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客室にて①

お待たせしました。

お気に入り登録が増えて嬉しい限りです。

「うふふ…。」


「ナターリア、こっち来て!」



誰?

私を呼ぶのは…


カールどの?


いえ、違うかしら。

誰なの…?





「お目覚めでございますか?」

王宮お抱え医師・ラウル卿が心配そうに話しかけます。



王宮の大広間の近くの客室に運ばれたナターリアがゆっくりと目を開けました。

「ここは…?」



「王宮の客室でございます。覚えておいでになられますか?夜会でお倒れになられましたので、こちらにご案内させていただいたのでございます。」

ラウル卿が静かに答えます。


ナターリアはうつつなのか、ぼんやりした表情で、

「そうですの…。」



夢だったの…。

きれいな菜の花だった…。


あれは誰だったのかしら。



ああ、いけない。

もう起きないと。



ナターリアはそう思うと、行動が早いのか、寝台から体を起こそうとしました。


ラウル卿は驚いて、

「いけません、ナターリアさま。まだお体の具合がすぐれぬのですから、おやすみ下さいますように。」

と言ってあわてて制します。


「いえ、もうだいじょうぶですわ。」

ナターリアはだるそうな体を起こします。


「ナターリアさま、大事なお体なのですからどうかお休み下さい。」

ラウル卿はなおも押し止めます。


「大事な体…?私などいてもいなくても…。」

ナターリアはそう言うと皮肉そうに、フッと笑いました。



それを聞いたラウル卿は、いつも穏やかなナターリアがこんなことを言うなんて

と、驚きつつも、

「何を仰せられます。ナターリアさまは国王陛下の寵妃であり、またお子をみごもっておいでなのでございますよ。」



しばらくの沈黙ののち、

「みごもった、と…?」

ナターリアは眉をひそめてつぶやきました。




「さようでございます。誠におめでたきことにて、ご懐妊心よりお祝い申し上げます。ナターリアさま、陛下もご心配なされておいででございますし、この嬉しい報告をせねばなりませんので、こちらで少しお待ち下さいますでしょうか?」

ラウル卿はそう言うと、ナターリアに礼をしました。


「いえ、ラウル卿、この報告はしなくてもよい。祝うようなことではない…。」

ナターリアは不機嫌そうに吐き捨てるように言います。



ラウル卿は、なぜナターリアがそんなことを言うのか、信じられませんでした。

いろいろあるとは、思ってはいましたが…。


「な、なぜ、そのようなことを仰せられます…。それに陛下もですが、妹君のメアリー嬢いや今はロプーヒナ公爵夫人でしたな、ご心配なされて別室に控えておられます。せめてご無事をお伝えすれば、さぞ安心なされますでしょう。」

ラウル卿はわけが分からぬまま、なんとか説得しようとしました。


ナターリアはため息をついて、暗い表情のまま、

「そうですね。分かりましたわ。お伝えしてきて下さい、ラウル卿。」

そう言うとナターリアは寝台に横になりました。




「かしこまりました。ではのちほどうかがいます。御前、失礼いたします。」

ラウル卿は礼をして客室を後にしました。






さて、ここは王宮の客室の一つで、アレクセイと女官長、ロプーヒナ公爵夫妻、オルティス公爵夫妻がイライラしながらラウル卿の訪れを待っていました。



「はぁ…、まだなのかしら。お姉さまはどうなっているの!」

メアリーがいてもたってもいられず立ち上がりました。



そんな時です。


コンコン…。


「ラウルでございます。側妃さまの診察結果のご報告にに参りました。」



「おお、ラウル卿…。待っていたぞ。これへ参れ。して、ナターリアの様子は?」

アレクセイは思わず立ち上がり、ラウル卿の報告を求めました。



その様子を見た女官長は思わず眉をしかめました。

一医師を立って迎えるなど国王の威厳にかかわるからです。


もちろん女官長もナターリアのことは心配でしたが…。




「では、恐れながらご報告いたします。ナターリアさまは、少し心労がおありのご様子ではございますが、ご病気ではございません。それに陛下がご心配の毒が入っている可能性でございますが、一切そのようなことはございませんでした。」

