゃ」
差し出された革に描かれた1つの魔法陣。さっきマレイトさんが描いた魔法陣とそっくりだ。
「まずは魔力を思い通りに流す事を意識するといいじゃろ」
「分かりました、やってみます」
魔力を出す……確か大鎌を出さないように持ってくるイメージでいけたはず。
右手を突き出し力を込める。それと同時にシュゴ───────ッと右手から噴き出す半透明のナニカ。
い、今のが魔力かな? なんかすっごい勢いで噴き出したけど……。
マレイトさんの魔力放出が漂う煙なら、私の魔力放出はジェット機の噴射のような感じだ。思考停止したまま振り向くとマレイトさんも固まっている。
「今感じたのが嬢ちゃんの……凄まじいのぅ……」
などとぶつぶつ呟いている。
とりあえず、もっとゆっくり緩やかに魔力を出すところから始めた方がよさそうだなー。
そう結論付けた私はゆっくりと魔力を出す方法を手探りで試しだした。
何度か試したり、マレイトさんに見本を見せてもらってる内に気付いた事がある。
この魔力と言うのは魂のエネルギーではなかろうかという推測だ。
気付いたきっかけは、空中を漂う魔力に対して素手で干渉出来たからである。なんとなくやってみたら空中に漂う魔力を掴めてしまったのだ。
通常、人の目に映ることなく、集まり濃くなれば見ることは出来るものの干渉は不可能。
そして私(死神)にのみ、普通に目に見る事が出来る上、干渉も可能。
この推測が正しいなら、墓地で出会ったゴーストの魔法と思われる炎の塊を大鎌で弾けたのも納得がいく。魂を切り取る事の出来る鎌なんだし、魂のエネルギーで作られた炎の塊を弾くぐらい余裕でやれるだろう。
魂関係に直接干渉できる死神の私なら素手でも弾こうと思えばやれる気がするけど……熱そうだしなんかヤダ。
あそこでぷかぷか浮いてる光の球を、大鎌使って切れれば実証になるんだけどさすがにここでそれをやる気はない。
自分で魔法が使えるようになってから試してみるつもりであるけどね。
そのためにもまずは魔力の出し方の練習しないとなぁ……。
「大丈夫か、疲れたかの?」
アレコレ考えてるとマレイトさんに声を掛けられた。
「いえ、なかなか上手くいかないなーと思いまして」
「そうか、無理はしないようにな。疲れを感じたらすぐに言うんじゃぞ。魔力の使いすぎで倒れられては困るしの」
「魔力って使いすぎたら倒れるんですか?」
「ああ、魔力を使い続けると段々とダルさのようなものが体中に広がってな、最終的には動けなくなってしまうんじゃ」
魂がエネルギーを出しすぎて疲弊した、かな?
「俗に、魔力が尽きたと言われる状態じゃな。こうなってしまうとしばらくは動けんからの、嬢ちゃんも十分に気をつけてくれ」
「分かりました。でも、まだなんともないですから大丈夫ですよ」
「……あれほど魔力を放出しておいてなんともないとはの。嬢ちゃんには才能があるんじゃな、きっと」
才能って問題なんだろーかそれ。
実際私は疲労も何も感じてないけど……こっちの理由は全然わかんないなー。
魔力の出し方を試行錯誤しつつ続けること約30分、ようやくゆっくり魔力を出す事に成功した(それでもまだ風船から空気が抜けてくぐらいの勢いはあるが……)私は、魔法陣の見本が描かれた革とにらめっこしつつ、魔力で魔法陣を形作ることに専念していた。
私ならテキトーに魔力を放出して、指でぐいぐい整形するなんて荒業も出来なくはないのだが、こんなやり方だと練習にならないし、手をかざして空中に魔法陣を浮かべると言う楽しそうな事をやりたいので地道に練習を続ける。
しっかしこれ、魔力が見える私はまだいいけど見えない人がやるにはメチャクチャ苦労するんじゃなかろーか。
見えないものを使って感覚だけでこの魔法陣を作れって相当無茶を言われてる気がする。
最初の難関って言ってたけどえらくハードルが高いなー。
見本と見比べつつ、噴き出す魔力を操り魔法陣を形作る。もわっとした煙のような状態よりこっちのが描きやすい気がするんだけどその辺はどーなんだろ?
なんとか魔法陣の形が出来上がったところで次は圧縮だ。塗り固めるような感じで……とマレイトさんが言っていたので、出来上がった魔法陣をなぞるようにして何度も魔力を重ねていく。
程なくして魔法陣の後ろが透けて見えなくなったので、マレイトさんに声を掛ける。
「マレイトさん、こんな感じでどうでしょう?」
「………………」
あれ? 返事がない。なんか口を開けたまま固まってるし。
「マレイトさん?」
「す、すまん。あー……その魔法陣に魔力を流してもらえるかの?」
あれ、魔法陣の評価なし? ま、いいけど。
出来上がった魔法陣に手をかざし、そーっと魔力を流す。
程なくして生まれる光の球。
よっし、成功ーっ!
「驚いたの……まさか1日経たずにここまでやってしまうとは」
「えーと……なんかマズかったですか?」
「いや、逆じゃよ、嬢ちゃんが凄すぎるんじゃ。魔力で魔法陣を作るだけでも10日~1巡りは掛かるといわれておるし、事実その通りなんじゃが、まさか1日経たずとはの……」
確かに、魔力が目に見えないならそのぐらい掛かるかもしんないけど……。
「それで、次はどうするんですか?」
「あー……いや、すまん。まさか1日で嬢ちゃんが魔法を使えるようになるとは思ってもおらんでな。この後の予定はまだ考えとらんのじゃよ」
それもそーか。通常10日~1巡り掛かるって話なんだし。
「すまんが今日はここまでじゃ。明日までに続きの予定を考えておくよってな、それで勘弁してくれい」
「了解です、分かりました」
でももうちょっと練習したいなー。せっかく成功したんだしもうちょっと続けたい。
「あの、マレイトさん。もう少しここで魔法陣を作る練習していってもいいですか?」
「もちろん構わんよ、好きなだけ練習しておくれ。ただし、疲れが出てきたら即やめるんじゃぞ?」
「分かりました、ありがとうございます」
そう言って私は魔法陣作成の練習を続けるのであった。
ここを見て下さる読者の方々のお陰で、当面の目標だった1日100ユニークを達成する事が出来ました。
ありがとうございます。