第19話 葛藤
深夜、ユノはまた中央広場の銅像の前にいた。
今夜は、パーティ全員が少し離れた場所からその様子を見守っている。
「ルアさん、どうしますか?」
「確かに……声掛けにくい雰囲気だな」
結局、今日も声をかけることはできず、様子を見るだけに留めた。
しばらくすると、ユノは立ち上がり、宿へ戻ろうと歩き出す。それを見て一同は慌てて散開し、先回りして宿へ引き返した。
女部屋のソフィアとマリーはすぐにベッドへ潜り込み、寝たふりをする。
⸻
翌日。
大量の酢と大鍋を荷車に乗せ、一行はオーレンの屋敷へ向かった。
庭は昨日までと変わらず、草が生い茂っている。
「ルアさんと、アッシュさんは鍋に水を。
マリーさんは魔法で火を起こして下さい」
大鍋いっぱいの湯が沸騰したところで火を止め、そこへ大量の酢を流し込む。
かき混ぜた瞬間、強烈な刺激臭が周囲に立ち込め、パーティは一斉に咳き込んだ。
「ゴホゴホ!…ソフィア、
これを撒いたら良いのか…ゴホゴホ!」
「うっ…、お願い…します…」
霧散する酢の臭気の中では、会話すらままならない。
一同は柄杓で、熱と酢の混ざった液体を庭一面に撒いていく。
すると、草はみるみるうちに萎れていった。
「す、すげぇー!…ゴホゴホ!」
「ゴホゴホ…熱と酢の成分が…効いてるって…感じね…」
「…臭い」
「ゴホゴホ…昔…教会の慈善活動で…
除草作業を…したことをあったのですが…
その時…お湯と酢を…ゴホゴホ…」
「ゴホゴホ…ソフィア…無理に喋る…な…」
むせ返りながらも作業を続け、
思いのほか早く終わりが見えてきた。
庭の地面一面は、萎れた草で覆われている。
時間が経つにつれ、酢の臭気も次第に和らぎ、ようやく普通に会話ができるようになった。
「すごい、後は萎れた草を回収するだけだな」
「はい、この方法なら1週間くらいは除草効果があります。
時間が経てば土壌も回復するので、花も育ちます」
「やるじゃん、ソフィア!」
マリーとソフィアは、軽くハイタッチを交わした。
その時だった。
地響きが起こる。
「な、なんだ地震か!?」
直後、地面を貫くように二本の巨大な植物のツルが突き出した。
「なんだよアレ!?」
さらに、その二本のツルの中央の地面が盛り上がり、巨大な植物のような蕾が姿を現す。
「植物の魔物!?」
次の瞬間、足元の地面から無数のツルが飛び出し、パーティは一斉に絡め取られた。
「うわっ!?」
「きゃ!?」
「うぉ!?」
「ちょっ!?」
だが、ユノだけはその拘束を回避していた。
蕾が開く。
ギザギザとした歯のような棘が並び、まるで口のようだ。その中心は暗く、底の見えない穴のようになっている。
「おい魔物博士、なんなんだよアレ!?」
「魔物博士って、それあたしのこと!?」
「だって詳しいだろ、ああいうの!」
「分かんないわよ!
どう見ても植物タイプの魔物って感じだけどさ!
多分、こいつが棲みついてたせいで
草が生え続けたんじゃない!?」
「どうやら、除草剤を撒いたことで
怒らせてしまったようですね…」
マリーは魔物の形状を見極めながら、ユノに声を飛ばす。
「ユノ!足元は気をつけて、
地面から出てくる草に捕まったら動けなくなる!
本体はどうみても真ん中のデカいヤツ!
アレをやらないとキリがない!」
「…」
ユノは無言で頷き、剣を抜いた。
地面から次々と伸びるツルを切り刻みながら、本体へと突き進む。
ユノが魔物の間合いに入った瞬間、二本の巨大なツルが振り下ろされた。
ユノは冷静にその動きを見切る。
回避された巨大ツルは地面に叩きつけられ、
衝撃が大地を震わせた。
それでも巨大なツルはうねり、執拗にユノを狙う。
回避はできるが、本体へ近づけない。
「…邪魔」
ユノは次の攻撃に合わせて前へ飛び込んだ。
その瞬間、目にも止まらぬ斬撃が閃き、二本のツルを一息に切り裂く。
その勢いのまま距離を詰める。
「…終わり」
凄まじい斬撃が魔物を真っ二つに切り裂いた。
仲間は相変わらずのユノの実力に呆然としていた。
本体が消滅し、拘束が解けると我に返り、ユノへと駆け寄った。
「さすがユノ!」
「ユノちゃん、すごい!」
「俺もあんな強くなりてぇ!」
「しっかりルアに報酬もらいなよ!」
気づけば、なぜか胴上げが始まっていた。
「…」
宙に舞うユノは、無表情のまま、複雑な思いを胸に抱えていた。
(…ここにいて…いいの?)
⸻
一行は萎れた草をすべて回収し終え、オーレンの元へ報告に向かう。
「どうだ、やってやったぞ?」
得意げに言うルアだが、オーレンは表情を変えない。
「まさか、魔物の仕業だったとはな…
お前達には期待はしていなかったが、
よくやったと言っておこう」
「だから、一言余計なんだよ!」
「さあ、その報酬をもってさっさと帰れ」
「…もう怒る気力も失せた」
「気になってたんだが…
何をそんなに怒っているんだ?」
「そういうトコだよ!」
心身ともに疲れ切った一同は、報酬を受け取り屋敷を後にした。
除草剤にかかった費用とパーティ資金を差し引き、残った五十万グランを均等に分配する。
「はい、ユノ。10万グラン。
今回はまたお前が魔物倒したから、
残りは10万グランのままだな」
「…いらない」
「言うと思った…。
ユノ、これはな…」
「…いらない!」
初めて聞く、強い口調だった。
ユノ自身も、その言葉に戸惑ったように一瞬立ち尽くす。
次の瞬間、踵を返して走り去った。
「ユノ…」
「ルアさん、追いかけましょう!」
「もちろん。
でも、ゆっくり行こう。
ユノもちょっと落ち着きたいだろうし。
場所も多分あそこだろうしな」
ルアたちは歩調を揃え、中央広場へと向かう。
空は再び、夕暮れに染まり始めていた。
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