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メアリーの怒り

「陛下、落ち着いて下さい。密貿易の証拠はここにありますが、ロプーヒナ公爵どのに関することについては確証がありませんぞ。」

宰相は驚きながらも陛下をなだめます。


「いや、証拠ならある。先日、オリガどののもとを訪ねていた者を護衛につけさせた。その者はハリス公爵に金をもらってロプーヒナ公爵家に出入りしていた医者だ。分かったか、宰相?」

アレクセイは宰相にたたみかけます。


「では、オリガさまもこの件に関わっているのですか?もしや、ナターリアさまのことも…。何と言うことだ!」

宰相は愕然とします。


「残念ながらそういうことだ。ラウル卿、さきほどの紅茶はいかがであった?」

アレクセイは厳しい表情で尋ねます。


「恐れながら、さきほどの紅茶には銀の毒が入っておりました。オリガさまの関与は間違いないかと思われます。」

ラウル卿は汗をかきながら答えます。


それを聞いていたメアリーはわなわなと震え、怒りを抑え切れずに、

「陛下、そこまで分かっていながらなぜお姉さまを助けて下さいませんでしたの?」


アレクセイは最愛の妃ナターリアそっくりの妹に責められて、動揺を隠し切れず、苦しそうに、

「すまない。はっきりとした確証がなく動けなかったのだ。決して、ナターリアを助けなかったわけではないのだ。」


「そんな言い訳聞きたくありませんわ!」

メアリーはそう言うと、アレクセイを睨みつけます。


女官長は慌てて、

「メアリー嬢、あまりに陛下に対して無礼でございますよ。 許されないことですよ。また、陛下にはお立場もございますゆえお察し下さいませ。」


「いや、よい。メアリー嬢の言うことも一理ある。しかし、なぜこちらメアリー嬢まで来る必要が?」

アレクセイはふと疑問に思って尋ねます。


「恐れながら私から申し上げてもよろしいでしょうか?」

遠慮がちにカールが口を開きます。


「よい、許す。申してみよ。」

アレクセイは発言を許しました。


「感謝申し上げます、陛下。実は公爵さまをお救いするために解毒剤を手に入れるため、私も密貿易をいたしました。許されぬことにて、罰は覚悟しております。メアリーさまは私を庇っておいでになりました。申し訳ないことでございます。」

カールは平伏したまま、苦しげに話します。


ラウル卿は慌てて平伏しながら、

「陛下、そのおかげでロプーヒナ公爵さまだけでなくナターリアさまも助かったのでございます。どうか寛大な処置をお願い申し上げます。」


続いてメアリーも、なおも陛下に厳しい視線をぶつけながら平伏します。

「そうなのです。この罪は我が家のためにしたことです。カールどのを厳罰にされるのは納得いきませんわ。その罪はわたしが請け負います陛下。お願いいたします。」



それまで黙って聞いていたアレクセイは、微笑んでカールの手を取り、

「そんなことか…。心配いたすな。公爵や側妃の命を救ったのだ。罪どころか礼をしたいところだ。ありがとう。感謝する。そうであろう宰相?」


聞かれた宰相は苦々しい表情で、

「はっ。恐れ入りますが陛下、罪は罪でございます。そういうわけには参りません。公爵どの、側妃さまをお救いしたことで、良くて謹慎ぐらいはしていただきませんと。周りに示しがつきません。よろしいかな、カールどの?」


それを聞いた陛下は眉をひそめて、

「なんとかならぬのか、宰相?」


「なりません、陛下。本来ならば、懲役刑や男爵家の浮沈に関わる罪にございますぞ。」

宰相が厳しい表情で言います。


陛下はため息をついて、

「仕方ないか…。すまぬな、カールどの。」


それを聞いていたカールは、平伏して、

「とんでもないことでございます。陛下におかれましては、寛容なご配慮をいただき感謝申し上げます。」


「よろしゅうございましたね、カールどの。それにナタリー嬢もわざわざいらした甲斐がございましたな。」

女官長は安心したように二人に話しかけます。


「ありがとうございます、女官長さま。」

カールは安心したようにふぅ~と、息を吐いて答えます。


「ありがとうございます。女官長どの、お父さまもお姉さまも安心しますわ。」

ナタリーはさきほどの怒りとはうってかわって微笑んで答えます。


それを聞いていたアレクセイは不審そうな顔をして、

「ひとつ聞いてもよいか、カールどの。なぜそこまでして助けてくれたのだ?わが家のことではなく、他家のことであろう?」


カールは平伏したまま遠慮がちに、

「恐れながら申し上げます。ロプーヒナ公爵さまは至らない私を、幼いころより息子のようにかわいがって下さいました。そのご恩に報いるためにございます。」


「そうであったか。それにしてもなかなかそこまでできないが…。どちらにしても礼を申すぞ。ところで、幼い頃からとはナターリアとも仲が良かったのか?」

アレクセイはまだ不思議そうな顔をして尋ねます。


「恐れながら、何もわからない幼い頃の話でございます。側妃になられたいま、親しいなどおこがましいことでございます。」

カールは恐縮しながら体を震わせて答えます。


「そう、かしこまるな。カールどのはおかしな人だな。側妃と親しくなりたいとツテを頼って繋がりを求める人が多いというのに、そのようなことを…。公爵がかわいがるのも分かる気がするな。」

アレクセイがそうカールに言って、ポンと肩を叩きました。


それを見ていたナタリーは、

「陛下、カールどのをいじめないで下さい。カールどのは私たちを助けて下さった恩人でございます。陛下よりもよっぽど頼りになります。お姉さまもカールどのと結婚なされば、あ…。」


周りの視線を感じたメアリーは

しまった!言い過ぎたかしら

と、気まずそうに、

「も、申し訳ございません。少し言い過ぎました。お許し下さいませ。」



しばらくの沈黙のあと、宰相が笑い出しました。

「クッ、クッ…。メアリー嬢はお気の強いお方であられるな。陛下にここまで言えるとは。頼もしい令嬢だ。レオンはいささか頼りないところがありますから、よろしく頼みますぞ。」


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