アレクセイとオルティス公爵の会話
お待たせしまして、申し訳ございません。やっと更新出来ました。
さて、ここは王宮のアレクセイの執務室です。
ナターリアが王宮から去って早一月余り経とうとしていました。
なんだか心にぽっかりと穴のあいてしまっていたアレクセイでしたが、国王としての仕事は日々行わなくてはなりません。
仕方なく淡々と行っておりました。
ただ、ナターリアのいない後宮に行く気力はなく、プライベートな時間は私室で過ごしておりました。
もちろん、シャルロッテの気持ちなんて慮る余裕なんてありませんでした。
かわいいさかりの王子にも逢えず、ただ日々恋しさばかりがつのっておりました。
執務室にはカリカリとペンと走らせる音だけが響き、そこはまるでお通夜のように重苦しい雰囲気が漂っておりました。
コンコン…
「失礼いたします。陛下、オルティス公爵との面会のお時間でございます。」
侍従がやって来て、離宮から戻ってきたばかりの公爵夫人の夫のオルティス公爵の訪問を告げます。
いかに公爵夫人といえども理由もなく国王陛下との面会は許されません。
それは周囲になにか願い事があるのかという目で見られてしまいます。不自然なく話しをするとすれば、後宮で行われるお茶会やまたは王宮で行われる夜会ぐらいでしょう。
しかし、それは時期を窺わなくてはなりませんので、夫であるオルティス公爵の登場となりました。
公爵と面会であれば、何の不思議もありません。
「そうか、もうそんな時間か。では参ろう。女官長も同席しておるな?」
アレクセイは侍従に確認するように尋ねます。
「はい、すでに謁見の間でお待ちでございます。」
侍従が心得たように答えます。
それを聞いたアレクセイは鷹揚にうなづき、そのまま淡々と謁見の間に向かいました。その姿は、まるでロボットのようでした。
「陛下におかれましては、ご機嫌ゆるわしく存じます。」
オルティス公爵は控えめに挨拶をします。
「これは、オルティス公爵。息災でなにより。」
アレクセイはそつなく挨拶を交わします。そして、ころあいを見て、侍従や護衛を下がらせました。
「それで、夫人は何と申していた?ナターリアは元気であったか?」
アレクセイは待ちきれぬようにオルティス公爵に尋ねます。
「はい、陛下。ナターリアさま、王子さまもともにお元気でお過ごしのご様子にございます。」
微笑んでオルティス公爵が答えます。
「そうか、それは良かった。アルバートもさぞ大きくなったことであろうな。」
一月余りのことなのに、懐かしそうにアレクセイが答えます。
「さようでございます。王子さまには、お元気なご様子で侍女たちが苦労しているようだったと妻は申しております。」
オルティス公爵が妻から聞いた話をアレクセイに伝えます。
「そうであったか。そんな年頃であろうな。逢いたい…。」
少し唇をかみ締めながら、アレクセイは愛しい妻と息子に逢いたくてたまらなくなりました。
「陛下…。」
「それで、ナターリアは何と申しておった?いつごろ、こちらに戻ると…?」
アレクセイが窺うようにオルティス公爵に尋ねます。
しかし、オルティス公爵はこの質問に対し少し歯切れが悪く、
「それがその…、ナターリアさまにおかれましてはもうしばらく滞在されるご様子にて、いつとはわからぬとのことにございます。」
「何…。それは、戻らないということなのか…?」
不安そうな表情でアレクセイが聞き返します。
「それはしかとはわかりかねますが、いろいろございましたから、おそらくお心の整理がつかないのでございましょう。」
オルティス公爵は同情するように答えます。
「そうか、そうであろうな…。私のせいだな、守ってやれぬから。」
ため息をついてアレクセイはうなだれてしまいました。
「陛下、しっかりなさいませ。」
側にいた女官長が励ますようにアレクセイに話しかけます。
「女官長か…。」
はぁとまた、アレクセイはため息をついて沈み込みます。
仕方なさそうに女官長がアレクセイに近寄り、
「陛下、公爵さまの前ですよ。そのようなお姿をみせてはなりません。」
咎めるように女官長がたしなめます。
「そうだったな…。公爵、ご苦労であったな。」
気を取り直して、アレクセイがオルティス公爵をねぎらいます。
