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王太后との会話③

お待たせしました。

王太后の庭園には二人の重苦しい雰囲気と違い、風がそよぎ、美しい花が咲き誇っていました。


ナターリアもここにたどり着いたときには美しい花に見惚れていました。

しかし、今は…。


ナターリアは蛇に睨まれた蛙のようにどうすることも出来ないでいるのでした。


それもそのはず、ナターリア自身も自分の気持ちがよくわかっていないのでした。


すっかり押し黙ってしまったナターリアをどうしたものかと、王太后は考えていたとき、さきほど使いをやった侍女が戻ってきました。

「王太后さま、テオドラ王女さまが参られました。」


その声にナターリアはふと、顔を上げました。


「お母さま、お呼びでございますか?」

明るい笑顔でテオドラ王女がやってきました。


王女の登場に王太后は顔をほころばせ、

「テオドラ、よく参りましたね。さあ、こちらへお座りなさいませ。」

そう言うと王太后は侍女に王女のお茶を用意させました。


「はい、お母さま。あら、ナターリアどの!久しぶりね。もう、体の具合はいいの…?」

テオドラがナターリアを気遣うように話しかけました。


ナターリアは柔らかく微笑んで、

「おかげさまで、すっかりよくなったようでございます。テオドラ王女さまにはご機嫌麗しく、おめでとうございます。」


「ごきげんよう、ナターリアどの。それは何よりだわ!お兄さまもそれは、心配していらしたのよ。」

テオドラは久しぶりに逢ったナターリアに微笑みながら話しました。


二人の会話を聞いていた王太后は、含むような笑顔で、

「ナターリアどの、テオドラは今度結婚することになりましたの。」


「まあ、それはおめでたいことで…。心よりお祝い申し上げます、テオドラ王女さま。」

ナターリアは嬉しそうに言います。


「ありがとう、ナターリアどの。私も内外にお母さまの娘に認められたようで嬉しく思ってますのよ。」

テオドラはさきほどとは違って少し緊張気味に答えます。


それを聞いたナターリアは怪訝そうに、

「テオドラ王女さま、なぜ、そのようなことを…?」


テオドラは少し悲しそうな微笑をして、

「それは、私がお母さまの本当の娘ではなく、側妃の娘だからかしら…。」




少しの沈黙が続いた後、顔を曇らせた王太后が口を開きました。

「テ、テオドラ、何を言うのです?確かに産んだのはクララどのかも知れないけど、あなたは間違いなく私の娘ですよ。」

王太后が悲痛な声でテオドラ王女に言います。


「ありがとうございます、お母さま。同じ側妃の娘と言うのに、お姉さま方は小国や国内の貴族に嫁ぎました。私が大国に嫁げるのは、お母さまにお育ていただいたおかげでございます。だから、嬉しいのです。」

テオドラは少しはにかんで王太后に話しかけました。


「テオドラ…、あなたは私の娘。大国の王妃になるのは当然のことよ。」

王太后はなんともいえない表情をしながら、テオドラを励ますようにその手を握りました。


「お母さま、だからお母さまの娘で嬉しいと申し上げているのですわ。皇妃の娘の分際でなどという者たちを見返してやりたいと思います。」

テオドラは少し強い口調で答えます。


「テオドラ、あなたにそのようなことを言う者が…。誰ですか、その者は!?」

王太后は少し憤り、テオドラに尋ねます。


テオドラは優しく微笑んで、王太后の方を向いて、

「お母さま、人の口に戸はたてられませんわ。その者の口を塞いでもきりがありません。お気になさらず、ね?」



王太后はため息をついて、

「確かにそうね…。テオドラ、あなたに苦労をかけるわね。」


「苦労だなんて、お母さま。私、この国の王女として、立派に御役目を果たしますわ。見ていてくださいませ。」

テオドラはニッコリ笑って王太后を元気づけます。


まだ子供だと思っていたテオドラに励まされ、王太后はすっかり目頭を潤ませました。

「テオドラ、あちらに行ってしまったらお母さまはもうあなたを守ってあげられないわ。」



「大丈夫ですわ、だって私はお母さまの娘ですもの。」

テオドラは王太后の手をそっと握って話しかけます。




そんなテオドラの姿に王太后はすっかり目をほそめて、ここに来たときは泣くばかりの少女だったのに、よく成長してくれたと内心喜んでいるのでした。


王太后は、ふと目をやると、なんともいえない表情をしているナターリアの姿が目につきました。



「ああ、ごめんなさいね。ナターリアどの、さきほどの話しだけれども場合によっては協力してあげることも可能ですよ。」

王太后はふっと微笑みを浮かべて、ナターリアに言いました。


「え、あっ、あの…、それはどのようなことにございますか。」

ナターリアは明らかに動揺しながら答えるのでした。




「それは、このたびの事件で活躍されたカールとか申したかしら、その者をテオドラの側近として随行することを取り計らって欲しいのですよ。出来るかしら?」

王太后はナターリアを窺うように尋ねました。



ナターリアは思いもよらないことを王太后がおっしゃるので何と言っていいか分からずすっかり戸惑ってしまいました。

「あ、あの、それはいったいどういうことにございますか?」




「分からないかしら?それは、ああ、テオドラ、申し訳ないけれど、母はナターリアどのと少し話しがありますから席を外してもらえるかしら?」

王太后はふっとテオドラの方を向いて言いました。


テオドラは怪訝そうに、

「お母さま、何をなさるおつもりですか?私のことならご心配は無用でございます。」


「何も心配はいらないわ、テオドラ。少しだけ話しをするだけよ。さあ、王女を部屋にお連れ申し上げよ。」

そう言うと王太后はテオドラを侍女に命じて部屋に案内させました。


そうして、庭園には王太后とナターリアの二人だけになりました。



ナターリアは王太后と二人だけになり、どんなことになるのだろうと、緊張のあまり少し震えが出てきました。


何と言っても王太后は、先代の国王陛下が崩御されてからまだ幼いアレクセイを抱えて、この国を支えてきたのですから大変な力があります。



そんなナターリアの姿を見て、王太后はくすっと笑い、

「ナターリアどの、別にとって食いはしないから楽にしてちょうだい。ただ、少しばかり話しがあるだけよ。」


そう言って王太后は話しをし始めました。


急に決まったテオドラ王女の結婚は、あの事件の黒幕ともいえるかの国を牽制するために、かの国とライバル関係にある大国の王太子との縁組なのでした。


大国の妃となるに相応しい身分の王族となると、先代に何人か王女はいましたがどの王女も王妃の産んだ王女ではありませんでした。

唯一の候補として上がったのは、王太后が養女として大切に育ててきたテオドラ王女ただ一人でした。

といっても、隣国とは友好関係にある仲ではありません。

むしろ利害が一致しただけの仲です。

何かあればどうなるか分かりません。


テオドラを本当の娘のように大切に思う王太后が、娘のためにカールを側近に望みました。


万一のときには、王女の頼もしい力になるだろうと期待してのことでした。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


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