王宮に入って
続いて王宮に入ったところです。
「奥さま、お嬢さま…!」
「あら、アリス。どうしたの?」
「どうしたのではございません。お急ぎ下さいませ。お迎えの方々がさきほどよりお待ちでございますよ!」
このうるさいアリスは私付きの侍女。
「ごめんなさい、アリス。すぐ行くわ。お母さま、それでは行ってまいります」
「行ってらっしゃい。アリス、ナターリアをお願いね。」
「お任せ下さい、奥さま。さ、お嬢さま参りましょう」
そのころ王宮では、謁見の間でウロウロと歩く国王陛下の姿がありました。
それを見咎めた女官長が、
「陛下、何をそわそわしておられますのか?」
「いや、何か落ち着かなくて…。女官長、あの、まだか…?」
ボソボソと国王陛下アレクセイが答えます。
この国では、国王陛下または王太子殿下は16歳になったら、妃を迎えるのがしきたりでした。
後宮に何人か妃を迎え、その中から正式な妃・王妃、または王太子妃が選ばれます。
国王陛下アレクセイは若くして即位したのでまだ妃はいませんでした。そのため、王妃の役割は母の王太后が担ってきました。
このたび16歳になったのでようやく妃を迎えることになりました。
「何をでございますか?ああ、後宮に入られる令嬢でしたらまもなくお着きになりますよ。しっかりして下さいさいませ。いくら初恋の女性が参られるとはいえ…」
近くに控えているのは女官長。国王陛下の乳母でもあります。
そのとき、護衛の一人が来客を告げました。
「申し上げます。今日より後宮に入られるご令嬢方が参られました」
「さっ、陛下。お早く玉座へお座り下さいませ」
きびきびと女官長がアレクセイに言います。
「分かっておる。余はもう子供ではないぞ、マーヤ。もうすぐ逢えるのだな…」
あわてて国王陛下が玉座に座り、護衛に命令しました。
「通すがよい。」
「はっ、了解しました」
護衛に伝えた後、謁見の間に妃に選ばれた三人の令嬢方が入ってきました。
「ペトロヴィチ公爵の娘・シャルロッテ、16歳でございます。よろしくお願いします」
大臣の娘で王太后のお気に入りで王妃に一番近い存在です。
「ロプーヒナ公爵の娘・ナターリア、18歳でございます。よろしくお願いします」
「ハリス伯爵の娘・オリガ、20歳でございます。よろしくお願いします」
伯爵の娘とはいえ、母は先々代の国王の王女で国王の叔母にあたります。
いよいよ後宮が始まります。ドキドキ…