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第13話 揺れぬ心

巨大ゴブリンとの戦闘を終え、アッシュの回復を済ませると、一同は再び歩き出した。


その後、道中で魔物と遭遇することはなかった。

おそらく、あの巨大なゴブリンがこの一帯の主だったのだろう。

それを倒した彼らに、他の魔物が挑む理由はない。


結果として、残りの峠道は驚くほど順調に進めた。


夕暮れ前には、目的地であるミルドの町に到着する。

宿を確保し、酒場で遅めの食事を取った。


他愛もない会話が飛び交い、笑い声が混じる。

その和やかな空気の中で、ルアははっきりと感じていた。


――ああ、ちゃんと「パーティ」になってきている。


宿へ戻り、それぞれが部屋に引き上げ、一日の疲れを癒す。

だが、深夜に差しかかる頃、ルアは尿意に目を覚ましてしまった。


用を足し終えたあと、ふと違和感を覚える。

男部屋で、隣のベッドに寝ていたはずのアッシュの姿がない。


ルアはアッシュを探しに静まり返った夜の町へと出た。


しばらく歩いた先、町の広場で地面に近い位置を上下する影を見つける。

暗がりの中、近づいてようやくそれがアッシュだと分かった。


――腕立て伏せをしている。


「休まないのか?」


ルアが声をかける。


「おお、ルアか!

ちょっと、鍛えてたんだよ」


アッシュは腕立て伏せを続けたまま、気軽に答えた。


「お前こそ休まなくていいのかよ?」


「…いや、俺もやろっかな?」


誰もいない深夜の町。

二人並んで腕立て伏せをしている光景は、客観的に見ればかなり怪しい。


無言で上下する二つの影。

しかし、それがいつしか互いを意識したのか、自然と勝負の様相を帯び始め、気が付けば腕立て伏せ対決に変化していた。


「はぁ、はぁ…アッシュ、

もう負けを認めたらどうだ!?」


「ふぅ、ふぅ…バカ言ってんじゃねぇ!

てか、こっちはお前が来る前からやってんだぞ!?」


「い…言い訳…か!?

男らしく…ねぇぞ…!?」


「お…お前こそ…!?

そういうの…卑怯って言うんだぜ…!?」


「…戦略…と…言って…もらいたい…ぜ…!」


「…ふざけん…な…何が…戦略…だ…!?」


「ぬぉぉぉ!!」


「ぐぉぉぉ!!」


互いに一歩も譲らない、無意味で、しかし真剣な男の意地。


だが、その戦いに水を差す声が響いた。


「お前達、何やってんだ!?」


松明を持った男が近づいてくる。

服装からして、この町の警備員らしい。


夜中に町中で怪しいことをするなと、厳重注意を受け、勝負は引き分けに終わった。


広場のベンチに腰を下ろす二人。

乱れていた呼吸も、次第に落ち着いていく。


「やっぱりお前、根性あるよな。

戦いの時もそうだ。

ダメージ覚悟の囮役なんて普通できない」


アッシュは少し視線を落とす。


「何も考えてなかっただけだって。

でも、今日の戦いで、分かった。

俺がちゃんとしねぇと仲間全員が危ない目に合うかもしれねぇ…」


彼は、自分の両手をじっと見つめる。


「また戦いになったら怖くなるかもしんねぇ。

でも、仲間の危険を思ったら、

そんなもん怖いなんて思ってられねぇよ。

だからもう……目は閉じない」


ルアは何も言わず、ただ頷いた。


そして夜空を見上げ、静かに問いかける。


「初めて会った時、

『強くなることが目標』って言ってたけどさ、

何で強くなりたいんだ?」


アッシュも、同じ空を見上げる。


「俺の親父、冒険者やってたんだよ。

まあ、大した活躍はしてないけど、

そこそこの仕事はしてたんだろな。

で、俺のアニキも冒険者やってんだけど

それがまためちゃくちゃ強くてな。

今じゃ魔王を倒せる勇者候補とまで言われてるらしいぜ」


「それ、めっちゃすごいことじゃん!?」


「すごいのはアニキだよ。

昔から才能がずば抜けてた。

親父は俺たちを自分と同じ冒険者にしたかったんだ。

だから毎日訓練させられて、

才能のない俺とアニキの差はみるみる開いていってよ。

アニキにはいつもボコボコにされたもんだぜ。

だから親父は俺なんか見てなかった」


少し間を置き、アッシュは続ける。


「別に冒険者なんかなりてぇとは思わなかった。

でも、見返してやりたかった。

それ以上に弱い自分にムカついてたんだよ。

だったらやってやるぜ!

って思って家を飛び出したってわけだ」


「なんか、アッシュらしいな」


「前のパーティはよ、弱いからすぐに追い出されたけど、

このパーティだったら…

お前らとなら、俺、強くなれる気がするんだよ」


ルアは少しだけ笑って言った。


「当たり前だ、強くなってもらわないと困る。

お前もう囮じゃない、

パーティ戦の”起点”なんだからな。頼りにしてる」


その言葉が、胸の奥に深く沈み込む。

囮ではなく、起点。


アッシュは、初めて認められた気がした。


夜の町は静かだった。

石畳の上には風の音だけが流れている。

見上げれば、雲一つない夜空に無数の星が瞬いていた。


reunionを読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら、続きも読んでいただけると嬉しいです。

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