シャルロッテとのお茶
「えっ、シャルロッテどのが?」
朝食会からテオドラ王女とともに後宮に戻った王太后は、侍女から突然のシャルロッテの訪問を告げられます。
何かしら、突然…。
もしやこの間のことを聞きつけたのかしら。
「そう、突然なにかしらね。それで、お待ちいただいているの?」
王太后が侍女に尋ねます。
「恐れ入ります、王太后さま。お話ししたいことがあるそうで、お待ちしますとのことでございましたので。」
侍女が遠慮がちに王太后に答えます。
「分かりました。すぐ参りましょう。」
王太后は微笑んで答えます。
それを聞いた侍女はホッとして、
「かしこまりました。すぐお伝えしてまいります。」
そう言って、シャルロッテの待つ部屋に向かいました。
そばにいたテオドラ王女が不安そうに、
「あの、お母さま…。」
その様子を見た王太后が、仕方なさそうに、
「テオドラ、大丈夫ですよ。そなたは部屋に戻りなさい。」
「いいんですの?ありがとうございます、お母さま。私、あの方苦手で…。」
テオドラは明らかに安心した表情で自分の部屋に戻って行きました。
テオドラ王女は、王女の前でも養母の王太后にあまえて、わがままに振る舞うシャルロッテが苦手でした。
王太后も大臣の娘であるシャルロッテに遠慮しているようで、なんだか母を取られたような気がするのです。
「王太后さま、突然お伺いしまして申し訳ございません。」
微笑んでシャルロッテが挨拶をします。
「かまいませんよ、シャルロッテどの。さあ、お茶をどうぞ召し上がれ。」
王太后が笑顔で応対します。
「ありがとうございます、王太后さま。そうおっしゃって下さると思いましたわ。」
にっこり笑ってシャルロッテが答えます。
「ところで、何かお話しがあると伺いましたが?」
ちょっとあまやかせ過ぎたかなと思いつつ、王太后が話しを切り出します。
「はい。先日、ナターリアさまをお茶会に招待なされたと伺いまして。」
シャルロッテが少し不満そうに言います。
「ええ、王女が逢って見たいと言うものですからね。」
王太后が、
やはりこの話しだったのか、
と思いつつ答えます。
「しかも陛下までおいでになられたとか…。なぜ、私を招待して下さいませんでしたの?」
シャルロッテが恨み言を言います。
それを聞いた王太后が、
まさか王女が嫌ってるからなどとは言えないので取り繕うように、
「ごめんなさいね。ついうっかりしましてね。陛下も息抜きに突然来られて…。それにしても、シャルロッテどのはよくご存知だこと。」
シャルロッテは、
まさか王太后の侍女に袖の下を渡して、情報をもらっているとも言えずにさりげなく、
「そうでしたの。私も陛下にお逢いしたかったですわ。でも、その場にいなくて幸いでした。」
皮肉そうに微笑みながら言います。
「それはどういうことです?」
シャルロッテを問い詰めるように王太后が尋ねます。
「まあ、怖いですわ。王太后さま、ナターリアさまが執務のある陛下を無理矢理お茶会に誘い出したともっぱらの噂でございますのよ。」
それを聞いた王太后が、
「まあ、そんな噂が出てましたの…。」
「ええ。王太后さまも巻き込まれて、お気の毒でございますわ。ナターリアさまではなく、私をお誘い下さいましたらこんなことになりませんでしたのに。」
シャルロッテがいかにも気の毒そうに皮肉まじりに話しかけます。
王太后はそれを聞いて、
ここの中での出来事が外に洩れるとは…。やはり、誰か洩らしているのか、油断がならないわね。
「お気遣いありがとう。心配して来て下さったのね、シャルロッテどの。」
「いいえ、とんでもございません。他ならぬ王太后さまですもの。それより、ナターリアさまには気をつけられた方がよろしいのではないかと思いまして。」
シャルロッテが王太后を窺うように話しかけます。
「そうですか。シャルロッテどののお気持ちは嬉しく思います。」
言いながら王太后は、
油断のならないのはシャルロッテどのかも知れないわね。
噂ももしや…。
と考えていました。
シャルロッテは、
さすがはタヌキ婆ね。まあ、いいわ。
「分かっていただいて嬉しいですわ。王太后さま、たまにはお茶会にお誘い下さいましね。最近、お声がかからなくて寂しゅうございます。」
あまえるように話しかけます。
王太后はそれを聞いて気まずそうに、
「それは悪かったわね。王太后としての立場もあるから許してね。また、招待するわ。」
「まあ、そうでしたか。また、ご一緒にお茶が出来るのを楽しみにしておりますわ。では、私はこれにて失礼いたします。」
シャルロッテは微笑んで答えると、用がすんだとばかりに立ち上がりました。
「あら、そう。じゃあ、またおいでなさい。」
王太后はそう言って、シャルロッテを見送りました。
さて、そのころ噂の主であるナターリアは流れている噂に心を痛めておりました。
そのため、アレクセイから午後のお茶の時間に来たいと知らせがきても、体の調子が悪いのでと断っておりました。
いや、実際ふさぎ込んで気分がすぐれませんでした。
その知らせを聞いたアレクセイは悲しく、がっかりしました。
仕方ないので、ナターリアの立場を良くするために気が進みませんでしたが、シャルロッテの部屋に行くことにしました。
そして午後のお茶の時間にシャルロッテの部屋にアレクセイが訪れました。
「まあ、陛下。ようこそおいで下さいました。お逢いしとうございましたわ。」
満面の笑顔でシャルロッテがアレクセイを迎えました。
その様子を見たアレクセイは悪かったなという思いにかられて、
「しばらく来られなくてすまなかったな。いろいろ忙しくてな。」
「いいえ、陛下。こうして来て下さっただけでうれしいですわ。さあ、お茶をどうぞ。」
そう言って、シャルロッテはアレクセイにお茶を勧めます。
「陛下、こちらは隣国から取り寄せました紅茶でございますのよ。陛下に召し上がっていただきたくて用意しましたの。」
自慢そうに陛下に勧めます。
それを聞いたアレクセイは、少し嫌な気持ちがしましたが、
「そうか。せっかくだから、いただこう。」
飲むととても香ばしい香りがして美味しい紅茶でした。
アレクセイは、ナターリアにも飲ませてやりたいと思い、
「美味い紅茶だな。少し分けてはもらえぬか?」
それを聞いたシャルロッテは喜んでもらえたと思って、
「もちろんでございますわ。侍女に用意させますわ。」
「ありがとう。すまぬな。」
アレクセイは微笑んで礼を言います。
「いいえ、他ならぬ陛下のおためですもの。」
シャルロッテはにっこり笑って答えます。
そんな話しをしているうちにアレクセイが執務に戻る時間となりました。