ナターリアの驚き
お待たせしました。
「お姉さま、具合はいかがでございますか?」
メアリーがベッドで休んでいた姉のナターリアに優しく話しかけます。
それに気づいたナターリアが、
「メアリー、どうしてここにいるの?これは夢なの?」
ぼんやりと尋ねます。
メアリーは姉の側にそっと近づいて、
「夢ではございませんわ、お姉さま。お見舞いに伺いましたのよ。」
そう言って微笑みます。
「王宮までお見舞いに来てくれたの…。誰が起こしてちょうだい。」
ナターリアは、側に控えていた侍女に体を起こしてもらいます。
侍女はそれまで弱々しく微笑むだけだったナターリアが満面の笑顔で起き上がってきたのでとてもうれしくなって、
「ナターリアさま、ご無理をなさいませんように。よろしければ、お茶をご用意して参りましょうか?」
ナターリアに尋ねます。
「ええ。お願いするわ。」
ナターリアは上着を羽織ってベッドから起きると微笑んで答えました。
控えていた侍女たちがお茶の用意をするために寝室から出て行くと、ナターリアとメアリーの二人が残されました。
「それにしてもよく来てくれたわね、メアリー。みんなは元気なの?陛下がラウル卿を遣わしてくれたから、お父さまの具合も良くなったのかしら?」
ナターリアが微笑んでメアリーに尋ねます。
「ええ、元気にしておりますわ。お父さまもカールどののお陰でもちなおしましたわ。お姉さまも良くなられたようで…。」
メアリーは含んだように姉に答えます。
「カールどのの…!それはどういうことなの、メアリー?お父さまはお加減は良くなられたとラウル卿から聞いたけれど、カールどのとどのような関係があると言うの?」
ナターリアは久しぶりに聞く初恋の人の名前に動揺しながらも、怪訝そうに尋ねます。
「もしかして、お姉さまは何もご存知ないの?お父さまのことも、お姉さまがお加減が悪い理由も、ハリス伯爵のことも…?」
メアリーは驚きを隠し切れずに姉に聞き返します。
「それはどういう意味なの、メアリー?私はただ産後のひだちが悪いだけなのに…。ハリス伯爵さまが何をされたというの?」
ナターリアは語気も強く妹に尋ねます。
「陛下はお姉さまに何も伝えてないのね。もしかして、私が婿養子を迎えることも聞いてらっしゃらないの?」
メアリーは驚きを隠し切れずに答えます。
ナターリアはあまりのことに呆然としてしまいました。
顔色が変わり、いったい何が起きているのか…。
ガタガタと指先が震えてしまいました。
ナターリアは震えた指先でシーツをギュッと掴むと、深呼吸をしました。
「メ、メアリー、何が起きているのか教えてくれないかしら…。私にも関係あることなのでしょう?」
姉のただならぬ様子にメアリーは、なんと言っていいかわからなくなりました。
けれど、姉も知っておくべきことだと思い、意を決してメアリーは伝えることにしました。
「あ、あの…、お姉さま。私から伝えていいものかわからないのだけれど、お姉さまに関係する大変なことが起きたの。落ち着いて聞いていただけます?」
「分かったわ。話してちょうだい。」
ナターリアは緊張しながらも、姉らしく鷹揚に答えます。
そして、メアリーが話すことを聞き漏らすまいと耳を傾けました。
「実は…。」
メアリーは驚きの事実を話し始めました。
「そんな、そんなことって…!」
ナターリアは、あまりのことにガタガタと体が震えてきました。
そのとき、侍女がお茶を持って入ってきました。
「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました。」
侍女がそう言ってお茶をテーブルに置くと、ナターリアの様子がおかしいことに気がついて、
「ナターリアさま、いかがなされました?ご気分がすぐれないのでございますか?」
侍女がナターリアさまの側に近づいて 声をかけてきました。
「アレクセイさまを、陛下を、お越しいただくようにお願いしてきてちょうだい。」
ナターリアはシーツを握りしめて、俯いたまま侍女に震える声で言いました。
侍女はナターリアが陛下に何かを頼むことをしたことがあまりないのに、おかしいと思い、
「あの…、いかがなされました?何かおありになったのでございますか?」
ナターリアは顔を上げて、不機嫌そうに、
「いいから、お話ししたいことがあるから陛下においで下さいと申しあげてっ!」
いつも穏やかで話すナターリアが不機嫌そうに言うので、侍女は驚いて、
「は、はいっ。側妃さま、ただいますぐにお伝えして参ります。」
あわててお辞儀をして、転げるように部屋を出て行きました。
「お姉さま…。」
メアリーはナターリアを気遣うように話しかけます。
「メアリー、気にしなくていいのよ。あなたのせいじゃないんだから…。お茶を飲みましょう。」
ナターリアはふぅ~とため息をついた後、スクッと立ち上がって、テーブルに着きました。メアリーも続いて席に着き、お茶を飲み始めました。
どこか遠くをみるような目をしてナターリアがお茶を一口飲んだあと、
「どうしてなのかしらね。なぜ私に何も言ってくれないのかしら…。」
「それは、私が折りをみて伝えようと思っていたからだ。」
音もなくアレクセイが現れました。
「陛下!」
「アレクセイさま…。よくお越し下さいました。」
いつも笑顔で迎えるナターリアが、いつになく強張った顔で迎えました。
「ナターリア、話しがあるとのことだったが…。その様子では聞いたのだな?」
アレクセイが気まずそうに話しかけます。
「メアリー嬢、すまない。しばらく席を外してくれるか?ナターリアと二人で話したいことがある。」
アレクセイはそばにいたメアリーにすまなそうに告げます。
メアリーは戸惑いながらも仕方なさそうに、
「畏まりました。失礼いたします。」
そう言うと部屋を出て行きました。
これから二人はどうなるのでしょうか…。
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拙い小説ですが、皆様のおかげで頑張って書いております。