オルティス公爵も隣国へ
お待たせしました。
ふぅ~とため息をついて、アレクセイは席に座りました。
そして、少し何か考えていたようでしたが頭をふっと上げてオルティス公爵に告げました。
「オルティス公爵、すまないが宰相ととも隣国に行ってもらえますか?」
それを聞いたオルティス公爵は驚いた表情で、
「え…。なぜ私が隣国に参るのでございますか?」
「それは、宰相を信じてないわけでもなく、オルティス公爵そなたにもこのたびのことを案じているのであろう?」
「はい、それは…。」
「だから一緒に行って解決して欲しいのです。このたびの状況に陥ったのはすべてこの私が至らないことだとは分かっております。」アレクセイは苦渋に満ちた表情で言います。
オルティス公爵はそれを聞いて訝し気な表情で、
「恐れながら、なぜ陛下が隣国に行かれないのでございますか?」
「…それは、私にはすることがあるから。」
聞こえるか聞こえないか小さな声でボソリとアレクセイが答えました。
「はっ…?なさりたいことでございますか。」
オルティス公爵がますます怪訝そうな表情で尋ねます。
「…遅いかも知れないが、少し掃除をしようと思う。」
アレクセイは苦渋に満ちた表情で答えます。
「掃除で、ございますか?それは、まさか…」
オルティス公爵はゴクリと生唾を飲み込んで言います。
「王宮の膿を出そうと思う。」
アレクセイは搾り出すような声で言います。
「そ、それは陛下…!大臣たちを粛清することでございますか!」
オルティス公爵は驚きのあまり冷や汗をかきながら叫びます。
「へ、陛下…。それはなりません!隣国へ行き、穏便にすませられれば、大臣を引退させればすむ話でございます。これ以上わが国の不祥事を表に出すなどあってはなりません。」
オルティス公爵はアレクセイに必死に言い募ります。
「クックッ…。」
それを聞いたアレクセイは何を思っていたのか、いきなり笑い出しました。
さすがにオルティス公爵は驚いて、
「へ、陛下…。いかがなされましたか?誰か、誰かおらぬか…。女官長を呼べ!」
あわてふためいて、オルティス公爵は周囲を見渡しました。
「フッ…。よいよい、オルティス公爵。誰も呼ぶ必要はない。私は正気だ。」
アレクセイは微笑んでオルティス公爵を制しました。
「は…、陛下。あの…」
オルティス公爵は何と言っていいか分からず、口ごもってしまいました。
「さて、オルティス公爵…。穏便にすますのも良い方法やも知れぬが、それでは火種を残したままとなるのではないかと私は思う。この際、膿をすべて取り出して治世を行って行きたいと思うが、いかがか?」
オルティス公爵は、はぁ~とため息をついて答えます。
「恐れ入ります、陛下。仰せはごもっともでございますが、これ以上の不祥事は諸外国に対してわが国が侮れる恐れがあろうかと存じます。慎重にご判断なされますようにお願い申し上げます。」
そう一気に言うとオルティス公爵は頭を下げました。
アレクセイはそれを聞いて、少し寂しそうな顔をして、
「それは、反対ということなのだな…。」
「い、いえ、陛下。慎重にご判断いただきたいと申しているだけでございます。」
オルティス公爵は冷や汗をかきながら答えます。
「慎重にか…。反対と言うことだな…。オルティス公爵には味方になって欲しかったのだか残念だ。」
アレクセイはまた寂しそうな表情をして呟きました。
「陛下、陛下がそのようになされるおつもりでしたら、臣下として協力出来ることはいたします。」
オルティス公爵はフォローするように言い募ります。
「反対でも協力すると?」
皮肉そうにアレクセイが尋ねます。
「何を仰せられます、陛下。陛下のお考えに従うのが臣下の努めと申すもの。何なりとお申しつけ下さいますように。」
「有り難い。さきほど申したが、宰相と共に隣国に行って欲しい。」
そう言うとアレクセイは頼むぞと言うようにポンとオルティス公爵の肩をたたきました。
「陛下、私は掃除に協力させてはいただけないのでございますか?」
オルティス公爵は残念そうに尋ねます。
