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陛下、オリガのもとへ

オリガは実はかわいそうな人かも知れません。ナターリアも愛されすぎて…。

「陛下、お待ち下さいませ。」

女官長が、足早に歩くアレクセイの後を追いかけます。


「恐れ入りますが、くれぐれもご慎重になさいませ。取り返しのつかぬことになっては一大事にございます。」


「そんなことは分かっている。」

アレクセイは不機嫌そうに女官長に言い返します。


「あ、陛下。忘れておりましたが、ナターリアさまが父君のロプーヒナ公爵さまの見舞いに侍女を遣わしたいとのご希望でございますが、いかがいたしましょうか?」

女官長が思い出したように言いますと、アレクセイが足を止めます。


「何、ナターリアが…。さきほどは何も言っておらなかったが?」

思わず振り向いたアレクセイは、怪訝そうに女官長に尋ねます。


女官長は微笑みながら、

「ナターリアさまは真面目な方ですから、後宮の規則を守っておられるのです。要望のあるときは陛下ではなく、女官長を通じて伝えることになっておりますゆえ。誰かとは大違い、とっ、失礼しました。」


「そうか、ナターリアは体調がすぐれぬのに、父君の心配までしておるのか…。」

アレクセイはため息をついて答えます。

そして、ふっと頭を上げて、

「よい、許す。ナターリアが遣わす侍女とともに女官長、そなたも医師を連れて参れ。」


「私もで、ございますが…。」

女官長が戸惑ったように尋ねます。


「そうだ。第一王子の母の実家に行くのだ。出来るだけのことはしてやりたい。」


「されど陛下、ナターリアさまは王子の母君とはいえ側妃の一人に過ぎません。そのようなことをしてはまた、お立場が危うくなります。いかがでございましょう、私の代わりにアンナを遣わしては?」

