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第15話 夕陽のインプロヴィゼーション

宿屋の一室。

そこに、怪しげな覆面を被った二人の男が立っていた。


「おい、本当にこれでやるのかよ?」


「何も思いつかなかったんだし、しょうがなくない?

結構似合ってるけど?」


「似合うも何も顔見えねぇだろ!」


結局、特に妙案が浮かぶこともなく、昨日と同じようなベタな救出劇をすることとなった。


もっとも今回は、ルアとアッシュが“悪役”である。

顔が割れている以上、そのままというわけにもいかず、苦肉の策として覆面での変装が採用された。


「ほら、そろそろ時間だし。

さっさと行っちゃってー」


背中を押され、二人は予定の裏路地へと向かう。

残りのメンバーは物陰に身を潜め、その様子を見守る形だ。


人気のない裏路地。

しばらくして、ポールを連れてきたフルラの姿が見えた。


「今だ!」


合図と同時に、ルアとアッシュが飛び出す。

突然現れた怪しい二人組に、親娘は驚きの声を上げた。


「よ、よう旦那!命が惜しければ金を置いてけー!」

「そ、そうだそうだー!金を置いてけー!」


言葉とは裏腹に、声にはまるで迫力がない。

ぎこちなさが前面に出てしまっていた。


「…下手」


物陰から、ユノが短く呟く。


「昨日といい今日といい、どうなってるんだ!?」

「お父さん、怖い!」


「は、早くしないと、酷い目にあうぞー!」

「そ、そうだそうだー!酷い目にあうぞー!」


もはや何の芝居なのか分からなくなりつつあった、その時。


「お前達、何やってんだ!?」


聞き覚えのある声が路地に響く。

腕立て伏せ対決の夜に現れた、あの警備員だった。


「よかった、警備員さん!

助けて下さい!」


「げ、まずい!」

「ルア、逃げようぜ!」


「こら、待て!」


二人は反射的に走り出す。

警備員がすぐさま追いかけ、三つの影は裏路地の奥へと消えていった。


「ふぅ、最近は物騒になったものだな」


「お、お父さん、先に帰ってもらえる?」


「い、いや、しかし、あんなことがあった後だぞ?」


「大丈夫大丈夫、あんなことそうそう起こらないって!」


フルラは必死に言葉を重ね、なんとかポールを自宅へと帰した。


「ああ、何でこんなことに…」


肩を落としながら、ダンが姿を現す。

続いて、マリーたちも物陰から出てきた。


「また失敗ねぇ、超ウケるわー」


「マリーさん!

そんなことより、二人を助けに行かないと!」


その時、路地の向こうから警備員が戻ってくるのが見えた。

その後ろには、覆面姿のまま大人しくついてくるルアとアッシュの姿。


逃げた先が行き止まりだったらしい。


「警備員さん!」


ダンとフルラが駆け寄り、マリーたちも後に続く。


「おお、お嬢さん、もう安心して下さい。

悪者は捕まえましたので。

ほら、お前たちさっさと来い!

いつまでそんなふざけた覆面を被っているんだ!」


乱暴に覆面が剥がされる。


「ん?お前達…

夜中に腕立て伏せしてた奴らじゃないか!?」


「ルアさんとアッシュさんが腕立て伏せ?」


「あんたら、夜中に何やってんのよ…」


「みんなぁ、助けてくれよぉ」


ダンとフルラが慌てて事情を説明する。

警備員は額に青筋を浮かべ、長々と説教をした末、

ようやく一同は解放された。


「運が悪かった…

まさかこんな裏路地に警備員が来るなんて…」


肩を落とすダン。


「みなさん、本当にご迷惑をお掛けしました!」


深く頭を下げるフルラ。


「とりあえず今日のところは解散にしよう、

また次の作戦を…」


「あの、もう大丈夫です。

本当にごめんなさい!」


ルアの言葉を、フルラが遮った。


「私達、この町を出ます!」


「か、か、か、駆け落ち…!!」


真っ先に反応したのはソフィアだった。


「この2人が決めたんなら、しょうがないんじゃない?」


マリーは呆れたように言う。


「でもフルラ、ちょっといい?」


そう言って、マリーはフルラの腕を引く。


「ちょっとマリー、どこ行くんだよ!?」


「あんた達は先帰っといてー」


取り残された一同は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。



町の高台。

胸ほどの高さの塀の向こうに、夕陽に染まる景色が広がっていた。


マリーは塀にもたれ、口を開く。


「本当にそれでいいわけ?」


「もう、それしか方法が…」


沈む夕陽を見つめながら、マリーは静かに言葉を続ける。


「あたしね、実はあんたと同じ感じなんだよねぇ」


「同じ…というと?」


「お嬢様だったり、逃げてたりってとこがさ」


少し間を置き、マリーは自分の過去を語り始めた。


「あたしも生活に困ったことなんてなかった。

でも、ずっと縛られてたんだよねぇ」


「綺麗な服着て、ちゃんとした言葉喋って、

好きでもない習い事して…

おまけに許嫁まで決められて」


軽い口調とは裏腹に、言葉には実感がこもっていた。


「こういう好きな服装して、

楽な言葉喋って、魔法の練習して…

こっそり親の目盗んで、

そういうことやってる方が楽しかった」


「分かる気がします。

多分マリーさんほどではありませんが、

私も色々と厳しく育てられました」


フルラもまた、自分の思い出を重ねる。


「特に私は門限が嫌いで、

こっそり抜け出して夜の静かな町の散歩が好きでした」


「お嬢様あるあるじゃん」


二人は小さく笑い合う。


「それで、ダンとも出会えたんです…」


語られるのは、静かで不器用な出会い。


「彼はやっぱり仕事はダメだけど真面目にやってます。

諦めたりしない人…

そんなところに惹かれたのかもしれません。

でも、今回ばかりはどうしようもなくて…」


「で、駆け落ちって訳ね」


マリーは空を見上げる。


「あたしね、自由になりたかったんだぁ

でも、いざ家出したら、結局逃げただけなんだって思った。

ちゃんとけじめつけてないからね」


「境遇が似てるあんただから応援したいとは思ったけど、

それ以上に逃げてほしくないって思ったわけ」


「マリーさん…」


「ごめんねぇ。

なんか勝手に自分重ねて、勝手に考え押し付けてさ」


「そんなことないです!」


フルラは首を振る。


「私だって、逃げてることは自覚してます。

マリーさんの気持ちも分かります」


少しの沈黙。


「で、2人でどこ行くつもり?」


「王都に行こうと思ってます。

あそこなら仕事もたくさんあるだろうし、

二人なら何とかやっていけるんじゃないかって…」


未来への不安と、わずかな希望。


「そっか…じゃ、二人の旅に幸運が在らんことを」


「マリーさんの旅にも、幸運が在らんことを」


フルラが去った後も、

マリーはしばらく、沈みゆく夕陽を見つめていた。


夕陽に背を向けた者と、

夕陽を見送った者。

そのどちらが自由なのか、答えはまだ沈んでいなかった。

reunionを読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら、続きも読んでいただけると嬉しいです。

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