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公爵の病状

翌日、女官アンナと侍女アリスがロプーヒナ公爵家に見舞いに行くことになりました。


寝室から起き上がったナターリアが、アリスだけを呼んで、

「お父さまにくれぐれもよろしく伝えてちょうだいね。」


「はい。旦那さまにお伝えいたします。でも、ナターリアさまを残して行くのは心配でございますわ。」

遠慮がちに微笑んでアリスが答えます。


「心配というわりに顔が笑っているわよ、アリス。」

軽くアリスを睨んでナターリアが言います。


「ごめんなさい、ナターリアさま。お屋敷に帰れるので、嬉しくて。ここはなんだか窮屈で…。」

アリスは首をすくめて答えます。


「冗談よ、アリス。確かにここは窮屈よね。それに王子が出来たあたりから護衛や女官が仕えるようになって…。わけを知っていて?」

ナターリアがため息をつきながらアリスに尋ねます。


アリスは、ドキッとしましたが、女官長から強く口止めされているので、

「いえ、私は何も存じません…。やはり王子さまの母君であられると待遇も違うのでは?」


「アリスも他の者と同じことを言うのね。やはり、そうなのかしら。あの、アリスにお願いがあるの。」

ナターリアが俯いて言います。


「なんでございますか?もしや、カールさまのことで…?」


「違うの、アリス。あの、ただ、カールさまがどうしておられるか聞いて欲しいの。ここでは何も分からないし、私も王子が出来て、カールさまにはお幸せになってほしいから…。お願い。」

ナターリアが俯いたままアリスに頼みます。


アリスは、ため息をついて、

「どうしておられるか確認するだけでございますね?よもや、お伝えしたいことがあるのではないですね?」


「もちろんよ。もう、私には手の届かない人だもの…。でも、お幸せかどうか知りたいの。お願い。」

ナターリアが顔を上げてアリスに頼みこみます。


「ナターリアさま、そういうことでしたらお引き受けいたします。ただし、このたびだけでございますよ。」


「ありがとう、アリス。」





そして、ナターリアの実家・ロプーヒナ公爵家にアリスたちが着きました。


公爵夫人エレナが出迎えました。

「ようこそおいで下さいました。」


「わざわざのお出迎え恐れ入ります。側妃ナターリアさまに代わり公爵さまのお見舞いに伺いました。女官のアンナでございます。」

アンナが微笑んで挨拶をします。


「はじめまして、アンナどの。側妃さまにお仕えいただいているとか、お世話になります。また、側妃さまにお気遣いいただき、恐れおおいことでございます。」


「とんでもございません。公爵さまのご様子はいかがでございますか?本日は陛下のご指示で医師のラウル卿も参りましてございます。」


「はじめてお目にかかります、公爵夫人。ラウルでございます。早速、公爵さまの診察をさせていただきたく存じます。ご様子はいかがで…。」


エレナは恐れ入っているのか、歯切れが悪く、

「はい。それは、恐れ入ります。まずはこちらへ…。」

そう言って、ラウル卿を公爵の寝室まで案内しました。




そして、診察が終わり、ラウル卿が寝室から応接間に青ざめた顔で入ってきました。

「公爵夫人、これはいったいどういうことなのですか…。公爵さまのご様子はただごとではございませんぞ。」


尋ねられたエレナは、沈痛な様子で、

「私にもわからないのです。いったいどうしてこうなったのか…。あの、ラウル卿、あっていただきたい人がおります。カールどの、こちらへ…。」


エレナがそう言うと隣室からカールが入ってきました。

「はじめまして、フレデリカ男爵家のカールでございます。」


「カールどの、こちらへお座り下さいませ。ラウル卿、こちらはだんなさまが息子同様に可愛がっている者にございます。この者の話し、聞いてはいただけませんか?」

エレナが真剣な表情でラウル卿に言います。


「はい。どのようなことでございます?」


話しを聞いたラウル卿は言葉を失ってしまいました。


公爵家のお抱え医師がハリス公爵に弱みを握られて、ハリス公爵の指示で公爵に毒を混ぜた薬を飲ませていたというのです。


「それは事実なのですか…。大変なことですぞ。しかし、あの症状はかの国の薬・銀の毒に現れるもの…。誰もが手に入れられるものではないのですぞ。」

ラウル卿はカールに尋ねます。


「はい。私の調べましたところ、ハリス公爵さまはかの国との密貿易をしているようでございます。それからこれが証拠の書類、薬でございます。」

カールが驚くべき事実を伝え、薬も出してきました。


「聞いてもよろしいか、カールどの?ここまで調べておきながら、なぜ訴えでないのだ?」

ラウル卿は不思議に思って尋ねます。


「それは、握り潰されることを恐れたからでございます。お優しい皇妃さまのことでございますゆえ、使いを寄越して下されるときを待っておりました。」

カールは顔を上げてきっぱりと答えました。


「それから、私は罪を犯してしまいました。かの毒の解毒剤をさきほど手に入れました。それは闇のルートで…。許されぬことでございます。」


「何を言うのです、カールどの!だんなさまのためにしたことでは…。」

エレナが慌てて庇います。


「カールどの、その解毒剤はどちらに?」

ラウル卿は驚きながらも尋ねます。


「はい。こちらにございます。」

カールはそう言ってふところから解毒剤の入った瓶を出しました。


「では早速、公爵さまに差し上げなくては。手遅れになっては一大事でございます。」

ラウル卿はそう言って、解毒剤を公爵に飲ませました。


するとどうでしょう。今にも危うかったロプーヒナ公爵がみるみる回復して、血色も良くなっていきました。


「間に合ったようですな、カールどの。お気になさるな。罪は罪だけれど、公爵さまのお命を救われたのですからたいした罪にはなりますまい。これでナターリアさまも救われます。」


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