別荘でのナターリアたち
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感想で更新のリクエストをいただきましたので、頑張って更新しました。
わりと単純な作者です。
「いやいや…!」
不機嫌な様子でこの国の第一王子・アルバートが訴えます。
「どうしたのですか?」
ナターリアが穏やかに乳母に尋ねます。
「まぁ、ナターリアさま。申し訳ございません。王子さまがひどくおむずかりでございまして、お越しいただいた次第にございます。」
乳母が困り果てた様子で答えます。
「まあ、アルバート。どうしたと言うのです?」
ナターリアは部屋に入り、不機嫌なアルバートを抱き上げました。
抱きしめられて安心したのか、アルバートは機嫌が良くなりました。
「ぶぅ~。おたたたま、ここで遊ぶの、やぁ~。お外行きたい~。」
「お外に行きたいの?でも、今日はもう遅いから明日になさい、ね?」
ナターリアが優しく諭します。
「いやぁ~。いますぐ、行きたい!」
アルバートはなおもあまえるように訴えます。
ナターリアは少し困った顔をして、
「アルバート、よくお聞きなさい。そなたはこの国の王子なのよ。外に行くとなると護衛が必要だから、急には出られたいの。分かるわね?その代わり、明日はお母さまも一緒に行ってあげるわ。」
「本当?やった~!じゃあ、やくそく。」
アルバートがうれしそうに答えます。
「分かったわ、約束ね。じゃあ、今日は乳母と仲良くね。」ナターリアはそう言ってアルバートをまた抱きしめて、約束をしました。
その様子を見てホッと安心した乳母が、
「ありがとうございます、ナターリアさま。」
そう言って礼をします。
「いいのよ。じゃあ、後をお願いね。それから、明日、アルバートと出かけますからそのつもりで。」
ナターリアはそう言うとアルバートを乳母に預けました。
「畏まりました、ナターリアさま。」
「それからアリス、離宮に使いを出してちょうだい。明日、王子と出かけますから護衛をお願いしますとね。」
「承りました、ナターリアさま。それから明日、オルティス公爵夫人がお越しになりますので離宮においで願いたいと離宮より使いが参っております。」
「オルティス公爵夫人が?仕方ないわね。分かったと伝えてちょうだい。」
複雑そうな表情でナターリアが答えます。
「承りました。ではそのようにお伝えいたします。」
アリスはそう言って、ナターリアとともに王子の部屋を出ました。
「ところでアリス、王宮ではアルバートと接する機会があまりなかったけれど、あのように甘えん坊だったかしら?」
心配そうにナターリアがアリスに尋ねます。
「それは、きっと母君さまにあまえておいでなのですわ。王宮とこちらとは境遇も違いますし、父君さまにお逢いになることも出来ないわけですから。」
なんともいえない表情でアリスが答えます。
「そう、ですね…。私のわがままでこちらに来てしまいましたからね。」
ナターリアが少し考え込むような表情で答えます。
「ナターリアさま、お気になさいませんように…。いろいろございましたから、陛下もこちらにご静養なされることをお許し下さいましたのでしょう?」
ナターリアを気遣うようにアリスが言います。
「それはそうだけれど、アルバートのためには良くなかったかしら?」
「それは何とも申せませんが、王子さまにとりまして母君さまとこんなに仲良く過ごせる機会は貴重かと存じます。王宮ではいろいろしがらみがございますし。ナターリアさま、この機会を楽しまれてはよろしいのではございませんか?」
「そうね、アリスの言うとおりかも知れないわね。こんなに穏やかに過ごせる日が来るなんて思いもしなかったわ…。」
ナターリアはそう言って微笑みます。
「王宮では苦労されましたから…。」
アリスがしんみりと答えます。
「そうね…。」
ナターリアは少し悲しそうにつぶやきました。
「あの、ナターリアさま…。もしもですが、こちらでずっとお過ごしになることを考えてみては…?」
アリスが少し思いきったように提案します。
さすがにナターリアは驚いて、
「な、何を言うの?そんなこと、出来るわけがないじゃない。」
「そうでしょうか?でも、また王宮に戻りましたら、華やかではありますが幸せな日々を送ることは出来ませんわ…。」
「そ、それはそうかもしれないけど、王子の将来のことも考えなくては…。ここにいては忘れ去られてしまうかも知れないわ。この子もことも…。」
そう言ってナターリアはお腹をさすりました。
「そうでしたわ。申し訳ございません、ナターリアさま。私ったら、なんてことを…。」
アリスはそう言うとナターリアに謝罪するように深々とお辞儀をしました。
「いいのよ、気にしないで。私もそう出来たらと、思うこともあるのだから…。」
ナターリアはそう言うと、寂しそうに笑いました。
「ナターリアさま…。」
そして、翌日になり離宮から迎えの馬車がやってきました。
「では、お父さま、お母さま、行ってまいります。」
ナターリアはアルバートを連れて、微笑んで挨拶をしました。
「行ってらっしゃいませ、ナターリアさま、王子さま。」
母エレナは、公爵夫人の重荷が取れたのか、肩の力が抜けてさらに優しい微笑みで言います。
「王子さまはご機嫌でいらっしゃっいますな、ナターリアさま?母君さまとお出かけなされるのがうれしいと見えます。」
父の前ロプーヒナ公爵もこちらに来てからすっかり健康を取り戻し、にこやかに送り出すように言います。
「そのようでございますわ。アルバート、お祖父さまとお祖母さまにご挨拶なさいませ。」
「おじじたま、おばばたま、バイバイ。」
にこ~と笑ってアルバートが手を振ります。
「行ってらっしゃいませ、王子さま。」
前ロプーヒナ公爵夫妻は孫の成長に目を細めて、王族に対する礼儀を忘れずに微笑んで送り出しました。
「行ってしまいましたわね、だんなさま。」
エレナがロプーヒナ公爵に向かって寂しそうに話しかけます。
「そうだな。しかし、ナターリアさまはこちらに来たころよりすっかりお元気になられて…。そろそろ潮時かもしれぬな。」
「だんなさま、まさかナターリアさまを王宮にお返しになられるおつもりでございますか?」
少し憤慨したようにエレナが前ロプーヒナ公爵に尋ねます。
「いや、それはナターリアさまがお決めになられることだ。どのようにされるか、以前と比べて王宮も状況も変わってきたようだし…。」
ロプーヒナ公爵は意味深な言葉を投げかけます。
「だんなさま、それはどういう意味でございますか?」
「ま、エレナもそのうち分かることだ。」
「さようでございますか。いい傾向ならばよろしいのですが…。」
エレナは不安そうな表情で娘や孫のことを思い、胸を痛めます。
「心配はいらない、エレナ。いい方向に向かっているはずだ。しかし、どうされるかはナターリアさまがお決めになられること。私たちは見守って行こう。」
前ロプーヒナ公爵は優しく笑ってエレナを抱き寄せます。
「はい…。」
お読みいただきまして、ありがとうございます。
もう少しお付き合いいただければうれしいです。