メアリーとの再会
「お姉さま!」
呼び止めたのは妹のメアリーでした。
結婚したばかりの夫で、宰相の次男のレオンも一緒です。
「メアリー、来ていたの?」
嬉しそうにナターリアは妹のもとに駆け寄ります。
「ええ、陛下にご招待いただいたので。お姉さまにお逢いしたくて…。」
メアリーも嬉しそうに姉に話しかけます。
「そうだったの、陛下が…。あら、ご一緒にいるのはもしかしてレオンどのかしら?」
ふと気づいたナターリアがレオンに話しかけます。
レオンは微笑んで会釈すると、
「初めてお目にかかります、ナターリアさま。父から話しを聞いておりましたが、お美しい側妃さまでいらっしゃいますな。恐れ多いことながら、ご実家に婿養子に入りましたレオンと申します。以後お見知りおきを願い上げます。」
「はじめまして、レオンどの。堅苦しい挨拶はいいのですよ。私たちは身内なのですから。どうか妹をよろしくお願いしますね。」
ナターリアはレオンの手をとって、にこやかに話しかけます。
レオンは、側妃といれば美人だけれど、気位の高い方と思っていたので、きさくなナターリアに驚きました。ましてや、第一王子の母です。
やや恐縮しながらもレオンは、答えました。
「恐れ入ります、ナターリアさま。第一王子の母君であられる側妃さまのご実家に相応しくなりますように務めます。」
それを聞いたナターリアは悲しそうに微笑みました。
「ナターリアさま…。」
遠慮がちにアンナが話しかけます。
「何かしら?」
「恐れながら、差し出がましいと存じますが別室でゆっくりお話しなされてはいかがでございますか?」
それを聞いたナターリアは、パッと顔色が変わり嬉しそうに、
「い、いいのですか…?」
「はい、もちろんでございます。このようなこともあろうかとご用意しておりました。さあ、ご案内申し上げます。」
アンナが心得たようにそう言って案内をします。
「ありがとう、アンナ。メアリー、レオンどの、よろしいかしら?」
嬉しげにナターリアが提案します。
「ええ、お姉さま…。でも、…。」
メアリーが言いにくそうに夫であるレオンをちらっと見つめました。
それに気づいたレオンが、
「どうした、メアリー?まさか…。」
「だんなさま、申し訳ないのですけれど、お姉さまと二人だけで話したいので席を外していただけないでしょうか?」
メアリーが苦々しい表情でレオンに頼みます。
「あ、それは…、そうだな。」
レオンは少し傷ついたようにポツリと答えます。
「メアリー、ちょっとそれは失礼ではなくて?」
さすがにナターリアがメアリーをたしなめます。
「あ、あの、お姉さま…。二人だけで話したいことがあるので、お許しを…。だんなさまも…。」
メアリーが申し訳なさそうに言います。
ナターリアは困った顔をしながらも仕方なさそうに、
「仕方ないわね…。レオンどの、どうか妹のご無礼お許し下さいませ。」
そう言って申し訳なさそうに礼をします。
その様子にあわてふためいたレオンが、
「お止め下さいませ。側妃さまにそのようなことをされましては、立つ瀬がございません。ご姉妹でお話しになりたいこともございましょう。気にしておりませんので、お気遣いなさいませんように。」
そう言って礼を返します。
「レオンどの、感謝します。このお詫びはいずれいたしますので。」
ナターリアはそう言ってレオンの手をとって感謝の意を伝えます。
そしてナターリアとメアリーは別室へと向かいました。
残されたレオンは、美しいナターリアに手を握られたので少しドキドキして、ほんのり顔を赤くしてぼんやりとしながらも、やはり叔母の王太后のしたことがひっかかるのだろうかと立ち尽くしていました。
その様子をナターリアのことが気になって追いかけてきたアレクセイが見咎めて、少し恐い顔をしてレオンを問い詰めました。
「側妃と何を話していた?」
「これは陛下、お目にかかれて光栄でございます。 恐れながら、側妃さまにご挨拶申し上げただけにございます。」
レオンは従兄弟とはいえ国王陛下に礼を尽くします。
アレクセイは眉間にシワを寄せて不機嫌そうに、
「それだけか?それにしては、手を握って、親しげであったではないか!?」
「恐れながら申し上げます。ナターリアさまは私の妻の姉君にございます。妹のことをよろしく頼むと仰せられただけでございます。」
レオンは不機嫌な国王陛下にいささか緊張しながらも答えました。
「そ、そうであったな…。して、側妃はどちらに?」
アレクセイは力を落とし、ナターリアの行方を尋ねます。
「恐れながら、ナターリアさまは我が妻メアリーと別室にて歓談中でございます。」
「そうで、あったか…。しかし、レオンいやロプーヒナ公爵 、誤解する行動は慎んで欲しい。ナターリアは義姉かも知れないが、側妃で第一王子の母だ。」
アレクセイは嫉妬で歪んだ顔でレオンに言います。
「恐れ入ります。以後気をつけます。」
レオンは礼をして答えながらも心の中で冷笑していました。
母に頭が上がらず女一人守れないのに、嫉妬だけは一人前だな…。
さて、そのころナターリアたちは王宮の客間におりました。
「お姉さま、いったいどういうことなのですか?陛下よりはお姉さまを王妃にと聞いておりましたのに…。」
メアリーは心配そうに尋ねました。
「そ、その話しはもうなくなったの…。」
ナターリアは悲しそうに答えました。
「それは、やはりシャルロッテさまの妹君の縁談のことで…?」
メアリーは苦々しい表情で確認するように尋ねます。
「ええ…、仕方ないの。気にしないで、メアリー。でも私、実はホッとしているのよ。王妃なんて重荷だし、これで後宮の片隅で気楽に生きて行けるもの。」
ナターリアは微笑んで答えます。
しかし、その姿は強がっているようで、メアリーには痛々しく感じました。
「お姉さま、もういいですわ…。もう後宮を辞して下さいまし。お姉さまを不幸にしてまで、公爵家を存続させてなんになりましょう。」
メアリーは姉に取り縋りながら涙声で訴えます。
お読みいただきありがとうございます。
これから、ナターリアのまわりが少しずつ変わっていきます。
よろしければお付き合い下さいませ。