ラウル卿はアレクセイの様子を窺いながら報告します。



それを聞いたアレクセイは、安心しながらも訝し気に、

「…しかし、それだけであのようなことに?」


横で聞いていたメアリーは、姉が無事だと聞いて安心したものの、そんなことでと言うアレクセイの言いようがひっかかりました。



「はっ、それが、その…、ナターリアさまはこの報告はお望みではございませんが、ご報告させていただきます。」

ラウル卿は冷や汗をかきながら言います。


「どんなことだ、申して見よ。」

その場にいた全員が固唾をのんで、ラウル卿の報告に耳を傾けました。




「おめでとうございます。側妃ナターリアさま、ご懐妊でございます。」

ラウル卿が礼をして、報告します。




「懐妊…!」


「お姉さまが…。」



その場にいた誰もが驚きつつも嬉しそうな笑みを浮かべました。



「それは間違いなのか、ラウル卿!」

アレクセイは嬉しそうにラウル卿に尋ねます。



「はい、間違いございません。おそらくお倒れになられたのはご心労のせいもございますが、つわりもせいもあったのやも知れません。」

ラウル卿はにこやかではありますが、少々複雑な表情で答えます。



「そうか、めでたいことだ!」

アレクセイは満足そうな表情で言います。


その場にいた者たちもお決まりのように、

「陛下、側妃さまのご懐妊心よりお祝い申し上げます。」

と言い、礼をしました。



「皆、ありがとう。」

アレクセイが嬉しそうに答えます。


しかし…。

罪のない大臣を牢ではありませんが、客室に押し込めたのは事実です。


果たしてどうすべきか…。




女官長は複雑そうな表情でアレクセイの前に進み出て、

「陛下、ナターリアさまのご懐妊は誠におめでたいことではございますが、大臣のことはいかがなされるおつもりでございますか?」



「そ、それは…!」

アレクセイはうっと、答えにつまりました。



「陛下、恐れながら申し上げます。確かに大臣さまは、罪はございませんがロプーヒナ公爵夫人が止められたにもかかわらず、無理にワインを薦められたことは決して褒められたことではございません。疑われる行為をなさったのですから、あまり気にされる必要はないのではないのでしょうか。」

オルティス公爵が冷静に進言します。


アレクセイは少しホッとしたように、

「そうか…。それもそうだな。しかし、大臣に礼は尽くさねばならぬかも知れぬな。」


それを聞いたメアリーは嫌な予感がしました。

まさか姉に大臣に頭を下げさせるつもりなのかしらと、思いました。


メアリーは思いつめた表情でアレクセイに尋ねました。

「陛下、恐れながらお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「何かな、ロプーヒナ公爵夫人?」


「恐れながら陛下、よもやとは思いますがお姉さまに頭を下げさせようとお考えではございますまいな。」

メアリーはふと、静かな怒りを感じさせるように尋ねます。



アレクセイは、図星をさされたように動揺しながら、

「そ、そのようなことがあるわけがないだろう。ナターリアは何もしていないのだから。」



そこでさらに畳み掛けるように、レオンが、

「メアリー、失礼なことを申し上げるものではない。つわりでご気分の優れぬ側妃さまを大臣に謝罪されることなどあるはずないではないか。ましてや大臣を客室にと命じられたのは陛下ご自身でいらっしゃるのですから。さようでございましょう、陛下?」

含み笑いをしながらレオンが言います。



「…そ、そのとおりだ。これは余が解決すべきことだ。何も気にする必要はない。」

アレクセイが少しレオンを睨みつけながら答えます。



「恐れ入ります、陛下。妻もナターリアさまも安心なされることでございましょう。」

レオンはそう言うと慇懃無礼のように礼をしました。




アレクセイは、

相変わらず食えない奴だな…。

とレオンを憎らしく思いましたが、自分が勝手にしたことでナターリアに頭を下げさせる必要はないのは事実でした。



「ところでナターリアさまには、お加減はよろしいのですか?さきほど、ラウル卿は妙なことを言われましたが…。」

オルティス公爵夫人が心配そうに尋ねます。


お読みいただきありがとうございます。


今回はいれられませんでしたが、少しずつ大臣へのお仕置きが始まります。

それにしても、陛下は…。

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