「いえ…。お気になさらず、陛下。僭越とは存じますが、ナターリアさまがお帰りになりやすいように環境を整えることお考えになられてはいかがでございましょうか?いかに陛下の即位に際し尽力があったにせよ、大臣の息女であるシャルロッテさまはお子のお一人もございません。それにひきかえナターリアさまはすでに第一王子の母君にございます。側妃のお役目を果たされているのはどちらか誰の目にも明らかでございます。」
苦々しい表情でオルティス公爵がアレクセイに言いにくいことを直言します。
「オルティス公爵さま…。」
側にいた女官長が思わず絶句してしまいました。
アレクセイもさすがに体を震わせて、
「オルティス公爵、なかなか申すな…。」
「申し訳ございません、陛下。ご無礼は承知の上でございます。しかし、ナターリアさまにお帰りいただくのはそれが一番かと存じます。」
オルティス公爵は、平伏しながらあえて言い募ります。
「陛下、恐れながら私はこの国の公爵にございます。公爵として、何かできることがございましたら何なりとお申し付け下さいますように。」
「それは、ナターリアのために尽力するという意味か…?」
アレクセイは公爵を窺うように尋ねます。
「仰せの通りでございます、陛下。妻からナターリアさまの状況について伺いました。公爵として、一側妃の力になるというのは少し問題があろうかと思いますが、第一王子さまの母君にふさわしい待遇を受けられますように尽力するというのは問題がある行為ではないように思われます。」
オルティス公爵は中立派という立場を貫いてきましたから、遠慮がちではありましたが力強くアレクセイに言います。
「これは…、オルティス公爵からそのような言葉を聞けるとは思わなかった。」
アレクセイは意外そうに答えます。
「恐れながら、陛下…。お話いただけませんか…?」
アレクセイは思わずドキッとしながら、冷静に、
「話しとは何のことだ?」
「お隠しなさいませんように、陛下。大臣のことですよ。あの夜会以来、大臣に対する陛下、並びに王太后さまのご様子がおかしいのは周知の事実でございます。何かなくてはあれほど気を遣っておられましたのにこれほど変わりましょうか?」
オルティス公爵はすべてを見透かしたようにアレクセイに尋ねます。
「オルティス公爵、そなた、何を知っている?」
アレクセイは平静を保ちながら言います。
「やはり、何かございますね。女官長もご存知なのでしょう?ここには我々のほかには誰もおりません。どうかお話し下さいますようにお願い申し上げます。何か協力できることがあるかもしれません。」
さすがにこの国の公爵を長年務めてきただけあって、アレクセイも女官長も顔を見合わせて話すことにしました。
「実は…」
話を聞いたオルティス公爵はさすがに驚き、思わず絶句してしまいました。
「それで、陛下にはいかがなされるおつもりでございますか?」
「それは大臣のことだな…。どうしてよいやら…?」
アレクセイはオルティス公爵に尋ねられて頭を抱えてしまいました。
「何を仰せでございますか!これが発覚いたしましたら、一大事にございますぞ。早急に手を打って隣国との関係を関わります。」
あまりのヘタレぶりにオルティス公爵がはっぱをかけるように言います。
「それは分かっているのだか、あまりに事が大きくなり過ぎていてどうしてよいやらわからぬのだ。」
アレクセイも分かってはいたのですが、父を早くに亡くしたいたためかどうしていいのか検討もつかないのでした。
「それは、そうでしょうが…。このままでは妃の問題では収まりません。国際問題になります。陛下、恐れながら、宰相さまをこちらにお越し願えますでしょうか?」
意を決したようにオルティス公爵が言います。
「宰相を…。それはどういうことだ?」
すっかり弱気になったアレクセイがオルティス公爵に恐れをなしたように尋ねます。
「それはもちろん、状況を把握するためでございます。この事態をなんとかせねば、ナターリアさまにお逢いになることは叶いませぬぞ、陛下。」
オルティス公爵がアレクセイに詰め寄ります。
「わ、分かった。女官長、すまぬが宰相を急ぎ呼んで来てくれ。誰か来ては面倒だから、私の私室に呼ぶように。」
アレクセイも動揺しながらも、大臣に気取らせないために私室に場所を変えることにしました。
国王のプライベートルームですから、ここなら安心です。
お読みいただきましてありがとうございます。
ヘタレなアレクセイですが、これから頑張ると思いますので、見守ってやって下さい。