陛下の朝食
朝日が眩しい…。
もう、朝なのか。結局、あまり眠れなかった…。
「おはようございます。陛下、お目覚めでございますか?」
女官のアンナが寝室に入ってきました。
「ああ、アンナか。おはよう。起きている。」
ぼんやりした声でアレクセイが答えます。
ナターリアはもう起きているのだろうか。朝はいつもナターリアがそばにいたのに、今日は…。
「どうしたのでございます?ぼんやりなさって…。さあさあ、今日もスケジュールが目一杯詰め込まれておりますから、お支度なさってくださいましね。」
アンナがキビキビと言って、侍女たちに陛下の支度をさせるように指示をします。
「ああ…。」
アレクセイは言われても、ぼんやりしたままでした。
ナターリア、逢いたいな…。
今日は逢えるかな。
そんなことを考えているアレクセイにかまわず、何人もの侍女に囲まれて支度をさせられてしまいました。
そして、朝食の時間となりました。
陛下の朝食は王宮に住む王族ととることになっていました。
朝食の席に支度をさせられたアレクセイがたどり着くと、すでに王族が待っていました。
その王族は、母の王太后と妹のテオドラ王女です。
テオドラ王女は亡き父の寵妃の生んだ王女です。王太后は寵妃が早くに亡くなったので王女を引き取って育てていました。
「おはようございます。陛下。」
王太后が微笑んで挨拶をします。
「お兄さま、おはようございます。」
テオドラ王女も続いて挨拶をします。
「おはようございます、母君。それにテオドラもおはよう。二人とも早いですね。」
アレクセイはそう言うと席につきました。
「お兄さまが遅すぎるのよ。」
テオドラ王女が笑いながら話しかけます。
「そんなに遅かったか?」
アレクセイがぼんやりとテオドラ王女に尋ねます。
それを聞いた王太后がテオドラ王女をたしなめます。
「テオドラ、陛下に対して失礼ですよ。」
テオドラ王女は不満そうに、
「は~い、お母さま。でも、遅いでしょ?もう、私お腹ペコペコで…」
「悪かったな、テオドラ。さあ、早く食べようか。」
アレクセイがそう言うと朝食が始まりました。
朝食には焼きたてのパンやベーコンエッグ、料理長自慢の野菜スープなどが並んでいました。
テオドラ王女のお目当ては隣国から献上された最高級のマンゴーで作られたゼリーでした。
「ん~、最高だわ。」
テオドラ王女は満足そうに次々と朝食をたいらげます。
その様子を見たアレクセイは、からかうように、
「テオドラ、そんなに食べると太るぞ。」
「このくらいじゃ太らないわよ。お兄さま、乙女の楽しみを奪わないで欲しいわ。ねぇ、お母さま?」
テオドラ王女は隣にいる養母の王太后に同意を求めます。
王太后は笑って、
「そうね、テオドラ。陛下いえアレクセイ、かわいい妹にそんなことを言ってはいけませんよ。」
「母君に言われたら仕方ありませんね。許してくれ、テオドラ。」
アレクセイはテオドラ王女に詫びます。
テオドラ王女は機嫌をなおして、
「分かったわ。ねぇ、ところでお兄さまの側妃のナターリアどのって、綺麗な方ね。」
アレクセイは飲んでいたコーヒーを思わず吹き出して、
「ぶっ、テ、テオドラ、ナターリアをどこで見たんだ?」
その反応を見たテオドラ王女はおもしろそうに、
「えへへっ、昨日、お母さまに挨拶にいらしたからカーテンに隠れて見てたの。」
それを聞いた王太后は飲んでいた野菜スープを吹き出しかけて、
「ゴホッ、ゴホッ、テオドラ!覗き見るなんて、王女としての品位に欠けますわよ。」
「ごめんなさい。だって、お兄さまが夢中になってる方って言うから、見てみたかったんですもの。お茶会にはシャルロッテどのしか来ないし…。」
テオドラ王女は首をすくめて答えます。
それを聞いたアレクセイはため息をついて、
「母君、前にも申しましたが特定の妃を贔屓になさるとは、王太后として相応しくありませんよ。テオドラのことは申せますまい。」
王太后は気まずそうに、
「ごめんなさい、アレクセイ。でも、あなただって、ナターリアどののところばかり行くではありませんか。」
「母君、それはそうですが…。でも、昨日は自分の部屋で寝ましたよ。」
アレクセイは痛いところをつかれながらも答えました。
「あら、そうでしたの?てっきり行かれたものと思ってましたが。」
「ナターリアが疲れてるようでしたから。」
不満そうにアレクセイが答えます。
その様子を見た王太后が、
まあ、ナターリアどのは私の気持ちを察して下さったのね。
と思い、機嫌が良くなり、
「昨日、戻られたばかりでしたからね。」
「ねぇ、お兄さま、お母さま。私もナターリアどのにお逢いしたいわ。逢いに行ってもいいかしら?」
テオドラ王女は甘えるように二人に尋ねます。
「そうですね。いきなり王女が逢いに行ったらナターリアどのが驚かれるでしょうから、私が今日のお茶会に招待しましょうか?」
王太后がテオドラ王女に提案しました。
「本当ですか、お母さま。」
テオドラ王女が嬉しそうに答えました。
「ええ、ナターリアどのは18歳で、テオドラは15歳だからきっと話しも合うでしょう。」
王太后は微笑んで話しを決めてしまいました。
その様子を見たアレクセイは、
今日のお茶の時間はナターリアと過ごせないのか
と思い、不満そうに
「待ってください、母君。今日は僕と一緒に過ごすからダメです。」
「じゃあ、お兄さまもお茶会に来ればいいじゃない。ねぇ、お母さま?」
テオドラ王女は兄に不満そうに提案します。
「そうですとも。みんなで仲良くお茶をいたしましょう。兄なら妹の頼みを聞きなさいな。」
王太后がアレクセイにたたみかけます。
「仕方ありませんね。絶対行きますからね。」
二人を睨んでアレクセイが不満げに答えます。
こうして、王太后ののお茶会にナターリアが招待されることになりました。
ただし、このお茶会にはシャルロッテは招待されていませんでした。
いつもは招待されているのですが…。