それを聞いたアレクセイは意外そうな表情で、
「…反対ではないのか?しかし、オルティス公爵は宰相のために一緒に行ってほしい。」
「宰相さまのために…?」
オルティス公爵はわけがわからない様子で言います。
「ああ…。そなたは宰相が隣国に行くのが気に入らないようだが、自分で始末をつけなくては未来はないであろうからな。」
アレクセイは厳しい表情で言います。
「え…。それでは宰相さまをそのままになさるおつもりで?」
オルティス公爵は戸惑いを隠し切れないように尋ねます。
「クックッ…。よほど宰相が気に入らないようだな。どうなるかは分からないが、せめて宰相の位を追われて行くよりは勇退出来る道をつくってやりたいのだ。幼い私を国王として支えてくれた叔父だからな。」
アレクセイは慈愛に満ちた表情で答えます。
「さようでございましたか…。そのお言葉を宰相さまがお聞きになられると、きっと喜ばれましょう。」
オルティス公爵は微笑んで答えます。
「宰相には申すなよ。」
アレクセイは恥ずかしいのか照れたように笑います。
「かしこまりました、陛下。」
オルティス公爵も若い青年らしく笑うアレクセイの姿にいたずらっぽく笑いました。
「しかし、陛下。それたら私が隣国に行く必要がないのではないでしょうか?」
「それはそうだが、念のためオルティス公爵も一緒の方がよいのではないのかと思ってな。」
ふむと、少し考え込み様子でアレクセイが答えます。
「あの、陛下…。もしや宰相さまを信じ切れてないのでしょうか?」
オルティス公爵が遠慮がちに尋ねます。
「いや、そう言うわけではないのだが…。亡き父君がいつだったか、おっしゃったことがつい頭をよぎったものだから。」
アレクセイはポツリと懐かしそうに言います。
「は…。先の国王陛下が、何を仰せられたのでございますか?」
「まだ幼い私に、”国王になるのだから、常に最悪のことを考えて行動せよ”とおっしゃったのだ。なぜかは分からないが、いまその言葉が頭をよぎったのだ。」
「そのようなことを仰せでございましたか。さきの国王陛下らしいお言葉でございますなぁ…。慎重なお方でございましたから。」
オルティス公爵も懐かしそうに答えます。
「なるほど、それでは私は万一のときの保険と言うところでございますね、陛下。」
確認するようにアレクセイに尋ねます。
「う、まあ…。そういうことだ。」
アレクセイが言葉を濁して答えます。
「しかし、よろしいのですか?万一のときは宰相さまがお立場がないということにはなりませんかな?」
少し意地悪そうにオルティス公爵がアレクセイに尋ねます。
「う、まあ…。しかし、この交渉に成功することがわが国にとって一番だからな。宰相のことは二の次だ。そう心得て、交渉に取り組んで欲しい。」
厳しい表情でアレクセイがオルティス公爵に答えます。
「承りました、陛下。必ず交渉を成功させて参ります。」
オルティス公爵は臣下の礼をとって、答えます。
「よろしく頼むぞ。私も頑張ってみるから。」
アレクセイは頷いて答えます。
「お一人で大丈夫でございますか?」
心配そうにオルティス公爵が尋ねてきました。
「心配は無用だ。レオンがいるからな。」
アレクセイは笑って答えます。
「それなら大丈夫でございますな。万一の折には、前ロプーヒナ公爵を頼られますように。」
にこやかにオルティス公爵が言います。
「ナターリアの父を、か?すでに引退しているが…。」
アレクセイが怪訝そうに尋ねます。
「引退なされていても頼りになるお方にございます。このたびの大臣のことも前ロプーヒナ公爵が王太后さまに情報を提供なされたと聞いております。」
「そうであったか…。気に留めておく。」
アレクセイが少し動揺したように答えます。
「では失礼いたします、陛下。」
オルティス公爵はそう言うと部屋を出て行きました。
そして、宰相とともにひそかに隣国に旅立って行きました。
お読みいただきましてありがとうございます。
すみません。しばらくナターリアが出てきません。
出てくるときは決断をするときかなと、思います。