第18話 輪郭
翌日、一行は再びオーレンの屋敷へ向かっていた。
街路を歩く途中、少し後ろを歩きながら、ソフィアとマリーが小声で言葉を交わす。
「ユノちゃん、結局何だったんでしょうか?」
「んー、あの銅像になんかあるんじゃない?」
「表情は見えなかったですが、深刻そうな雰囲気でした」
「繊細な年頃だしねぇ」
「ルアさん達にも言った方がいいですよね?」
「とりあえずユノのいない時かな」
ユノの不可解な行動について、二人は踏み込むべきか迷っていた。
直接聞くには、どこか躊躇われる空気がある。
そのため、ユノのいないタイミングを見計らうことにしたのだ。
やがて一行はオーレンの屋敷へ到着する。
昨日の続きの作業をするため庭へ向かった瞬間、全員が言葉を失った。
昨日、確かに抜き取ったはずの草が――
庭一面に、何事もなかったかのように生い茂っていた。
「…マジか」
信じられない光景に、ルアは呟く。
一行はすぐさまオーレンの元へ向かい、詰め寄った。
「どういうことだよ!?
昨日庭の半分は綺麗になったはずだぞ!?」
「それはこちらが聞きたいくらいだ。
何度抜いても次の日には元に戻っているんだよ、あの草は」
「知ってたんだろ?」
「当たり前だ、だからお前たちに出来るかと疑っていた。
結果、出来なかった。
それとも、知ってたら何か変わったのか?」
「少なくとも、無駄な体力は使わなくて済んだかもな!」
「なら、諦めたらどうだ?」
「…やってやるよ!
その代わり報酬は必ず払ってもらうからな!」
「もちろん払う。出来たらな?」
挑発するような言葉に、ルアの怒りは限界だった。
無言のまま庭へ戻り、草を力任せに引き抜いていく。
「あぁ腹立つぅ!!」
「ルア、休もうぜー」
「そうですよルアさん。
ちょっと落ち着きませんか?」
「オーレンの言う通りなら、
どうせ明日も生えてんじゃない?」
「…疲れた」
仲間たちの声に、ルアの手が止まる。
「確かにその通りだ…。
現に昨日抜いた草はまた生えてた…。
ついオーレンにイラッとして根本的なこと忘れてた…」
「で、どうすんだ?」
「やってやるって啖呵切った手前、
引き下がれないよなぁ」
「あの…私に考えがあるんですけど…」
一斉に視線がソフィアへ向けられる。
その日は作業を中断することをオーレンに告げた。
嫌味の一つや二つ投げられたが、もはや慣れたものだった。
パーティは材料と道具を調達するため、二手に分かれる。
「じゃあ、そっちはよろしくお願いします」
ソフィアはマリーに視線を送る。
「おっけー、任せといて」
マリーも察していた。
ユノと別行動する、絶好の機会だと。
「行こっか、ユノちゃん」
「…」
いつも通り、ユノは無言で頷いた。
ソフィアとユノが向かったのは食料品店だった。
目的の品はすぐに見つかる。
「これ、頂けますか?
できれば50本ぐらいなんですけど…」
店員は目を丸くする。
「そんな大量にかい!?
炊き出しでもそんな使わないだろうに…」
驚きはしたものの、断る理由はない。
二人は液体の入った瓶を五十本購入し、
代金は五万グランほどだった。
「…臭そう」
瓶を見つめながら、ユノがぽつりと呟く。
「何に使うかは知らんが、お嬢さん二人じゃ運べんだろう。
荷車で運んでやるよ」
店員はそう言って荷車に荷物を積み、宿まで運んでくれた。
「ありがとうございました!」
「いいってことよ。
可愛いお嬢さん方がいっぱい買ってくれたんだし、
サービスしないとな」
そう言い残し、店員は去っていった。
「あんな大量の酢…なんに使うのかねぇ」
小さく呟きながら。
一方、ルアたちは別の場所へ向かっていた。
道中、マリーが昨日のユノの様子を切り出す。
「ユノが夜中に?」
「変なことやってんなぁ」
「夜中の町中で腕立て伏せしてるよりは普通じゃない?」
「うっ…」
思わず言葉に詰まる男二人。
「とにかく、昨日から変でしょ?
勝手に敵倒したり、報酬いらないとか言ったり、
夜中に銅像の前に座ってたり」
「確かに…。
何か悩んでるのかもな」
道中、再び中央広場を通る。
三人は足を止め、銅像を見上げた。
「剣聖ゲイルか…」
「昔、魔王を倒した勇者パーティの一人だよな?」
「有名人ね。なんかユノと関係あるのかな?」
「それを含めて、ユノに聞いてみないとな。
…でも、その前に依頼は終わらせときたい」
銅像を背に、三人は広場を後にした。
次に入ったのは料理屋だった。
「いらっしゃい、3人かい?」
「いや、俺たち客というより、お願いがあって…。
大鍋を貸してほしいんだけど」
「レンタルならやってるぜ、1日1万グランだ」
「ありがとう、お願いするよ」
料金を支払い、大鍋を荷車に載せる。
深さは膝下ほどだが、口は広く、子供なら四人ほど入れそうな大きさだった。
「見てろよオーレン、ぎゃふんと言わせてやる!」
「ルア、目的変わってない?」
荷車を引いて宿へ戻ると、ソフィアとユノが待っていた。
大量の酢と大鍋。
これで、明日こそ草むしりに終止符を打てるのか。
そして――
ユノの変化は、どこへ向かうのか。
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