ナターリアとの再会
ナターリアが戻ったと聞いた陛下は、執務を早々に切り上げていそいそとナターリアの部屋に向かいました。
「ナターリアさま、陛下が早速、お越し下さいましたよ。」
侍女のマリアがうれしそうに陛下の訪れを告げます。
それを聞いたナターリアは、
これから本当の後宮生活が始まるのだわと思って、深呼吸をしました。
そして、少し緊張気味に陛下を迎えました。
「陛下、ようこそおいで下さいました。」
陛下は愛しい人に何日かぶりに逢えたのでうれしくて、
「ナターリア、逢いたかったよ。元気だった?」
ナターリアは少し微笑んで、
「はい、少し疲れておりますが元気でございます。陛下もお元気そうでなによりと存じます。」
陛下は少し他人行儀な言い方にひっかかりましたが、気にせず、
「疲れてるの、ナターリア?」
「今日、実家から戻ったばかりなので。」
遠慮がちにナターリアが言います。
「そういえば、母君から聞いたけど公爵のお見舞いに行ってたんだよね。」
苦々しい表情で陛下がナターリアに尋ねます。
「はい。王太后さまのご配慮により父の見舞いに実家に帰らせていただいておりました。」
突然でびっくりした出来事を思いながら不安そうに答えます。
「ナターリア、聞いて欲しいことがあるんだ。もし、またこういうことがあったときは女官長を通じて余に言ってくれないかな?母君にではなくてね。」
アレクセイが言いにくそうにナターリアに言います。
「は、はい。かしこまりました。」
ナターリアが戸惑ったように答えます。
「ありがとう、ナターリア。」
そう言うと陛下はナターリアを両手で引き寄せて抱きしめました。
「陛下…」
ナターリアはいきなり抱きしめられて戸惑ったように上目遣いに陛下を見つめます。
「ナターリア、陛下じゃないよ。アレクセイだよ。」
ナターリアの髪を撫でながら話しかけます。
「アレクセイさま?」
「そう。二人だけのときはそう呼んでね。」
そう言うとアレクセイはナターリアと口づけを交わしました。
アレクセイと口づけを交わしたナターリアは腕をアレクセイの背中に回した後、
愛おしそうに小さな声で、
「はい。アレクセイさま…。」
それを聞いたアレクセイはたまらなくなり、
「ナターリア、寝室に行こう。」
とナターリアの耳にささやきます。
「陛下、いえアレクセイさま、あの…。」
少し戸惑ったように
言って、アレクセイの体から腕を少し離します。
「ナターリア、どうしたの?」
少し不満そうにアレクセイが尋ねます。
「いえ、あの…、私、ちょっと疲れておりますので、今日はこれで失礼させていただいてよろしいですか?」
ナターリアは申し訳なさそうに答えます。
アレクセイは離れていくナターリアの腕をつかんで、心配そうに、
「疲れているの?ごめんね。僕、すぐ逢いたかったから。」
「いえ、そのようなことは…。」
少し俯いてナターリアが答えます。
「じゃあ、僕、今日は何もしないから。側に寝ているだけだから。それならいいでしょ?」
窺うようにアレクセイが尋ねます。
「いえ、それでは、アレクセイさまに申し訳ございませんから。」
困ったようにナターリアが答えます。
「誰かに何か言われたの?もしかして、母君が…。」
疑わしそうにアレクセイがナターリアに聞きます。
「いえ、疲れているだけでございます。お許しを…。」
ナターリアは気まずそうに答えます。
ある意味そうだけど、とても言えないわとナターリアは心の中で思いました。
その様子を見たアレクセイは仕方ないと思って、
「じゃあ、今日は帰るよ。大事にしてね。」
残念そうに言って、ナターリアの額にキスをして帰って行きました。
陛下が帰った後、侍女のアリスがナターリアを咎めるように
「ナターリアさま、どうしてでございますの?そんなにお疲れのようではないようですが…。」
「仕方ないのよ、アリス。王太后さまにご挨拶に伺ったときに、お疲れでしょうから今日は休みなさい。と言われたから。」
苦しそうにナターリアが答えます。
「そうでしたか…。」
「それにお父さまにも言われたしね。私には他の妃と違って後ろ盾が弱いの。アリス、あなたもつもりで仕えてちょうだい。」
すまなそうにナターリアが言います。
「ナターリアさま、そこまで気にされなくても…。」
アリスはナターリアの決意を戸惑ったように答えます。
「大事なことなの。分かってちょうだい。」
真剣な表情でナターリアが頼みます。
「分かりましたわ。そのつもりでお仕えいたします。」
マリアはナターリアの真剣さに打たれて、何が起きてもしっかり仕えようと心に決めました。
そのころ、陛下は自分の部屋に戻りながら考えていました。
なぜナターリアは、私を拒んだのだろう。そんなに疲れているように見えなかったが…。
やはり、誰かに言われたのだろうか、それとも他に理由が…。
今日は眠れそうにないな…。
はぁ…。