第8話 悪魔の瞳
洞窟の中はひんやりと湿っていた。
壁に並ぶ蝋燭は細い炎を揺らし、灯りは頼りない。
水滴が落ちる音が静寂に響き、息をするたびに重い湿気がまとわりついてくる。
その時――。
違和感に気づいたルアは振り返った。
「……あれ、ユノ?」
洞窟の入り口付近、逆光に照らされた小さな影。
一同は足を止め、ユノの元へと戻った。
「ユノ、どうした?」
「……」
ユノはうつむき、小刻みに肩を震わせている。
「もしかして……怖いの?」
「……おばけ」
その一言に、四人は思わず吹き出しそうになる。
あの強いユノに、こんな弱点があったとは。
「大丈夫、ユノちゃん。
ここには死者の魂の気配はないよ」
「……ほんと?」
「ソフィアが言うんなら、間違いないって!
もしおばけが出たら俺が倒してやるぜ!」
「……」
アッシュの胸を張った宣言は、
ユノの不安を一ミリも拭えなかったようだ。
「分かった、戦闘になったら二十万グラン!
いつもの倍!どうだ?」
「わお、リーダー太っ腹じゃーん」
「確かに痛い出費だけど……
いざというとき、ユノがいないと困るからな」
「……行く」
ソフィアの言葉が決定打となり、報酬増額が背中を押した。
ユノはソフィアにくっつくように歩き、再び洞窟を進む。
通路の先が明るく開け、広い空間へと繋がっているのが分かった。
一同は壁の陰に身を潜め、広場を見下ろす。
中央には祭壇めいた石造りの舞台。
その上には黒いローブを羽織った人物が立ち、
下では同じ装束の者たちが二十人ほど跪いて祈りを捧げている。
「我らが邪神、イデルバ様……
村人共からの生気、それを贄として、
どうかご復活を――!!」
「ご復活を――!!」
「……何やってんだ、あれ?」
「黒魔術の儀式ね。
悪魔崇拝の集団ってとこじゃない?」
「……おばけ?」
「ユノちゃん、悪魔とおばけは違うから安心して大丈夫だよ」
ソフィアは優しく言うが、他のメンバーは
悪魔だったら何が安心なのか疑問であった。
「しかし、どうするんだルア?
この数は無理じゃないか?」
「ユノが暴れたとして……
いや、考えたくない……」
ルアは計算を始める。
二十万グラン×敵の人数。
数えるのはすぐに諦めた。
と、その時。
「誰だ、お前たち!?」
背後。
黒ローブの男がいつの間にか立っていた。
気づけば挟まれる形となり、押し出されるように広場へと出てしまう。
祭壇の男が鋭く声を張り上げる。
「誰だ、お前達は?」
「お前らこそ何者だよ!?」
「我らは邪神イデルバ様の復活を目指す組織、
イデルバ教だ!」
「なんか趣味悪くない?」
「黙れ!
イデルバ様が復活すれば我らに力を与えてくださる!
この国は我らのものとなるのだ!」
「ただでさえ魔王がいるってのに、
ややこしいことすんじゃねぇよ!」
「そうです!
これ以上村の人たちを苦しめないでください!!」
「儀式の邪魔はさせない。
お前らの魂も贄として捧げてもらおう!」
その瞬間――
祭壇の表面が不気味に光り始める。
「こ、これは……イデルバ様!?」
瘴気が祭壇を覆い、その中心から“何か”がゆっくりと形を成していく。
翼を持つ悪魔。
その瞳が怪しく輝き、場の空気が一気に凍りつく。
「お、おぉ……!
なんと禍々しい……これぞ我々の崇拝する邪神の姿!!」
イデルバと呼ばれた存在は、冷たい声で呟いた。
「……目覚めさせたのは、貴様か」
「そうです、イデルバ様!
我々があなた様を――ぐあっ!?」
言葉の途中、悪魔は腕を振り払った。
軽く払っただけに見えるのに、
男の身体は壁へ叩きつけられ、気絶した。
「人間ごときに我が力を分け与えると思ったか。
貴様らは所詮、我の贄にすぎぬ」
恐怖に染まったイデルバ教徒たちは、命乞いの声とともに、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
広場に残ったのは――
ルアたち五人だけだった。
邪悪な瞳が、まっすぐに彼らを見据えていた。
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