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第20話 余白

最初はただ、金が稼げればよかった。

小さなユノを見たギルドの反応は、どこも同じだった。


子供一人では危ない。

仲間や保護者はいないのか。


実力はある。

しかし、それでもパーティにすがるしかなかった。


実力を見せれば驚かれ、報酬を迫れば拒まれた。

強行すれば、恐れられた。


人付き合いの経験がなく、感情の表出も乏しい。

さらに、病気のゲイルを養わなければならないという焦りが、選択肢を極端に狭めていたのかもしれない。


四つ目のパーティ。

実力を見せると、同じ反応。

だが、ここは報酬を払う意志があった。


(…もう少し、ここにいよう)


そう思った。


明らかに自分よりも弱い四人。

それでも試行錯誤し、必死に戦っている。

そして、自分にも分け隔てなく接してくれた。


いつしか、そこに絆が芽生えようとしていた。


さらに、彼らとの旅では、今まで見たことのない世界を多く目にした。

素直に、楽しいと思えた。


『お前は色んな世界を見て、大きくなりなさい。』


ゲイルの言葉が、少しだけ分かった気がした。


(…もう少し、ここにいたい)


そう思うようになった。


しかし、パーティは自分抜きでも戦えるようになってきている。

戦いの多くで飛ぶのは「何もするな」という指示。


このパーティにとって、自分は本当に必要なのだろうか。


そして、たった一人の家族、ゲイルのこと。

金は必要だ。いくらあれば足りるのか分からなかった。

もしかしたら足りないかもしれない。

その不安はずっと消えない。

それが、このパーティの足枷になっているのではないか。


(…ここにいて…いいの?)


幼い心は迷い、葛藤し、

その整理のつかない感情が、極端な行動となって表に出る。


うまくコントロールできない。


ユノは夕暮れの中、ゲイルの銅像をただ見つめていた。


ふと、隣に誰かが座る。

仲間たちだった。


ユノは顔を隠すように、伏せる。


五人は一列に並んで座り、皆が銅像を見つめる。

夕暮れの中央広場はまだ人通りも多く、喧騒もある。

それでも、その場だけは、不思議と静かだった。


「ユノ…もしかしてこの人知り合い?」


ルアが、そっと言葉を置く。


「…おじいちゃん」


何となくそうではないかとは思っていたが、

ユノが言っていた"おじいちゃん"が

あの英雄がであったという事実。

改めてその重さが、全員の胸に落ちた。


「そりゃ、剣聖に剣を教えられてたら強くもなるわなぁ」


「でも、ルアとアッシュじゃそうはならないんじゃない?

才能よ、才能」


「うるせぇなぁ、やってみないと分かんねぇだろ?」


「でも、いくら剣聖に育てられたからといって、

この歳であの強さはやっぱり才能だと思います」


「うっ…」


「俺たちに才能がないって話はもういいよ…切なくなる…」


一瞬の軽口で空気が和らぐ。

ルアは一度息を整え、話を戻した。


「ユノ、よかったら話してくれるか?

お前のこと」


ユノは、ゆっくりと、一言ずつ語った。

ルアたちは言葉の間を埋めるように、静かに耳を傾ける。


親に捨てられたこと。

ゲイルに拾われ、育てられたこと。

そして、ゲイルが病気で、金が必要なこと。


そして、今の気持ち。


「…みんな、弱い。…でも、戦ってる。

…私、いらないかも…

また追い出されるかも…」


「…」


必死に紡がれる言葉を、誰も遮らない。


「…でも、みんなといると…楽しい…

もっと一緒に…いたい…」


「…勝手に敵…倒して…

お金もいらない…

…そしたら…一緒にいれるかも…」


「…でも、そしたら…おじいちゃん…お金ない…」


「…分からない…どうしていいのか…」


ルアは、少し間を置いてから答えた。


「正直、ユノが何考えてんのか分からないことは多かった。

でも、俺たちと一緒にいたいと思ってくれてて、嬉しいよ」


皆が、静かに頷く。


「で、俺たちはユノが必要と思ってる。

絶対に追い出したりしない。

たとえ、借金まみれになってもな」


「…ここに…いていいの?」


「もちろん。

ユノが強いからとかじゃない、

ユノだからいてほしい」


「…分かった…いる」


「落ち着いたら、必ず一緒にじぃちゃんのところに行こう。

今すぐじゃなくても、後回しにはしない」


「…うん」


「…ただ…あんま敵倒すなよ?」


ユノは立ち上がり、一歩進む。

そして、仲間たちの方へ振り向いた。


「…ありがとう」


夕陽に照らされたその表情は、どこか戸惑いを含んだ、かすかな微笑みだった。

初めて見るその顔に、全員の心が静かに揺れた。


「俺も頑張って稼がないとなぁ、

後10万グラン」


「…40万」


「…え?」


ユノは、いつもの表情に戻っている。


「…40万グラン…ゴブリン3体」


「カウントしてんのかよアレ!?」


ユノは無言で頷いた。


「払ってやれよぉ、ルア〜」


「ルアさん、払いましょ!」


「パーティ存続の危機じゃん、リーダー?」


揶揄い混じりの視線が、ルアに集まる。


「相変わらず、お前ら借金に関しては人事だよな…」


そのやり取りを眺めながら、ユノは思った。

この程度のことで揺らぐ関係ではないのだと。


その確信は、答えではない。

けれど――心に残された空白は、いつしか余白へと変わりつつあった。


彼女の幼い心は、まだ成長の途中にある。

reunionを読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら、続きも読んでいただけると嬉しいです。

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