第4話 躓き
夜の酒場は、冒険者たちの笑い声やグラスのぶつかる音で賑わっていた。
そんな喧騒の中、ルアたちは遅い夕食を囲んでいた。
初陣で思わぬ洗礼を受けたパーティは、
ルアの判断でいったん王都へ戻ってきたのだ。
「それにしてもユノちゃん、すごいね。
そんな小さいのにあんなに強いなんて」
ソフィアが目を輝かせて褒める。
ユノは無言でパンをかじるだけ。
「それに比べて、男連中ときたら情けない。超ウケる」
酒が回ったマリーが、ふにゃふにゃ笑いながら煽る。
「マリーだって、魔導士なのに敵に突っ込んでって、
返り討ちにされてたくせによぉ」
アッシュは不機嫌そうに言い返し、
テーブルを指でとんとん叩く。
そんなやり取りを、ルアは複雑な思いで眺めていた。
「…みんな、明日こそは目的地を目指そう」
ぽつりと呟くルアに、4人が不思議そうな視線を向ける。
「どうしたんですか、ルアさん?」
「そうだぜ、ルアが王都に戻るって言うから、
引き返したんだろ?」
「まあ、あたしはどっちでもいいけど?」
ルアは空のコップを見つめながら言った。
「いや、なんていうかさ、思ってたのと違くて…
ほんの、少しだけど…
悪い、先に宿にもどる」
みんなの視線を背に受けつつ、ルアは席を立った。
宿に戻り、ベッドに身を投げ出す。
瞼を閉じると、今日の戦闘が何度も蘇る。
ソフィアは回復力が低い。おそらく薬草以下。
アッシュは、普通に弱い。
マリーは魔導士なのに、何故か敵へ特攻する。
ユノは強いが、代わりに金銭のリスクが発生。
そして自分は、ただの“普通の青年”だ。
どんなに考えても答えは出なかった。
あんな噂話を、なぜ信じてしまったのか。
冷静に考えれば、そんな上手い話があるはずもない。
ルアは気分転換にと、静まり返った夜の王都へ足を向けた。
と、そのとき。
「ルアじゃねぇか、お前、まだ王都に居たのかよ?」
背中から聞き慣れた声。バルトだった。
二人は近くのベンチに腰をおろし、ルアは今日あった出来事を包み隠さず話した。
「ははは、そいつは傑作だ! ははは!」
「笑いすぎだっての!」
笑い転げるバルトに小突こうとしながら、ルアは少しだけ気が楽になる。
「で、どうすんだよ?辞めんのか?」
「そんなわけねぇだろ。
ただ、思ったより厳しそうというか、
自信がなくなってきたというか…」
「当たり前だろうが。
お前は普通なんだから。
そんな上手くいく訳ねぇよ」
「悪かったな普通で」
「まぁでも、お前は昔から悪知恵だけは人一倍働くからな。
そういうの得意なんじゃないか?
だめだめなパーティをまとめる方法とかよ」
「悪知恵って……
普通、機転が効くとか閃きがあるとか言うだろ」
「それと、昔言ったこと覚えてるよな?
『仲間は裏切るな、絆を大切にしろ』
って言ったよな」
バルトは夜空を仰ぎ、続けた。
「確かに今の仲間とは、出会って1日2日かもしれねぇ。
だが“仲間”になったのには違いねぇ。
取り柄のない普通のお前だけどよ、
その想いだけは自信を持ってもいいんじゃねえか?」
胸を押さえたルアは、のしかかっていたものがふっと軽くなるのを感じた。
「分かってるよ。『あいつ』のためにも、
こんなところで挫けてられないよな!」
勢いよく立ち上がるルアに、バルトが笑う。
「ありがとう、バルト、行ってくる」
「2回目だぞ、それ」
「ははは。3回目は多分、魔王討伐の時だ」
「だといいがな」
互いに手を振り、ルアは宿へ戻った。
「だめだめなパーティをまとめる方法…か」
バルトとの会話を思い返しながら歩いていると
気付けば宿屋に着いていた。
すると――
宿の前には、仲間たちが揃って立っていた。
「おー、帰ってきた。
宿にいないからどこ行ったかと思ってたんだよ」
「ちょっと飲み過ぎたからさぁ、
探しにいくのしんどかったんだよねー」
「ルアさん、大丈夫ですか?
思い込んだような様子だったので…」
「ごめん、みんな。
ちょっとだけ不安になってた。
でも、もう、大丈夫!」
「…眠い」
ユノがあくびをする。
「よし、明日に備えて今日は休もう」
ルアが言うと、みんながそれぞれ頷いた。
こうして5人は宿へ戻り、静かに部屋の灯りを落とす。
――明日、彼らの冒険は再び動き始める。
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