ナターリアとアリスの会話②
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「申し訳ございません、ナターリアさま…。そのような意味ではなく、お覚悟をなさいませと申しているだけにございます。」
アリスはすっと膝をついて、ナターリアに向かってそう言いました。
「アリス、覚悟とは…!」
ナターリアは何かショックを受けたように言います。
「はい、覚悟でございます。もう後戻りは出来ない以上、王妃になられるか、もしくは王妃になりたくないからと王女さまに仕えて欲しいとカールさまにお頼みするか、二つに一つでございます。」
アリスが辛そうにナターリアに進言します。
「そ、そのようなことは私には…。」
ナターリアは思わず絶句してしまいました。
「お嬢さま、お許しを…。アリスに出来ることは何でも致しますので。」
アリスは少し涙ぐみながら訴えます。
「アリス…。」
しばらくの沈黙のあと、ナターリアがアリスに抱きついてきました。
「お、お嬢さま…!どうなさいました?」
アリスが戸惑いがちに尋ねます。
「アリス、ごめんなさい。しばらくこのままで…。」
ナターリアはそう言うと、子供のときのようにアリスにあまえてきました。
アリスは少し驚きましたが、やがて微笑んでナターリアの頭をなでながら、
「お嬢さま、いえナターリアさま…。まるで、幼い頃に戻ったようでございますね。」
ナターリアはいたずらっぽく微笑んで、
「クスッ、ホントにそうね。王宮に来てからいろいろあったから…。」
ナターリアはアリスからそっと体を離して、心細そうに尋ねました。
「ねぇ、アリス…。私に王妃が務まるかしら?何の教育も受けてない私に…。」
「ナターリアさま、ご決心なされたのでございますか?」
アリスは少し緊張したように微笑んで尋ねます。
「ええ…。カールさまにこれ以上ご迷惑はかけられないし、王子の、アルバートのためにも私が頑張らないと…。」
ナターリアも少し緊張したように答えます。
「ご立派でございますわ、ナターリアさま。ですけれど、務まるかどうかは私にではなく、恐れながら、陛下にお聞きになるべきではございませんか?」
アリスはにっこり笑って、そう進言します。
ナターリアはふっと緊張からとけたように笑って、
「それもそうね。アレクセイさまに私に王妃が務まるかどうかお聞きしてみるわ。」
「その方がよろしゅうございますわ。陛下もきっとお力になって下さいます。」
アリスは微笑んで答えます。
「ありがとう、アリス。頼りない主人だけど、これからもよろしくね。」
ナターリアにアリスに言います。
「とんでもございません。こちらこそよろしくお願いいたします。ナターリアさまにお仕えしたおかげで、私も公爵家の侍女からもしかすると王妃さまの侍女になれるのですもの。光栄の極みでございます。」
アリスは少し興奮したように答えます。
「まあ、アリスったら。相変わらずね。」
ナターリアはクスクスと笑いながら言いました。
「ナターリアさまの笑い声は久しぶりですわ。これからはカールさまのことはよい思い出になさいませ。」
アリスはふっと声をひそめてナターリアに言います。
「ええ、分かっているわ。カールさまは、きっと私の初恋だった方。これからは、王妃として生きるのだから…。」
ナターリアは少し遠い表情をしてポツリと呟きました。
初恋…、
ナターリアの?
ナターリアを驚かそうと突然訪ねてきたアレクセイが扉の前で我が耳を疑いました。
側に控えていた侍女がアレクセイの様子が少しおかしいと感じ、
「陛下、いかがなさいました?」
と尋ねました。
「いや、なんでもない。そちはもう下がってよい。」
アレクセイは少し難しい顔をして、部屋に入って行きました。
「ナターリア、体の具合は大丈夫か?」
アレクセイは少し複雑そうに尋ねました。
ナターリアは突然、アレクセイが部屋に入ってきたので少し驚き、
「まあ、アレクセイさま!突然、どうなさいましたの?」
「いや、少し驚かそうと思ってな。それに、体の具合が悪いのに母君のところに伺ったと聞いたが…。」
アレクセイが少し疑わしそうに尋ねます。
ナターリアは少しアレクセイの様子が少しおかしいとは思いましたが、気まずそうに、
「ええ、王太后さまに少しお話ししたいことがございましたので。」
「そうか、どんな話しをしたのだ?」
アレクセイは窺うように尋ねます。
ナターリアは、そう聞かれても、まさか王妃にしないで欲しいと頼みに行ったとは言えずに、
「いえ、あの、たいした話しではございませんので…。」
戸惑ったように答えます。
「余には言えぬことなのか?」
アレクセイは不機嫌そうに尋ねます。
「いえ、そのようなことは…。お話しするようなことではないものですから。」
ナターリアは困ったように答えます。
側に控えていたアリスは助け舟を出すように、
「恐れながら陛下、ナターリアさまがお話ししたいことがおありになるとのことでございます。」
アレクセイはさらに不機嫌そうに、
「アリスとやら、無礼ではないか!余はいま側妃と話しているのだぞ。」
アリスは申し訳なさそうにビクッと怯えて震えながら、
「も、申し訳ございません…。ご無礼を致しました。」
か細い声で答えます。
ナターリアは、慌ててアリスを庇いました。
「お許し下さいませ、アレクセイさま。アリスの無礼は主人である私の責任でございます。どうぞ責めは私にお申しつけを…。」
「まあ、よい…。こたびはナターリアに免じて許そう。アリス、側妃に感謝するのだな。」
吐き捨てるようにアリスに向かって言いました。
アリスはすっかり恐縮しながら、
「恐れ入ります、陛下。感謝申し上げます、ナターリアさま…。」
そう言うと深々とお辞儀をしました。
「もう、下がれ。ナターリアと話しがあるゆえ…。」
アレクセイは近くの椅子に座りながらアリスに言い放ちます。
「は、はいっ…。ご無礼を致しました。」
アリスはすっかり小さくなりながら、足早に部屋を出て行きました。