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ナターリア戻る

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「ナターリアさま、もうご出発の時間ではないのですか?」

病床の父のロプーヒナ公爵が側に控えていた娘のナターリアに話しかけました。


「でも、お父さま、私、お父さまのことが心配です。もうしばらくここにいてはいけませんか?」

俯いたままナターリアが父に頼み込みます。


それを聞いたロプーヒナ公爵は少し困った顔をして、

「何をおっしゃいますか。一度決心して、王宮に入られて側妃となられたはず。この父をだしになさいますな。ゴホッ、ゴホッ…」

そう言うと公爵は苦しそうに咳き込みました。


「お父さま、しっかりなさって…。」

ナターリアが心配そうに父の背中をさすります。


「大事ありません。それよりも、王宮に戻られますように。」


「お父さま…、私、不安なのです。」

ナターリアが戸惑ったように父にすがりつきます。


そんな娘の髪を撫でながらロプーヒナ公爵は娘に語りかけます。

「よく聞きなさい、ナターリアさま。父はもう長いことはない。後ろ盾のない後宮での生活はつらいものになるであろう。しかし、だからこそ陛下にとってそなたの存在は安らぎとなるであろう。私にとってのエレナのようにな。」


「お母さまのように…。」


「そうですよ。私には結婚前は公爵家の跡継ぎとして縁談がいくつもあった。だか、どれも家のための愛のない政略結婚だ。私は両親のように冷ややかな結婚生活は送りたくなかった。だからエレナとどんなに反対されても結婚したのだ。幸せだった。エレナやナターリアさまには苦労をかけてしまったが…。」


「お父さま、そのようなことは…」


「気をつかわなくてもよい。だから申すのだ。後宮におられる他の側妃方はおそらく政略的なもの。陛下には安らぎになるのはナターリアさまだけであろう。だからそのおつもりでお仕えなさい。」


「お父さまはそれで私に後宮に入れとおっしゃいましたの?」


「そうだ。カールと結婚させてやりたいのはやまやまだったが、公爵家を支えていく後ろ盾がない以上致し方ない選択だった。しかし、ナターリアさまは陛下の安らぎとなって生きていければ幸せになれるのではと思ったのだ。許してくれ。」

そう言ってロプーヒナ公爵はナターリアに頭を下げます。


「お父さま、私、公爵家のために後宮に入ったと思っていたのに、私の幸せのことも考えて下さっていたのですね。」

不安そうだったナターリアが希望が出てきたように笑顔で父に答えます。


「まあ、幸せになれるかどうかはナターリアさま次第ですがな…。」

ウインクしながらロプーヒナ公爵はナターリアにおどけて話しかけます。


「お父さまったら…。分かりましたわ。私、幸せになれるよう頑張りますわ。じゃあ、そろそろ行きますわね。」

ナターリアは最後には笑って父に別れを告げます。


そのとき、侍女がやってきました。

「失礼します。だんなさま、王宮よりナターリアさまのお迎えが参られました。」


「どうやら、お迎えが参ったようだな。行っておいで。」

少し寂しそうに笑ってロプーヒナ公爵が送り出します。


「はい、お父さま。行って参ります。私、きっと幸せになりますわ。だから、お父さまもお大事になさって下さいね。」

ナターリアはそう行って公爵の部屋を出て迎えの馬車に乗りました。





そして、ナターリアは侍女のアリスとともに後宮に戻りました。

最初に迎えに出たのは女官長でした。


「ナターリアさま、お戻りなさいませ。」

笑顔で女官長はナターリアを迎えます。


「ごきげんよう、女官長。お忙しい中わざわざの迎え、感謝いたします。」

ナターリアは遠慮がちに女官長に話しかけます。


女官長は以前と違って気遣いの出来るナターリアにハッとさせられました。

「いえ、ナターリアさま。私の役目にございますれば、お気遣い下さいますな。それでは、お部屋でおくつろぎ下さいませ。」


「ありがとう、女官長。そうさせてもらいますわ。それから、落ち着きましたら、王太后さまにご挨拶をさせていただきたいのですが…。」

少しはにかんだ笑顔で女官長に話しかけます。


「それは私からお願いしようと思っておりましたのに…。では、早速手配いたします。」

女官長はうれしそうに言っていそいそと手配に動きました。




そして、善は急げとばかりにその日のうちに王太后との面会の運びとなりました。


「王太后さま、ナターリアさまが女官長とともに参られました。」


それを聞いた王太后は、数日前に帰したナターリアのことで陛下と言い争いをしたので、逢いたくなかったのですが立場上致し方ないので逢うことにしました。


「王太后さま、失礼いたします。本日は側妃ナターリアさまが戻られましたので、ご挨拶に参りました。」

女官長は冷静に告げます。


「王太后さまにはご機嫌麗しくおめでとうございます。ただいま実家から戻りましてございます。このたびはおかげさまにて父のお見舞いに行くことが出来ましてお礼申し上げます。」

微笑んでナターリアは挨拶をします。


それを聞いた王太后は完璧な挨拶なのに、嫌味を言われたように感じて眉をひそめて、

「麗しくなどないわ。」


「王太后さま、おとなげないお言葉でございますよ。」

女官長が思わずとがめます。


それを聞いた王太后は不満げに、

「分かっておるわ。ナターリアどの、よう戻られましたな。」


ナターリアは少し怪訝そうに王太后に答えます。

「恐れ入ります、王太后さま。」


王太后は仕方ないと思って、

「ナターリアどの、公爵はお加減はいかがでしたか?」


ナターリアは王太后 の機嫌が悪いので遠慮がちに、

「おかげさまにて少し良くなったようにございます。王太后さま、久しぶりに父に逢えてうれしゅうございました。お礼申し上げます。」


それを聞いた王太后は気をよくして、

「それはなによりでしたね。公爵もナターリアどのに逢えて喜ばれましたでしょう。」


「恐れ入ります、王太后さま。」

ナターリアは笑顔で王太后に答えます。


その様子を見た王太后は、少し憎らしく思っていたナターリアをかわいらしく思い、

「ナターリアどの、さきほど戻られたばかりで疲れておられるでしょう?今日はゆっくりお休みなさいなさい。また、おいでなさい。」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えまして、これにて失礼いたします。」

ナターリアはそう言うと女官長とともに王太后の居室を下がっていきました。



王太后はナターリアの様子を見るにつけても、シャルロッテとの違いを見せつけられたようでため息をつきました。


アレクセイはすぐにもナターリアどのの部屋に行くだろうけど、ナターリアどのは私の言葉の意味が分かってくれるかしら…。

王太后はナターリアが去った後、心の中で呟きました。




そのころ、王宮の執務室にいる陛下はナターリアが戻ってきたと聞いて、大喜びでした。

ナターリアがいない間は後宮に足を向けることはなかったのに、早速その夜にナターリアの部屋を訪れました。

母の気持ちは知らずに…。

陛下ははたして公爵の気持ちが分かるのでしょうか…。

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