女官長はナターリアを気遣ってアレクセイに提案します。


「しかし、それでは…。公爵にナターリアを大事にしているという私の気持ちが伝わらぬではないか?」

アレクセイは不満そうに言います。


「それより特別扱いをしては、ロプーヒナ公爵さまがナターリアさまをお案じになられます。以前、ご指摘になられましたでしょう?」


それを聞いたアレクセイは、

痛いところをつかれて言葉を失ってしまいました。


「それなら、それでよろしゅうございますね。医師はラウル卿にお願いしますゆえ。」


ラウル卿は王宮お抱え医師の中でも身分が高く、ナターリアの担当医でもあります。


女官長にそう言われては、アレクセイも仕方なく頷きました。

そうしているうちに、オリガの部屋にたどり着きました。


「陛下、ここでお待ち下さいませ。先触れをしてまいりますので。」

女官長はそう言って、陛下の訪れを告げようとしたら誰かが部屋から出てきました。


「あら、あれは…。確かどこかで見たような…?」

女官長は不審そうに呟きました。


アレクセイはそばにいた護衛の一人に声をかけて、

「さきほどの者の後をつけて調べよ。」

と指示を出しました。



陛下に気づいた侍女が慌てて知らせて、オリガがやってきました。


「陛下、ようこそお越し下さいました。」

オリガが笑顔で出迎えました。


「突然すまぬな、オリガどの。」

アレクセイが声をかけました。


「とんでもございません、陛下。おいでいただきうれしゅうございますわ。」



「オリガさま、ごきげんうるわしゅうございます。さきほど誰が来ておられたようですが?」

女官長がさりげなくオリガに尋ねます。


聞かれたオリガはきまずそうに、

「ああ、実家からの使いの者でございますよ。」


「ご実家からの?このようなお時間にでございますか…。」

女官長が咎めるように尋ねます。


後宮では外部からの訪問は夕方までと定められています。


オリガは陛下の前で余計なことを言うと思いながら、

「つい、長居をしてしまっただけです。お許し下さいませ。」


「オリガどの、以後気をつけるように。ナターリアは規則を守っておるぞ。女官長、このたびは大目に見よ。」

アレクセイはそう言って女官長に目配せをしました。


「かしこまりました。では、私はこれにて失礼いたします。」

女官長はちらっとオリガを見てから立ち去って行きました。


オリガは、

女官長め、王女の娘である私に陛下の前で恥をかかせて、このままですむと思わないでよ、

と思いながら唇を噛み締めました。


アレクセイはそれに気づかないふりをして、

「オリガどの、参ろうか?」


オリガはアレクセイに声をかけられて、はっとして、

「申し訳ございません、陛下。どうぞお入り下さいませ。」


二人は部屋に入ると侍女がお茶を持ってきました。




「女官長は仕事熱心でございますね。」

オリガが窺うように話しかけます。


「そうだな。あれの仕事だ、女官長をあまり困らせるでないぞ。王妃がいればまた違うのかも知れぬが…。」

アレクセイはため息をつきながら、答えます。


オリガは、うまくごまかせたようねと思いながら、

「はい、以後気をつけます。ところで陛下には、そろそろ王妃を決められるおつもりでございますの?」


「まあ、そろそろとは思ってはいるが、特には決めているわけではない。ナターリアの体調もすぐれぬし…。」

アレクセイは紅茶を飲みながら答えます。


オリガはそれを聞いて、やはりナターリアさまを、ふふっ、王妃になるまで命があるかしら…。

「そうですね、ナターリアさまのこと、ご心配ですね。早く良くなって下さればよろしいのですけれどね。先日、お見舞いにも伺いましたのよ、陛下。」


「そうか、確かオリガどのはナターリアと親しかったな?」


オリガは微笑んで、

「はい。以前にナターリアさまに手作りのケーキをいただいたこともございますの。」


「手作りの…。オリガどのは食べたのか?」

アレクセイは身をを乗り出してオリガに尋ねます。


オリガはちょっと驚いて、

「ええ。ナターリアさまに手土産にいただいて、一緒に食べましたの。それが、何か陛下?」


「羨ましいな…。私は妹のテオドラに食べられて食べてないのだ。」

残念そうにアレクセイが答えます。



「まあ、それは…。お元気になられたらナターリアさまにお頼みなさいませ。」

オリガは答えながら、いつまでナターリアさまの話しをするつもりかしら…。

と思いました。


「そうだな。ナターリアが手土産を持っていくのなら、そなたも手土産に何か持って行ったのであろう?」

アレクセイが尋ねてきました。


「さあ、どうでしたかしら?よく覚えておりませんわ。なぜそのようなことをお聞きになりますの?」

オリガが不審そうに尋ねます。


アレクセイは緊張気味に、

「いや、オリガどのも何か作られたのかと思ってな…。」


オリガはアレクセイが照れてるのかと思い笑って、

「いいえ。私はあいにく作れませんのよ。確か、お菓子か何かお持ちしたかと思いますわ。私が作ったものをご所望ですか?」


アレクセイは、

ふぅ~。気づかれなかった。良かった。

と思いながら、

「もしかしたらと思っただけだ。気にしないでくれ。」


オリガはその様子を見て、かわいいと思って、

「でしたら、私も作りますわ。他ならぬ陛下のおためですもの。楽しみになさって下さいませ。」

そう言ってオリガはアレクセイにあまえるようによりかかりました。


そのとき、侍女がやってきて、

「寝室のお支度が整いましてございます。」


「そう、分かったわ。もう、さがっていいわ。」

オリガがそう言って、侍女を下がらせます。


「陛下、今日はお泊り下さいますの?」

オリガはアレクセイにあまえるように尋ねます。


尋ねられたアレクセイは、困りながら、

疑われてはまずいし、

「そうだな。ここで休むとしよう。」


それを聞いたオリガはうれしそうに、

「うれしゅうございます、陛下。またすぐお帰りになられるのではないかと不安でしたの。いつも寂しゅうございました。今日は一緒にいられるのですね。」


その様子を見たアレクセイはなんだか悪いことをしたような気がして、

「すまなかったな、オリガどの。では、参ろうか?」


「はい、陛下…。」

オリガは顔を赤らめて、答えます。


その夜はアレクセイはオリガの部屋で過ごしました。


次の朝、オリガが目覚めたときにはアレクセイの姿はすでにありませんでした。


目覚めたオリガは、隣のシーツを探りましたが、すでに冷たくなっていました。


いつ、帰られたのです。陛下…。

抱きしめては下さるけど、何もして下さらないのですね。

ナターリアさまにはお子がいるのに…。

でも、きっといつかは…。



たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます。

これからナターリアは大変な思いをしますが、応援して下さい。

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